No.266172

【東方】貴女に花を、私に雨を【死にネタ注意】

アド子さん

Pixivで投稿していた作品の移植です。 なお、作中で人物が死去していますので、苦手な方は注意されるか避ける事をお勧めします

2011-08-09 02:53:56 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:578   閲覧ユーザー数:577

 

作品説明にもありますが、作中にて死去記述があります。

苦手な方は閲覧を避ける事をお勧めいたします。

 

 

もう長い事、経ってしまいましたね。

あれからどれだけ時間が経ったんでしょうか。

私達は全く外見も変わらないし、毎日もあの頃と全く変わりません。

強いて言うのであれば、私が兼任になった位です。

 

・・・ここは静かですね。

お屋敷の中なのに、違う場所みたい。

ここだけ花畑ですよ。風見幽花もこの前来てましたよ。

本当に、花があるところに彼女は来るんですね。驚きました。

 

そうそう、お嬢様で思い出した。

この花畑って、お嬢様がご自身でこっそり手入れされてるんです。

あのお嬢様が、ですよ。

偶然見かけたんですけれど、物凄い形相で口止めされちゃって。

でも、貴女にだけは口外しても大丈夫ですよね。

 

私の所だけ、雨まで降ってきた。

やだなぁ、これじゃ私がまるで変な人みたいです。

返事してくださいよ。

ねぇ、返事してくださいってば、

 

「咲夜さん・・・!」

 

 

妖怪の命を仮に流れの絶えない大河とするならば、人の命は野の草に宿る露。

それは当たり前の事だったのに、私は彼女を愛していた。

この紅魔館にただ一人居る人間であり、メイドの長である十六夜咲夜を。

お嬢様や妹様にパチュリー様の世話や屋敷の手入れ、必要な物の買出しや全ての統括。

本当に忙しいはずなのに、彼女は完璧だった。

パチュリー様曰く、『時間を操作できる咲夜だからこそできた芸当よね』らしい。

 

されど、時間を操作できる彼女とはいえ、運命は変えられない。

この世のどこかで人として生まれ、お嬢様により名前を与えられて十六夜咲夜として再び生まれ、

そして人の運命に従い、あっという間に居なくなってしまった。

 

彼女の亡骸はお嬢様の命により屋敷の片隅に作られた花畑へ葬られた。

お嬢様が作らせたらしい。

 

「咲夜は私の従者。最期の最後まで、私の傍にいようとしてくれた。

 だから、この花畑は私から咲夜への褒美よ」

 

彼女が亡くなって、ほんの少し寂しそうにお嬢様はそうおっしゃっていた。

もちろんお嬢様だけでなく、屋敷全体に変貌は現れた。

それは人によって大きさはまちまちであったが、確実にあった。

お嬢様に至っては、閻魔に彼女を転生させるのだと言い張って屋敷の全員で止める羽目になり、

それを感じ取った博霊の巫女が新たな異変なのかと来た位だった。

 

それからしばらくして、私が門番と彼女の業務を兼任する事となった。

実質的には彼女の跡継ぎがほとんどだった。

彼女の能力は強大で、最初は中々に骨が折れていた。

それでも、長い時間をかけて彼女に負けない位の効率を手に入れる事ができた。

 

だが、どれだけ時間が経っても、月日が廻っても、季節が変わっても、

私の心には大きな穴がぽっかりと空いたままだった。

時々こうして彼女の元に来ているが、そのたびにもう彼女はいないのだと思い知らされる。

あの時、お嬢様を止めずに閻魔様の所へ向かわせていればよかったのだろうかと思うときもある。

しかしながら、それは彼女は望まないだろう。

お嬢様とて、そんな事をすれば無事ではないだろうし、最悪身に何か起こるかもしれない。

結局の所、お嬢様は博霊の巫女の説得に折れる形でそれを諦めたが。

 

ぼうっと彼女の前に立っている内に空は掻き曇り、雨がすでにぬれていた私の頬を濡らした。

妖精メイドが心配して、私の所へやってきていた。

渡された傘を差して、私は屋内へと戻ることにした。

 

河の流れが膨大ならば、草の葉に宿る雫を受け止め、自らの流れとして取り込もう。

妖怪の命の一部として、彼女を記憶として取り込もう。

たとえお嬢様や妹様たちが彼女の事を忘れても、私は忘れない。

今だって、優しく呼んでくれているではないか。

心の穴は埋まらないけれど、記憶で彼女を残していこう。

 

彼女に花を、私に雨を。

 

 
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