No.263754

しゅんかしゅうとう!

コミックマーケット80で配布予定の新刊の一部です。今回のは直前で切ってますが内容は成人向なので本編は閲覧注意。

三日目 東ツ 04-a「Noi’s」様にて委託させていただきます。

2011-08-07 17:55:42 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:425   閲覧ユーザー数:415

 

 夢心地の中で、俺は海の臭い(・・)を感じた。

 それはとても懐かしくて、生臭くて……空気を吸い込む度に、口から二酸化炭素と共に胃の中のものも吐瀉物として出ていきそうな……って。

 

 

「何だこの冒頭!?」

 爽やかそうでまったく爽やかではない朝に、俺は思わず飛び起きる。

――ふにょん。

「………」

 すると、目の前は真っ暗だった。真っ暗だが、何だかとても気持ちいい。

 というか、この感触とさっきまでの生臭さとは似ても似付かないこの甘い匂いには覚えがあった。

「……あの、お兄さま?」

 案の定、上の方から聞こえるどこか戸惑ったような、恥ずかしそうな女の子の声。

 ……典型的すぎる展開じゃね? 起きたら女の子の胸に顔をダイビングなんて。

 そう思いつつも、声からこの豊満な乳の持ち主を理解すると、取り敢えずしばらくその感触を楽しむ事にした。この子は俺が……というか、恐らく俺に限りこんな事をしても照れはするが怒る事は決してないだろうし、何より彼女はGという驚異の胸囲の持ち主である。ギャグではなく。

 楽しまなければ逆に失礼だろう、男として。

「お兄さま、あの、お兄さまが望むのなら私は喜んでこの身を差し出しますが……そろそろ起きないと。桜が朝食を用意して待ってますよ」

 それはまずい。我が妹ながら、桜は怒らせると怖いからな。我が家の食糧事情をすべて牛耳っている人物として。コーヒーの代わりに原液の黒酢を笑顔で出すくらい平気でしそうだ。

「……取り敢えず、聞いておきたい事があるんだけど」

「はい? 何ですか?」

「……一体俺を起こすのに、何をしたの?」

 未だに生臭さの残る口の中の感触に、そう尋ねずにはいられない俺だった。

「うちの系列食品会社特製『海の幸ジュース』です。海洋深層水をベースにワカメ、クロメといった海草類、ウニ、ホタテ、アワビ等の貝類、エビ、カニ等の甲殻類、他にもウミウシ、ナマコ、イソギンチャクといった海の幸を使った……」

「一部の超コアな人にしか分からないネタを使うんじゃねえよ……」

 しかもやっぱり「幸」とは程遠いモノが含まれてるし。

「……まあ、目は覚めたけど」

 代わりにうがいをしたい。出来れば薬用の口臭除去剤を使って、早急に。

「さて、と……」

 超高級低反発枕をある程度堪能した後、そろそろ顔を離そうとしたら、彼女……翠香ちゃんはそっと耳元で、

「あの……お兄さまが望むのなら、今度の準備の時にでも……好きなだけどうぞ」

 起きないわけがなかった。二つの意味で。

「ではお兄さま、私は先に一階で待ってますから」

 何かを断ち切るように少し力を込めて翠香ちゃんは俺を引き離すと、足早に部屋を出ていくのであった。ちらりと見えたその顔を、真っ赤に染めつつ。

 ……しかし、何ていうか。

 俺が思うのもなんだが、ホント、何でこんな可愛い子が俺の彼女なんでしょうね。

 

 

 さて、ここで俺、日乃本 志貴の家族構成とか家庭環境とかをちょっと語っておきたいと思う。

 といっても、俺個人に関しては語る事は特にない。ごく一般の中流家庭の長男、普通の学園に通う普通の学生である。

 恐らく多少ではあるが普通と違うのは家族構成だろう。両親と妹の桜、その四人構成。ただし親は再婚同士で俺は父親、桜は母親の連れ子で家族になって五年ほどになる。

 そして冒頭の通り、彼女持ち。俗に言うリア充であ……爆発しろとか言うな。

 相手は藤沢 翠香という名前で俺より二つほど年下。桜の親友であり、それが縁で知り合って、まあ色々あって現在の状況にいたる。

 で、この翠香ちゃん……実は、とんでもないお嬢様である。どれくらいって、結婚(正確には再婚)当時忙しくて新婚旅行に行ってないうちの両親に世界一周旅行をプレゼントするくらい(実際プレゼントしたのは彼女の両親らしいが。どうも俺は桜共々、翠香ちゃんの両親にいたく気に入られているらしい)。

