No.269695

リバウの魔女たち

tokka-さん

坂本さん竹井さん、下原さんに魔王のリバウの頃の話を書いてみました。
DVDのブックレットや人物紹介、ファンブック、零等自分に集められる資料を読んで矛盾の無いように考えたつもりですが、何か公式と比べておかしいところがあったら指摘してもらえたら嬉しいです。特に冒頭で1942年夏と書きましたが、正直時期はよく分かりません。世界情勢やキャラの歳を考えて、この位じゃないかと決めました。後、当時の階級もあっているのか分かりません。自分の知らないところで公開されている情報があって知っている方がいたら是非指摘してください。

2013年6月25日追記
「United We Fly!」、とらのあなでの委託開始されました。

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2011-08-11 11:28:24 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3416   閲覧ユーザー数:3360

リバウの魔女たち

 

1942年、夏。

 ここは扶桑海軍の遣欧艦隊基地のあるリバウ。

 その基地の上空では、二人の魔女(ウィッチ)が模擬戦を繰り広げていた。

「当たって!」

 詰襟の軍服を着た少女が、訓練用の銃からペイント弾を発射する。しかしその攻撃はいとも簡単に避けられてしまう。

「甘いぜ!」

 そう叫ぶと、もう一人の少女は、袴(と呼ばれる物)をはためかせ、あっという間に相手の背後を取った。

「いただきっ!」

 詰襟の少女にペイント弾が命中する。詰襟の少女はなぜ背後から攻撃されたのかも分からない様子だ。

「ワハハハ!やっぱりあたしってば最強だな!」

 袴の少女は得意げだ。それに対して、詰襟の少女はうつむいて自信を無くしてしまったかのようである。

「よーし、2回戦目行くぞー!いいか~上原…じゃなくて、下原だっけ?」

「は、はい西沢さん」

 二人は2回戦目に突入したが、また西沢の圧勝だった。そして3回戦目も。

 

 模擬戦を終えた二人が基地滑走路に降下してきた。

「見たか坂本、あたしの3戦全勝だぜ!今日も絶好調だな!」

 西沢は教官らしき人物にそう報告する。それに対して、下原はうつむいて黙ったままだ。

 3戦全敗したとは言うものの、下原定子軍曹は決して能力の低い魔女ではない。西沢義子は扶桑皇国海軍でも屈指の腕前を誇る魔女である。階級こそ飛曹長だが、この基地で西沢とまともに戦えるのは、教官の坂本美緒大尉と坂本の友人の竹井醇子少尉くらいのものだろう。

 しかし教官の坂本はそれでも、下原に厳しい言葉を放つ。

「下原!なんだ、今の戦いぶりは!特に2回戦目と3回戦目はまるで最初から勝負をあきらめてしまったように見えたぞ。例え実力が及ばなくても、一矢報いてやるという気概位みせんか!」

「…すいません」

 泣きそうな声で下原が答える。

「まーそう落ち込むなって。私が強すぎるだけなんだからさ。ワハハハ!」

 落ち込む下原を、西沢は(彼女なりに)慰めた。

「西沢も、あまり調子にのるなよ?」

 坂本は、あきれつつも西沢に釘を刺すが、あまり強くは言わない。坂本も西沢のお調子者の性格に手を焼いてはいるが、それゆえにすばらしい能力を発揮しているという一面もあるので、そのまま伸ばしたほうがいいと思っているのだ。

 

