No.264657

東方外鬼譚 《愚神礼賛》が幻想入り 第四章

劣悪体質さん

『零崎三天王』零崎軋識と『白狼天狗』犬走椛はどっちが強いんだろう?

2011-08-08 12:13:01 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:668   閲覧ユーザー数:660

♯殺人鬼を呑んだ闇

 

 

 少女の小さな体は、風に煽られた木葉のように宙を舞うと

さくりと落ち葉を踏み、事もなげに着地した。

「手応えがない…。完全に虚を付いた筈なんだけどな」

拳が触れる前に後方に跳んで避けたってところか、たいした身体能力だ。

殺意をあらわにしながら、軋識は少女を見据える。

「完全ですか、それは違いますよ。確かに妖獣でなければ気が付きませんけど、

 体の芯から生臭く血の匂いを撒き散らしている人間に、誰も隙なんてつくりません」

少女も睨み返すように視線を返すと、スラリと分厚い太刀を抜いた。

「そんなに臭うか?」言いながら両手をかざした。

なるほど、確かに少し鉄っぽい匂いがする。

という事は最初からこのガキ、俺と同じようなこと考えてたって事か。

「随分と鼻が利くんだな。犬耳だしついでに鼻も犬並みか?」

「狼です!!」

言うが早いか、少女は盾を地面に叩きつけ周りの落ち葉を巻き上げた。

「!?」山慣れしてるのか機転が効くのか…、

どちらにしても思っ以上に手強いのは確実っぽいな。

軋識は舞い上がる落ち葉の中に意識を集中する。

――あぁ、来る。感じる……。

鋭く研ぎ澄まされた『殺意』を感じるぞ…。

はらはらと舞い落ち始めた落ち葉をはね除けながら、

少女は刀を構えた姿であらわした。

やっぱり突きか――。

「もらった!!」十分に引いた腕が刀と共に突き出された。

「ははぁっ! 殺意が一点に集注しちまってんぞ!!」

軋識は勝どきと言わんばかりに笑うと、易々と突きをかわし大きく拳を振り上げた。

――だが何を思ったのか、そのまま後ろに飛び退いた。

そして、さらに大きく後退する。

見れば突き放たれたはずの刀が横薙に払われている。

突進と共に放たれた重厚な刀での突き、そこから間髪いれずに行われた薙ぎ払い。

そんな芸当、あるいは軋識にだって難しい。

「はは…、マジかよ」

日頃、鉛製の釘バットを振り回している軋識でさえ、

目の前の光景に乾いた笑いしか出なかった。

首から微かに血が滲むのを感じる…、完全には避けきれなかったようだ。

「今のをよく避けましたね、ちょっと驚きましたよ」

「だろ?これに免じて逃がしてくれないか」

「………。最初の攻撃、普通人間じゃ避けられませんよ?」

軋識はポリポリと頭をかくと何を思ったのか、スタスタと刀の間合いまで歩み寄った。

「――企業秘密だ」少女はぎろりと軋識を睨むと、刀を構えた。

「待て、…名前はなんて言う? それとも企業秘密か?」

「私の名前は、――犬走椛だ!!」

椛は名乗りと共に無数の斬撃を軋識に浴びせる。

軋識も一歩も引く様子はなく、巧みに攻撃をかわす。

だがこれは、軋識の一方的な防戦でしかない、避け損なえば確実に死に直結する一撃となる。

犬走か…。しかし、そんな中で軋識の頭ではある疑問が浮かんでいた。

犬走、犬走…。てっきり匂宮の分家か名前くらいは知っている

フリーのプレイヤーと思ったんだけど、まるっきり初めて聞いた名前だとはな。

確かに俺らの業界じゃ珍しい事じゃないけど――、

このレベルの強さで無名ってのはいろいろ想像させられて背筋が凍るぜ。

「おっと…」脇腹に鈍い痛みがはしった。かわし損なったようだが幸い傷は浅い。

「考えてもしかねぇって、な!!」

軋識は斬撃をするりとかわすと覆いかぶさるように椛に接近し、

渾身の力を込めると、腹部めがけて膝蹴りを打ち込んだ。

「…かはっ!?」

単純な攻防に目が慣れていたせいか、回避に失敗した椛の腹に膝がめり込む。

椛はぐるんと目をむくと、後ろの何も無い空間によりかかった。

死んだか? ――いや、油断は禁物っちゃな。

念のためと拳を握りこんだ軋識は、しかしまたも驚愕させられた。

あとは倒れる一方と思われた躰は不意に意識を取り戻したのか足で

バランスをとり、上体を起こすとそのまま刀を構えたのだ。

「……今のは、…久しぶりに危なかった、ですね」

椛は軽くお腹をさする。

