No.254596

電波系彼女5

HSさん

折り返し地点まで来たかな?

2011-08-02 02:59:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:300   閲覧ユーザー数:295

八月某日の午後、幾ら約束したとはいえどうして俺はこんな所に居るんだろう。

 電車を降りて秋葉原の駅前に立ったぱるすは大きく深呼吸をすると、

「嗚呼、とうとうわたし聖地秋葉原に来たのね」

 と、傍から見るとかなりアブナイ人に見える発言をしていたのが数時間前。

 そのときは何処からどう見てもおのぼりさんにしか見えなかったに決まっている俺達だ

ったのに、今じゃ俺はともかくぱるすはこの街で生活しているんじゃないかと思えるほど

馴染みきっている。

 俺はというと、道端を普通に歩いているメイド姿の女の子に驚いたり「今日は何探しに

来たの?」と一瞬親切そうに見えるおじさんから広告チラシを手渡されたりと他の街では

体験したことの無い出来事が山盛りで、秋葉原はちょっとしたテーマパーク並みに驚きを

提供してくれる場所だなと、ぱるすとはまた別な方向で感心していた。

 

 そして今、狭い通路に所狭しと並べられた本やフィギュアの列、夏休みだからか平日に

も関わらずすし詰めの店内、俺にはとても真似できそうにも無いスピードで薄っぺらい本

を片っ端からぺらぺらとチェックしている人、人数の割りに静かな店で周囲の迷惑っても

んをまるで考えてないのか「ーナリよ」「ーにゃ」などと前半は何を言っていたのかまるで

理解できなかったが特徴のある語尾で喋り捲るグループ。そして懐中電灯に照らされた夜

道の猫のようにらんらんと目を輝かせて物色しているぱるす、その傍らで所在無さげに立

ち尽くす俺。

 最初の予定では軽く色々な店を見て回って秋葉原観光程度で終わる予定だったはずが、

俺の思ったとおりぱるすがうちで働くようになって明らかに昼間の客が増えたようで、ボ

ーナスとまでは行かないがぱるすに比較的多めのバイト料を払ってもまだお釣りがでるほ

どだったらしい。そのせいでお財布にかなりの余裕が出来たのか、ちょっと雰囲気を味わ

うだけのはずが各店舗をじっくり見て回るハメになっている。

 ぱるすが事前の調査をしっかりと(いつの間にか俺のパソコンで)していたお陰で道に

迷うことは無かったものの、ただひたすらについていく(時には手を引かれもした)こと

しか出来ない俺は、わがままな姫君に荷物持ちを仰せつかった従者のような気分だ。

「ねねっ見て見てヒカル」

 そう言って俺の袖を引っ張ってぱるすが指を指して見せたのは、小さな女の子のフィギ

ュアが4人セットで収まっているケースだった。

「可愛いと思わないー?」

 ジュエリーショップでピアスを選ぶような口ぶりで言う。

「まあ、可愛い、かな」

 まるでフィギュアに詳しくない俺でも、これがとても丁寧に作られているのが判る。

 恥ずかしい言い方をすれば、愛がこもってるっていうかさ。

「でしょっ、あーあ、茉莉ちゃんもいいけどやっぱりアナちゃんかなぁ美羽の憎たらしさ

も見事に再現されてるし……こうやって見てると伸姉の気持ちが凄く良く分かるわよね」

 よほどこうやって買い物をしているのが嬉しいのか、どの店を回ってもこの調子で俺に

はついていけないネタを散々振られている。

 しかしまるで関心のない事なら苦痛なんだろうけど、俺だって多少はアニメや漫画を見

たり読んだりしているので、所々目にしたことのあるキャラが居てそれについてはぱるす

に説明を求めたりなんかしたり……なんだ、俺も意外と馴染んでるじゃないか。

「それにしても結構店回ってるけど何処も同じようにしか見えないのに良くぱるすには見

分けがつくよな。俺みたいに良く解ってないヤツなら一箇所だけでおなかいっぱいになり

そうなモンなのにぱるすはよっぽどこの手のが大好きなんだな」