 で、両親がその五年越しの新婚旅行に行ったのが昨日。俺と桜が夏休みに入ると同時の行動だった。まあ、元々共働きでほとんど家にはおらず、家事は一切桜が引き受けていたので問題ないといえば大丈夫だ、問題ない。休暇の件も働いている場所が翠香ちゃんの実家で、プレゼントしたのが翠香ちゃんの両親……やっぱり大丈夫だ、問題な(ry

 ……しかしまあ、旨い話には裏があるわけで。

 両親がいない間……すなわち、夏休みいっぱい翠香ちゃんがうちで暮らす事になったのである。理由はもちろん、翠香ちゃん両親’sお気に入りの俺と娘の仲を進展させる為。何とも娘思いの両親である。それでいいのか? こんな中流家庭の長男とくっ付けて。

 本来は桜にもちょっとした旅行をプレゼントして俺と翠香ちゃんをふたりっきりにしようとしてたらしいが、俺が全力で阻止した。

 何というか、翠香ちゃんは可愛いしスタイル良いし性格もお淑やかで文句はないのだが……お嬢様の宿命というか何というか……はっきり言おう、家事がまだあまり得意ではないのだ。

 ・洗濯 洗濯機以上乾燥機以下(洗濯機は回せるが干すのは出来ない。この前素敵な笑顔でタオルを丸まったまま物干し竿にま結び(・・・)にしていた)

 ・炊事 カップラーメン以上袋ラーメン以下(袋を開けて中にお湯を注ごうとしていた時にはどうしようかと思った)

 これが翠香ちゃんの家事の腕前である。まあ、最近は桜に師事してから多少は改善されたらしいが、ふたりっきりというのは不安が残るのである。桜も同じ事を感じたらしく苦笑いを浮かべつつも残る事を承知してくれた。

 ま、そんなこんなで俺の夏休みが始まったわけである……。

 

 

「もう、お兄ちゃんもすーちゃんも降りてくるの早いよー」

 寝間着から普段着に着替え、階段を下りて洗面所で時間を掛けてうがいをした後にリビングに向かった俺に、桜は朝食の準備をしつつ意味不明の文句を垂れてきた。

「……何故早く降りてきて文句を言われなきゃいけないんだ?」

 彼女がいる手前、あまり変な格好をするわけにはいかないので整髪やら色々身だしなみを整えていたのだ。ゆうに二十分は掛かっている。プラス生臭さが消えるまでの時間を掛けたうがいもしているのだ。

 というか、翠香ちゃんが俺を起こしに来た時点で準備を始めていたはずなのに、まだテーブルに朝食の「ち」の字も見当たらないとはこれいかに。

 ちなみに用意されている俺のコーヒーは翠香ちゃんが煎れたものだと思われるので「ち」の字に含まれない。

「何だ、今日の朝食はそんなに凝っているのか?」

 自分の席……隣にはちゃっかり翠香ちゃんが腰掛けていた……に座り、コーヒーに手を伸ばしながら尋ねる俺。

「ううん、普通のベーコンエッグとトースト」

 いつも毎食最低五品は並べる桜らしくない、実にシンプルな朝食のラインナップだった。というか、味は別にして俺でも作れてしかも十分と掛からないメニューな気が……。

「むー、お兄ちゃんとすーちゃんが(自主規制)からのえっちな事してからくると思ったからゆっくりしてたのに……」

 ……ヲイ。余計な気を使うんじゃない妹よ。というか年頃の女の子がそんな単語を堂々と言うんじゃありません。

「で、でも桜。男の人は朝に(自主規制)とかするのは身体に良くないって聞いたけど?」

 ……ってヲーイ翠香さんや? 君までそんな単語言わないで下さい。

「えー? 我慢するよりすっきりした方が絶対身体にいいって」

「……そうなの、かな? じゃあ次は我慢せずにしちゃっていいのかな?」

「どんどんやっちゃって良いと思うよー」

 ……こんなもん? 最近の女学生は朝の挨拶代わりに下な話を兄や恋人の前でもするものなのか?