そんなことはお構いなしとばかりに、追撃の拳をはなつ。

しかし、時すでに遅し。

意識もはっきりしてきたのか拳は難なく盾に防がれ、反撃の斬撃で追い返された。

「――?」

攻撃の速度が遅くなってないか…、いや間違いない。

「…このまま、押しきれるか……」

軋識が避け、隙を見ては打拳をはなつ。

椛はそれを盾で防ぎ、また斬りかかる。それは、もはや軋識のみの防戦ではなくなった。

力なのか、あるいは技なのか、絶え間なく繰り出される斬撃は先ほどと変わらいが

それでもスピードさえ落ちれば、それだけ反撃の機会はふえる。

軋識の攻撃の頻度もあがり、それにつれて少しずつだが攻撃があたりだした。

もっとも、それは軋識の体が余計に攻撃の危険にさらされるという事でもある。

傍から見ればきっと、二人の戦いはさぞ見ごたえがあったに違いない。

力が拮抗しているように見えたかもしれない。

なのに…、なんなんだこの不安感は―――。

最初の一撃こそ期待通りのダメージを与えられたが、

それ以降は攻撃を避けながらの無理な体勢での攻撃ばかり。

力がまともに入っていない拳では、大きな効果は見込みようが無い。

それにしても、このガキいったいどうなってるんだ。

姿勢を低くし回避した軋識は、かなり強めに椛の頬を殴りつけた。

ぐらりと大きく仰け反ったものの、すぐさま立て直しカウンターで軋識の腕を深く斬りつけた。

「くそっ、これで何度目だよ――」

五度目だ、言っている軋識だってそれくらいは覚えている。

しかしこの状況、愚痴のひとつも言いたくなる。

如何に暴力の世界に生きる少年少女でも、大の大人にこれほど殴られれば普通死ぬ。

それどころか軋識なら、その大の大人さえ一撃で仕留める腕力を持っている。

つまり初撃の膝蹴り、本来ならあの一撃で内蔵が破裂しているは筈だ。

あの一撃目で死んでいる筈なのだ。

それなのに目の前の少女は、動きこそ鈍くなっているものの

まだまだ戦う力が十分に残されている。

「どうしました? 息があがってきてますよ」

息があがってきてるって? 当然だ。

「見てのとおり、俺は会社勤めのサラリーマンなんでな。

 最近はデスクワークばっかりでどうにも体がなまっちまってね」

椛の動きが速いせいか、剣速も異様に速い。

だがそれは、いつもより身軽なおかげで

なんとか致命傷になるような傷は負っていない。

しかし致命傷以外の傷はと言うと、既に十数カ所もの刀傷をうけている。

とうぜん今に至るまで止血の暇などない。

スーツを脱げばきっと、シャツは血染めで真っ赤に色付いている筈だ。

「何が目的だったかは知りませんけど、あなたも無謀な戦いを挑みましたね」

「無謀かどうかは、――俺に勝ってから言いやがれ」

焦燥感。

この時、軋識の心を強く支配した感情を表すなら、

これほど適した言葉はないだろう。

無理な踏み込み、それに次ぐ無茶な攻撃……。

頭の中ではこれが、『――無謀な賭け』であることくらい分かっていた。

それでも身体が、心が既に前に出てしまっていた。

「……所詮は人間ですか」

椛は軋識の攻撃を盾で受けず、するり避けると素早く身体を回転させた。

「やばっ――」

「お返しです!!」

遠心力によって勢いのついた盾は、猛烈な勢いで軋識の鳩尾近くに激突した。

「う……、――ぅはぁ…」

肺の空気が抜ける…、肋骨は? 肺に刺さってない事を祈るしかない。

まるで車にはねられたような衝撃だ…、そんな経験ないんだけど。

軋識はがくりと、その場で両膝をつき動かなくなった。

刀を下ろすと、椛は素早く軋識に顔を近づけた。

「……まだ息がある。この男、本当に人間なの…?」

椛は何かを決意したのか、キュッと口を結び高々と刀を掲げた。

夏の日差しを受け、軋識の血が剣先で綺麗に輝いた。

「これ以上、人間の血でこの神聖な山を穢したくは無かったんですけどね――」

もはや狙いはどこでもいい、この刃を深くめり込ませればそれで終わりだ。

終わりの筈だ――。

「――暴君……」

「――!?」

刹那、軋識の腕が一直線に椛の顔に向けて伸ばされた。

「くっ…」

伸ばされたのは二本の指、それだけ見れば何が狙いかすぐに理解できた。

盾での防御は? 間に合わない。

太刀で切り落とすのは? 今から振り下ろしても駄目だ。

――避けるしかない。

椛の後方に身体を引いた、しかし引き寄せられる様に軋識の腕がついてくる。

