No.255607

東方幻常譚第五話

自分に追い討ちをかける為に第五話投下。

2011-08-02 19:53:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:823   閲覧ユーザー数:801

 暇を持て余した天人の「姫」は、周りを省みずに自らの力を振りまわす。そんな事も今思い出せば「姫」の虚ろな過去の記憶に過ぎない。そしてまた、「姫」の周りで「姫」の一挙手一投足に心底疲労を感じるリュウグウノツカイの「彼女」にとっては、そんな出来事など数多くある「姫」のおてんばの、ほんの一部にしか過ぎない。

 しかし彼女達の日常は、それでも緩やかに、穏やかに過ぎていく。

 

東方幻常譚 The another story 第五話「二つの歯車~TwinLifes~」

 

 幻想郷の雲の上には、もう一つ「世界」がある。通称―と言うべきか―天界と呼ばれるその世界は、我々の住むような世界を見下ろすその位置故からか、それとも確かに地上とは打って変わったすばらしき環境からか、そこは文字どおり天国だった。

 「姫」の寝起きする寝室も、当然その例には漏れなかった。

「あぁ暇だわ。また地震でも起こそうかしら。もう暇過ぎて死にそうだわ」

「総領娘様、またそんなことをなされては、天界どころか幻想郷から追放されかねません」

「分かってるわよ煩いわね!もう寝るわ」

 それだけ言い放つと天子は、天蓋から垂れるカーテンをてで払いのけて、そそくさと中に敷かれた布団に潜り込んだ。

「では、おやすみなさいませ」

 そう挨拶してから数分、天子が寝てから少しもしないうちに、衣玖の姿は総領の部屋の前にあった。扉の前に立つ衣玖は、躊躇いも無くその扉を叩いた。

「旦那様、失礼致します」

 部屋の中から返事が聞こえ、衣玖は目の前の扉を開き、中に入っていった。

 

 

 天子は、自らの顔にさし込む太陽の光で目を覚ました。なにかいつもと違う。いつもはこんなにも日差しは差し込まないのだ。

「おはようございます。総領娘様」

「衣玖・・・まぶしい・・・なによこんな朝から・・・」

 ベッドの中にさし込み続ける日の光に顔をしかめながら、どうにかその光源を探し当てる。部屋のカーテンはおろか、窓すら開いていた。道理でまぶしいわけだ。心の中でそう呟くと、天子はベッドから体を引き離し、既に用意されていた自分の服に袖を通した。

「で?結局、何でこんなに早く起こしたの?」

 早いといっても我々の時間で言えば朝9時ごろである。あまり早くは無い。

「旦那様から、今日一日だけ下界に下りる許可を頂きました。今日はお時間もありますから、のんびり下界散策などされてはいかがかと」

「誰がそんなこと頼んだのよ、まったく・・・」

 そうぼやく天子の顔だったが、まんざらではなさそうだった。

「では、お弁当も用意致しましたし、参りましょうか」

 

 

 二人が最初に降りたのは、なんの因果か、かつて天子が壊し、再建した博麗神社だった。ちょうど境内で霊夢が掃除をしている。ふと顔を上げた拍子に天子達の姿を見つけた霊夢は、あからさまに嫌な顔をした。

「あんたら何しに来たの?お弁当箱引っさげてまで異変かしら?」

「そんなわけ・・・!」

「ごきげんよう、霊夢さん。本日もご機嫌麗しゅう。お掃除ですか?」

 衣玖は、霊夢の言に対して突っかかろうとした天子をそれとなくなだめ、霊夢に挨拶をした。挨拶をされた当の霊夢は、予想外の展開に呆気に取られた。

「え、えぇ。あんた達は?」

「今日はただの散歩ですわ。掃除の邪魔をしてもいけませんものね。総領娘様、参りましょう」

「え、ちょっと衣玖・・・!」

 強引に天子を境内から連れ出すと、そのまま鳥居をくぐって階段を降り、歩き始めた。辺りは相変わらず麗らかな天気で、散歩には向いていた。

「もう!なんで私の話を遮るのよ!」

「あのままでは巫女に邪険に扱われていっそう不機嫌になるだけではないですか。あれは巫女流の冗談なんですから」

「私そんなに単純じゃないわよ!まったく失礼ね・・・あ」

 天子がふと目をやると、道端―と言うよりは、道を境に広がる辺り一面に―花が咲いていた。文字どおり絶句した。彼女のいつも見る花は、花瓶に生けられた、切られた花しかなかった。こうして実際に根を張って、地面から伸びて咲き乱れている様は、天子には刺激的だった。いや、と言うより懐かしかったかもしれない。

