#56
西涼連合が董卓へと降り、それに合わせて小勢力の幾つかの城で漢の旗が掲げられてから数週間が経過した。各勢力はそれぞれ至近の地を併合し、大陸の勢力図に大きく変更が加えられる。長安からも各地に間者を送りその情報を収集している。そんななか、その長安で定期的に行われている会議が今日も開かれた。
降った者、制圧し、その勢力を伸ばした者、様々な結果が詠の口から伝えられる。そして前回までと同じような報告が続いた後、詠の表情が険しくなった。隣に座る月はその意味を既に知っているのか、その表情は晴れない。それを見て各武官文官が怪訝な顔をするなか、一刀が代表して口を開いた。
「何かあるみたいだな、詠」
「えぇ………ついに、起きたの」
その言葉の意味を察する者は少ない。実際、何かに感づいたのは一刀と風、ねねの3人に加え、数人の文官のみだった。
「何が起きたんだ?」
華雄が口を挟む。彼女は理解していないらしい。だが、詠もそれをいつものようにからかう事はせず、苦虫を噛み潰したような表情で答えた。
「………略奪と終戦後の将の殺害よ」
一刀と恋、風と香はそれぞれ馬に乗って荒野を歩いていた。それぞれとは言っても、風はいつものように一刀の前に座って、黒兎の背に揺られている。今回は遠征という事もあってセキトがいない為なのかは分からないが、恋は手綱を握りながらもぼうっとしている。一刀の乗る黒い馬を挟んだ反対側では香が難しそうな顔をし、またその間の一刀の表情も優れない。
「それにしても、やっぱり起きてしまいましたねー」
「あぁ、予想がついてはいたがな」
風が後ろの一刀を見上げながら声をかける。互いの声に、起きてしまった事を嘆く響きはない。ただ、いつもとは違った真面目な声音で会話をする。
「それにしても詠ちゃんも思い切った事をしますねー。まさか風たち4人に任せてしまうとは」
「風が詠の立場だったら?」
「それは勿論この構成でいきますが」
「だろう?中途半端に軍を分けるよりは、俺達だけで行った方が何かが起きた時の対応がしやすい。実際、華雄にはやる事もあったしな」
「ま、それはそうなんですけどねー」
言葉とは違い、詠から出された指示に不満を持っている様子はない。彼らは馬に揺られていく。
※
詠の言葉に、皆が黙り込む。数人を除いたすべての者は、ついに起きてしまったかと落胆とは違った負の表情を浮かべている。ただ、先に述べた数人のうちの1人―――風の発言はその逆のものだった。
「予想通りの時期でしたねー」
彼女の言葉に、周りの者は声には出さない者の驚きの表情をする。
「えぇ。現在残っている内で目立つのは袁家の2人に北から公孫賛、劉備、曹操、孫策、そして益州ね。あとそれ以外の小勢力が幾つか。そのうち袁紹が公孫賛の幽州へ向けて進軍を始めたという情報が届いているわ。曹操はさっきも言ったけど、併合した領地の内政を固めてから動くつもりのようね。軍に大きな動きはないわ。孫策も同様に豪族との交渉を進めているみたい。袁術は何を考えているのか分からないわ。ただ、それでも着実に領地を増やしている。益州は現在内側で色々と揉め事があるみたい。それでも元々が広大な土地だから、いま攻めようとする軍は見当たらないわ。いるとすれば袁術くらいかしら」
「それで、略奪が起きた場所は?」
「兌州の済南、ちょうど青州と冀州に挟まれている土地ね。細作からの報告によると、近隣の地に攻めいって勝利した際に、敵将のあまりの嘆きっぷりに激昂して斬り捨てたらしいわ。それも勿論禁に反するのだけれど、元々戦による消費も激しかったらしいの。それで、戦の際に民の略奪を行なっていたとの事よ」
詠が説明を終え、溜息を吐く。だが、起きてしまった事は仕方がない。禁則事項を破ってしまった以上、規定の罰則を与えなければならないのだ。華雄もそれは理解しているのか、率先して口を開く。
「では、その済南に赴いて太守及び軍を討伐すればよいのだな!」
「その通りよ」
威勢よく声を上げる華雄に対して、詠は肯定する。だが、次の言葉を言うよりも早く華雄は牽制されてしまう。
「では―――」
「でも、華雄はお留守番」
「なんだとっ!?」
機先を制された華雄は声を荒げるが、次の言葉にいっそう顔を綻ばせる。
