No.25905

SFコメディ小説/さいえなじっく☆ガール ACT:9

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!…のはずが今週はうっかり忘れてました…
フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その9。

2008-08-20 00:42:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:627   閲覧ユーザー数:591

 夕美は、ふたりがほづみを過大評価しているのも無理はないと思う。…特に麻樹は。

 

 たしかに瀬高ほづみ、見映えは悪くはない。オトコマエとまではいかないものの、180センチと背も高いし適度に筋肉質。スタイルもまあまあだ。

 ただし性格はかなり天然系、いや下手したら電波だし、おっとりしているようで研究者にありがちな理屈っぽさや頑固さもある。

 とはいえ、黙ってさえいれば温厚な上にいつもにこやかだから、人に好かれるタイプの青年に見えるに違いない。

 

 

 数年前、中学生だった三人が夕美の家で宿題をすることになったことがある。

 ほづみが長期の旅に出る前で、それまで父親と二人して研究棟に籠もっていたのが、たまたまその時は空いた小腹のためにおやつを調達しに台所へ出てきて、麻樹と鈴に出くわした。

 すらりとした青年が白衣姿の『いかにもインテリ研究員です』風であらわれて、爽やかな笑顔と共に白い歯を光らせつつ「やあ、いらっしゃい。夕美ちゃんがいつもお世話になってます」などと言ったものである。

 たとえ中身がどうあろうと、夢見がちな年頃の少女に小マシなルックスの青年が実際より数割増しに見えても仕方がない。

 そしてそのまま数年封印された高評価は乙女の記憶の中で熟成を遂げる。そして論理思考タイプの鈴はともかくも、感情先行型の麻樹の場合は熟成どころか発酵していてもおかしくない。

 

 その点、あいにく幼い頃から家事を担当してきた夕美にしてみれば、ほづみは“父親のついでに世話している人”という程度の感覚しかない。

 同じ屋根の下で暮らせば、見たくなくても相手の様々な醜態までも見るハメになる。

 そうなると愛情は愛情でもいわば動物園の飼育係みたいなもので、恋愛対象の範疇からはどんどん離れてゆく。

 強いていえば古女房か、百歩譲っても下宿のオバサン的な視点でしか彼を見ることしかできなくても、やむをえないのだ。

(憧れ…ねえ。)

 自分の中にある“ほづみ像”を思い浮かべ、その言葉とのギャップに改めて夕美は苦笑いする。

 

 

 昼休み。校舎の屋上に上がり、いつもの三人で弁当を広げていると、またも麻樹が蒸し返してきた。

「ねええ、夕美ぃ」

 この学校の屋上は普段から開放されていて、中庭などと同じく休み時間ごとに生徒でにぎわっている。特にこの日のように天気が良く、爽やかな風が吹いていれば空気の濁りも少なく、かなり遠くまで見通せる。

 あいにく今は学校の近くで巨大なタワークレーンを何本もおっ立てて、杭打ちだとか溶接だとかを朝から轟々と音を響かせながらビルの新築工事をやっているので、静寂さというのは望めない。

 もっとも、屋上に集っている学生たちの喧(かまびす)しいおしゃべりに比べれば、騒音レベルは大差はないのかもしれないが。

 

 屋上といえば、一般的な学校なら自殺防止とまでは言わないものの、危険だからとかいろいろ口実を設けて立ち入り禁止にしそうなものだが、この学校では球技などができるようにと、高いフェンスの上にさらに背の高いネットで鳥籠のように囲むことで安全を確保しているのである。

 しかも広さも充分あるので体育の授業にも使われている。

 

 だが、一見自由な解放区のようでも、実はちゃんと安全対策も兼ねた監視カメラが何台もあるので授業中にサボりに来る───などという芸当はできないのである。

 

 閑話休題。

 

「夕美、ほんっっっっとに、その、〈ほづみ君〉には興味ないの?」

「なんや、またその話かいな。ええ加減にせんと、マジ怒るで」

「違うのよ、その…またあんたん家に遊びに行っていいかな〜って。」

「えっ。───ああ、あ、あかん、あかん」

 とっさに夕美の脳裏に屋根と壁のない自宅の姿がありありと浮かび、目にも止まらぬ早さで手を振った。

「なんで。あっ。やっぱ夕美、ほづみさんのこと」

「ほづみ…さん?」麻樹の態度の変化に鈴が真っ先につっこむ。

「アホなこといわんといて…て、麻樹。あんたこそ、ほづみ君に?───けど、何年も会うてへん…どころか、あんたは一回しか会うてへんのとちゃうかったか?」

 麻樹はいちいちうなづく。うなづくごとに、頬に赤みが差して視線が低くなってゆく。

 えええっ、と驚く夕美、ほー、と感心する鈴。だが夕美はこれでそれなりに合点がいったらしい。

「ははあ。そんでかぁ、やたら絡んできたんは。…けどな、やめとき。彼は薄情やでえ。なんせ外国行ってた三年間、あたしにハガキ一枚すらよこさへんかったんやで?当時中学生のあたしに毎日ごはんとか洗濯とか世話になっておきながら。しかも昨日かて、久しぶりに会うたのに、大きなったなあとか、元気やったかのひとこともあれへんかったわ。外国みやげのひとつもあれへん。いや、お土産期待しとったわけとちゃうけどな。………けどほんま、空想の中で膨らんだ恋愛感情なんか信じとったらロクな事に成らへんで」

「お?おー?恋愛経験ゼロのあんたがずいぶん解ったような事ゆーじゃない。」

 麻樹は真っ赤な顔を上げて反論した。訳知り顔で説教する夕美にカチンと来たらしい。

「………うっ。それはまあ、そやけど…。」

「あたしなんて自慢じゃないけど物心ついたときには恋してたんだから」

「麻樹ちゃん、それ…単なる色ボケってことはない?」

「鈴っ!! あんた、言って良いことと…」

 

 まるでトリオ漫才のようにアホなことを言い合っては夢中で騒いでいる夕美たちには、まさかそのくだらない内容の会話をはじめから階段室の影でじっと耳を傾けている人物がいるとは思わなかった。

 

〈ACT:10へ続く〉


 
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