No.267373

新世代の英雄譚 閑話一

今生康宏さん

pixivでも(ry
まとめて投稿、最後です
このシリーズ以外は、pixivでは上げていない小説を投稿していこうと思います
結果として、二次創作が多めになるかも?

2011-08-09 22:17:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:268   閲覧ユーザー数:268

閑話一「二人の女性に関する閑話」

 

 

 

 ベレンと共に出発した夜、ルイスは一人、剣を振るっていた。

 途中まではロレッタも付き合ってくれたのだが、馬の手綱を取るというのもそう簡単な仕事ではないらしく、三十分も続けると先に休んでしまった。

 ビルは相変わらず、誰よりも早く眠ってしまい、ベレンもほとんど同じ頃に眠った。

 今夜、虚空に見出す敵は、今まで戦った賊でも、近場の目標であるビルや、憧れともいえるロレッタでもない。

 意外にも、それはベレンだった。

 瞬間的に、そして連続的に繰り出される魔術を素早く避け、いかにその合間を縫って斬りかかるのか、それを考えながら剣を振るう。

 これから先、魔術師と戦う機会がそうあるとは思えない。それでも、それを想定した戦い方を編み出すのは全くの無意味ではない筈だ。

 悔しい話だが、ルイスはまず体の作りの時点でビルとの真っ向勝負では勝てない。

 ならば、武器とするのは俊敏さと、臨機応変な戦い方だ。

 大斧の一撃は、少しかするだけでも致命傷になりかねないが、その分小回りは利かない。

 使い方も、斬る以外ではあまり数がない。

 それに比べれば、彼の使う剣は様々なアクションを行える。

 今はまだロレッタから譲り受けた長剣を持て余しているが、これを持った戦い方を確立させれば、ビルに勝てる日もそう遠くはないかもしれない。

 そのヒントが、対魔術師の動きにある気がした。

 速度とリーチのある攻撃は、意外にもビルの攻撃と共通した特徴だ。

 凄まじい筋肉の付いた彼の腕は、恐ろしい速度で斧を振るうことが出来る。

 流石にそれを再び手元に戻し、二撃目を繰り出すのには時間を要するが、その初撃は驚嘆に値するものだ。ベレンが見せた、白昼の雷に匹敵するぐらい。

 あの速度は、正に光速で、回避はほぼ不可能に思えたが、どこを狙って繰り出されるかがわかれば、対処も出来る。

 それを斧に当てはめれば、それはまるっきり対ビル用の動きだ。

 長いリーチというと、それはロレッタの槍もだが、彼女には現状、敵わないと考えるのが妥当だろう。

 彼女はフェイントや、薙ぎ払いを挟んで来る。点で狙う突きや、モーションが大きく単調な斧の斬りには対処出来ても、素早く、広範囲をカバーする槍の一撃は今の彼の目と、身体能力では防げそうにない。

「……お、今夜も鍛練か。精が出るなぁ」

 背中にかかった声は、ビルのものだった。

 こんな時間に彼が起き出すとは珍しい。

 ルイスは一度剣を鞘に戻し、振り返った。

「うん。というかビル、“今夜も”って、毎晩やってるって知ってたの?」

「そりゃあ、知ってるぜ?俺様は寝ている様で、実は起きてるからな」

「それは嘘」

 毎度、うるさいぐらいの大いびきを上げて寝ているのは一人しか居ない。

「しかし、最近はだいぶ太刀筋が親父さんに似てきたな?これも血ってやつか。華奢な外見からは想像出来ないぐらい、良い動きしてるぜ」

「本当に?」

 お世辞なんて言わないのがビルだが、一応訊いておく。

 もしかすると、ただ単にもう一度褒めてもらいたかっただけかもしれない。

「本当だよ。こりゃあ、俺もうかうかしてられねぇな。傭兵辞めて、腕も落ちて来たかもしれねぇし。舐められないようにしねーと」

「そんな事ないよ。ビルは今だって、僕の兄貴分だろ?」

 それに、ルイスが彼を慕う理由は、戦闘や人生経験の豊富さだけではない。

 人間としての器の大きさ、無骨な外見からは意外なほどの博識さ、人をまとめる天賦の才能ともいえるリーダーシップ。

 その全てが自分にはないものだ。そうルイスは考えている。

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。俺がお前を褒めるのは良いが、俺はおだてられても何も出さないぜ?」