見れば既に軋識の目には光が宿り、意識を完全に取り戻した事を告げていた。

これでは駄目だと悟ったのか、椛は高々と跳ね上がると

軋識から離れた草背の高い草原に着地した。

「…あ」

だがその直後、何かに足を取られたのか大きく身体をゆらした。

「くっ……」

軋識は痛む体に鞭を打ち、無理やりに立ち上がった。

ここで決めなきゃ本当にもう後がないぞ、俺――。

そう自分に言い聞かせると、軋識はいまだふらつく椛に向かって駆け出した。

しかし疾走するなかでさえ軋識は、ある不安要素に悩んでいた。

普通の人間ならとうの昔に死んでいるようなレベルの暴力を、

俺は既に行使しているはずだ…。

最初こそ服の下に何か、衝撃を緩和するような何かを着込んでいるのかと思ったが

顔を殴った時の反応や感触で、すぐにそうじゃない事には気が付いた。

じゃあどうする?

「とか言って。まぁ、絞め殺すのが無難っちゃな。って……んん!?」

何を血迷ったのか椛が突然、軋識に向けて刀を投擲したのだ。

こんな状況で自身の武器を投げるなど武装放棄か、

或いは最悪、敵に塩を送るような結果を招く事になりかねない。

もっともこの場合においては「愚神礼賛以外の武器で戦いたくない」と言う

軋識の心情を加味すれば、それなりに有効な攻撃だったのかもしれない。

放たれた分厚い刀は、回転しながら一直線に軋識の胴へと向かう。

刀のサイズからして直撃すれば、上半身と下半身がサヨナラしかねない威力はあるだろう。

あの体勢から投げてこのコントロール…、それにさっきの跳躍もそうだけど

化け物じみてるって言うか、本当に信じられない身体能力だぜ。

「おっと!」

とは言ってもこんな単純な攻撃、素人でもない限り当たったりしないけどな。

軋識はハードルでも飛び越えるかのように、飛来する刀を飛び越えた。

しかし問題が起きたのは地面に足がついた瞬間だった。

「ぅぐ――」着地の衝撃が骨折した箇所にひびいたのだ。

軋識はバランスを取るようにヨロヨロと

前に進むが、そこにいるのもまたバランス崩した椛である。

先の死闘が原因とはいえ、今の二人の姿はあまりに情けないものだった。

「え、ちょっ…! 今、下があの――」

焦る様子の椛は、引きつったような顔で仕切りに足元を見る。

今にも激突しそうになる二人、しかしギリギリの所で軋識が腕を突き出した。

なんとかそれは椛の肩にあたり軋識は転倒をまぬがれ

椛は反動で藪の中に転がっていった。

しかし軋識の災難はまだ終わりでは無く、ここから始まり…。

より正しく表現するのなら、加速し始めていた――。

ついでに物理的にも加速していた。

「――あ」

それが自分に降りかかった災難に対する、軋識ができた唯一のリアクションだった。

もっとも、それは地面にあったのだから「降りかかった」よりは、

「飲み込まれた」のほうが正解なのかもしれない。

それ…、それは穴だった。

地面に空いた直径60センチ程の大きな穴。

これだけの大きさがあれば、大抵の体格の人間は通れる。

だがこれの大きさなど対した問題では無い。

今、軋識が恐怖しているのは――、

『零崎三天王』の一人である『愚神礼賛』が恐怖しているのは、

落ちれば死ぬと容易に想像できてしまう、――その深さだった。

文字通り、まるで底が見えない深さである。

そもそもこんな穴、誰が何のためにどうやって掘ったのか、

――何より何処に続いているのか…、本当に底など或のだろうか?

いや、仮にあったとしても…、俺は死ぬ。それだけは確かだ。

 

天上高く昇りゆく外界の光を見送りながら、軋識は地底の闇に呑まれていった――。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

自分の願いとしては「軋識は武器さえあれば椛と互角以上の戦いが出来る」

くらいの感覚で書いていきたいと思っています。

勇儀>>超えられない壁>>美鈴=軋識(武器あり)>椛>>>軋識(武器なし) ←希望

まあ、それぞれの幻想郷があるんで、ゆるしてつかぁーさい!!

 

あと今回、登場した人物の名前のタグを付けておきましたので、

分らない方はそこからイラストの方をどうぞ。

 

 


 
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