~天下の大徳、鈴に導かれ片鱗を見せるのこと~
「なるほどな~。お兄ちゃんは、三回も大陸に平和をもたらしたのかー。
だから、あの威圧が身についていたんだなー。でも、その割にぜんぜん強くなってない気がするのだ」
朱里と雛里の暴走をひとまず収め、俺は鈴々との時間を持っていた。
話が終わるまでは大人しく聞いているから、とのことだったので、ちなみに劉備さんも同席している。
俺がたどった外史の流れを話すと、鈴々は困惑することも無く、どこか腑に落ちたといった風だった。
劉備さんは発言が許されていない分、混乱度合いが増して、頭から湯気が出そうになっている。無理もない。
いきなり、目の前の人間に、三回も戦乱駆け抜けた経験を持っていて、今回が四回目なんです、
なんて言われて、姉妹はそれで納得している状況。
自分の知らないところで、世界が変わっちゃったような。俺が外史に落ちて感じた感覚に似ているのかも。
ちなみに愛紗はまだ操心の術をかかったままで、大人しくしてもらっている状況。
鈴々と朱里、劉備さんとの話が終わってからでないと話が進まないという判断からだ。
「・・・そりゃ、武で鈴々たちに叶うわけがないだろう?
第一、平和をもたらす事が出来たのは、俺の力じゃない。俺は手助けをしただけだ。
ただ、助けられなかった人たちがいるから。わがままだとは思うけど、その為に動きたいんだ、今回は」
「えっと、馬騰に周瑜、黄蓋、孫策だったっけ?」
「うん、たどる歴史の流れによっては命を落としてしまう人々だ」
「むー。でも、馬騰と孫家は国が違うのだ」
「だから、特定の勢力に属するのはまずいかな、とは思っていたんだけどね。
ただ、朱里や雛里、風などの軍師勢がいろいろ考えてくれているみたいだから、相談しながらやっていくよ。
まだ、この世界では知り合いにすらなってないんだし、まずはそこからかな」
「だから、旅商人さんなのかー。ちなみに、どんなものを扱っているのだ?」
「・・・まだなんだ」
「ほえ?」
まずは愛紗たちに会ってから、と思っていたから、旅商人らしきことは何にもやってない。
この辺りは、袁紹さんの力が及んでいる所だから、綿花や高粱(モロコシ)を元にしたお酒を大量に仕入れて、などと考えていた。
本来はこの時期に伝来してないはずの綿花が大量栽培されている、というのは外史ゆえ。
というか、綿花無いと、皆の服装は何の素材で出来ているんだ、って話になってくるとは思うんだ。
「買い出し用の資金は曹孟徳さんに出資してもらったんだけど、商品自体はまだ・・・」
「お兄ちゃん、なにやってるのだ・・・」
鈴々の呆れ顔に苦笑いするしかない俺。うん、金華琳にも叱られそうだよな。
南に行くなら、蜂蜜も必要になるかもしれないし、これも皆と相談しないと。
「でも、早速曹操と仲良くなるなんて、さすがお兄ちゃんなのだ。
おまけに、黒曹操に星、軍師っぽい女の子三人も仲間にしてるし、貂蝉にあの于吉まで一緒なんてすごいのだ」
イシシ・・・と鈴々は笑う。茶化されてるな~と思いながらも、俺も否定しようがなく。
「そっちだって、左慈を仲間にしてたじゃないか。驚いたぞ?」
「あー。あれはお姉ちゃんのごり押しなのだ」
「ごり押しって、左慈をか?」
「詳しくはお姉ちゃんに聞くといいのだ」
鈴々から促され、改めて、劉玄徳その人と真正面から向き合う姿勢を取る。
なんだろう・・・俺と変わらない、普通の女の子、といった印象を受ける。
ただ、吸いこまれるような淡い緑色の瞳は、確かに強い意志を持っていた。
今も表面上は慌てたり戸惑っている様子が見えるけど、根っこの部分はぶれてはいないだろう、と見る。
「お待たせしました。・・・話も一段落したので、もう会話に入ってもらって大丈夫ですよ」
「・・・あっ、は、はい!」
緊張しているみたいだから、少しでも笑顔を向けて安心させようと思ったんだが、失敗かな。
なんか、ぼぉーとしていたみたいだけど、平気だろうか。雛里の時みたいに、心なしか頬が赤い気が。
「えっと、大丈夫ですか?」
「・・・お兄ちゃん、相変わらず無自覚なのだ。さ、お姉ちゃん、見とれるのは後にするのだ」
何に見とれているっていうんだ、鈴々。あ、この服装か。大陸には無い素材だもんな。
「あ、ありがとう、鈴々ちゃん。うう、朱里ちゃんが言ってたのがわかるよ・・・これは反則だよ・・・」
「?・・・改めまして、自己紹介から。俺は、姓を北郷、名を一刀。字や真名は無いんだ。
だから、姓でも名でも好きに呼んでもらえればいいよ」
「は、はいっ! 私は姓を劉、名を備、字を玄徳、真名を桃香といいます!」
豊かな胸を強調するように、両腕で挟み込む仕草を取りながら、満面の笑顔で自己紹介する玄徳さん。
天然なのか、意識してなのか判らないけど、その仕草はあざと過ぎるっ!
しかし、愛紗や星とはまた違った良さのある、女の子らしいその柔らかさを強調されると・・・うん、破壊力抜群だね。
さすが桃香さん、天下の大徳おっぱ・・・って、え?