 そんな細かい違いを判断できたり何かを買う為に働けるほど熱中できるなんて素直に羨

ましいと思った。

 俺も何かハマれるもん見つけないとなぁ……それを仕事に出来るかどうかは別として

も、人に胸を張って自分はこれが好きだと言える物が無いってのは寂しい気がする。

「あったり前でしょ、日本のアニメを知る前の話だけど、私の知ってる映像作品は進化の

袋小路に入り込んじゃってたのか難解になり過ぎてて製作者が何を伝えたいのか良く解ら

なくなってたのね、だっておかしいと思わない?映画を見たとしてそれのストーリーを理

解するには別売りの本を見ないとダメだとか、例えばそうねAって登場人物がBって人を

殺す場面があったとして、作品中には何故そうしたのかなんて全く描かれてないけど本を

読むと実はこれこれこういった裏設定があってそれで殺したのです!とかさー、あとは表

現をぼかしてるだけなら兎も角全編適当に場面を組み合わせてお話も作品の真実もあなた

が決めてくださいなんてさー、そんな製作者のオナ……自己満足のアートまがいの事や

個別に完結しないものをやりたいんだったら不特定多数相手に娯楽として売り出すんじゃ

ないってのー」

 そこで一区切り入れると、そうするのが当然のようにこう続ける、

「一気に喋ると喉が渇くわね、ヒカルちょっとそこの自動販売機でジュースでも買ってき

て頂戴」

 へいへい、っと一日執事になった俺は手近な自販機にコインを投げ込んだ。

 !?

 そこにあったのは、あたたかーいコーヒーでもつめたーいジュースでもなく、

 お・で・ん

 とりあえずそれは見なかったことにして、返却レバーを押すと隣でまともな飲み物を購

入、話のネタに1本買っても良かったが、こんなクソ暑い炎天下でおでんをぱくつくなん

てどんな罰ゲームだよって事で冬の楽しみに取っておこう。

「ぱるす、秋葉原ってのはおでんまで自動販売機で売ってるのか?」

 飲み物以外がこうやって売られているのは冬場のお汁粉とコーンスープ程度しか知らな

かった俺には、ラーメン屋のメニューにカレーを見つけたときのような衝撃だった。

「あら、知らなかったの?おでん缶と言えば秋葉原の名物ってのは基本中の基本よ」

 こともなげにそう言うと、こくこくと飲み干していく。

 ……なんかジュース飲むって動作一つ取ってみても様になってるよな。

 一緒に歩いていても真っ直ぐ背筋を伸ばしていて猫背気味の周囲から頭一つ飛び出して

るように見えるし、晩御飯を家で取っているときも和食のメニューなのにどこのレストラ

ンで食べてるんだ?と思えるほど優雅に口に運んでいる。

 自分からは語らないけどぱるすはきっといいとこのお嬢様かなんかで厳しく躾けられた

雰囲気が漂っていて、マナーなんて遥か水平線の彼方にしかない俺にはとても新鮮で、見

た目だけじゃなくふとした仕草一つでも綺麗だって感じる事があるんだなと思った。

「で、話を戻すけど、そんな状態でテレビなんか見ててもまるでつまんなくなってた所に

颯爽と現れたのが日本アニメさんですよ。5年位前かな私が始めて触れたのは、あのとき

の驚きは忘れられないなー。何に衝撃を受けたかってお客を楽しませようってのを前面に

押し出してこれでもか!って強調してるところよね。熱い展開、萌えるキャラ、製作者の

遊び心、なんか娯楽の到達点の一つを見せられた感じでそりゃー鼻血が出るほど興奮した

わよ。そこからはもうサルのように色んな作品見まくってたけど、よもやこうやって秋葉

原までお買い物に来ることが出来るなんてその時は思っても居なかったな……思えば遠

くへ来たものねー」

 初孫を初めて見るおばあちゃんのように感慨深げにしみじみと呟くがちょっと待って欲

しい、あくまでも今日ここに来ているのはぱるすが俺にぶつかったアクシデントの結果で、

店でバイトをした以外は特に努力をしたって訳じゃないのに『遠くへ来たもの』ってのは

なんかおかしくないか?

