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真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1―10

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1―10
更新させていただきます。

出張先から。しかも端末からの投稿なので、不備があるかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します。

2011-08-10 23:57:24 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:8255   閲覧ユーザー数:6345

 

 

 

この作品は恋姫無双の二次創作です。

 

三国志の二次創作である恋姫無双に、さらに作者が創作を加えたものであるため

 

人物設定の違いや時系列の違い。時代背景的な変更もありますので

 

その辺りは、なにとぞご容赦をお願いいたします。

 

上記をご理解の上、興味をお持ちの方は 次へ をクリックし、先にお進みください。

 

 

 

 

 

 

 

夜、城壁の上。一刀が寝転がっている。

普段は鍛錬を始める時間なのだが、今日はそんな気になれなかった。

 

「おや?誰かと思えば、一刀殿でしたか」

 

「……ん?」

 

突然横から聞こえてきた声に、夜空から視線を外す。

一メートルも離れていない所に星が立っていた。

 

「隣、よろしいですかな?」

 

「……あぁ」

 

そう答えて、のろのろと再び視線を夜空に戻す。

普段の一刀とは、少し様子が違っている。その夜空を見上げる表情には、どこか陰が挿していた。

 

 

トクトクトク……

 

 

一刀の耳に、何かを注ぐ音が聞こえてくる。数瞬遅れて、それが杯に酒を注ぐ音だと気付いた。

 

星と酒。

 

切っても切れないその関係をすぐに頭で理解できなかったということは、それ以上に自分の心が何かで占められているということ。そう頭の隅でぼんやり考えていた一刀に

 

 

「今日、人を殺めたそうですな」

 

 

特になんの感情も込められていない、星の言葉が掛けられた。

 

「――っ!」

 

ビクリ、となにかに怯えたように一瞬、一刀の身体が震える。

そしてしばらくの沈黙。お互い口を開かない。先に折れたのは一刀の方だった。

 

「……見てたのか?」

 

「いいえ。話に聞いた程度ですよ。街で子供を人質に取った賊を斬り殺した、と」

 

「――っ!」

 

再び、一刀の身体が震える。悪いことをして、怒られることに怯える子供のように。

 

 

 

 

日中、たまたま非番だった一刀は街に出ていた。

頼まれた買い出しと、ちょっとした警備の真似事。

その両方を同時にこなしながら、街を歩いていると

 

『キャーッ!!』

 

そんな悲鳴が商家を挟んだ一本むこうの道から聞こえてきた。

もちろん一刀は走りだし、悲鳴が聞こえたであろう現場に到着する。

そこには人だかりができ、その中心には黄色い布を頭に巻いた大柄な男が、片手に剣を持ち、もう片方の手に女の子を掴んでいた。

 

最近、よく見かけるようになった黄色い布を巻いている賊。いつもは大きな事件に発展する前に、沈静化していたのだが、この時間はタイミングが悪かった。

刻はちょうど昼時。警備の交代が行われる時間でもある。人が多ければローテーションを上手く組み、警備交代のタイムラグを発生させないで済むのだが、今のこの街にそれほどの余裕はない。それが仇となった。

 

道端に落ちていた石を拾い、人込みを掻き分け、前に進む。

明らかに周りとは違う風貌の少年を見て、賊の男は一瞬怯え掛けるも、相手が得物を持っていないことを認識すると、途端に強気な表情になった。

 

「おぅ兄ちゃん。なにするつもりかしれねえが、それ以上近づくんじゃねぇ」

 

賊はそう言って握っている剣を軽く振る。さも、この場においての支配者は俺だ、と強調するかのように。女の子が泣き叫んだりしていない所を見ると、おそらく気絶しているのだろう。男の腕の中でぐったりしていた。

 

「……」

 

一刀はなにも喋らない。ただ、眉間に皺を寄せ、男を睨みつけているだけ。

それでいて、なにかを待つかのように足を踏み鳴らす。

そして、その機は訪れた。

 

『こっち!こっちです!』

 

その声に周囲の群衆が反応し、一斉にそちらをむく。

数人の民に連れられて、警備の鎧を着込んだ者達が近づいてきていた。

そして一瞬、そちらをむいたのは群衆だけではない。

男も釣られて声のした方を見ていた。

 

その一瞬を見逃さない。

 

男が目の前の一刀に視線を戻した時、目の前には投狭された石が迫り

 

「がっ!」

 

次の瞬間、男の鼻に命中した。

 

鼻は人体急所の一つ。以外に柔く、少しの衝撃で血が大量に出ることから、相手の戦意を削ぐのに効果的だとされている。

鼻血は出なかったものの、それなりの勢いで放たれた石は十分な威力を持っていたらしく、男は片手で鼻を押さえてうずくまる。そう、女の子を掴んでいた手を離して。

 

すかさず一刀は駆け寄り、地面に放り出された女の子を抱きかかえて、元居た位置に戻る。

群衆の中から、母親だろうか?すぐに一刀に駆け寄ってきた。その女性に子供を手渡す。

周りから喝采と歓声が同時に上がった。母親が何度も何度も頭を下げ、それに慌てた一刀がバツが悪そうに頭を掻く。しかし、

 

『北さん!危ねぇ!』

 

その喧騒の中、緊迫した声が上がる。

一刀は詰めを誤った。本来は行動不能にして初めて他のことに意識を割くべき。

だが、女の子を助けることで頭が一杯だった一刀を誰が責められよう。

元々、彼は高校生。個人の人格が短期間で劇的に変わるなんてことはそうそうないのだ。

だから

 

ブシャァッ……!!