「よし、今日の訓練はここまで。午後は予定通り、自由行動とする」

 坂本の声が滑走路に響く。それを聞いて、並んでいた訓練生達から歓声が沸き上がった。しかし坂本の言葉はそれで終わらなかった。

「ただし、下原は午後も特別訓練だ!」

 浮かれる訓練生の中、一人でうつむいていた下原は、思いがけず名前を呼ばれ、はっと顔を上げた。

「お前は他の者に比べて精神面が弱い。基礎体力も足りない。よって午後は体力作りの特別訓練を行う。昼休憩が終わったらここに集合だ」

 一人だけ特別訓練を言い渡されて、呆然とする下原。そんな下原に坂本の厳しい言葉が飛ぶ。

「返事は?!」

「…はい」

 下原は今にも消え入りそうな声を何とか絞り出した。

 午後。竹井は基地の廊下を歩いていると、向こうから坂本が来るのに気づいた。しかしどうも様子がおかしい。キョロキョロとして、誰かを探しているようだ。

「どうしたの、美緒?」

 思わず声をかける。

「醇子、下原を見なかったか?」

「下原さん?見てないけど…。どうかしたの?」

 その問いに、坂本は肩を落としつつ答える。

「…午後から訓練だと言っておいたのだが、こなくてな。部屋にも行って見たんだが、見当たらないんだ。どこに行ってしまったのか…」

 坂本の話をそこまで聞いて、竹井は大体事情が飲み込めた。

「分かったわ、下原さんは私が探してみる」

「そうか、すまないな醇子。じゃあ手分けして…」

 そう言いかけた坂本の眼前に手をかざして制しながら、竹井は言う。

「美緒、ここは私に任せて」

「しかし、命令した私が探さないわけには…」

「こういう事は、私の方が得意なのよ。あなたは待ってて」

「…わかった、醇子に任せる」

 正直坂本には事情は飲み込めなかったが、それでも竹井がこういう場合は任せたほうが安心だと坂本は確信している。

「それでは私は滑走路で待っている。もしかしたら下原が来るかもしれないからな。頼んだぞ、醇子」

「ええ、任せて、美緒」

 そう言葉を交わし、二人は別れた。

 

 竹井は下原を探して、格納庫に来ていた。午後は飛行訓練は無く、機材の整備も終了した格納庫は隠れるのにはうってつけだからだ。

 静まり返った格納庫で、竹井は耳を澄ませる。すると、物陰からすすり泣く声が聞える事に気が付いた。

「…下原さん?」

 竹井はその物陰をそっと覗き込んで呼びかけた。そこには膝を抱えうずくまった下原がいた。突然の呼びかけに驚き、体をビクッと震わせて顔を上げた下原の目には、怯えの色が浮んでいた。

「大丈夫、大丈夫だから」

 怯える下原に、竹井は優しく声をかける。その声を聞いて、下原も警戒心が薄れたようだ。

「となり、座っていいかしら?」

 竹井の問いに、下原は無言でうなずく。竹井は下原に並んで座ると、少しの間黙って一緒に座っていた。

 

「…美緒の訓練、辛かった?」

 下原が落ち着いた頃を見計らい、竹井は下原に話しかけた。

「…私、きっと坂本大尉に嫌われているんです。だから私には厳しいんです。私、扶桑に帰りたい…」

 下原は鳴きそうな声で訴える。

「美緒はあなたの事を嫌ってなんかいないわ。あなたに期待しているからこそ、厳しく当たるの。その気持ちは分かってあげて」

 坂本は竹井の親友だ。坂本が誰かを嫌って厳しい訓練を課すことなど、ありえないことは誰よりも分かっている。しかし失意の下原にはそんな気持ちも伝わらない。

「少尉には、私みたいな落ちこぼれの気持ちなんて分からないです…」

 そう言って下原は心を閉ざそうとする。下原は自らを落ちこぼれと信じ込んでしまっているが、遣欧艦隊に抜擢された事自体、凄い事なのだ。遣欧艦隊には扶桑海軍の選りすぐりの魔女が集められている。その中で能力が劣っているとしても、一般的な魔女から見れば十分優秀なのである。しかし、坂本、竹井、西沢と言った、扶桑トップクラスの魔女達に囲まれて訓練をしているうちに、下原はすっかり自信を無くしてしまっていた。

 そんな下原を見ていると、竹井も過去の自分を思い出す。

「分かるわよ。私も昔は落ちこぼれだったんだもの」

「そんな!あんなに上手く飛べるのに。信じられません」

 竹井の予想外の言葉に、下原は思わず大きな声を出してしまう。

 竹井は、坂本、西沢と並んで『リバウの三羽烏』と呼ばれる程の腕前を持つ魔女なのだ。戦闘能力は二人に一歩及ばないものの、飛行する姿は誰より美しく、普段の穏やかで気品のある立居振る舞いも含めて、『リバウの貴婦人』の異名も持つ。そんな竹井に憧れる若い魔女は多い。下原もその一人だ。その竹井が落ちこぼれだったなど、下原には信じられなかった。

「本当よ。私も昔は自分なんて駄目駄目だって思ってた。辛くて泣く事も多かったし、逃げ出した事もあった。でも、私は一人じゃなかったから…何より美緒がいたから頑張れたの」