 そりゃあの事故が初めから仕組まれていたってなら話は別だが、いくらぱるすがうそ泣

きや演技が得意だからって流石にアニメや漫画が目的でそこまではしないだろうし、そも

そも俺んとこに転がり込んでくるメリットないしな。ただ、証拠隠滅のために人のチャリ

ンコをぶっ壊すようなヤツだから完全に白とは言いがたいけど。

 

「どう、疲れてない?普通の人は立ち寄りそうに無いお店ばっかりだったし退屈したり引

いてないかなって少し気になってきちゃって」

 空き缶をきちんとごみ箱に捨て戻ってくると普段の言動からは予想もつかない人を気遣

う発言。

「いや、遠足楽しみにし過ぎて忘れ物しちゃう子供じゃないんだし来る前に気づこうぜ?」

 むぅ、と頬を膨らまし怒った表情を作っているが、この状況じゃまーったく怖くない。

「それで嫌じゃなかった?秋葉に来るってので浮かれてたけど、オタクってのカミングア

ウトしたりいきなりオタショップに連れ込んだりして、冷静に考えるとわたし微妙に痛い

子ぽいよね……」

 今までにない真剣な顔を見せる。

「微妙にじゃなくてぱるすが普通に痛い子ってのは基本だから、そう気にしなくてもいい

んじゃないかと思ったり思わなかったり」

「ひっどーい、ヒカルってわたしの事をそんな目で見てたの?こんなに素直で優しくて裏

表が無くて可愛い子って地元じゃ結構有名なのに」

 でも、一分と真面目な態度が持たないのはどうなんだろう。

「それ、猫かぶってるからだろ……」

「そうとも言うわね……」

「そうとしかいわねーよ」

「とまあ、その話はもういいけど」

「いいのかよ!」

 つ、疲れるぜ。

「人が嫌がってる話題をあんまり長く引っ張らないの。しつこい男は嫌われるわよ?」

「いや、話を振ったのはそっちだろ」

「はいはい、で、どうなの?もし嫌だったら今度来るときは一人で来るけど……」

 ぱるすは両手を背中で組んで、もじもじしているようなそぶりを見せている。

「別に嫌じゃなかったぞ、趣味なんて人に迷惑さえかけなかったらいいって思ってるし、

それに今まで知らなかったような店ばっかで新鮮だったしな。俺一人じゃ道とかわかんね

ーから困るけど、ぱるすと一緒だったらまた来てもいいかなって思ったよ」

「本当?!」

 文字通り飛び上がって喜びを体中で表現している。そうかそうか、そんなに俺と買い物

に来るのが嬉しいか。

「良かったー、いっぱい買い物すると歩くだけで疲れちゃうし、荷物持ちが欲しかった所

なのよね」

「それが目的かよ!」

 俺のツッコミスキルをどれだけ上げさせるつもりなんだよ。

「冗談よ冗談、ちゃんとヒカルと買い物できるのが嬉しいって思ってるってば。なんかね、

わたしの話も多分半分くらいしか通じてないと思うけど無視しないでちゃんと聞いてくれ

るし、自分からも色々話しかけてくれるでしょ?基本的にオタクって語りたがりだから、

そうやってウザがらずに付き合ってくれる相手って貴重なのよね。喋るだけならラジオで

散々やってるけどやっぱり直接その場でリアクションもらえるのって嬉しいし」

「ぱるすが言うとどうも冗談に聞こえないんだよな。んで、今日は欲しいものは決まった

のか?荷物なら俺が持ってやるから重たい物でも平気だぞ」

「そうねぇ、欲しいものが多すぎて選べないってのが正解かしら、出来る事ならこの街ご

と買い占めたい気分よ」

