「……死ぬ瞬間にお花畑が見えるって、あれ、本当だったよ……桂花」
「ちょっとしっかりしなさいって!……ちょっとあんた!力加減てものぐらい出来ないの!?この筋肉お化け!」
青息吐息で顔真っ青な一刀を介抱しつつ、そのビキニパンツを履いた自称“美人踊り子”こと、貂蝉という名のそいつに、久しぶりにするその怒りの形相を向けて怒鳴る私。
「ああん、ごめんなさあ~い。久しぶりにご主人様の顔を見たら、つい我慢できなくって……。そんな汚物を見るような顔はや・め・て?うっふん」
『おえ~……』
……そいつのしたウィンクに、思わず吐きそうになった私たちでした。
「あん、皆いけずなんだから」
「……貂蝉。話が進まんから、ギャグはそれぐらいにしておいてくれるか?」
「あら。私はいたって真面目よん?すけちゃんも相変わらずだんでぃね。……うふふ」
「……お前はすけちゃんと呼ぶなと、言っとるだろうが」
「え~?……じゃあ、ぐっちゃんって呼ぶわ」
「……好きにせい」
「はあ~い。うふふ」
……えっと。なんだかよく分からないけど、お爺様はこの化け物とお知り合いなのかしら?それに、なんで一刀のことをご主人様だなんて……。
「あら?桂花ちゃんは私がご主人様をどうしてご主人様と呼ぶのか、知りたいのかしらん?」
「な、何人の心を読んでんのよあんた!それに、私の真名を気安く呼ばないでよ!」
「……それじゃあ駄目よ、桂花ちゃん。この世界に来た以上、これからはいろんな人に、真名で呼ばれる事に慣れてもらわなきゃ」
「……どういう意味よ?」
真名っていうのは、そんな誰も彼もが呼んでいいほど気安いものじゃあない。それなのに、この筋肉は不特定多数の人間に呼ばれることを、これからは覚悟しなければいけないようなことを言っている。
「……貂蝉さんの言うとおりよ、桂花さん」
「燐華さん」
「ほら、貴女ももうそうやって、私の“真名”を、呼んでいるわよ?」
「え」
……だって、この名前は燐華さんが最初の自己紹介で……あ。
「……そう、私も貴女と同じく、元々は真名を持つ“向こう側”の人間よ。私の本来の姓名は項籍。だけど、今はその姓名を名乗らず、真名をその名として名乗っている……聡明な貴女なら、どういうことか察しがつくのではなくて?」
「……もしかして、この正史の世界では、あちらでの姓名を名乗る事が出来ない……?」
「そういうことよん。察しがよくって助かるわん。さすがは王佐の才、荀文若」
「……理屈は、教えてもらえるのかしら?」
もし、今私が推測したそのとおりなら、今後私は、本来の姓名を捨てないといけないはず。なら、その明確な理由を教えてもらわないと、やはり踏ん切りはつけにくい。……まあ、一刀の傍に居られるのなら、大概の事は我慢するけど、でも、やはり親から貰ったこの名を捨てるとなれば、自分なりに納得できる理由付けは欲しい。
「まあ、言葉としての理屈は単純よ。……いかに時代が違うとはいえ、いかに生まれた世界が違うとはいえ、いかに片方がもう生きていないとはいえ。……その魂の本質を同じくする者が、同じこの世界に長く存在し続けるのは、世界の理(ことわり)上、どうしても無理が生じるということよ」
「……分かったような分からないような」
「例えば、普通に同姓同名の人間が、おんなじ場所に居たらややこしいでしょう?もちろん本質としてはそんな単純なものではないんだけど、まあ、分かりやすく言えばそういうことよ。ただし、それで誤認識を起こすのがこの場合は人間ではなく、世界そのものだってことね」
「……つまり、この正史の世界そのものに、今ここに居る彼女が、過去の荀文若とは別の存在であると、そう認識させるために、桂花は荀文若の名を捨てなければいけない……そんなところか?」
「かいつまんで言えばそういうことよん。まあ、ちょっと強引だけど、ここにはもう、一人、成功例が居る事だし…んね♪」
と、一刀の言葉に答えた後、貂蝉はその視線を燐華さんへと移した。そっか。彼女もまた過去に同じ人間が存在する人物だっけ。
「……もう一つだけ聞きたいんだけど。なんで真名じゃないといけないわけ?その理屈で言えば、別にただの偽名でもいいんじゃあ」
「……言霊(ことだま)ってしってるかしら?言葉にはそれそのものに力が宿るっていう考えなんだけど。この場合、ただの偽名よりも、貴女の本質を示す真名の方が、言葉としてはその力は強いわ。だからこそ、世界に貴女を貴女として認識もさせやすい、という事よ」
……理屈はとりあえず分かったけど、でもなんだかそれって、すっごいご都合主義のような気がするんだけど?
