No.259204

【コテバニ】Break the Ice【腐】

NJさん

あまりにも暑いのでむしゃくしゃして書いた。おじさんとバニーちゃんがアイスを食べる、それだけの話。

2011-08-04 21:05:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:970   閲覧ユーザー数:967

 夏は暑いものだ。

 このシュテルンビルトだって、例外ではない。

 だから、例年通り気温が上がったからといってどこかの誰かさんのように「暑い暑い」と文句を言っても仕方がないのだ。

 暑いと言ったからって気温が下がるわけではない。快適になるわけではない。

「あっちぃ…………」

 虎徹は最近、口を開くとそればかりだ。

 ただでさえだらしないのに、暑さでぐったりとしている姿を毎日見させられるバーナビーはたまったものじゃない。

 暑いと言ったって始まらないし、暑いと言われたから不快度が増すなんていうのも気のせいに他ならないが、あまり気分のいいものではない。

「少しじっとしていればおさまりますよ」

 アポロンメディア社屋自体に冷房は入っているのだから、耐えられないくらいならじっとしていればいいのだ。それを、社員の女性が重い荷物を運んでいようものなら「持ってやるよ」だとか、別の若い社員がミスをしたとなれば一緒に取引先に謝りに行こうだとか、少しもじっとしていないからいつまでも暑い暑いと言う羽目になる。

 ただでさえもこの暑さで軽度の犯罪事件が増加し、ヒーローとしての出動回数は増えている。

 自身のデスクワークだって残っているのに、トレーニングだって欠かすことができない性分のくせに、全く要領が悪い。

「へぇへぇ、バニーちゃんはいつも涼しい顔して、まるで耐熱スーツでも着てるみたいですね~」

 タイを緩めたシャツの胸元をパタパタと仰ぎながら、虎徹が隣の席に腰を下ろした。

 バーナビーの鼻先を、虎徹が屋外で存分に浴びてきた太陽の香りが掠めた。

 それに、虎徹自身の体臭も。

「……、」

 思わず顔を伏せる。

 急に心臓が強く脈打ち始めて、体が熱くなってきた気がする。

 ただでさえ体温の高い虎徹が屋外から帰ってきて隣にきたから、その熱が伝わってきたのか――そう自分を納得させようとして、バーナビーはぎゅっと唇を結んだ。

 虎徹は体温が高い。

 だから、バーナビー以上に暑がるのかもしれない。

 確かに虎徹と一緒にベッドに入っていれば、暑――

「っ!」

 バーナビーは手元に置いたグラスを勢いよく取ると、呷るように傾けた。

 かーっと熱くなった体内を冷やすように、氷をたっぷり入れた炭酸水を嚥下する。喉を上下させてひとしきり浴びるように流しこむと、少しは気持ちが落ち着いてきた。

「お、バニーちゃんいいもん飲んでるね」

 突然グラスを呷ったバーナビーの手元を覗き込むために、虎徹が椅子を滑らせてきた。

 表面が結露したグラスへ当然のように虎徹の腕が伸びる。

「やめて下さい」

 眼鏡越しに冷ややかな眼差しを向けると、虎徹が首を竦めて、硬直した。

 そろり、と視線だけ動かしてバーナビーの顔色を窺う。

「僕、そういうの苦手なんです」

 にべもなく言い放って作業中の画面に視線を戻すと、虎徹はおとなしく腕を引いた。

 何が、とは聞かない。

 バーナビーが何を苦手だと言ったのか――虎徹はわかっていて聞かないのか、それとも興味もないのか。

 虎徹はただ「暑いなー」とだけ言って、席を立ってしまった。

 だから、じっとしていれば良いというのに。

 呆れるように一つ息を吐いて、バーナビーは仕事に集中した。実際、虎徹が隣にいなくなれば体の熱も下がっていくような気がする。

 それを言葉にすれば、まるで虎徹が隣にいることを不快だと言っているように聞こえるかもしれないが、そうじゃない。

 虎徹のせいで否応なしに体温が上がっていくのは、不快じゃない。

「ほれ」

 ふらりとどこかに去って行った虎徹が、デスクに戻ってきたかと思うとバーナビーの手元を邪魔した。

 ――アイスだった。

 バーナビーが顔を上げて虎徹を仰ぐと、虎徹は笑っている。

「そこの自販機で買ってきた。俺一人で食うのもナンだからよ。一緒に食おうぜ」

 バーナビーの前に差し出されたアイスバーはストロベリー味、虎徹の手元にはバニラがある。選択の余地はないらしい。そういうところが、彼らしいといえば、彼らしい。

「……、ありがとうございます」

 バーナビーはアイスを受け取ると、また体の芯が熱を帯びてくるのを感じた。

 どうしたらこの燈火のような熱が冷めるのかもわからないし、消したいとも思わない。

 暑がりなおじさんのそばで、ずっとその熱にあたっていたい。

「ん、」

 立ったままさっさと自分のアイスを袋から取り出して齧り付いていた虎徹が、また廊下の外で困っている人を見つけたのか、声をあげた。

 バーナビーがそれに気付くよりも早く、手に持っていたアイスを押し付けられる。

「悪いバニー、ちょっとこれ持っててくれ!」

 食べかけのアイスをバーナビーに持たせると、虎徹はドタバタと騒がしい足音をたててオフィスを出て行ってしまった。

「――……、」

 片手に自分の分に買ってもらったストロベリー味、片手に虎徹の食べさしのバニラ味を持たされて、バーナビーはその後ろ姿を呆れ顔で見送った。

 声をかける間もなく出て行ってしまうのだから、どうしようもない。

「落ち着きのない人だな……」

 ため息を吐いて、バーナビーはふと手に持ったバニラ味を見下ろす。

 虎徹がいつ戻ってくるのかわからない。とっさに駆けていった虎徹自身もわかってないだろう。虎徹の歯型がくっきりとついたバニラアイスは今はまだ溶ける気配もないが、もしかしたら溶けてしまうかもしれない。

「――、」

 バーナビーは一度唇を湿らせると、そっとバニラアイスの噛み痕に口づけた。


 
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