「レンお兄ちゃんは、よーじあいこうしゃ、なの?」
「ブファっ!」
公園の白いベンチの上に並んで座り、可愛く小首を傾げながらそんなことを尋ねてきたリンに、僕は口に含んだばかりの缶ジュースを吹き出した。
「もー、きたないなぁ。拭いてあげるからじっとして」
そう言ってポケットの中から黄色い鳥のついたハンカチを取り出すと(くそ、ハンカチまで可愛いとか反則だ)、吹き出したジュースで染みが出来ているシャツの胸元を、ハンカチで軽く押さえて拭きとってくれた。
「え、あ、ありがとう……。じゃなくて! 誰からそんなこと……」
「こないだテレビでねー、いじょ、いじょうせーへき? の、よーじあいこーしゃっていう特集やってたの。リンみたいに小さい子にしか興味がないひとのことだって」
まだ子供が起きてる時間帯に、何つー特集を組んでるんだと、某テレビ局に対して憤りを覚えてしまった。だいたい、ああいう偏った知識を持った大人が組んだ特集なんて──…。
「お兄ちゃんは、リンみたいに小さな子供が好きなんでしょ?」
「いや、違っ……!」
そんな「異常性癖の幼児愛好者」なんて呼ばれるような行為は、たとえ想像の中だけでもした覚えがない。
「僕は子供が好きなんじゃなくて、ただ君のことだけを」
──……好きなんだ。こんなのおかしいって分かってるけど、想像の中ですら汚せないくらい、真剣に。
君のことが──……。
「でも、レンお兄ちゃんはリンが小さくて可愛いから好きになったんでしょ?」
リンはベンチから立ち上がり、僕の目の前でくるりと一回転してみせた。白いワンピースの裾が大きく広がって、白い花みたいだ。
「リンが成長して大きくなったら、もう興味がなくなっちゃうんでしょ?」
ひどく大人びた表情で、そんな残酷なことを口にする君を、僕は。
「そんな、こと…………」
「なぁに? 男の子だったらハッキリしなさいっ」
「は、ハッキリ……したらマズいんじゃないかな」
君を困らせてしまうという意味でも、倫理的な意味でも、色々。
そんな僕の苦悩なんて、くだらない、と路傍の石みたいに蹴り飛ばして、いつの間にかリンは僕の目の前まで来ていた。
「リンはね、お兄ちゃんがリンのことを本当に好きだって言うなら、それでリンが大きくなるまでちゃんと待っててくれるなら」
「え」
吐息が当たるくらいの距離にリンがいることですでに動揺している僕を試すかのように、その小さな唇はどんどん距離を縮めていって──。
頬に、唇の触れる感触。それは一瞬にも、永遠のようにも感じられる瞬間。
それから耳元で囁かれるのは、きっとこれから先ずっと僕を縛りつづけるだろう、甘くも強かな、蜜の囁き。
「レンお兄ちゃんだけものに、なってあげる」
子供って、怖い。
End.
→次ページでロリン視点。この話より少し前の出会い編みたいな感じで。
「うわっ!!」
ひどく慌てた声とアスファルトの上を靴の底がすべるような音が背後から聞こえてきて、ちょうど学校からお家に帰る途中だったリンはびくんと肩を震わせて、それからおそるおそる後ろをふりかえった。
するとそこには、黒い服(たしか学ランっていう、上から下まで真っ黒な、男の人が着るお洋服だ)を着た男の人が、道路の真ん中で足をもつれさせて、アスファルトの地面に顔から倒れていた。
どうしよう。転んでからしばらく動かないし、どこかを強く打ったのかも。誰か大人のひとを呼んだほうがいいのかな。
だけどまわりの人は遠まきに見るか、くすくす笑い声を立てているばかりで、助けようとしている人は他にいなかった。なんだか嫌な感じがして、リンはわざと足音を立てるようにしてその人のそばに近づいていくと、手を差し出しながらはっきりとした声で──。
「大丈夫?」
「え……あ、うん」
するとその人は、リンの手にはつかまらずに自分の力だけで身体を起こして、それから少し恥ずかしそうに目を細めた。
……すごくきれいなひと。
男の人にきれいだなんて言うのはおかしいのかもしれないけど、そのひとはリンが知ってる他の誰よりもきれいな顔をしていた。女のひとみたいに長い睫毛も、その奥にある水晶みたいにすきとおった瞳も、このまま何分だって見とれてしまいそうなくらいきれいで、だけどそのことに気付かれるのが恥ずかしいから、慌てて口を開いた。
「お兄ちゃんは強いんだね。リンだったら、こんなふうに転んだりしたらすぐに泣いちゃう」
「そ……そうかな」
「うん」
そう言ってリンがにっこりと笑うと、その人は一瞬だけ固まったあと、顔を真っ赤にしてリンから少しだけ視線をそらした。
「き、君は……リンちゃんって言うの?」
「そうだよ。お兄ちゃんは?」
「僕は──……」
それから何日かして、学校の帰り道で何度もその人に会うようになった。
「偶然だね」なんて言いながら冷たくなった自分の手を擦り合わせているのを見て、小学校が終わる時間まで待っていたことに(それもほとんど毎日)気付くと、公園のベンチで並んで一緒に座っているときに、リンはそのことを尋ねてみた。
「レンお兄ちゃんはリンのことが好きなの?」
「っ!!」
……さすがにいきなりすぎたかな。あなたの言葉はいつも直球すぎるのよ、っていうママの言葉を思い出して、少しだけ反省した。
するとレンお兄ちゃんはぎこちない動きで顔を上げて、何だか泣き出しそうな顔でリンの方を見た。
「ご……ごめん。気持ち悪いよね。こんなの……」
そう言われて、そうかな? と少し考え込んだ。
だけどお兄ちゃんと一緒にいるのは楽しいし、気持ち悪いだなんて一度も思ったことはなかったから、リンは首を横に振った。
「違うよ。そういうときはね」
「へ?」
すぐとなりにあった手に自分の手を重ねた。汗をかいているのにすごく冷たくて、リンのものよりずっと大きな手。
「好きですって、それだけ言えばいいのよ?」
「……好き、です」
「リンもレンお兄ちゃんのことが好きよ」
だってこんなにきれいで放っておけないひと、きっと他にはいないもの。
End.
レンロリンはもっともっと増えるといいと思います。
ロリンちゃん可愛いよロリンちゃん。
一応この続きをローリィシリーズとして書いていますで興味を持たれたかたはドゾ。
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ローリィ・ドールの5年前くらいの設定。ロリ誘拐。中学生レン君とロリンちゃん。