 

「え……?」

 

彼が例え、背後に迫っていた男の剣を無意識に奪い取り

そして、その奪った剣で無意識に

すれ違いざまに

男を切り捨てたとして、

誰が、その行いを責められるだろう。

 

 

この時代、人死にが当たり前の時代。日々の一部に限りなく近い、死という概念。

その時代で人を殺めたとして、それが自己防衛の判断だったとして

それを責められるのは

それを行った本人だけ―――

 

 

 

 

「……その後どうやって城まで帰ってきたのか覚えてない」

 

ただ覚えているのは、人を殺したはずの俺を、街の皆が気遣ってくれたことだけ。

と、一刀は付け足す。

 

「……」

 

 

トクトクトク……

 

 

その告白を聞いても、星は言葉を発さずにただ杯を傾けるだけ。

 

「……分かってんだよ。この時代、この世界じゃ俺の考えの方がおかしいってことぐらい。……でも」

 

一旦言葉を切り、身体の横に投げ出していた手を地面に叩き付ける。

 

「自分が人を殺すなんて、考えてもみなかったんだ……」

 

いつかそういうことに直面するのも分かっていた。

だが、それは戦場でだと思っていた。

こんなに唐突に

その時が来るなんて思ってもみなかったんだ。

 

血を吐くような静かな叫び。

この世界に来て、人が死んで行くのは少なからず見てきた。

だが、実際に殺めることと、死を見ることは違う。

飢えで死ぬ者。病気で死ぬ者。誰かを守るために死に行く者。侵した罪の代償で死に行く者。

一刀が居た現代より、遥かに多い頻度で人が死んでいく。

いや、正確に言うなら、現代日本で暮らしていた一刀の周囲より遥かに多い頻度で人が死んでいく、の方が正しいだろう。

現代も、決して平和などではないのだから。

 

 

 

 

再び、その場に沈黙が訪れる。

相変わらず星は杯を傾けるだけ。

なんとなく、自分が作り出した空気に耐えられなくなり、起き上がろうとした一刀の行動を

 

「随分と贅沢な悩みですな」

 

星の一言が遮った。

 

やはり、何の感情も篭って“いないかのような”台詞。

慰めでもなし、非難するわけでもなし。

ただ淡々と、星は言った。贅沢な悩み、と。

 

「なにが贅沢だってんだ……!」

 

星に怒りの矛先を向けるのは間違っている。

そう思いながらも、混乱した頭の中では、明確に感情が処理できない。

怒りを覚えるのなら自分に。そう頭では理解していても感情の渦に飲み込まれる。

そんな一刀の頬に一発

 

パンッ……!

 

星の平手が舞った。

 

 

 

 

拳は肉体に、平手は精神にダメージを与えるらしい。

数瞬前まであった怒りの感情は、どこかに飛び去っていた。

それと入れ替わりに残ったのは、星に怒りを向けたことへの罪悪感と、ごちゃまぜになっていた感情が吹っ飛んだ際に現れた虚無感のようなもの。

 

「贅沢以外の何物でもないでしょう」

 

星は何事もなかったように

変わらず、杯を傾けながら語る。

 

「そもそも、一刀殿はなぜ自分がその賊を殺してしまったかお分かりか?」

 

「……それは、そうしないと俺が、殺されてたから」

 

身勝手な言い分だと思う。だが、それはある意味、真理。

誰しも自分の命が大切。

そもそも、相手の命と自分の命は天秤にかけることのできないものなのだ。

 

「その通りですが、それでは不十分。もう半分が抜け落ちている。なぜ、殺されそうになったのか?ですよ」

 

「……慢心してた。多分俺は、女の子を助けるっていう行為に酔ってたんだと思う」

 

 

自分の行動を、冷静になった頭で考えてみる。無意識とはいえ、女の子を助けて、周囲から感謝されるというシチュエーションを思い浮かべていた気がした。

そんなことは無いのかもしれないが、一度思い浮かべたことはそう易々と消えてはくれない。

 

「慢心、油断、見下し。理由は色々あるでしょう。ただ、それはあくまで理由。しかし、答えは一つだ」

 

「……答えは、一つ?」

 

「そう。事実と言い換えてもいいかもしれませんな」

 

 

事実。

その単語を一刀は頭の中で反芻する。

慢心、油断は理由に過ぎない。答え、事実は一つだけ。

特別に良いわけではない頭をフル稼働させ、考えに考え抜いた末。

その答えは

 

「あ……」

 