「それに、じゃ。貂蝉の今言った理屈はもちろんじゃが、もっと単純な理由もある。……今の名のままだと、これから自己紹介をするたびに、いろいろ面倒にもなるぞ?」
「戸籍とか、これから作らなければいけない、色んな書類上のこととかも、ね」
「……なるほど」
「まあ、名前云々については、後でまた話し合うとして、じゃ。さて、こやつも来た事だし本来の話を始めるかの」
……そうだった。貂蝉がおじいい様に呼ばれてここに来たのは、お爺様や燐華さんのこと、そして一刀との関係について、話を行うためだった。さっきみたいに、一刀のことをご主人様って呼んだその理由とか。
「……さて。まずは何から話そうかのぅ」
「とりあえず確認したいんだけどさ。爺ちゃんは俺と同じように、“あの世界”に行っているんだよな?」
「そうじゃ。もうかれこれ六十年以上前のことじゃがな。……ちょうど、日本が戦争の真っ只中だった頃の事だ」
「すけちゃんは当時、確か十七歳……だったかしら?」
「うむ。……すでに敗戦色が濃厚になっておった時期だったな。学徒動員によってわしは多くの仲間と共に、戦争に徴兵されて戦地へ送られた。……当時の中国に、な」
お爺様のその話を簡単にまとめると、大体こんな感じだった。
当時、戦争状態にあった日本は、その食指を中国大陸にも伸ばしており、その戦力補充のために、若かったお爺様はお国のためというお題目の下、中国は湖北省の長沙へと派兵された。そしてその地での戦闘中に、お爺様の居た部隊は相手からの攻撃による爆発で、全員が一瞬で吹き飛ばされたそうだ。
……正直いって、そのときの私には、その情景を中々頭に浮かべる事ができなかった。だってそうでしょう?私がいたあの世界とは、武器も戦争の仕方も、何もかもが違いすぎるのだから。なもので、そのあたりの細かい描写は勘弁してもらうけれど。
その爆発が起きた瞬間、お爺様は完全にその意識を失い、近くを流れていた長江へと落ちたらしい。そして、次に目が覚めたその時には、そこはもう“向こう側”の世界だったそうだ。
「……あれだけの爆発に巻き込まれたのだから、わしはもう絶対死んだと思ったがな。ところがところが、じゃ。ふと気がついてみれば、自分の体には傷一つ何処にも無く、代わりに目の前には、それはもう天女かと見紛う美女がおったんじゃ」
「……もしかして、それが?」
「……天女と見間違うほどかどうかは知らないけどね。そう、この私よ、一刀」
そうして燐華さん―当時はまだその本来の名である、項籍を名乗っていた彼女と出会ったお爺様は、一刀と同様『天の御遣い』としてその保護を受ける事になった。それがちょうど、彼女が打倒秦の旗揚げをする半年ほど前のことだそうである。
その後は私たちが知る出来事とほぼ同じ通り、秦の始皇帝が興した秦帝国を劉邦と共に滅ぼし、燐華さんは西楚の覇王を名乗って天下に号令する立場となり。お爺様はけっして表舞台に立つ事無く、表向きは彼女の愛人として『虞姫』と呼ばれるようになった。とのことである。もちろん、その名の由来はお爺様の名である『一虞』から、その一字を取ったものだ。……楚軍や漢軍の一部の将からは、『すけちゃん』なんて風にも、呼ばれていたそうだ。
「……ちなみに、その命名をしたのは柴花(さいふぁ)という奴でな。その本来の名は范増といって、この燐華の軍師だった女子だ」
「……やっぱりみんな女性だったんだ」
「うむ。じゃから最初はかなり戸惑ったがの。まあ、それでもなんだかんだで、良く皆で、親睦を深めたものじゃ」
「……おもに閨でね?だから柴花に楚の種付け馬とか、人の姿をした性欲とか、いわれてましたよね?すけちゃんっていうのも、もともとはすけべえから来てるのよ。ね?すけちゃん♪」
「……いやまあ、その。仕方ないじゃろ?十七の若造が見目麗しい女子達に囲まれて、その気にならないはずがなかろうが」