「……桜ー、寝間着は洗濯カゴの中に入れておけばいいか?」

 朝から何かどっと疲れた気がするが、取り敢えずこれ以上この話を続けるのはあれなので話を変える事にする。

「お兄ちゃんの部屋にあるんでしょ? だったら後でシーツと一緒に取りに行くから置いといていいよ」

「……深い意味はないんだよな?」

「? お兄ちゃん昨日あんなに暑かったのに寝汗掻いてないの?」

 ……ダメだ、さっきのあれでどういても深読みしてしまう。

「ん……ふぁ~……」

「……寝不足か?」

 五分も掛からずに人数分のベーコンエッグを用意し、テーブルに並べ終え自分の席に着いた桜は、そこで可愛い欠伸をする。

「ん、最近ちょっと、ね……」

 うーん、いつも早寝早起きの桜が珍しい。悪い予兆じゃないといいんだけど。

「……桜、この前あげた睡眠薬、効かなかった?」

「うん? 翠香ちゃん、そんなの桜にあげてたの?」

 というか製薬にまで手を広げていたのか、翠香ちゃんの実家は。

「ええ、前にちょっと相談を受けてたので……」

 とそう言って小声で、

(大丈夫です、前に私の主治医にちょっと見てもらいましたが、別に精神疾患とか、そういうのじゃないらしいですから)

 と小さく笑みを浮かべて付け足した。流石お互い親友を自負する仲、俺より先に気が付いてちゃんと手を打ってくれてたらしい。ありがたいが、少々嫉妬してしまいそうだ。

「あー、あの睡眠薬? 何て言うか、ちょっと飲み辛くて」

「……? カプセルが苦手なら中の液状剤を水に溶かして飲んでも効果あるよ?」

「いや、形状じゃなくて……名前がちょっと」

「……名前?」

 意味が分からずそう反芻すると、桜は苦笑いを浮かべてポケットから小さな瓶を取り出し俺に手渡した。

 

 「コロリ昏倒 ピンチ味」

 

「………」

 いやいや、昏倒したらまずいだろ!? ピンチ味ってどんな味だよ!? てかあの国歌と呼ばれる主題歌が流れる空気ゲームに出てくるドロリ何とか飲料のパクリだよなこれ!?

「た、確かにこれは飲みにくいな……」

 と、盛大にツッコミたかったが隣に手渡した張本人がいる手前、そう答えるのが精一杯だった。

「ところでお兄ちゃん、今日はすーちゃんと家でイチャイチャするの? どこか出かけてイチャイチャするの?」

「……イチャイチャするのは確定事項なんだな……」

 まあ、恐らく間違っちゃいないが。

「てか、何でそんな事聞くんだ?」

「家でイチャイチャコースなら昼食準備して出掛ける。外でイチャイチャコースなら家事をするから」

 ……気が利いた本日の予定な事で。

「……外に出るよ。翠香ちゃんが夏休みいっぱいうちで暮らすって言うから、荷物運びを手伝う予定」

 数日ならともかく、一ヶ月単位となると必要になるものはそれなりに多いだろうし……そう考え、当初から初日はその予定にしておいた。

「じゃあお昼は用意しておいた方がいい?」

「ううん、大丈夫。お母さんが用意してくれてるって言うから」

「……色々と精の付くもの入れられてそうだね」

「あ、あはは……」

 笑う翠香ちゃんだが、俺はまったく笑えない。翠香ちゃんの両親、共に愛娘が俺とくっつくのを望んでくれているが、特に母親の紅葉さんはかなーーーーーり若くして翠香ちゃんを生んだらしく、貞操観念にかなり自由である。会う度に「早く孫を抱かせてね」と言われるのは観念していただけないだろうか。

「じゃあまあ、予定通りすーちゃんが泊まる予定の部屋の大掃除でもしておくね。ごゆっくり……する事になるよね、絶対」

 ひ、否定したいけど全く出来ない……。

 俺は無言で朝食をほお張る事しか出来なかったのであった。

 

 
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