「これは細作ではなく西涼から届いた報なんだけど、五胡の攻撃の兆しがあるらしいの。それも結構な数の、ね。アンタには翠たちと一緒にそっちに向かってもらうわ。既に翠が先行して隊を率いているから、アンタは蒲公英の案内で援軍を率いて行って欲しいの」
「そういう事か。ならば私はそちらへ向かうとしよう」
相変わらず扱いやすい華雄であった。
「………む?ではその太守の制裁には誰が向かうのだ?」
「あぁ、それならもう決めてあるわよ」
こうして、董卓軍の二面作戦が開始されたのである。
※
先日の会議での遣り取りを思い出していると、香が声を掛けてきた。
「でも、華雄さんがこちらで一刀さんが援軍でも特に支障はなかったのではないですか?」
「確かにそうですが―――」
彼女の問いを受け、風が答える。
「理由は2つあります。ひとつは、おにーさんの戦い方ですね」
「戦い方、ですか?」
「はい。おにーさんの日本刀、でしたっけ?この武器はおにーさん曰く斬る事に特化していて、元々大軍を相手にするようなものではないらしいのです。まぁ、おにーさんはその身体能力と技術を活かしてその点を補ってはいますが………風には専門外なのでこれ以上はよくわかりません」
一刀の腰に挿さった2本の刀を後ろ手でカチャカチャ鳴らしながら風は続ける。
「対する華雄さんや恋ちゃんはその攻撃範囲も広いです。五胡を相手にするにはどうしても騎馬戦が主になりますが、華雄さんの戦斧でしたら問題ないのですよ」
「なるほど。それでもう1つは?」
「はい、こちらの方が大きな理由ですが………これは月ちゃん―――董卓及び朝廷の本気の度合いを知らしめる為でもあるのです。詠ちゃんから聞いた情報だと、敵兵はおおよそ3000。なかなかの数です。
それに対し、こちらは4人。戦える数で言えば3人です。まさに一騎当千の働きをして互角といえる数ですね………1つ質問ですが、香ちゃんは討伐に向かった風たちが逆に追い詰められると思いますか?」
「えぇと、それは心配してませんが………」
答える香も、なかなかに感覚が麻痺しているらしい。言葉の通り、彼女はまったく心配していなかった。
「はい。風も詠ちゃんも、ついでにねねちゃんも同意見です。実際反董卓連合でもあそこの軍に目立つ武将はおりませんでしたし。話を戻します。たった3人で1000倍の軍を打ち破る。そうする事で董卓軍の兵力を示し、なおかつ今後こういった事を起こさないようにするのが、大きな狙いです」
「そういう事でしたか。理解しました」
「にゅふふ、香ちゃんもだいぶ成長しましたねー。今度風と将棋でもしませんか?」
「絶対負けるので勘弁してください」
そこからは2人の雑談に移る。一刀はその声を聞きながら何事か考え事をし、恋は相変わらずぼうっとしていた。
――――――幽州。
軍議の間ではこの地を統べる太守である公孫賛と、その部下が集っていた。先ほどから文官武官交えて言葉が飛び交い、公孫賛はじっとそれに耳を傾けている。
「―――戦いもせずに降伏をしろというのか!」
「―――ですが、袁紹軍の兵力と我が軍の差は歴然です!勝機など万分の一もないのですよ!」
そう、彼女のもとにも袁紹軍の動きは伝わっていた。10万の軍が、ここ幽州に向けて進軍しているとのことだ。彼らはそれに対してどうするかを話し合っている。しかし、それも平行線を辿るばかりだ。段々と皆の声が荒くなっている。と、それまでじっと会話を聞いていた公孫賛がひとつ息を吐いた。
「………静かにしろ」
その言葉に、皆一斉に押し黙る。腐っても白馬長史である。彼女の言葉には彼らを黙らせるだけの力があった。皆が静かになるのを見届けてから、彼女は口を開いた。
「現在袁紹軍10万がこちらに向けて進軍中だ。対する我らの数は、どう集めても1万。その差は10倍。また袁紹は周辺地域を併合し、その10万に加えてさらに戦力を残している」
彼女は一旦言葉を切った。その情報は皆も知っているのか、空気が重くなるのを感じる。もう一度皆を見回し、部下一人一人の目をじっと見つめ、そして彼女は決断を下した。
「………………幽州は袁紹に降伏する」
※
数日後、幽州と冀州の境に2つの軍が対峙していた。片や10万の大軍、片や兵数3000とその差は30倍以上。どう足掻こうとも、結果は歴然であった。両軍しばしの間整列をし、互いに睨み合っていたが、それぞれの中央から2騎の馬が駆け出る。2頭はまっすぐと距離を縮め、互いに30mほどの距離を残してその進みを止めた。
