「お~っほっほっほっほっほっほ!お久しぶりですわね、みなさん?お元気そうで何よりですわ。お~っほっほっほっほっほっほっほっほ!!」
『……』
のっけからの高笑い。正直言って、それが出ることをある程度は予測こそしていたものの、まさか本当に出るとは思っていなかった一刀たちは、唖然呆然といった感じで、以前と変わりない彼女の姿に揃って落胆をした。
「あら?どうかされましたのかしら?ぼけ~っと揃って間抜けなお顔をされて」
「……相も変わらずな貴女の“それ”に、心底呆れ果てていただけよ」
「あ~ら、華琳さんてば相変わらずお口が悪いですわね?まったく、そんな人がよくまあこの名門たる私を差し置いて、王なんてものを名乗っていらっしゃいますこと」
「麗羽……おまえ、まだそんなものに拘っているのかよ?」
「そんなものとは聞き捨てなら無いですわね、白蓮さん?四世に渡って三公を輩出したこの袁家の名門振りを自慢して、一体何が悪いとおっしゃるのかしら?」
呆れ果てた調子で、袁紹のその態度に嫌味を投げかけた曹操。それに対し袁紹は、以前と同じような名門を鼻にかけたその台詞を返した。そんな袁紹に向け、怒りにも似た表情で彼女を責める言葉をかけた公孫賛に対しても、袁紹はやはり名門を自慢する言葉でもって答えて見せた。
「麗羽……どうやら貴女という人間は、一度死なないと更正出来ないようね?」
「一刀に負けて、世の中の底辺って言う奴を、しっかりとその目で見てきただろうに。なんでそれでもその考えが変わっていないんだよ、お前は!?」
「だからこそ、ですわ!あんな惨めな思いは、もう二度とごめんですわよ!やはりこの私には、それ相応の立場と生活が一番似合っていますわ!そして!」
びしぃっ、と。袁紹がおもむろに、その指を一刀に向け、憤怒の形相でもって、はっきりとこう言い放った。
「北郷一刀!貴方に思い知らせて差し上げますわ!この私にあのような惨めな思いをさせた、すべての元凶である貴方にですわ!」
「麗羽……!!」
「お前……!!非があったのは自分の方だってこと、まだ認めていないのかよ!?」
「うるさいですわよ、白蓮さん!いいえ、公孫伯珪!皇帝の許し無く勝手に王を僭称するような輩に、この私を責める権利などありはしませんわよ!貴女は少し黙っていなさい!!」
「くっ……!この馬鹿野郎!お前って奴はいつになったら」
「……華琳、白蓮。もういいよ」
『一刀?』
それまで三人のやり取りを黙って聞いていた一刀が、不意に公孫賛の言を遮り、袁紹に向かってその足を一歩だけ踏み出した。
「あ~ら北郷さん。私に何かおっしゃりたいことでもあるのかしら?」
「……まず先に聞かせて欲しいんだけど。命が今の貴女を見たら一体どう思うと、貴女は思いますか?」
「(ッ!!)……あ、あ~ら、その方は確か、例のけったい仮面さんでしたかしら?…別になんとも?ただの貴方の一配下の人のことなど、何故この名門たる私が気にしなければいけませんのかしら?」
一刀の口から発せられたその名前。彼女がいまだ敬愛してやまないその人物の名前を聞き、一瞬だけその顔を青くしかけた袁紹だったが、なんとかそれに自制をかけることに成功し、全く関係の無いことだと一刀に対して言い返して見せた。
「……そう、ですか。分かりました。ならもういいです。……本題に入らせてもらいますが、貴女方がどうしてここにいるのか、それを聞かせてもらえますか?」
「……決まってますでしょう?貴方方をここで蹴散らすためですわ」
「何のために?」
「今上帝である劉協陛下のご命令ですわ」
静寂。一刀の問いに答えた袁紹の言葉のその後に、その一帯をわずかな間支配したもの。一瞬の時か、それとも永劫の時か、それは分からない。そして、先にその口を開いたのは、一刀の方からであった。
「……それで?その皇帝陛下とやらの勅命で、俺たちをここで倒すために待ち受けていたわけですよね?けどどうやって俺たちに勝つつもりです?そちらの軍勢を見る限り、せいぜい二千足らずしか居ないように見受けられますけど」
