-AM11:00 鎮守高校前-
「・・・こんな日曜の午前中から呼び出して何事だ・・・」
「来たわね。ちゃんと妹さんにも連絡入れておいてくれた?」
「あぁ、もうすぐ来ると思うけど・・・」
雪菜の封印を解いた翌日の日曜日。
真司は郁に呼び出され、日曜の朝早くから起きて学校にまでやってきていた。
「いゃーん、真司ィ♪会いたかった~♪」
「おー、1日ぶりだなー。よしよし」
真司の存在に気がついた雪菜は人目もはばからず真司の腕にしっかりと抱きつく。
雪菜の服装は郁のお古なのか、シャツにジーパンというラフな格好だった。
流石に昨日の着物では外出は出来なかったのだろう。
子猫を宥めるように頭を撫でる真司。
雪菜を外の世界に出した際、その後の処遇を話し合った結果、雪菜は郁が預かる事となった。
当然のように、雪菜は真司と一緒に行くと騒ぎ立てたが・・・
こうして外に無事出れただけでも十分。
雪菜が封印される前と現代では別世界のようなものであり、まずは今の文化を勉強する必要性がある。
何よりも真司では甘やかしそうで頼りない。
以上の理由により、郁のマンションで一時的に一緒に住むこととなったのだ。
性格は多少難有りでも、腐っても先生。
物事を教えることは真司よりも数倍上手いし、常識もある。
真司は勿論、雪菜も異論を唱えることは出来なかった。
そして一人帰宅後、夜に郁から連絡が入った。
内容は翌日の午前11時に高校前まで来なさい。
妹、恵理佳にも同じく来るように伝えておいて。というモノだった。
「すいません、遅れました」
3人の元へ恵理佳が早足でやってきた。
「貴女が恵理佳ちゃんね?はじめまして。
私は朝比奈郁、お兄さんの担任兼師匠よ」
「はじめまして、高嶺恵理佳と言います。いつも兄がお世話になっています」
二人は軽く会釈をし、形式通りのような挨拶を交わす。
「そんな硬くならなくてもいいわよ?歳もそんなに離れているわけじゃないんだし」
「・・・いえ、そういうわけにも・・・」
恵理佳は言いつつ、郁をじっと見つめていた。
正しくは、郁の胸を、だが。
「ん~・・・?恵理佳ちゃんもスグにこれくらいにはなるわよ~?」
「す、すいませんッ、つい・・・」
大人の余裕か、笑顔で励ます郁。
恵理佳は二つの意味で赤面中だ。
「17年経っても昔と大差ないんだし、俺としては絶望的だと思うけ・・・」
ズンッ
無粋な横槍を入れて来た真司の太股に恵理佳の綺麗なローキックが突き刺さる。
「・・・それで、貴女が・・・?」
「ちょっとぉ!私の真司に何してんのよ!」
一人悶絶している真司を横目に雪菜が恵理佳に食って掛かる。
「・・・いえ、妹として礼儀を教えてあげただけです。貴女が兄さんの言っていた・・・」
「そうよ、そこら辺の退魔師なんかじゃ相手にならないくらい強い、雪女の雪菜さんよ」
「雪菜ちゃんね?はじめまして、高嶺恵理佳です」
「む・・・私のほうがあんたよりもずっと年上なんだから、雪菜さん。でしょう!?」
恵理佳と雪菜の言い合いを見ている限りでは明らかに雪菜の言い分とは逆だった。
「それで、今日は私に何か用件があると・・・」
雪菜の訴えは聞こえていないかのように恵理佳は郁の方へ話し掛ける。
「無視するなぁああぁッ!!」
「ええ、今日は恵理佳ちゃんに買物を手伝って欲しくてね」
雪菜の悲痛の叫びも虚しく、女性2人は華麗にスルーしていた。
「買物・・・ですか?」
「雪菜の衣類をね、見繕って欲しいのよ。
私じゃセンスが合わなそうだし、同世代くらいの子の方が良いと思ってね」
雪菜の実年齢は遥かに郁や恵理佳よりも上だが、見た目だけで言えば恵理佳よりも若い。
郁の言い分はもっともらしく聞こえた。
「単純に師匠が買物付き合うの面倒なだけ・・・」
ズドンッ
「これで買えるだけお願いして良いかしら?」
「そういうことでしたら・・・分かりました。衣類だけですか?」
「あぁ、それと・・・靴や下着とかもお願いできる?」
「はい」
恵理佳のローが入った箇所を的確に狙って振り下ろされた郁のローで真司は再度悶絶していた。
そんな男を無視し、郁は恵理佳に財布から取り出した万札を十枚ほど手渡す。
「帰りは連絡してくれれば私が車で迎えに行くから」
「はい、ありがとうございます」
しっかり者の恵理佳に二人を預け、郁は学校内へ入っていった。
学生は休みでも先生はそういうわけにもいかないのだろう。
「・・・なぁ、これって別に俺は居なくても・・・」
「「荷物持ち」」
「・・・・・・」
真司の素朴な疑問は少女二人によって打ち消された。
(何でこういうときだけ息が合うんだ・・・案外相性良いのか・・・?)