「坂本大尉が…?」

 下原にとって、坂本は鬼教官そのものである。そんな坂本を心から信頼するかのような竹井の言動は正直、下原には理解し難いものだった。

「私も昔は飛ぶ事すら怖かった。それに対して美緒ちゃ…美緒はどんどん魔女として成長していった。そんな美緒を見ていると、このままじゃ私は置いていかれると思った。一緒に飛べなくなると思った。その方がよっぽど怖かった。だから私は必死で美緒についていく事にしたの。そうしたら、いつの間にかここまで来れたのよ」

 一呼吸おいて、竹井は言葉を続ける。

「美緒の訓練は厳しいけど、それは誰よりも皆を守りたいからなの。部下を失いたくない、立派な魔女になって欲しいと思っているから。それに美緒は他の誰よりも自分に厳しいの。あなたも、今は苦しいかもしれないけど、美緒を信じて着いて行ってみて。そうすればきっと分かる時が来るし、立派な魔女になれるわ」

「私に出来るでしょうか…?」

 下原は未だに不安そうな顔をしている。それに対して、竹井は優しい笑顔で答える。

「勿論。出来るわよ。忘れないで、あなたは一人じゃない。仲間がいるし、私もついてるわ。苦しくなったり辛くなったりしたら、いつでも来ていいからね」

 そう言うと、竹井は下原の肩を抱きよせ優しく包み込んだ。不意に抱きしめられて、下原はモヤモヤした気持ちを感じたが、思いのほか心地よく、心が落ち着いていく。

 暫くそうしていたが、不意に竹井が思い出したように尋ねた。

「そうだ、下原さんは料理が得意だったわよね?」

「は、はい」

 慌てて答える下原。

「私も料理は得意なの。今度一緒に料理作らない?美味い料理を作って美緒をギャフンと言わしちゃいましょう」

 竹井がいたずらっぽく微笑む。その笑顔で下原も元気が湧き出してきた。

「はい!」

 下原は笑顔になって、明るく答えた。

 竹井と下原はその後、他愛も無い世間話や扶桑の話をしてから別れた。今日の訓練は特別に中止と言う事で坂本には話をつけると、竹井は下原を安心させていた。

 竹井が滑走路に向かうと、既に日は傾きかけていると言うのに、坂本が未だに立って下原を待ち続けていた。北欧とは言え、リバウの夏は暑い。しかし下原が来なければ坂本は夜中になってもこのまま立ち続けていただろう。他人にも厳しいが何より自分に厳しい。これが坂本美緒という人物なのだ。

「美緒、遅くなってごめんなさい」

 竹井は坂本に声をかけた。

「醇子か。下原は?」

「下原さんは大丈夫よ。今日は部屋に戻りましょう」

「そうか。分かった」

 全てが上手くいった事を竹井の表情から感じ取ると、坂本は竹井の言葉に従った。

 

「そんな事があったのか」

 坂本は事の成り行きを竹井から説明を受けていた。

「ええ、だから美緒…」

「分かった。今日のことは叱らないでおこう。ただし、次からは許さんぞ」

 竹井の入れたコーヒーを口にしながら、坂本が続ける。

「しかし下原は素質はあるんだがな…。あの気持ちの弱さがいかん。もっと強い気持ちを持てば、きっと優秀な魔女になれる筈だ」

「そうね…。でも下原さんの気持ちも分かるわ。あの子飛行練習学校を卒業してすぐに最前線のここに派遣されたでしょう?戸惑いもあるだろうし、まだ親しい友達もいないし、きっと寂しいんだと思うわ。扶桑が大好きみたいだし、見知らぬ土地で不安もあるんでしょうね」