「あらあら、伯珪さんったら。たった3000のみみっちい兵で何をしようというのかしら?」
黒い馬に乗って出てきたのは袁紹軍総大将。その兵力に違わない高慢さで胸を反らし、声を掛ける。対するは白馬に乗った公孫賛。その大差を気にした風もなく、まっすぐ敵大将を見つめた。
「わかってるさ、本初。私達にはどうやっても勝ち目がない事くらいはな」
「でしたら、何故わざわざ戦場に出てきますの?他の皆さんのように、素直に私に降って頂ければそれ相応の待遇は約束しますわよ」
「まぁ、お前ならそう言うと思ったさ。でもな、私らだって簡単に降るわけにはいかないんだよ。済まないが、この茶番に付き合うくらいはしてくれよな」
軽く笑って伝える公孫賛に、袁紹はふんと鼻を鳴らす。
「茶番…確かに茶番ですわね。まぁよいでしょう。貴女がそれほどまでに言うのでしたら、私の完全勝利で終わらせてあげますわ!」
「あぁ、頼んだぞ」
その言葉を最後に、公孫賛は背を向ける。袁紹も彼女の様子が気にはかかったが、これ以上この場にいるわけにはいかない。同様に背を向けて、腹心の待つ本陣へと戻って行った。
自軍へと戻った公孫賛は、本陣には戻らず隊列の前で馬を止める。彼女の眼の前に並ぶは3000の兵。ただし、そのすべてが白馬に跨っていた。
「見ての通り、我らに勝機はない!」
彼女は声を張り上げた。その否定的な言葉に、誰も口を挟まない。
「………聞こう。この戦に意味などないと言う者はいるか!」
ただ、じっと彼女の声に耳を傾ける。
「傍から見れば、この戦に意味などないと言うだろうな。帝の勅もあり、降伏したとして一人の命も奪われる事はないだろう。だがしかし、だからこそ、我らは出陣するのだ!我らはその兵に畏れをなして降伏するような臆病者ではない。ただその事を示さんが為に、進め!我こそは白馬長史、そしてお前達は誇り高き白馬の乗り手だ!」
公孫賛は剣を抜く。それに合わせて兵も手綱を握り、武器を構えた。
「お前達にただ一つ命を下す!誰一人死ぬ事なく、本陣を強襲せよ!我に続けえぇっ!」
最後にひとつ叫び、彼女は馬を走らせる。背後から愛する部下の鬨の声と、響き渡る馬蹄の音を聞きながら。
※
白馬の群れが突き進む。ただ真っ直ぐに走る姿は、まるで白い大地が波打っているようだった。公孫賛を先頭に袁紹軍へと突撃し、ただひたすらに前へと進む。左手の楯で敵の槍を弾き、右手の剣で敵を薙ぎ払う。彼女自身に武の素養はない。いや、もちろん周囲で得物を構えているような兵に比べてその差は歴然なのだが、それでも例えば他所の軍で将を任されるような実力はなかった。それでも彼女は突き進む。
「本初っ!!」
そして、ついに袁紹軍本陣へと辿り着き、大将の姿を認めた。だが、そこで彼女は力尽きる。公孫賛と彼女の乗る白馬の前には文醜と顔良が立ちはだかり、背後の部下たちに向けても数えきれないほどの槍が向けられていた。
「伯珪さん、まだやりますの?」
「………いや、こう囲まれたら私の負けだよ」
無表情で告げる袁紹に、公孫賛は頭を掻きながら笑う。その顔は清々しい。彼女は馬を降り、部下もそれに従って下馬し、武器を収める。
「では?」
「あぁ、これより幽州は袁紹軍に降る。大した将もいないが、騎兵だけなら自信があるからな。上手く使ってくれ」
「ふん、貴女の弱っちい兵なんていりませんわ」
会話は終わりだとばかりに、袁紹は背を向けた。
「そうそう、ひとつ言い忘れておりましたわ」
「………?」
「貴女のところの貧乏くさい鎧と違って、我が兵の装備は華麗で完璧ですわ。その完璧な武器や鎧に血糊が付かなかった事くらいは感謝してあげますわ」
「それって―――」
袁紹の言葉に返そうとする声を遮って、袁紹は声を荒げる。
「文醜さん、顔良さん!いくら弱っちい伯珪さんの軍とはいえ、貴女たちには敵大将を捕らえた褒賞として、それぞれ歩兵の隊を預けますわ!これからは前曲にてしっかりと働きなさい」
「歩兵隊っすか、麗羽様っ!?」
「文ちゃん、静かに」
「………あら?でもそうしますとお二人が率いていた騎馬隊を指揮する将がおりませんわね。顔良さん、その辺りは適当にそこらに転がっている人にお任せなさい。名門袁家の軍ですわ。歩兵だけでも十分にその力くらい発揮できるでしょう?」