当初の犬猿の仲のような雰囲気は未だに健在だが、案外すぐに打ち解けそうだと思った。
「それじゃ、行くわよ?二人とも」
「ちょっとぉ!勝手に仕切らないでよ!!」
「・・・雪菜ちゃんはお店とか分からないでしょ?」
「・・・う・・・そ、それは、そうだけどぉ・・・」
「・・・諦めろ」
1番年下の恵理佳を先頭に駄目な退魔師と駄目な妖怪は後からくっ付いていだけだ。
反論しようとした雪菜を諦めムード全開の真司が嗜める。
「・・・って、だから私のことをちゃん付けで呼ばないでよッ!!」
「・・・それで、雪菜ちゃんはどんな洋服がいいのかしら?」
「え?えぇと・・・私は~・・・」
怒っていた勢いは何処へやら、恵理佳に自分の理想の服装を色々と話し始める雪菜。
(・・・諦めろ、雪菜・・・)
真司は心でそう思いつつ、これから先の展開に頭を痛めていた。
こうして、真司の長い長い1日が始まるのだった。
なぜなに!!征伐係!!
◇雪奈(ゆきな)
・外見年齢16、7歳/160cm
・土野市郊外の神社にある空洞、その奥にある祠に数百年間封印されていた雪女。
・明るく元気、明朗快活な性格でムードメーカー的な立ち居地だが、数百年前に人間に封印されたことを払拭しきれていない。
・普段は何も考えていないように見えるが、長い年月を生きてきただけあって、時折大人の立ち振る舞いを見せる。
・好きなものは楽しいこと、面白いこと全て。カラオケやボーリングを初めて知ってはのめり込んでいる。
・好きな食べ物はアイスクリーム。現代のアイスを食べて痛く感動した模様。
・寒さに非常に強く、冬でも夏服着用が余裕。
・暑さに非常に弱く、特に現代の夏場は地獄。
・暑さには弱いが、風呂好き。
・初めて会った時から真司に一目惚れのように好き好きオーラを全開で真司に何時もくっ付いている。
特に人目を気にしたり、場所を選んだりはしない。
・妖怪だけあって、身体能力、五感が人間以上。
特に視力や聴覚などが退魔師には真似出来ない優秀さを持つ。
・妖怪の中でも上位クラスの力を持っており、霊力も相当のもの。
・戦闘時は基本的に激しい動きは疲れるから好まず(出来ないわけではない)
相手を氷付けにしたり、氷塊、つららなどで遠距離攻撃を主軸とする。
・氷を生成する際は雪奈の視界に入る空間なら何処でも生成可能。
逆に全く視界が利かない閉鎖的な場所などでは周囲くらいにしか生成出来ない。
・本気を出すと妖怪上位クラスらしい能力を発揮するらしいが、基本的にキレたりする性格ではないので不明。
・その力は封印された当初、倒すことを断念させ、腕利きの退魔師数人がかりで封印「させた」程。
・現在は郁のマンションで同居中。
・郁が余り生活能力が高くないので、最近ではめきめき現代での生活能力を上げているらしい。
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