「ちょ、ちょっと待った! 玄徳さん、思い切り真名言ってる!」
「はい、そうですよ? 桃香って言います」
さも当たり前だと言いたげに再度、真名をあっさりと口にする玄徳さん。
いやいや、雛里もそうだけど、皆もっと大事にしましょうよ!
真名って『本人が心を許した証として呼ぶことを許した名前であり、本人の許可無く“真名”で呼びかけることは、
問答無用で斬られても文句は言えないほどの失礼に当たる』って奴だろ!?
金華琳とも仲良くなったけれど、真名までは許されてないしな。
俺の認識は間違っていないはずだ・・・。
「・・・真名ってさ、そんな簡単に許していいもんじゃないだろ?」
嘆息する俺に、玄徳さんは笑顔のまま、迷うことなく答えを返してきた。
「事情はわからないけど、鈴々ちゃんと朱里ちゃんがあれだけ赤裸々な自分を見せられる一刀さんは、
私が真名を預けていいと思える人だと信じられますから♪」
だから、私の信頼の証です、と微笑む玄徳さんを、温かな日差しのように暖かく感じる。
参った、普通の女の子って思ったけど、この華琳と違ったカリスマ性は、間違いなく三国の王だ。
ただ、その突出したカリスマ性に、自身の他の能力が多分、追いついていないんだ。
朱里や雛里が話していた、王としての教養を身につければ、短期間でその才は一気に花開くかもしれない。
「・・・わかった。桃香さん、その真」
「桃香です」
「だから桃香さ・・・」
「と・う・か、です」
この笑顔での威圧・・・っ! この俺が完全に気圧されている!?
・・・いや、春蘭とか星なら、いざ知らず。武は正直、今は俺の方が上のはずだよ!?
「・・・桃香、真名を預かるね」
「はいっ♪」
おお、圧が無くなった・・・。というか、マジで怖かったよ。
「・・・やっぱり、お前も中てられたか」
脱力しながらも、声の方向を見れば。音も立てずに、窓辺に左慈が腰かけていた。
「ここニ階だぞ?」
「跳べばいいだけの話だ」
さも当然とばかりに左慈は言い放つ。・・・流石の身体能力だ。俺、気脈活性化したといえ、よく無事だったよな・・・。
「そっか。ところで、中てられたって、お前も?」
「あぁ。玄徳に拾われた時に、同じ気を向けられた。
俺の時は、真名は呼ばんと言ったら、『ご主人様』と呼ぶから認めろときた。
断固拒否したが、さすがに三刻もその気をぶつけられるとな。いい加減面倒臭くなって、勝手にしろと言った」
「うわぁ・・・」
三刻もその気を発せられる桃香さん、恐ろしい娘! その理由も理由だけどさ・・・。
「ま、この三姉妹と一緒に行動している理由を説明するのに、俺もいた方が手間が省けるだろう」
「なるほど。確かに助かる」
「え~っと、お兄ちゃん・・・じゃ、混じってややこしいのだ・・・。
えっと、左慈お兄ちゃんは今回、別に鈴々たちに何かやってきたわけじゃないのだ。
むしろ、鈴々や愛紗に稽古をつけてくれたりしてるし、良い奴になったのだ」
「うんうん、愛情表現はすごく不器用だけど、厳しい言葉の中に優しさを感じるし。自慢のご主人様なんだ♪」
「誰が愛情だ!」
「もぅ~。照れ屋なんだから、ご主人様は」
「・・・ほんとに調子が狂う。今回はお前を放っておいても、勝手に世界から弾き出されるしな。裏でこそこそ動く必要も感じん。
お前をぶっ殺すことだけに注力すればいいだけの話だ」
「え~!? ご主人様、一刀さんと思い切り戦いたいだけでしょ? 殺すなんて言っちゃだめだよ!」
「何を言う・・・俺はこいつを」
「素直になれないのはわかるよ! 愛紗ちゃんもそういう処、すごくあるし!
だけど、力のある人同士が手を取り合えば、それだけ多くの力無い人たちを守ることが出来るんだから!」
「話を聞けぇぇえええ!!!」
「聞いてるもん!」
・・・噛み合っているようで、全く噛み合ってないやり取り。
ふと、鈴々を見れば、見慣れた光景だというように、呆れ顔に近い表情をしている。
「お姉ちゃんは天然で強引だから、左慈お兄ちゃんもとことん調子を崩されているのだ」
「・・・あれか。左慈としてはさっさと去るつもりだったのに、のらりくらりとかわされて、今の感じになってる?」
「変に義理堅いからなー。去るんだったら黙って去る手もあるのに、それをしないのだ。
だから、知らずに今回はお兄ちゃんと呼んでいたけど、鈴々は気にしてないのだ」
漫才のような会話を眺めながら、俺は乾いた喉を潤すために茶をすすり、鈴々は俺が試作した携帯用の干し肉にかぶりつき、
二人が放置している俺たちに気付くのを、のんびりと待つことにしたのだった。
桃香さまは、成長する王。
指導役が幾度の外史を巡った一刀に、天界の知識を持つ華琳に優秀な軍師勢。
短期間で覚醒フラグが来る!きっと!多分!
あのおっぱいの包容力は三国一なのは間違いないと思う。
次回は愛紗切腹阻止会議。その後愛紗拠点となります。
それはまた次回。
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前回のあらすじ:一刀と朱里との別離フラグを叩き潰した雛里。彼女たちは歴史の影で暗躍を始めたのだった!(完)
ですてに先生の次回作に(ry
・・・さて、打ち切り臭を漂わせたところで、鈴々と桃香の拠点です。
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