「……それを、世の中ではすけべえと言うの。お分かり?」
「……」
そんな二人の、どこか懐かしそうに話す思い出を聞いていた私たちは、その時こんな感想を二人で持っていたました。
「……なんか、どっかで聞いたような話なんだけど……」
「……そ、そうね……は、はは」
はい。まんま私と一刀のことです。……もしかしたら范増さんて、私の遠いご先祖様とか?なーんて……はは、まさか、ねえ?(汗;
「……んねえ、ちょっとお。さっきから私の話が全然出てこないんだけど?」
「それは仕方ないじゃろ?お主が初めてわしらの前に姿を現したのは、鴻門の会よりもさらに後じゃろうが」
鴻門の会。それは、当時の秦の都であった咸陽への一番乗りに勝った劉邦が、その時のもろもろの行動を項羽に釈明した、その会談の席の事である。まあ、そのあたりを細かく語っているとキリがなくなるので、気になる人は自分で調べてみてください(笑。
「うん、ぐっちゃんてば冷たい。貂蝉、泣いちゃう」
「……勝手に泣いてなさいよ」
「ああん。桂花ちゃんのいけず」
しな作るんじゃないわよ、気持ち悪い!……とりあえず、気を取り直して。で、そこまでは確かに、私たちもよく知る歴史の通りなんだけど。……ここからがある意味本番というか。……確かに、その時点で燐華さんは大陸に覇を唱えたし、劉邦さんとも上手くやっていたそうである。けど、それはあまりにも突然の、そして、全くの予測外の事態……だったそうだ。
漢中に、本人も納得済みでの移封から数年後。劉邦は突如、楚討伐の兵を挙げた。……正直言って、その時お爺様も燐華さんも、訳が分からなかったそうだ。
正史とは違って、燐華さんは義帝(楚の壊王。春秋戦国時代の楚の末裔)を殺しても居なかったし、諸侯から反感を買っていたわけでもない。ごくごく穏やかに、大陸を統治していた……それなのに。
項羽は天下の大罪人。項羽が生きていては天下に平穏は訪れない。項羽は死すべき悪人だ、と。漢軍は諸侯にそう呼びかけ、そして諸侯もまたそれに応えたために、お爺様と燐華さんは、あの亥下の戦いにおいて大敗北を喫し、二人のあの世界での人生は、そうしてその幕を閉じたそうである。
「……わしらはあの最期の戦の後、二人揃って長江まで何とか逃れた。だが、追っ手はどんどん迫ってくる。……正直、本気で覚悟を決めたな、あの時は」
「そうね。……桜香ちゃんがなんであんな行動に出たのか、なんとしてでも調べたかったけど、もうそれどころじゃあなくなっていたし」
「柴花を始めとした他の楚の将たちとも、もう連絡がつかなくなっていたしの。……最期は武将らしく、戦って華々しく二人で散るか、と。そんな事を話していたときじゃった」
「……貂蝉ちゃんがその場に湧いたのは」
「や~ね~、湧いただなんて、はなも恥らう漢女(おとめ)を虫みたいに」
「……ああ、すまん。同じ扱いされては可哀想じゃな……虫が」
「ぐっちゃんてばひど~い……」
いやんいやん、といいながら、自分の体をくねらせつつ、お爺様に抗議するその漢女(と書いて化け物と読む)。あ~……気持ち悪。
「まあ、それはともかく。その時こやつから言われたのじゃ。桜花…劉邦が突然我らを討ちにかかったのは、その桜花が人質に囚われたが故の事だと、な」
「……人質?一国の君主が?一体誰に?なんのためにさ」
「……あの世界を、正史通りの歴史に持っていく。そのために行動していた連中に、よ」
「そ。いわゆる、外史の否定派と呼ばれる者達。左慈、于吉という二人の導師を手駒とする、妲己(だっき)という名の女によって、ね」
妲己……確かその名は、古の殷の王の后だった、世に悪名高い女の名……だったわよね?で、それが実は仙人だか何かで?歴史を史実どおりに動かすために、裏で劉邦を人質に、漢と楚を戦わせた……と?
