No.266690

【生徒会役員共】 優しい人

Hiromasaさん

綺麗な役員共なタカトシ×スズです。

2011-08-09 15:07:35 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:4733   閲覧ユーザー数:4700

 
 

 

わたしの好きな人は、とても優しい。

その優しさが時折、わたしの胸の奥をキュッと軋ませる…。

 

 

 

昼休み、昼食を終えて教室の窓枠に寄りかかりながら、中庭の方を何の気なしに眺めていたら、ダンボール箱を重そうに運ぶ会長の姿が目に入った。

すると、一人の男子生徒が彼女に駆け寄っていく。

 

彼だ。

 

「会長、お持ちましょうか?」

「おお津田!大丈夫だ。このくらい…うわっ!」

 

会長がつまづいて転びそうになる。

しかし、彼がうまく彼女の体を支えて、難を逃れたようだ。

 

「おっと。無理しないで下さい。はい、貸して下さい」

「すまんな、頼む」

 

受け取ったその箱を「よっ」と持ち上げ、そのまま会長と共に、彼は並んで生徒会室の方へ歩いていく。

チラリと見えた会長の表情は、とても柔らかった。

その微笑みを見ていたら、心臓のあたりがなんだかチクチクした。

そのかすかな痛みから逃れるように、その二人の後ろ姿から目を外した。

思わず、口からハァ…と溜め息が漏れる。

しかし、胸の奥をぐるぐる動き回っているモヤモヤしたものは、出ていってはくれなかった。

 

 

 

 

放課後、先輩二人はまだ来ておらず、生徒会室には彼とあたしの二人だけ。

 

「えっと…萩村?」

「何?」

「なんでそんな不機嫌そうな顔してるんだよ?」

「生まれつきこういう顔よ。そんなことより、会長たちが来る前に、この申請書の山、少しでも多く片付けるわよ」

 

外見通りの子どもっぽい態度。

わたしのこういうところが、可愛くない。

分かってるけど。

分かってるけど…。

 

少し困惑した表情を浮かべる彼をよそに、わたしは、書棚の上の方に並べられている資料を、運んだ椅子に上って取ろうとした。

 

 

それがまずかった。

 

いつもは欠かさない準備運動をやり忘れて、背伸びをして取ろうとしてしまったのだ。

結果、資料を手にした次の瞬間、足がつったわたしは、椅子の上でバランスを崩した。

 

「どわー!!」

 

と、まったく色気のない声をあげながら、懸命に踏ん張って体勢を立て直そうとする。

が、健闘虚しく重力に引っ張られ、両手が塞がったまま床に向かって体がどんどん傾いていく。

 

『この高さからなら間違いなくケガするだろうなぁ』

 

一瞬でそう判断したわたしは、襲い来る激痛を耐えるべく、目をギュッとつむった。

 

 

 

 

「?」

 

しかし、いくら待っていても、少しも痛みを感じることは無かった。

代わりに感じるのは、上半身を優しく包み込む暖かく、少しゴツゴツとした感触だけ。

 

 

「ふぅ~。危なかった~。萩村、大丈夫か?怪我してないか?」

 

 

彼の声が、いつもと違って、右耳のすぐそばで聞こえる。

驚きパッと目を開けると、そこには、少し長めの襟足とブレザーの山吹色があった。

彼は今、倒れ落ちそうなわたしを、抱きしめるようにして支えてくれているのだ。

その状況を理解した途端、わたしの頬が一瞬で熱くなる。

 

『近い!近い!!近い!!!』

 

彼の吐息がわたしの髪を揺らし、彼の匂いをいつもよりも濃く感じる。

普段味わうことのない刺激に、胸がきゅうっと切なく鳴いた。

 

これ以上こんなに近くで彼に触れていたら、心臓が壊れてしまう。

そう感じた瞬間、思わず苛立ったような大声を出してしまった。

 

「だ、大丈夫に決まってんでしょっ!は、早く離しなさいよ!」

「そっか、よかった」

 

ほっとした彼は、わたしの背中に回していた腕の力を緩め、両手でわたしの両肩をそっと押して椅子の上に立たせてくれた。

心地良い温もりが離れていくのが、とても名残惜しい。

素直じゃないわたし…本当に可愛くない…。

わたしのばか…。

 

「ありがとう…」

 

椅子から降りると、俯きながら、ぼそりと感謝の意を伝える。

耳が焼けたように熱い。

心臓は、まだバクバクしている。

 

「いいよ別に」

 

頬を掻きながら照れくさそうに、はにかみ応える彼。

カワイイと感じてしまう。

…かなりキてるな…わたし…。

 

「さあ、さっさと作業の続きやるわよ」

 

プイっと彼から顔を背け、自分の席に戻って、資料を見つつ作業を再開する。まだ動悸が収まっていなかったけど。

 

 

 

しばらくして会長と七条先輩が掃除を終え生徒会室に来るまで、わたしと彼は一言もしゃべらず、黙々と手を動かしていた。

彼も、わたしと同じように、わたしを意識していたのだろうか。

自惚れかもしれない。

でも、作業しながら横目でチラリと見た、長めの彼の髪から覗く耳は、ほんのり赤かった気がする。

 

 

 

わたしの好きな人は、とても優しい。

その優しさが時折、わたしの胸の奥をキュッと軋ませる…。

 

 

 

 
 

 
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