No.268570

真・恋姫†夢想 桂花EDアフター その五

狭乃 狼さん

桂花あふたー、その五回目です。

今回は、現代での生活が始まった桂花の、その初日の様子を、
お伝えいたします。

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2011-08-10 18:04:42 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:15515   閲覧ユーザー数:12150

 早朝、七時。

 

 朝食を母屋で済ませた後、学校へと登校する一刀を、私はその玄関先にて見送っている。

 

 「それじゃあ行って来るよ、桂花。そっちも仕事と勉強、頑張ってな」

 「うん。一刀も勉強、頑張ってね。……ね、帰ってくるのって、何時頃ぐらいなの?」

 「そだな……授業が全部終わるのが四時で、その後部活に顔を出してからだから……大体夕方の六時半頃、かな?……時間の単位については夕べ教えたけど、どう、分かる?」

 「ん、大丈夫。……えっと、午後の六時…三十分だから、十八時三十分…でいいのよね?」

 「そ。じゃあ行って来るな」

 「行ってらっしゃい」

 

 そうして互いに挨拶を交わし、一刀は自転車という一人乗りの乗り物に乗って、颯爽と門をくぐって行きました。……私もあれ、そのうち乗れるようになりたいな。でもって一刀と二人で、一緒にどこか景色のいいところを走れたら、すっごく楽しいだろうな……えへへ。

 

 「はいはい、一人妄想にふけるのは後にしてちょうだいね、桂花ちゃん」

 「ふへっ?!あ、ご、ごめんなさい!胡蝶さん!」

  

 うぅ……また妄想してにやけちゃってた……。最近なんだかこんなんばっかり……これじゃあまるで稟みたいじゃない。……いや、鼻血は吹かないけどね。

 

 「まあいいわ。さて、それじゃあ貴女にも早速、お仕事のほうに入ってもらおうかしらね。あ、そこの貴女」

 「はい、奥様」

 「この娘を衣裳部屋に案内して、着替えさせてちょうだい。それが済んだら、また私のところに」

 「はい。さ、こちらへどうぞ」

 「あ、は、はい」

 

 女中……メイドさん……だっけ?その中の一人に胡蝶さんがそう指示を出し、その人の誘導にしたがって、私も後をついて歩き出す。さあって!私も一刀に笑われないように、しっかりと頑張らなきゃ!

 

 

 

 「あらあら、よく似合ってるわよ~。とっても可愛らしいわ~」

 「……ど、どうも……///」

 

 青を基調としたエプロンドレスに、白いカチューシャを頭につけて、胡蝶さんのいるリビングへと戻ってきた私を見て、そんな感想を言ってくれました。……ちょっとだけ、なんだか恥ずかしいかも。

 

 「別に恥ずかしがる事は無いわよ。それに、これからは毎日、その格好でお仕事してもらうんだから」

 「……はい」

 「じゃあ早速だけど、貴女にはお仕事の指導役として、一人つけさせてもらうわ。当分は彼女の指示に従って、お仕事のほうを覚えてちょうだい。……水花(すいか)ちゃん、お願いするわね」

 「はい、奥様。……岬水花です。よろしく」

 「あの、よ、よろしくお願いします!」

 

 金色の髪がとても綺麗な、その楚々とした感じの女性に、深々と頭を下げて挨拶をする私。……私はまだ、この時思ってもいなかった。とっても上品そうに振る舞い、穏やかそうに微笑んでいるこの人の、その想像を絶する、厳しい教育が待ち受けている事なんて。

 

  

 「ちょっと桂花さん!ここの拭き掃除、きちんとやったの?!」

 「は、はい!い、一応やりましたけど……」

 「……一応、ですって?(ついー)これを見なさい。まだこんなに埃が残っているわよ?!……始めからやり直し!」

 「……はい」

 

 お姑さんですか?水花さんはお姑さんなんですか?!……うう、これで一階の廊下だけで三度目……くっ!負けてたまるものですか!ええ!これぐらいで根を上げたりなんかするもんですか!