「桂花ちゃんが疑うのも無理はないわ。でもね?現にこうして、私や貴女がここに居るのだから、そういう連中が居ても不思議はないでしょ?」
……確かに。私も燐華さんも、この世界からすれば過去の人間なんだから、そんなに不思議な事でもない……か。
「じゃあまさか、俺達がいたあの三国時代にも、そいつらは関与していたとか?」
「いいえ。もう、あの世界には誰も手を出せないわ。唯一それが可能だった妲己は、私がぐっちゃんと燐華ちゃんの手を借りて、二度と戻って来れない因果地平の彼方に封印しちゃったし。その部下だった左慈と于吉の二人も、今は彼女の支配から離れて独自に行動してるわ。……力のほとんどを失った変わりに、ね」
「……なら、あの世界はあの世界のまま、これからも存在し続けるんだな?」
「ええ。だから、そこのところは安心していいわよ、ご主人様も桂花ちゃんも」
……そっか。華琳様たちは、あの世界でこれからも生き続けてくれるんだ。……これで一つだけ、胸のつかえが取れた……かな?
「で、じゃ。さっき貂蝉もいうたが、妲己を封印するための戦いに、わしらは無事だった楚の仲間達と合流して、劉邦が囚われている咸陽へと乗り込み、漢の将たちとも協力して何とか勝利したのだが」
「……妲己が貂蝉によって封じられるその直前、その手に持っていた鏡をすけちゃんに向けて、粉々に砕いたの。そしたら」
「……こっちの世界に強制的に送還された……ってこと?」
「そうじゃ。まあその時に、燐華まで一緒に来てしまう事になったがな。……薄れ行くこれの顔を見ているうちに、必死になって伸ばしている、その手を掴んで……の」
「……他の誰でもなく、この私を選んで、ね。……生まれ育った世界を離れるのは辛かったけど、すけちゃん……いいえ、一虞と一緒に居られれば、私はそれで満足だったわ」
以上が、お爺様と燐華さんがあちらで体験した、そのあらましの全てだった。そして、燐華さんと一緒に戻ってきたお爺様は、終戦のそのどさくさに紛れて書類をいじくり、燐華さんを自分の妻として戸籍を作ったそうである。
「さて。わしらの話はこれで終いじゃ。……今度は貂蝉。おぬしの事じゃな」
「あ~ら。いいの、話しちゃって?うふふ、あ~んなことから、こお~んなことまで、それはもうめくるめく愛の物語に」
「……いいから。さっさと話しましょうね?貂蝉さん?」
……でた。燐華さんの微笑み!……いつの間にか、その手に槍まで持ってるし!何処から出したんですか、それ?!
「もう、燐華ちゃんてば相変わらずせっかちねん。……そうね。まあ、一言で言えば、私も妲己や左慈、于吉と同じく、外史の管理者なんだけど。私はいわゆる肯定派の側なの。……そこがどんな外史であれ、生まれた以上は存続させ、その外史ならではの歴史を紡いで行くのを、静かに見守るっていうのが、その方針の、ね」
「……それはいいんだけど。私があんたに聞きたいのは、なんで一刀の事を“ご主人様”なんて呼ぶのかって事よ。たしかあんた、一刀とは面識が無いって言っていたじゃない」
向こうの世界で始めて会ったその時も、こいつは一刀の事をそう呼んでいた。だからその場でも同じ事を聞いたんだけど、そのときは確かに、一刀と直接の面識は無いと、そう言っていたはずだ。
「……そうね。確かに“正史の”ご主人様とは、これが初対面よ」
「……正史の?それってどういう」
「先ほど、こやつも管理者の一員だと言うただろう?つまり、こやつは必要とあれば様々な外史に渡る事が可能なのだ」
「……もしかして、“あの世界”とは別の外史で……っていうこと?」
「そうよん。……今現在、幾重にも存在している数多の外史には、それぞれに北郷一刀という人物が存在しているわ。そしてそれらは全て、ここに居る正史の北郷一刀から派生した、いわゆる『分け御霊(わけみたま)』という奴なの」
外史とは、すなわち一本の太い大樹から伸びた、枝葉のようなもの。正史という大樹の幹から、人の願いや想い、そして望みなどから生まれた枝が外史だと。貂蝉は私たちにそう語って聞かせた。そして、その中でも特にまれな例が起きたのが、私たちの居たあの外史なのだそうだ。……すなわち、それまでのような分け御霊…分身ではなく、その本体である正史の北郷一刀が、どういうわけかそのまま転移してしまったのが、あの世界だったのだそうだ。