「あら。それはそちらも同じでしょう?確か許を出たときには三十万からの軍勢が居たはずですのに、今はどう見ても五万ほどしか連れておられないようですけど?」
「それでもこっちは、そちらの二十倍以上の戦力ですよ。ま、残りがどこに向かったのかは、内緒ですけどね」
「あら。別に教えて貰わなくても結構ですわ。どうせ貴方方はここから先にはいけませんもの。……斗詩さん」
「はい、麗羽さま」
袁紹に声をかけられた顔良が、その右腕を高らかに上げた。そしてそれを合図に、荊州軍の後方で旗が一本大きく振られた。
「?何だ?何かの合図か?」
それを見た公孫賛が、慌てて周囲へとその視線を送る。そんな彼女と同様、一刀と曹操もまた当たり一帯を大きく見渡す。そして、それらは唐突に現れた。
「なっ!?なんだあの旗の数は!?」
華北連合の軍勢を取り囲むように、周囲の丘や森から突然に沸いて出てきた、荊州軍を現す大量の軍旗。そして、
じゃーん!じゃーん!じゃーん!と。
一斉に鳴らされる銅鑼の大音響と、それらの近くに居るであろう大人数の声が、一刀たちの耳にとびこんでくる。
「……声の量を聞く限りじゃ、どうやら相当数の伏兵が居るみたいね。麗羽にしてはなかなかの手腕じゃない。ちょっとだけ見直してあげるわ」
「お~っほっほっほっほっほっほ!華琳さんにしては、随分素直なお言葉ですわね。さて、これで分かっていただけたかしら?私が一つ合図を送りさえすれば、四方八方から一斉に、兵が貴方たちに飛び掛りますわよ?」
旧知である曹操から出た、自身に対する褒め言葉(?)に気を良くしたのか、袁紹は自信たっぷりにそう言って笑みを顔に浮かべて見せた。
「……それで?俺たちにどうしろと?」
「そうですわね。このまま大人しく北に帰ってもらいたいところですけど、貴方たちにも立場と面目というものがあるでしょうから、一つだけ、提案させていただきますわ」
「提案?」
「ええ。……私どもとそちら。双方から四人づつの代表を出し、それぞれ一対一での一騎打ちを行うのですわ」
「それで、勝ち数の多いほうが、この場での最終的な勝者になる……そういうことですか?」
「そういうことですわ。こちらの代表は、斗詩さんと猪々子さん、呂布さんとそして……この人ですわ」
袁紹が顔良、文醜、呂布の三人の名を告げた後、その視線を先の三人のさらに後ろに立っていた人物へと、すっと移した。そこにいたのは、真っ白な髪のか細い少女…劉琦であった。
「劉琦……さん、ですって?」
「おいおい!その娘、一騎打ちなんか出来るほどの武人なのかよ?!言っちゃあ悪いが、とてもそんな風には……」
「白蓮さん。そこは貴女が心配する必要の無いことでしてよ?さ、こちらの代表は以上の四人ですわ。そちらの代表もさっさと決めてしまってくださいな」
きっ、と。劉琦が一騎打ちを行うことへの懸念を示した公孫賛に、袁紹はそう言って彼女の言を遮り、早く対戦相手を決めろと、一刀達を急かして見せた。
「……仕方ない、か。じゃあこっちもメンバーを」
「あ、そうそう。始めに言っておきますけど、北郷さんは絶対に入ってくださいな。まさかとは思いますけど、総大将が部下に戦いを任せて、後ろでのんびり見物なんていう、そんな情けない真似はなさらないですわよね?」
「麗羽貴女……!!」
「抑えて、華琳。……どのみち、俺もそうするつもりでいたから、問題は無いよ。で、残りのメンバー…いや、面子だけど」
「では、某が手を上げさせていただきましょうかな?」
「星」
「いいですか?趙雲さん」
「無論。大船に乗ったつもりでお任せくだされ、北郷殿」
にこ、と。愛用の槍をその肩に担いで、一刀に余裕の笑みを見せてみせる趙雲。
「一刀さま、わたしにもやらせてください」
「沙耶さん。……やれますか?もしかしたら相手は」
「斗詩か猪々子のどちらかかも、でしょう?ならば尚更というやつです。二人のことはよく分かっていますから」
自身の得物であるその槍―銀水穿(ぎんすいせん)をその背に背負ったまま、張郃もまた一刀に向かってその笑顔を向ける。