「美しいですね・・・。そう思いませんか?総領娘様」

「あら、あなた達もこの花を見に来たのかしら?」

 声のしたほうに振り向くと、傘を差した緑髪の女性が立っていた。

「見ない顔ね。はじめましてかしら?」

「はじめまして。こちらにはよくいらっしゃるんですか?」

 景色に見とれていた天子は、返事をするのもわずらわしいと言った様子で幽香を無視した。その代わりにと言えば良いのか、衣玖が幽香に挨拶をした。

「えぇ。私は花が好きなの。そこのお嬢さんもかしら?」

「・・・そうね。大好きよ。懐かしいわ」

 天子は、パンッと軽くでん部を払ってから立ちあがり、幽香に向き直った。

「比那名居天子よ。あなたは?」

「風見幽香よ」

「では幽香さん。お茶でもいかがですか?」

 しばらく会話に参加していないと思ったら、花を背景に自己紹介し合う二人を尻目に、衣玖はどこから出したのかお茶を用意して幽香と天子に差し出した。

「あら、あなたの従者さんは気がきくわね」

 お茶の入ったカップを受け取った幽香は、ほのかに湯気の立ち上るカップの縁に口をつけて、中のお茶を少し飲み下した。

「美味しいわね。ジャスミンティーかしら?」

「はい。その通りですわ」

「衣玖ぅ、私にも頂戴よ」

 どうぞと差し出されるカップを受け取った天子は、幽香に続く様に自らのお茶に口をつけた。

「あつつ・・・美味しいわ」

「ふぅ・・・美味しかったわ。想われてるのね、あなた」

 それだけを言い残すと、幽香は衣玖にカップを渡して、傘を開いて歩いていった。

「なんの事かしら?はい、ご馳走様」

「さぁ・・・いったいなんの事でしょう?」

 二人分のカップを片付けると、衣玖はすっと立ちあがった。

「さ、総領娘様。もう少し行ったところでお弁当にしましょう」

 衣玖が先に立って歩き出すと、天子はそれを追うように歩き始めた。相変わらず、咲き誇る花達は風に揺れていた。

 

 

「幽香さーん・・・あれ、珍しいですね。もうお茶を入れているなんて」

 リグル・ナイトバグが風見幽香の家の扉を開けると、ほのかなジャスミンの香りが彼女を包んだ。

「あら、リグル。あなたもいかが?」

「あ、頂きます。ちょうどお菓子を持ってきたところだったんですよ。ナイスタイミングですね」

「はい。熱いから気をつけなさい」

 リグルは、自分の持って来た小袋を机の上に置き、カップの前に座り、一口お茶をすすった。

「美味しいです」

「それはそうよ。大好きな人のために淹れるお茶だもの。美味しいに決まってるじゃない」

 危うくお茶を吹き出しそうになったリグルは、口の中に残っていたのを飲み下し、「えっ」と間抜けな声を出しながら、幽香のほうを振り向いた。

「あ、あの!それってどういう・・・?」

「そのままの意味よ。大好きだもの。あなただってそうでしょう?」

 それだけいって、幽香は顔を背けた。しかし、リグルに向かっている彼女の耳は真っ赤だ。あまり顔を背けた意味も無いかもしれない。しかし、今度はリグルが真っ赤になる番だった。

「そりゃぁ・・・そうですけど・・・」

 お互いに真っ赤になって、その場の雰囲気は何か重苦しいような、気まずい雰囲気になった。

 

 

 「あ~っ・・・ぷはぁ」

 天子は、ひときわ大きく伸びをした。

「お疲れですか?一休みしましょうか」

「いえ、大丈夫よ。むしろ疲れがとれた感じがするわ」

 振り返った天子は、半歩さがった位置を歩く衣玖に微笑みかけた。衣玖もまた、そんな天子に微笑む。

「衣玖・・・いつ・・・あり・・・と・・・・」

「え?あの、総領娘様、申し訳ありませんが、もう一度言っていただけませんか?お声が小さくて聞き取れませんでしたわ」

 そうは言ったものの、衣玖は決して聞き逃した訳ではなかった。自分の主が、自分に礼を言ったのが信じられなかったのだ。

「な、何でもないわよ!そろそろ帰りましょう。日も暮れてきたわ」

 天子は照れたようにきびすを返すと。、スタスタと歩いていく。衣玖は、その背中を慌てて追い始める。

「私も、いつまでもお慕い申し上げます」

 きっと、この位の距離感でいいんだ。衣玖は自ら納得し、ふと足を止めて、視線を横にやる。その視線の先では、相変わらず綺麗な花が咲き乱れていた。

 

 

東方幻常譚 第五話 了

 

~返事がない、ただの後書きのようだ~

 

 そんな訳で、もう第五話なんですが、この話は昨今の同人での流行でありまする、「かっぷりんぐ」なるものを重視して書いてみました。

 ・・・何が言いたいのかといいますと、読み返していると2828してしまいますので、あんまりキチンと校正しておりません。誤字脱字等ありましたら、ご一報ください。2828しながら修正します。

 しっかし、自分の書いた、しかもSSで2828とか、妄想が過ぎる証拠ですね。あ、読者の皆様は存分にニヤニヤしてください。

 と、いうわけで、いよいよ書き溜め分もなくなってまいりました。危機感を覚え始めたので、続き書く作業に戻ります。次回もお願いします。


 
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