「それで良いんだよ」

 にっ、と二人で笑い合う。

 思わずそのまま何故か爆笑してしまいそうになって、慌てて堪えた。

 眠っている二人とは距離を取っているとはいえ、二人で馬鹿笑いしてしまっては起こしてしまいかねない。

 ベレンは寛容の心で許してくれるかもしれないが、ロレッタなら、最悪槍を持ち出して来る。

「ところでルイス、そろそろ止めたらどうだ?もう結構夜も遅いぜ」

「あ、うん。そろそろ眠くなって来たしね。良い感じに疲れたし、すぐ眠れそう」

 初夏の夜は、少しの運動でも汗をかいてしまう。それを拭い、早速横になろうとしたルイスを、ビルが止めた。

「最近、二人でじっくりと話す機会もなかったしな。ちょっと話さねぇか?」

 そういえば、確かにそうだった。

 夜更かしは、なんだかルイスとロレッタの専売特許の様になっていたし、町ではビルがずっと酔い潰れていて、話どころではなかった。

 道中は、やはりビルがすぐに眠ってしまっていたし、もう一週間は二人で話していない。

「うん。良いよ」

 上体を起こして、ビルに向き直る。

 改めて正面から見ると、ビルはでかい。

 大きいというよりは、でかい。そんな素朴な表現がぴったりと当てはまる気がする。

 筋肉質の体は、上には頭一つ分、横には左右それぞれに拳一つ分はある。

 女性の身でロレッタはルイスよりも背が高かったが、楽な服装ではここまで存在感はなかった。厳めしい鎧姿には威圧感があったが。

「これから先、こんな機会が何回あるかわからないからな……ぶっちゃけた話をするぞ」

「う、うん」

 改めてそう言われてしまうと、思わず姿勢を正してしまう。

 そして、ビルはゆっくりと、口を開いた。

「ロレッタとベレン、お前好みはどっちだ」

「は!?」

 何を冗談を、と思ったが、ビルの顔は真剣そのものだった。

 神に懺悔をする時の様に、思いつめた表情をしている。

 この男が本気だということは、よくわかった。

「お前、仮にも男なら、そういうこと考えない訳ないよな?二人とも、そんじょそこらじゃあ出会えない様な美人だ」

「仮に男をやってないけど……まあ、それはそうだよね。やっぱり貴族は違う、ってことなのかな」

 よくよく考えてみれば、平民――それも貧しい村育ちの二人が巡り合うには不相応なぐらい、身分の高い二人が同行している。

 生まれが違えば、備える美貌や気品もやはり平民とは違って来るらしい。それぞれが可愛らしく整った顔をしていて、スタイルだって申し分ない。

 特別女好きなビルでなくても、「そういう」目を向けてしまうのは仕方がないことだろう。

「ちょっと待って。まさか、本気でそういう仲になりたいとか思ってるの?」

「お前、そりゃあそうだろ。俺ももうそろそろ、嫁さんもらってもおかしくない年だからな。というか、今ぐらいから考えておかないと、一生独り身で死ぬことになるぜ」

「そういうものかなあ」

「そういうもんだ」

 人生の辛酸を舐め尽した、という訳ではないのに何故かビルは断言する。

 確かに、ルイスの父は生きていれば今年で三十五歳。逆算すればビルと同じ年でルイスを授かっていることになるが、父も母も同じ村の生まれで、自然と惹かれて行った。

 だが、旅仲間である二人とは、本当に突発的な出会い方をして、突発的に旅を共にすることになった関係だ。

 ルイスは、自分がそれなりにロレッタやベレンと親密な仲になり、信頼もされているとは思っているが、正直未だに距離感を掴めないで居るのも確かだ。

 それが恋仲にまで発展する、というのは有り得るのだろうか。

「じゃあ、反対に訊くけど、ビルはどうなのさ」

「俺か?そうだなぁ……ロレッタは、気が強いしちょっと堅物なところもあるが、可愛い面もあるし、やっぱりそのスタイルの抜群さが魅力だよな。俺はマゾって訳じゃないが、それを活かして攻められるってのも、そそるな」