「だからこそ、あの世界はご主人様に対して容赦が無かったの。……他の外史に渡った分身のご主人様のように、世界の新たな因子として、許容できなかったの」
「……だから、最終的に俺はあの世界から、はじき出される事になった、と」
「そ。……ご主人様、貴方はあの世界において、三度の歴史改変を行ったわよね?本当はね、そのいずれかの時点において、北郷一刀という存在はあの世界において死を迎えたとして、この正史の世界に戻ってくるはずだったの」
「……」
「けど、何故かその三度とも全てにおいて、ご主人様は死の淵から戻ってきた。だから、世界は待ったの。ご主人様を外史から正史へと戻す、そのもっとも確実なタイミングを、ね」
「それが、あの三国同盟成立の夜だった、と?」
「そうよん。例えどんな形であれ、あの時点において、あの外史は完全な安定状態に入ったわ。それはすなわち、あの外史と正史とのつながりが、完全に閉ざされることを意味していたの。けどその完全な閉鎖が行われる一瞬だけ、ご主人様を安全に、元の正史へと戻すことが可能だったのよ」
……そして、たまたまその場面に出くわした私の目の前で、一刀の強制送還が開始され、一刀はあの世界からこの世界に戻ってきた……というわけだ。……けど、もう一つだけ、私には合点がいかないことがあった。
そう。
どうして、彼と仲の良かった魏の面々の中で、私だけが、この世界に来る事ができたのか。なぜ、正史の世界にとっては異物なはずである私が、この世界に渡る事が許されたのか?……燐華さんだってそれは同じだ。彼女もまた、本来はあの世界の人間であるはずなのに、お爺様と共にこの世界に渡る事が出来たのか。
その理由を、貂蝉に尋ねてみると、その答えは、その……とってもこっ恥ずかしいものでした///
「……愛よ」
『……へ?』
「ずばりそれは“愛”の力なのよ!そう、燐華ちゃんにしても、桂花ちゃんにしても、ぐっちゃんやご主人様に対する想いが、それはもうあまりにも強すぎたのよ。私も妬けちゃうぐらいに、ね」
……愛の力って。そんな、改めて言われるとすっごい恥ずかしいんですけど。
「……確かに、ご主人様があの外史から消滅したことで、あの外史は完全に独立した存在になったわ。けど、そこで一つだけ誤算が生じたの。……それが桂花ちゃん、貴女よ」
「わたし?」
「そ。貴女とご主人様の、その心のつながりが、他の誰よりも強すぎたの。そう、それこそ安定したはずの外史に、再びほころびを生じさせるほどに、ね」
「……そう、なの?」
「そうなのよん♪まあ、燐華ちゃんの場合はほとんど事故みたいなものだったし、その後二人はあの世界にとっては死んだ事になったから、さほど問題とはならなかったんだけど、貴女の場合はそうは行かなかったわ。ご主人様を想うがあまり、本来敬愛して止まないはずの曹操ちゃんの下を出奔、しちゃったでしょ?」
「……そうなのか、桂花?」
「……うん、まあ///」
そうだ。一刀への想いに気づいたあとの私は、それまでのような華琳様に対する想いが、自分の中であまり大勢を占めることがなくなっていた。……一刀の事を想えば想うほど、それはさらに小さくなっていていた。……この世界に来るその直前には、もう、華琳様の事はせいぜい、尊敬する人物、という程度の対象にまでなっていた。
「……人の想いってのはね、あんまり強すぎると世界そのものにまで、いい影響を与えないの。悪くすれば、崩壊へとすら導くほどに、ね。だから私たち外史の管理者のトップは、一つの決定を下したの」
「……あの世界から、人為的に私を出してしまおう、と?」
「そ。もちろん、そんな事はおいそれと出来るものじゃあないわ。今回はあ・く・ま・で、緊急避難的措置として、超!特別に認可が下りたの。そしてそのために、私はあの世界に一時的に分身を送り込んで、貴女を導いたわけ。……以上で説明は終わりだけど、納得してもらえたかしらん?」
「……まあ、一応、ね」
「うふ。それは良かったわん♪」
……だから、くねくねとしな作るの止めてっての!