「確かに、あの性格では友達も出来にくいかもな」

 困ったなと言う顔をして、坂本が答える。

「だから私が支えになってあげようと思うの。…あなたが私の支えだったように」

「おいおい、私はそんなに大したことはしていないぞ?」

 竹井の言葉に照れ笑いしつつ反論する坂本。

 そんな坂本に竹井は首を振りながら答える。

「あなたが居たから私は頑張れたのよ。覚えていて美緒。もしあなたと別れることになったら、私はきっとあなたより辛いわ」

 坂本は冗談交じりにごまかそうとするが、竹井の真剣な目を見ると、自分もしっかり答えなければと思う。

「勿論、私も…」

 と、続けた言葉は、突如勢い良く開いたドアの音でかき消されてしまった。

「坂本ー!飯いこーぜ、飯!」

 その音の主は西沢だった。西沢の声を聞いて、竹井はゆっくりと立ち上がり、西沢に向かって歩き出す。竹井に気が付いた西沢は明るく言葉を続けるが…。

「あ、醇子もいたのか。醇子も一緒にど…う…?」

 西沢の言葉は途中からか細くなり、消え入ってしまった。こちらに向かってくる竹井の顔は笑顔だった。しかしその笑顔からなぜか底知れぬ恐怖を感じたのだ。

「・・・西沢さん?」

 笑顔で西沢に語りかける竹井。

 普段は下の名前で西沢を呼ぶ竹井だが、苗字で呼ぶ時はただ事ではない。更に笑顔とくれば、その恐ろしさは押して知るべし。

「は、はい!」

 それを理解している西沢は、竹井の呼びかけに、思わず背筋がピンと伸びて返事をしてしまう。

「私達、今大切な話をしているの。悪いけど後にしてくれるかしら?」

 穏やかではあるが、有無を言わせぬ迫力だ。

「そ、そーか、それじゃ仕方ないな。じゃあ一人で行くか。ワハハハ。邪魔したな坂本~」

 答え終わる間もなく、西沢は危険を察知した猫のように逃げ出してしまった。

「っぷ」

 その慌てぶりがおかしくて、坂本はつい吹き出してしまう。

それを見て、竹井も気が抜けてしまった。

「そろそろ私達も食事に行かないか?」

 坂本が立ち上がり、問いかける。

「そうね」

 竹井は部屋の空気が変わってしまったことを悟り、素直に坂本の意見に同意した。

(いいところだったのに…)

 こういう事には鈍感な坂本から、期待する言葉を聴けるのはいつになるやら…と内心がっかりしている竹井だった。

 その後…リバウの戦況は日々悪化し、扶桑皇国海軍航空隊も厳しい戦いを余儀なくされていた。しかしそんな情況であればこそ、リバウの魔女達は腕を上げていった。

 

 扶桑のリバウ撤退後、坂本は新設された501統合戦闘航空団(JFW)、通称『ストライクウィッチーズ』の戦闘隊長に抜擢された。501JFWでは精神的大黒柱として、部隊をまとめることに尽力し、ガリア開放に大きく貢献する。

 その後、魔力の衰えから一時前線を引くが、新たなネウロイの巣の発生により欧州戦線が緊迫化すると前線に復帰し、ロマーニャ開放にも功績を上げた。その戦闘により、完全に魔力を失ったとされているが、坂本はまだ飛ぶ事を諦めてはいない。そして彼女の口癖を知る者たちは、きっとまた飛ぶ事を信じているはずだ。魔女(ウィッチ)に不可能は無いのだから。

 

 竹井は扶桑に戻り、教官任務に着く事になった。そして後に504統合戦闘航空団『アルダーウィッチーズ』の戦闘隊長に任命され、トラヤヌス作戦の失敗後、過酷なヴェネツィア撤退戦を戦う事となる。

 504JFWはその厳しい戦闘で部隊としての戦闘能力をほぼ失ってしまったが、竹井の適切な判断と指示で、かなりの被害を抑えることができた。部隊としての能力は失われながらも、戦闘隊長の竹井の評価はむしろ高まったとさえ言われている。

 501JFWによりロマーニャが開放された後は、504JFWがロマーニャの防衛の任を引き継ぎ、竹井も戦闘隊長としての腕を如何なく発揮している。

 

 西沢は扶桑に帰る事を拒否し、欧州で気ままに転戦しつつ戦果を上げている様子。1945年1月に既に20歳になっている筈だが、不思議と魔力の衰えは無いらしい。というより、感情の赴くままに袴姿で空を駆ける彼女を見ていると、本当に20歳になったのだろうかとすら思ってしまう。

 高らかな笑い声と共に突如現れ、大型ネウロイを撃墜して去っていく様は、『魔王』の戦場伝説として語られているとかいないとか。

 

 そして、下原はリバウの過酷な戦場と坂本の訓練を耐え抜き、立派な魔女に成長していた。その能力を認められ、502統合戦闘航空団『ブレイブウィッチーズ』の一員に抜擢される事になる。

 502JFWでの戦闘は日々苛烈であるが、リバウの戦場を耐え抜いた自信が下原を支えていた。今にして思えば、坂本の厳しい訓練があったからこそ、今の自分があると、心から思う。502JFWでは親しい仲間も出来て、厳しい戦いの中でも楽しい日々を送っている。

 

 1945年夏、魔女たちの戦いはまだまだ終わりそうにない。


 
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