 

 

 「桂花さん!」

 「はい!」

 「なんですかこのお皿の洗い方!もっと丁寧にやって下さい!いいですね?!」

 「はい!すみませんでした!!」

 

 ……お皿も、都合五回、洗い直し……。

 

 「桂花さん!」

 「はいぃ!!」

 「洗濯物はもっときちんとたたむ様にと言ったでしょう!?」

 「申し訳ありません!すぐやり直します!」

 

 ……同じく、これにて四回目のやり直し……。ちょっとだけ、ほんと~に、ちょっとだけ、泣いちゃってもいいですか?……あぅぅ。

 

 

 そんなこんなで、水花さんの厳しい指導(しごき?)の時間がようやく済み、私はお屋敷の食堂でお昼ご飯をいただいています。ちなみに、お昼のめにゅーは『かれーらいす』というもの。とっても香ばしい香辛料という物の香りと、ちょっぴり辛めのとろっとした汁が、白いご飯の上にかかっているものでした。……はっきり言って、すっごく美味しかったです。この国の国民食とまで言われているとの事だけど、その事がとってもよく分かる、癖になりそうな味だった。……今度、一刀に作ってあげようかな?

 

 「桂花ちゃん」

 「あ、はい。何ですか、胡蝶さ……あ、もとい、奥…様」

 

 今日の午前中の仕事の最中、何気なく出た話の中で、胡蝶さんのことを名前でもって呼んだら、水花さんに一言言われてしまった。

 

 『……一応、仕事中は奥様、とお呼びするように。貴女がどれほど奥様と親しい間かは知りませんが、公私の別はきちんとつけておきなさい』

 

 だ、そうです。……確かにその通りよね。いくら仲が良くたって、彼女は一応、私の雇い主という立場に違いは無いんだから。なので、胡蝶さんのことはなるべく、奥様と呼ぶようにした私でした。

 

 「……ふふふ。あんまり気を使わなくてもいいのだけれどね。それに、みんな私のことを奥様、なんて呼ぶけど、実際にはまだ結婚もしていないのだけれどね」

 「……そうなんですか?」

 「そうよん。……だって私は、ご主人様一筋ですもの♪」

 「なっ……!?」

 

 ……か、一刀一筋?!そ、それはいくらなんでもちょっとまずいわ!だって、あっちの姿なら彼も全身全霊でもって拒絶するだろうけど、今の胡蝶さんの姿じゃあ、万が一な事が起きないとも限らないじゃない!……だってその、胡蝶さんて、私と違ってその、身長もあるし、胸だってその……おっきしいし。凄く……色っぽいんだもん。

 

 「……くすくすくす。やあね、桂花ちゃんてば。冗談よ、冗談。……私が愛しているご主人様は、後にも先にも、あの時の外史のご主人様だけ。……この正史のご主人様も素敵には違いないけど、私にとってのご主人様はあの人だけよ。……まあ、姿や魂はほんとに同一人物だし、思わず重ねちゃう事は否定しないけどね」

 「……あの時の外史……?」

 「そ。……全ての始まりにして、あらゆる外史の発端となった、第一の外史。そこには劉備ちゃんが存在せず、変わりにご主人様がその役を演じた世界」

 「……」

 

 その世界の一刀は、劉備の立場に立って大陸を統一し、左慈・于吉という例の二人の導師に邪魔されながらも、新たな別の外史を切り開く事で、全員が幸せな時を歩み始めたという。……それまで居た世界の消滅という、多大な犠牲を代償に。

 

 (……世の中って、何か代償を払わないと、何も出来ないようになっているのかしらね……) 

 

 

  

 「……やあね。なんだかちょっとだけおセンチになっちゃった。……そのうちまた、あの世界のご主人様に会いに行こうかしらね♪……まあ、拒絶されるのは分かりきってるけど、ね?」

 「……胡蝶さん……」

 「……さあてと。昔話はこれくらいにして。あのね桂花ちゃん?本当だったら、お昼からは家庭教師の先生についてもらっての、お勉強の時間の予定だったんだけどね?その家庭教師の人、ちょっとしたこちらの手違いで、来るのが明日からになっちゃったのよ」」