「さてと、じゃ。貂蝉の解説が終わったところで、今度はこれからの嬢ちゃんのことじゃが。戸籍を新しく作るのは、それほど難しい事ではない。“上”の方にいるわしの知り合いにでも一言言えば、それで済む話だしな」
「……そんな簡単な事なのか?」
「戸籍、というたかて所詮紙切れ一枚の事じゃ。大したことじゃあないわい。それより問題は、桂花嬢ちゃんがこれから何処に住むのかとか、この世界の文字やら常識やらを何処で学ぶのかということの方じゃ」
「東京で俺と一緒に住みながらってのは駄目なのかよ?」
「だからお前は馬鹿だというのじゃ。ただの高校生が、どうやって女子一人を養う?学生の得られる収入なぞどれほどある?」
「……」
……そう、よね。確かにお爺様の言うとおり、現実を見れば難しい事は分かってる。でも、それでも私は、一刀と一緒に居るためにこの世界に来たのよ?何か解決策は無いものかしら……?
「……まあ、それでもどうしてもというのなら、一つだけ方法が無いでもない」
「……えっと。なんだかとっても、いや~な予感がするんだけど、その方法……って?」
「……二人揃って、貂蝉の所に間借りせい」
『……え~~~~~~~~~~~?』
「ああん。そんな息ぴったりにハモって、嫌がら無くてもいいじゃなあ~い」
いやだって、ねえ?毎日こんな筋肉お化けを見ながら過ごすってのも……。
「まあ、それが嫌なら、桂花嬢ちゃんだけここに残って……そうじゃな、半年ほど遠恋すると言う手もあるが?」
『筋肉のところにやっかいになります』
「うふふ。これからは楽しくなりそ♪ご主人様、桂花ちゃん。よろし~く、ね?うっふん」
『……オエエ~』
とまあ、そういった次第で、わたしと一刀は東京にある貂蝉の家に、二人揃って下宿をする事になった。一刀はそこから学校に通い、私は文字や常識のお勉強をしつつ、家事手伝いをする事になった。
そして翌日。
先に東京に帰った貂蝉の後を追い、お爺様と燐華さんに見送られて、鹿児島の地を後にした。……ただし、その帰りは来る時と違って新幹線ではなく、お爺様がご好意で用意してくれた、飛行機での帰途となったんだけど。……やっぱりいまだに信じられない。あんな大きな鉄の塊が空を飛ぶなんて!……その飛行機の中、私はず~っと一刀の手を握り締めたまま、「大丈夫、大丈夫、絶対落ちない、絶対落ちない」と、下をむいたまま呟き続けてました。……もう二度と、飛行機なんて乗るもんですか……あぅぅ。
ま、まあ、それはともかく。何とか(?)無事に東京に着いた私たちを、貂蝉からの迎えだという、りむじんとかいうまたすっごい大きくて豪勢な自動車に乗って、その家へと向かった私たち。で、到着して思った素直な感想が、こう。
『……でかっ!!』
魏の都にあった城並みに大きいんじゃないの?!と、そんな感じで驚く私たちだったんだけど、そんなものがどこかへ吹き飛ぶほどの、更なる驚きを、その後体験する事になった。それは、屋敷の応接間に通されて、ここの主であるアイツを待って数分後に体験しました。
こんこん。
「あ、はい」
ドアののっく音に、一刀が返事をし、そのやたらと豪奢なドアが開け放たれた時、そこにいたのは例の筋肉だるま……じゃなかった。
「お待たせ、二人とも。帰りの道中、安全についてよかったわ」
「……」
「……」
「?どうかしたの?そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して。……私の顔に何かついてるかしら?」
『……えっと。その、どちら様で……?」
黒く美しい髪をアップにまとめ、優雅に着物を着こなす、その妙齢の女性に、私たちは思わず、声をそろえて問いかけていた。……信じたくない、その、とある想像をしながら。
「あ、そうだったわね。……こっちの姿で会うのは初めてね。私としたことが迂闊だったわ。……あらためまして。我が家にようこそ、北郷一刀くん、そして荀文若さん。私は西園寺胡蝶。またの名を、永遠の漢女、貂蝉ちゃんよん♪今後ともよろしくねん。うふふ」
『うそだああああああああああっっっっっっっ!?!?!?』
~続く~
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桂花アフター、その続きです。
とにかく今回は解説だらけ。
一刀の祖父母のことと、貂蝉の事の双方。
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