「分かりました。それじゃああとの一人は」
「はいはーい!私が出たいでーす!」
『えっ?!』
おもむろに声と手を上げたその人物へと、一刀たちはとても信じられないといった顔をして、揃って一斉にむけた。……曹洪、字を子廉、その人に。
「なによー。あたしが一騎打ちに参加したいって言うのが、そんなに不思議なことなのー?」
「あ、いや、その。別にそういうわけじゃあ」
「……今度は何をたくらんでいるの、貴女?」
「企むだなんて人聞きの悪い事言わないでよ、彩香。……一刀にちょっとだけ、お願いがあるだけだってばさ」
「……やっぱり。で?お願いって、一体何を言うつもりなの?……またお金の話?」
「やははー、それでも別にいいんだけどねー。……あのね、前に話した例の件、あたしが一騎打ちに勝ったら、正式に認めて欲しいんだ……良い?」
『あ……』
『??』
曹洪の言わんとしている事に、一刀と曹仁がそれで合点が言ったという感じでいるのとは対照的に、曹操と公孫賛は一体何のことかと、さらにその首をひねらせていた。
「わかった。でも、いくらそのためだからって、決して無理はしないこと。いいね、雹華?」
「了解っ!」
「……ねえ、彩香。一体何の話なの?」
「……詳しいことは後で話すけど、あの子が守銭奴なんていわれながらも、今までお金に固執して来た理由。その、答えってところ、よ」
「……」
義理の従妹のその神妙な面持ちの横顔を見つつ、その言葉をただ黙して聞いている曹操であった。
「……これでよろしかったのかしら、久遠さん?」
「ええ。……すみませぬな、麗羽どの。貴女には嫌な役回りをさせてしまったな」
四対四での星取り戦(一対一で四試合をし、勝ち星の多いほうが勝利となる)が決定し、それぞれのその代表が決定したあと、袁紹はひそかに部隊中央へと移動をし、そこで待機していたその人物―丁原とひっそりと会話を行っていた。
「別に大した事ではありませんわよ。……大陸中を流浪していた頃、この地に流れ着いた私達が、貴女と美咲さんから受けた恩は大きいですもの。その事を思えば、この程度の嫌われ役くらい造作も無いことですわ」
「……かたじけない」
「けれど、一つだけ問題がありますわね」
「華北軍の大部分が、一体どこに行ったのか、ということじゃな?」
「ええ。荊州に入るその直前までは、確かに雲霞(うんか)の如き軍勢が居た筈ですのに、何処にどうやってその姿をくらましたのやら」
脱落者等が出て、徐々にその数を減らしたというのであれば、華北軍の数の減少もある程度は納得のいくものではある。だが、三十万からいた華北軍が、その数を一気に五万強にまで減らしたのは、豫州と荊州の境を越えてすぐの辺りだったと。前もって放っておいた草からは、そう彼女達は報告を受けていた。
「ともかく、じゃ。草組には引き続き、姿を消した華北軍の動向を調べさせている。何か分かり次第、こちらへ報せが来るじゃろう。今はともかく、それまでに」
「……あの娘の目的が、上手く果たせることを祈るばかりですわ、ね」
荊州軍の部隊最前列のほうでは、それぞれに一騎打ちに備えて武器の手入れや、ストレッチなどを行って体をほぐしている、劉琦ら四人の姿がある。
「……久遠さん。もう一度お尋ねしておきたいのですけど、あの娘の…美咲さんの武の実力は大丈夫なんですの?呂布さんは言うに及ばず、斗詩さんや猪々子さんにも、あの娘の武は遠く及ばないように、私には見えて仕方がありませんのですけど」
「……人を見かけで判断すること。それがどれほど愚かしいことなのかは、最初に会ったときにお教えしたじゃろう?……強いぞ、あの娘は。多分、恋とも互角に張り合えるだろうの」
「あ、あの呂布さんと?!」
「うむ。……もっとも、病さえ、あの娘の体を蝕んでいなければ、じゃがの」
「……」
戦いに向け、今はただ黙して座る劉琦を、彼女達はそこから静かに見つめ続けた。そして、太陽が中天を少し過ぎたその時刻。戦いの時は、間も無く始まりを告げようとしていた……。
~続く~
あとがきのようなもの。