 「……そうなんですか?」

 

 ……ちょっと拍子抜けしちゃったな。お昼からは机に向かっての猛勉強、のはずだったから、頭もそっちに切り替えていたのに。……てことは、また水花さんと一緒にお仕事の続き……?うぅ、なんだかちょっと胃が痛いかも。

 

 「でね?どうせ常識も覚えないといけないわけだから、それも兼ねてちょっとお出かけして欲しいの。もちろん、一人でなんて言わないわ。風花ちゃあ~ん」

 「は~い」

 

 胡蝶さんに呼ばれて私達のほうへと、ちょっと駆け足で走り寄ってきたのは、髪型の違う水花さんでした……もしかして姉妹……かな?

 

 「ども~!岬風花で~す!以後よろしく~!」

 「あ、いえその、こちらこそ……」

 「もう分かったとは思うけど、この娘は水花ちゃんの双子の妹なの。彼女とも仲良くしてあげてね。風花ちゃん、午後からのお買い物なんだけど、この娘も一緒に連れて行って頂戴。で、ちょっとした事情があって、この娘世の中の常識…バスや電車の乗り方とか、お金の価値とかまだあんまり分からないから、色々教えてあげてちょうだいね」

 「は~い!」

 

 うん。水花さんと違って、この人はかなりくだけた感じの人っぽいようだ。これなら、あんまり気を使わなくてもいいかも。

 

 

 

 で。風花さんと二人でもって、買出しへと出かけた私だったんだけど、これがまたなんとも、恥ずかしいの一言に尽きる道中だったわけで。

 

 「桂花ちゃん……電車の切符、千円分丸まる買っちゃって、どこまで行くの?」

 「ご、ごめんなさい!ど、どうしたらいいの、これ?」

 「……あそこに清算機があるから、あれで払い戻ししましょうね」

 

 ……買い物先までわずか二駅、その間の電車賃は二百五十円なり……。……うう、字が読めなくても、数字ぐらい分かるかと思って、高をくくったのがいけなかった……。

 

 きんこんきんこん。

 

 「……あれ?な、なんで通れないの?」

 「……桂花ちゃん、そこ、入るところ逆」

 「……あ」

 

 改札でもって、出口側の方からくぐろうとしちゃいました///……もう、穴があったら入りたい心境です……はあ。

 

 ……とりあえず気を取り直して、続いては、到着した買い物先であるでぱーとって所の、地下食料品売り場。通称、『デパ地下』って言うらしい場所にて。お野菜とかお肉とか魚とか、それこそたくさんの食料が所狭しと並ぶ中、私達が向かったのはその一角にある、けーきっていうものの、専門店だったんだけど。

 

 「……風花さん。これって、お菓子……なんですよね?」

 「そうよ~。奥様ももちろんだけど、お屋敷の皆、ここのケーキに目がなくてね~。いつもわざわざ買いに来るのよ」

 「ふ~ん……一個で、えっと、五千……えん?……結構高いものなんですね、けーきって。……それに一人で食べるにはちょっと大きいんじゃあ」

 「……あのね。それ、ホールケーキって言って、普通は何人かで分けて食べるものです。……まあ、中にはこれを一人で食べちゃう人もいるけど、普通は、一人で食べないってば」

 「あ、あははは。そ、そうよね~?やだ、もうわたしったら……あ、あははは///」

 

 ……そうですね。ちょっと考えれば分かる事ですよね~……あー、恥ずかし///

 

 まあ、そういった私のお馬鹿な言動はさておいて、とりあえずお目当てのけーき一揃えを買った後、私と風花さんはそのでぱーとの中にある茶店でもって、ちょっと休憩と相成ったのだけど。……はい。そこでもまた、やらかしちゃいました。

 

 「……あの、風花さん」

 「ん?な~に?」

 「……このお砂糖って、一杯いくらぐらい払えばいいの?」

 「……」

 