彼女はそれだけ残して、立ち去った。文醜はよくわからないという顔をしていたが、顔良は違っていた。彼女は茫然としている公孫賛に声をかける。
「という事で、これからはうちの騎馬隊をよろしくお願いしますね、白蓮さん」
「は、はは……そりゃそうだよな………ははは、私なんかがこんな大軍を本陣まで突っ切れるわけないもんな………あはははは」
笑い続ける公孫賛の顔は、涙に濡れていた。
こうして、袁紹と公孫賛の戦いは終わりを告げる。袁紹軍は死傷者をまったく出さず、さらには無傷の幽州騎馬隊を手に入れる事に成功した。
――――――徐州。
各地に間者を放っていた諸葛亮と鳳統にも、その報せは届いた。彼女たちはそれを軍議にて伝える。
「朱里ちゃん、これって………」
「はい…袁紹さんが公孫賛さんを破って、幽州を併合いたしました」
その竹簡を読んだ劉備は声を上げ、諸葛亮も肯定する。そして公孫賛の同輩でもあり、かつて客将をしていた劉備が問うよりも早く上がる声があった。
「それで、伯珪殿は?」
趙雲だった。彼女もまた、風や稟との旅の途中、公孫賛に客将として仕えていた身だ。
「公孫賛さんでしたら、幽州および騎馬隊と共に袁紹軍へと降りました」
「そうか。では無事なのだな………」
「よかった…」
いつもの飄々とした彼女らしからぬ声音を、誰も問うことなどしない。劉備自身も、諸葛亮の言葉に安堵の息を吐く。しかし、その空気を鳳統が壊す。
「ですが、報告はそれだけではありません。無傷で公孫賛軍を降した袁紹軍は、そのまま南下。おそらく、ここ徐州へと向かっています」
その言葉に、場の空気が凍りついた。
兌州についた一刀は新しく領主となった男と会見していた。場には領主と彼が抱える将、そして一刀と風がいる。恋と香は城の外で待機している。
「これはまた長安からですか………長旅お疲れ様です」
「いや、大した事ではないさ。それで、これが私に預けられた書簡です」
男は己の所業が知られていないと思っているのか、にこやかに一刀の言葉を受けた風から竹簡を受け取る。
「どぞー」
「拝読いたします」
竹簡を開き、その文面に目を通す。そして、男の表情は一変した。
「こ、これは一体………」
「そこに書いてある通りですよー。貴方は戦の際の略奪を許可していました」
「許可などしていない!」
「そいう言い張るならばよいでしょう。許可か黙認か、略奪は行われていました。そして、こちらは知らないとは言わせません。終戦後の将の殺害。これで少なくとも勅令のうち2つの禁を侵した事になります」
「………………」
事実を告げられ、男の顔色が白から青、そして赤に変わっていく。
「何か釈明はあるか」
風に代わり一刀が口を開く。
「そ、そんなの何処の軍も―――」
何処の軍もやっている事だ。そう言おうとした彼の言葉は、ついに最後まで発せられる事はない。一閃だった。一刀が右手を振り抜き、ごとりという音と共に、男の首が落ちる。
「な、ななな………」
ようやく何が起きたか理解したのだろう。護衛の将が武器を構えるよりも早く一刀は立ち上がり、一言告げた。
「――――――制裁だ」
※
城内に断末魔の叫びが木霊する。それは城の外にいた恋と香にも届いていた。
「………始まりましたね。行きましょう」
「………」
香が声をかけるが、恋の返事はない。
「恋さん?」
「………ん、行く」
もう一度問いかけると今度はちゃんと届いたのか、恋は頷き、香も門番を斬り捨てて城内へと入った。
太守と将を斬り、また抵抗する兵が次々と斬り捨てられていく様子に、ついに兵達は降伏する。しかし、ここにいるのはあの男の兵である。勅の通りに、一刀たちはすべての兵を罰した。
「………こんなものか」
「そのようですね」
動く者のいなくなった城で、一刀と香はそれぞれ武器を収める。その様子を待っていたのか、背後から声がかかった。
「お連れしましたー」
振り返れば、恋を護衛に風と1人の老人が立っている。
「こちらの方は敗戦した地の太守さんです。どうやら牢に幽閉されていたようで」
「そうか。他に兵はいたか?」
「いましたが恋ちゃんがちゃっちゃと倒してくれたのでもう城内にはいないでしょう。いたとしても数人です」
「わかった」
