No.25867

方向オンチ少年シリーズ②~雨季~

とかげ。さん

方向オンチ少年シリーズ第2弾。
梅雨の季節に透が出会ったのは…。

この作品は①と共に6年程前に書いた作品です。

2008-08-19 21:12:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:558   閲覧ユーザー数:544

雨季

 

 

 

 

方向オンチな徹が歩いていると

今日も新しい場所に着いた。

それは雨の日だった。

 

act:1

「私の顔を知りませんか?」

 

髪が腰の辺りまで伸びた女の人が傘も差さずに

木の下にしゃがみこんでいた。

「はあ。」

徹は一つため息をついて足を止めた。

「こんな所で傘も差さずに・・風引きますよお姉さん。」

徹は学生鞄から折りたたみの傘を片手にさした傘を持ったまま

という器用な格好で取り出した。

「ありがとう。」

そう言った声から人間だったら本当にお姉さんだな

と、徹は思う。

しかし、顔がそこにはなかった。

いわゆる“のっぺらぼう”という妖怪の一種だろうかとも徹は

思う。

「どういたしまして。」

ふっと優しい笑顔でそういうと徹はまた道を歩き出した。

「あなたは私の顔がどこにあるか知らない?」

お姉さんは何もない顔を徹に向け、ない口で呼び止めた。

「ごめんなさい、そっちのことでは役にたてそうにないや。」

振り返らずに徹は、そう言うとまた歩き出すことにした。

(探し物をしている彼等には関わるなと言われてたかな?)

徹はミミに言われていたことを思い出していた。

(怒るだろうな・・・。)

徹は切りそろえられていない爪を出して、歯を剥き出しにした

ミミの姿を想像していた。

明日も天気は雨らしい・・・。

 

act:2

「やっぱり・・・。」

徹は生徒玄関の前で傘の意味もなさそうな雨の降り方を見て、

ため息をついた。

「徹、一緒に帰ろうぜ。」

数少ない友人である遠藤和也が珍しく徹をさそった。

「部活は?」

徹は和也に向けて目を少し動かすと、ワンタッチ傘のボタンを

押す。

「この雨だからさ、帰れって。」

続けて和也も紐をびりっと剥がしボタンを押す。

「でも俺、用事があるから・・・。」

すたすたと徹は和也に背を向け歩いていく

「うわ、友達がいのない奴!!」

和也はそう叫ぶと傘を素早く閉じて校内へと走っていった。

(友達がいってなんだよ。)

徹は心の中で呟くと昨日と同じ場所にたどり着けるように

念じた。

道をどういう風に進むかは徹に選択権がない。

「あれ?」

昨日とは違う場所だった。

少し似ていると思うのは同じ種類の木が立っているからだろ

うか。

ピシャ!!ザーー。

遠くの方での雷を合図にいっそう雨が強くなる。

「うわ。」

徹はとりあえず、少しはましであろう木の下へと身体を滑り

こませた。

ポトリ。

傘を閉じた徹の顔に上から一粒の水が落ちる。

やっぱり少しは雨が落ちてくるかと徹は木の上の方を見上げ

た。

「ああ。」

徹の目には木から浮き上がる女の顔が写った。

 

act:3

「お姉さん。顔を上げてみる気にはなりましたか?」

何度か試してやっと徹はこの場所にたどり着いていた。

やっぱりこの日も雨で、前と違うのは今日が日曜日で徹が制服

ではないということだけだ。

「私を見てもあなたは逃げないのね。」

口のない声はやっぱりどこからか聞こえる。

「なれてますから。」

少し困ったように徹は苦笑いを浮かべた。

「・・・ありがとう。」

お姉さんはそう言って立ち上がると木の上を見上げた。

「私の顔はどこかしら?」

呪文のように奇妙なアクセントで声は言った。

「私の身体はどこかしら?」

木の上からいつかの顔が呪文を唱えていた。

 

***

 

「うわ、すっげえ晴れてる。」

月曜日の放課後だった。

「お前部活は?」

徹はうっとおしいほどの光を発している太陽を見上げながら

和也に聞いた。

「今日はねえよ。」

和也はこの前のことを根に持っているのかふてくされながら

答えた。

「よし。じゃあこれでも差して帰ろうぜ!!」

徹は鞄から折りたたみ傘を取り出すと和也の方に投げた。

「必要ねえだろ。」

そういいながら和也は嬉しそうに笑った。

(帰ったらミミに報告しに行こう)

徹は和也を置いて走り出していた。

 

 

 

END

 


 
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