 あ。思いっきり口あけて固まってる。……よく見たら、周りにいるほかのお客さんや、近くに居た店員さんまで。……もしかして。

 

 「……えっとね?このお砂糖も、そっちに入ってるお塩も、基本、ただだから」

 「……そーですか……/////」

 

 あーもう!余計な事言わなきゃよかったー!!……も、今なら確実に、恥ずかしさだけで死ねます……あう。

 

 

 

 「……てな感じの一日でした……」

 「……それはまた、えっと、なんと言っていいか……」

 

 あ。顔引きつらせて、どんな顔していいか判断に困った表情してる。夕食を二人でとりながら、今日あった出来事の、互いの報告を済ませていたんだけど、私の話を聞いた一刀の反応が、先のそれ。

 

 ……あの後、恥ずかしさで真っ赤を通り越して茹で上がってしまった私を、風花さんは少々呆れた顔をしながらも、励ましてくれました。

 

 『まあ、その。詳しい事情は良く知らないけど、とにかく、一度経験した以上は、もう二度と同じことをしなければいいから。だから元気出して、ね?』

 

 という具合に、明るく朗らかに、です。……そうよね?二度とおんなじことしなければ、それでいいのよ!……ちょっとだけ、自信ないけど。でまあ、そんなこんなで買い物も無事(?)に済み、お屋敷に帰ってきたのは、大体四時ぐらいの事だった。その後は、胡蝶さんから貰ったてきすと……ひらがなと漢字の書き取り用の本を手に、離れで一人文字の勉強をしていました。

 

 小学校の低学年用……要するに、大体六才ぐらいの子供向けだったそうだけど、まあそれでも、最初に渡されたもっと小さい子用だという、絵本っていうのはさすがに勘弁させてもらいました。

 

 でもって、そうして一人書き取りをしているうちに、時間はあっという間に夜の七時となり。一刀が少し遅れて帰ってきた。なんでも、部活っていうのが終わりかけた時に、例の不動(ふゆるぎ)っていう先輩さんに一勝負挑まれて、断るに断れずそれに付き合う羽目になったからだそうだ。ちなみに、その勝負の方はというと、ぎりぎりの所で一刀の勝ちだったそうだ。

 

 「……不動さん、あの調子だとまた、勝負を挑んできそうだったな。……まあ、俺にとっても修行になるから、別に断る理由もないんだけど」

 

 と、帰りが遅れた言い訳をした後に、そんな事をポツリと言った一刀。……やっぱり、彼にはなにか思うところでもあるのだろうか?……もう、あの世界に行く事も、二度とないでしょうに……。

 

 「ま、まあとにかく、これで多少はこの世界の事を知ることが出来ただろ?なら、結果おーらいってことでいいじゃないか?な?」

 「……そうね。物事はいい方に考えたほうが、気も楽になる……かな?」

 「そういうこと。……ところでさ、話は変わるんだけど、今度の日曜…えっと、三日後の休みの日なんだけどさ」

 「?なに?」

 「俺も学校無いし、部活も当日は休みだからさ。ちょっと出かけてみないか?二人っきりで、さ」

 「……えと。それって、でえとって…やつ?」

 「ああ。……どうだい?」

 

 否、なんて答える訳がある筈も無いわけで。一も二も無く、諾の答えを返した後、嬉しさのあまり一刀に思い切り抱きついた私だったりした。

 

 ……次のお休みの日、か~。あ~、今からすっごい待ち遠しい♪…あ、そだ。明日にでも胡蝶さんに頼んで、お出かけ用の可愛い服を貸してもらおう。……やば、自然と顔がほころんじゃう。えへへ、楽しみだな~。何処連れてって貰えるのかな~?……早く次の日曜日になります様に♪うふ、うふふ、うふふふふふふふ///

 

 とまあそんな感じで、終始にやけたまんまの状態で、この日は就寝時間を迎えました。次のお休みの日、一刀と二人で楽しくでえとをするその光景を、一足早く夢の中で体験しつつ、一刀の腕の中、幸せ一杯な寝顔をして……ね♪

  

 ~続く~

 


 
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