拍子抜けするほどあっさりと、簡単に、容易に、浮かび上がった。

 

「どうやら、気付かれたようですな」

 

「……うん、気付いた。本当に、単純だ」

 

 

本当に答えを知ってしまえば、あぁ…なんだ、と拍子抜けするほどに単純明快すぎる答えと事実。

それは

 

 

 

 

「俺が―――弱いからだ」

 

 

 

 

 

 

もし、強かったなら。

慢心もせず、油断もせずに周りに気を配ることが出来ていたなら。

周りの感謝の感情に呑まれず、一瞬行動を制限した相手に意識をむけることが出来ていたなら。声に反応する前に、男の行動に気付いて、戦闘能力を、戦闘の意思を削ぐことだけを出来るほどに自分が、強かったなら。

男を、殺さずに捕まえることが出来たかもしれない。

 

そう考えられる今なら、星の言ったことも分かる気がしていた。

 

贅沢。

 

正にその通り。

弱い者は、自分のできることが限られている。

それ以上のことを望むのなら、強くなるしかない。

だから、贅沢。

 

 

弱い者が、殺す気は無かった、殺したことを後悔している、と言ってもなにも変わらない。

ただ、自分の心が救われるだけ。

殺したくないのなら、強くなるしかない。

人を殺めたくないのなら、それに見合う強さが必要になる。

殺す必要が無くなるくらいに。手加減してでも相手を制圧できるくらいに、強く。

 

 

それが今、北郷一刀の得た答え。

 

 

 

 

人は力を持つが故に何かをするのでは無く

何かをしたいから

力を求め、それを使うのだ。

 

 

 

 

 

 

「心の整理は着きましたかな?」

 

「……分かんないよ。でも、方向性は分かった。自分がどうするべきか、何をしたいのか」

 

賊だったとはいえ、自己防衛だったとはいえ、殺したという事実だけは覆らないし、変わらない。

なら、それを許容できるくらいに強くするしかない……精神(こころ)を。

殺さないで済むように強くなるしかない……自分が。

それまでは、殺したという事実を胸に刻みつけるしかない。

……刻み続けるしかない。

 

「ならば結構。ふぅ……せっかくの酒が不味くなってしまった」

 

「悪かったな。酒、不味くしちゃって。今度機会があったら、奢るよ」

 

心の中の暗雲は未だ晴れなかったが、こころなしか軽くなった気はした。

 

「それは良い。期待して待っているとしましょう。……もう一つ忠告を。甘さと優しさを取り間違えることのないように。この二つ、表面上は似通っているが根底は全く違う代物ゆえに。特にこのような世では、尚更」

 

「あぁ、肝に銘じとく。……星、ありがとな」

 

返答は無く、

その言葉の後、一刀の耳にこの場から遠ざかって行く足音が聞こえた。

同時に、気配も消える。

しばらくぼんやりと夜空を見続けていた一刀が、ふと横に視線を動かすと、酒瓶と杯が目に入った。星が忘れて行ったのだろうか。

その酒瓶と杯におもむろに手を伸ばす。

しかし

 

「あれ?」

 

その酒瓶の違和感に気付く。

 

「空じゃん……これ」

 

酒瓶を逆さにして振っても、一滴の雫も落ちてこない。

一滴も、というのは正直おかしい。

少しの雫ぐらいは落ちて来てもよさそうだけど、と考えつつ今度はもっと明確な、杯の違和感に気付く。

 

「……乾いてる」

 

星が立ち去って、さほど時間は経っておらず、さっきまで星は杯を傾けていたはずだ。

そこで更なる違和感。

考えるのに夢中になっていて気付かなかったが―――いつ頃から杯に注ぐ酒の音は聞こえなくなったのだろう。

違和感の正体に気付き、一刀の顔に苦笑いのような表情が広がる。

そして、自然と口から呟きが漏れていた。

 

 

「ホント……ここは良い人ばっかだな。……俺も頑張んなきゃ」

 

 

 

 

 

 

【あとがき】

 

 

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1―9

【 強さ、そして優しさ 】

更新させていただきました。

 

 

 

星は重い話でした。当初は戦場でこういった話を考えていたのですが、作者は戦場の描写が苦手です。えぇ、これでもかと言うぐらい苦手です。

現代日本では、間違いなく罰せられますが、この時代は常に死と隣り合わせの時代。

そこで自己防衛のため、人を殺してしまった一刀は何を思い、考えるのか。

といった話でした。薄いうえに重かったです。

書きながら、「私はいったい何がしたいんだろう……?」と自問自答しながら書いていました。お目汚しにならなければいいのですが。

 

ええと……とりあえずタイトル的なものもありますので、星と白蓮は他の武将よりも少し優遇してます。というか、します。

一番難しいのが白蓮の書きですね。ネタを確実に想像、もしくはどこかから引っ張ってこないといけないので。結構難しいですね、やっぱり。

 

 

 

さて、いよいよ次からは黄巾党編です。

作者はお察しの通り薄っぺらいので、多分黄巾党編すぐ終わります。

 

 


 
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