風の報告を受け、一刀は老人に向き直る。投獄されていたというのは本当だろう。彼は年齢以上に痩せこけており、また袖から覗く腕には痣がいくつか見えた。
「挨拶が遅れました。俺は――――――」
一刀は事の経緯を説明した。
太守を本来の地へと送り届けて諸々の手続きを済ませた一刀たちは、再び長安に向けて馬を歩かせていた。
「彼はどうすると思う?」
「そですねー。失ってしまった将は戻ってはきません。兵力もだいぶ削がれていましたからねー。おそらく袁紹さんか華琳さんに降るでしょう」
「劉備のところは?」
「安寧を求めるならば今述べた2つしかないでしょうね。あぁ、漢に降るというのもありましたね。ま、それはあのお爺さんが決める事です」
「そうだな」
彼の地の今後を話し合うが、それもただの雑談にしかならない。彼がどうするかは彼自身が決める事である。
「ま、そんな事より、そろそろ恋ちゃんがお腹を空かせる頃ではありませんか?」
「そうだな。もう少ししたら休憩にするか」
真面目な話もそこそこに、彼らはいつもの他愛ない会話に戻る。そろそろとは言ったが、おそらく彼女は既にお腹に手を当てて、いつもの如く庇護欲をそそる哀しそうな顔をしているだろう。そう予想をして話題に上った人物を見て、それが間違いだったと気付く。
「………」
「おや、お腹が空きすぎて耐えられなくなっちゃいましたか?」
風が茶化すが、恋の反応はない。
「………恋?」
「………………………ん、なに?」
そして一刀は気づいた。彼女の反応がいつもより幾許か時間がかかっている。その異変に風と香も気づいたのか、怪訝な表情を浮かべた。
「………恋、大丈夫か?」
「………………………………たいじょぶ、って何が?」
噛み合わない会話に、一刀は馬を寄せる。
「………?」
近くで見れば分かる。いつものようなあどけない表情であっても、僅かに目が淀んでいる。
「じっとしてろよ」
一刀は一言断ってから手を伸ばし、恋の額に当てた。
「熱があるな………風、ここから1番近い街までどのくらいある?」
「むむむ…戻るにしろ進むにしろ、黒兎馬ちゃんが全速力で走って1日くらいでしょうか」
風の言葉に一刀は周囲を見渡し、目的のものを発見する。
「よし、あの林まで行くぞ。今日はもう休む事にしよう」
「そですねー。恋ちゃんに走らせるわけにもいきませんし、一晩様子を見ましょうか」
「じゃぁ、私は先に行って場所を確保しておきますね」
一刀の言葉に、香が馬を走らせる。馬をつなぎ、4人が休める広さの場所を見つける為だろう。その後ろ姿を見送り、一刀は再び恋に向き直る。
「もう少しだけ頑張ってくれな。馬を降りたら食事にしよう」
「………………ん、頑張る」
「あぁ」
恋ならば体力も桁違いだし、もう少し様子を見るとしよう。一刀はそう結論付けて、恋に合わせてゆっくりと馬を進めていく。
その夜、恋は食事もそこそこに、すぐに眠りにつくのだった。
――――――翌朝。
朝日が昇り、一刀は身体を起こす。僅かに霧が出ているが肌寒いという程ではない。すぐ傍には風と香が敷布にくるまって眠っており、反対側では恋が丸まっている。熱は下がっただろうか。そう思いながら恋を見た、一刀の表情が一変する。
「………恋?」
眠っているにも関わらず彼女の呼吸は荒く、また肌は汗で濡れていた。その身体は、熱い。
あとがき
前書きでは大変失礼をば。
でも、そのくらい嬉しかったのですよ。
まだご覧になってない方は、ぜひ前書きのリンク先をお開き下さい。
という訳で、本編でした。
今回は、麗羽様と白蓮たんのターン!
けっこうよく書けたと思うんだ。
天空太一様のおかげでまたムラムラと創作意欲が湧いてきたぜ(`・ω・´)
ではまた次回お会いしましょう。
バイバイ。
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あばばばばばば、ヤバイヤバイ何がヤバいってマジヤバい!!
本編とは全然関係ありませんが、以前イラストから外伝を描かせて貰った天空太一様からお返しイラストを頂いた………
嬉しすぎてガチでホロリと来たのは内緒だぜ。
どうぞ皆様もご覧ください(つД`)
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