「…………」

 ビルというのは、基本的にこんなやつ。

 今更ルイスも、口を挟まない。

 それに、その考察は決して間違ったものではないし。

「ベレンは、世間知らずで気弱で、だけど礼儀正しいし気丈なところもある、良い子だよな。確か、十四だったか。その年であんだけの胸を持ってるってことは、将来へかかる期待もでかいしな……。なんつーか、あの子は清純派って感じだが、じっくりと奉仕してもらいたいところではあるな。飲み込みは早そうだし、教え込めばテクニャンにもなりそうだ」

「…………」

 ちょっと想像してしまい、思わず反応してしまう。

 ここで、ルイスが彼女と共にびしょ濡れになった、という情報がビルに伝われば、彼はどんな反応を返すだろうか。

「まあ、俺の本命は現実的なところも考えて、ロレッタだな。年も近いし、もう貴族じゃないんだから、お家問題とかで揉めないし」

「それじゃ、僕の選択肢がなくなるじゃん」

「お似合いだろ?二歳違いだし、お前あの子に懐かれてるみたいだし」

 橋の上での一件以来、ベレンはルイスをまるで王子様か何かを見るかの様に、一種の憧れを抱いて接していた。

 仕込み杖を手に襲いかかって来た彼女をいなし、川に飛び込んだ上で説得をしただけなのだが、彼女の中でのルイスは、ビルはおろかロレッタよりも頼れる人間になっているらしい。

 その期待に添えようと、鍛練にも力が入るのでルイスにとっても悪いことではないのだが、人に言われるとなると少し恥ずかしい。

「でも、ベレンは貴族だし」

「国や家が大変な状況なんだろ?そこをお前が助けてやるんだよ。で、そのままの流れで婿養子になる訳だ」

「逆玉じゃん、それ……」

 全く悪い話とも思わないが、なんだか人の家の事情を利用している様で後ろめたくもある。

 それに、まだまだルイスにとっては結婚のことなど、現実味のない話だ。

「ま、長くはない旅になるんだ。これからどれだけの出会いがあるかもわからないし、どんなことがあって、仲間同士の関係が深まるかもわからない。今こんなこと話しても不毛だな」

「じゃあ、初めから言い出さなければ……」

「お前、あれだけエロい二人と旅してて、猥談の一つもしないのは逆に不健全ってもんだろ!」

「エロいって、美人だとは思っても、それがエロには繋がらないよ!下半身直結人間!」

「かは……おま、もう一度言ってみろ!」

「何度でも言うよ!この下半身直結人間、エロの権化、エロ親父!」

「きぃ、さぁ、まぁーー!!ちょっと甘い顔してるからって、調子乗んなよ!」

 ビルがルイスに掴みかかり、それにルイスも足蹴りで対抗する。

 たちまち掴み合い、殴り合いの喧嘩に発展して、二人の怒号は更に激しくなって行った。

 そうなると、深夜のことだ。当然迷惑する者も出て来る。

「……あなた達、何を仲良く絡み合っているのかしら」

「そ、その、ワタクシは見て見ぬフリが出来ますから……!」

 女性陣二人は起きてしまい、一人は手を硬く握り締めて怒り、一人は手を口に当てて呆気に取られていた。

「あ、えーと、その、これは……」

「俺じゃなくて、こいつが全面的に悪いんだぞ!?」

 男二人、どちらのパンチよりも重い一撃が降り下ろされ、安眠妨害者二人は気絶させられた。

「人の体をじっくりと考察するのは許してあげたけど、ベレンまで起こしちゃって、この馬鹿男どもが……」

 ――今尚、一行のヒエラルキーでは、ロレッタが頂点に君臨している。

「ベレン。これからも男二人が変なことをしてたら、容赦なく暴力振るって良いからね。何なら、魔術をお見舞いしてあげても良いわ」

「は、はぁ」

 そして、二番目にベレンが立つ日も遠くはなさそうだ。


 
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