さて。次回はいよいよ、一刀、星(趙雲)、沙耶(張郃)、雹華(曹洪)の華北勢対、
恋(呂布)、斗詩(顔良)、猪々子(文醜)、美咲(劉琦)の荊北勢による、
四対四での星取り戦が開始となります。
誰と誰がそれぞれ戦うのか、その辺りを色々予測しつつ、次回をゆっくりお待ちください。
で。
TINAMIが先月末にリニューアルし、色々なところが変更されました。
個人的には以前のバージョンの方が良かったんですけどね。しかもさらに、他所からの移住者の方々が、
TINAMIにたくさん訪れている現状で、恋姫関係がちょっと影が薄くなりつつある気がしないでもない、
今日この頃なのですけども。そんな状況にも決してめげず、これからも恋姫の火を絶やさない様に、
わたくしも微力ながら頑張って参りますので、一つ応援よろしくお願いします。
では最後に、八月十七日から二十三日に開催される、第二回同人恋姫祭りの宣伝をしておいて、
今回は閉めさせていただきます。それではみなさん、また次回にてお会いいたしましょう。
であw
以下、コピペですw
拝啓
盛夏の候。梅雨の終わりも近づき、本格的に夏を迎えようとしている今日この頃皆さま如何お過ごしですか。
こんにちは、TINAMI恋姫推進委員会副委員長の黒山羊です。
多忙な我が委員会の甘露委員長に代わりまして報告させて頂きます。
待ちに待った『第2回同人恋姫祭り』を開催します。
『同人恋姫祭り』とはテーマを決めてそれに即した内容の恋姫†無双に関する作品を皆様に出展して盛り上がろうという同人イベントです。投稿方法は問いません。
参加資格は特にありませんが、参加条件は有ります。
1つ目。
『同人恋姫祭り』の作品の投稿期間ですが、8月17日から8月23日までの1週間の間に投稿してください。夏コミで忙しい方が居ると思うので、それが終わってからにしようということになりました。
祭りということなので、パッと始まってパッと終わりたいという理由からです。
2つ目。
自分の作品を投稿する際に『作品説明』の欄で、自分の書いて(描いて)いる作品の紹介や自分のオススメの作品を1つ以上紹介、PRして下さい。
前回に新米作家の作品のPRが少なかったので、ここ1年で新規参入してきた作家さんの作品を必ず1つは紹介して下さい。そうしないとベテランの作家さんに片寄ってしまいますので、宜しくお願いします。
今回の企画は恋姫†無双を楽しみたいという目的だけではなく、TINAMIの活性化という目的も含まれています。そのため、読者や他の作家さんがTINAMIのサイト全体を楽しめるようにしようというのが狙いです。
3つ目。
『第2回同人恋姫祭り』のテーマは『自由』です。つまり、テーマは無しです。
各々思うように恋姫†無双を表現して下さい。
その代りに、初見の方も多数いらっしゃいますので、キャラクターの縛りを着けます。
出演キャラクターは原作とアニメに出てきたキャラクターに限定します。その方が読みやすいと思いますので、宜しくお願いします。
4つ目。
タグに『ckf002』と入れて下さい。
前回の時に間違えている方がいらっしゃったので、こういう単純な形となりました。
以上の規定を守らなくても特に罰則は有りませんが…ってか、作家にそんな罰則なんて出すことができませんが、楽しくこの『第2回同人恋姫祭り』を盛り上げるためには皆様の協力が必要です。ご協力お願いします。
では、皆様のご参加お待ちしております。
そして、これをきっかけにもっとTINAMIの恋姫が好きになってもらえたら嬉しいです。
敬具
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荊州に入った一刀達を待ち構えていたのは、
その数わずかに二千程度の、袁紹率いる荊北軍だった。
はたして、舌戦において袁紹は何を語るのか?
そして、その先に待つ展開とは。
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