「随分スケールの大きな買い物だな」

「気分だけはね。あーあ、宝くじの一等でもあたらないかなー。なんかさー手持ちの中で

やりくりして物を選ぶのは確かに楽しい、そりゃ楽しいわよ。でも、こう棚の端から端ま

で大人買いしてみたいって思ったことない?別にオタショップ限定ってわけじゃなくて、

そうね、例えばコンビニとかさ、あとはファミレスで『ご注文はお決まりですか?』上か

ら全部持ってきて、みたいなさー」

「街ごとからファミレスって小さな話になるの早すぎるだろ」

 俺もたまに似たようなことを思うことはあるので苦笑してしまうが、こう言い出すヤツ

に限って宝くじなんて買いもしない事を知っている。所で聞いた話だとファミレスでは5

万円くらいあればメニューの最初から最後まですべて注文できるらしい。それなら俺でも

無理すればなんとかなるだろう、問題はそれを誰が食うかって事だ。

「男なら小さな事は気にしない気にしない。あんまり小さいと女の子に嫌われちゃうZO

☆」

「わけわかんねーよ」

「ま、ま、そんな事はこっちにおいといて。今日はメインの探し物はまだ回ってないし、

何か買うにしてもそれが終わってからカナ」

「買うものが決まってるなら最初にまわりゃよかったのに」

「そんな荷物になるものを最初にしたらあとあと大変でしょう、本当にヒカルはバカねぇ」

 ハリウッド映画でアメリカ人が良くやるように大げさに方をすくめて見せる。

「そりゃそうだけどさ、もう結構な時間になってるしそろそろ何か買って帰ろうぜ、って

バカ呼ばわりかよ!ったくユズの口の悪さが伝染したんじゃねーの?」

「口の悪さはともかく違うものはうつってたりして?」

「はぁ?」

「はぁぁ、ユズが苦労するのも分かるなぁ」

 肩を落とし情けない声を上げているが、脱力したいのはこっちのほうだ。意味の通じる

会話をしてくれ。

「何の話だよ」

「いいのいいのヒカルは気にしないで」

 爪先立ちで背を伸ばすと、俺の頭をぽんぽんと叩いてくるぱるす。なんだそれ。

「なんかさーユズにしてもぱるすにしても今みたいに隠し事って程でもないけど何かこう

すっきりしないものの言い方をたまにするだろ?言いたいことがあるならはっきり言えば

いいのにって思うんだけどなー」

「何でもあからさまになったらつまんないじゃない?趣がないってゆーかさ」

「それもそうだけどさ、ま、いいか。も一つ気になるのはユズとぱるすって最初は仲が悪

そうに見えたのに、最近はユズが遊びに来たって俺の部屋通り抜けてぱするんとこ行った

りしてるし、なんでそこまで仲良くなれたのかちょい不思議」

「そうね……美少女同士通じ合うものがあったから……かな」

 顔を赤らめこんなことをのたまうぱるす。

 確かに美少女って表現に間違いはないと思う、でも自分で言うのはどうかと思うぞ?

「そこは突っ込んでもいいのか?」

「きゃっ、突っ込むですって、ヒカルってばやーらしー」

 両手で顔を覆い隠しても、小学生とかじゃないんだし可愛くないからな。

「やらしいってなんだよ!そういう想像するぱるすのほうがよっぽどだっての」

「えっちなのはいけないとおもいまーす」

 もう好きにしてくれ。

「で、ヒカルはわたしとユズが仲良くなって自分ひとり蚊帳の外に置かれてるのが寂しい

からさっきみたいなちょっとしたことが気になってると、そーゆー事?」

 後ろ手に組み、俺の顔を覗き込んでくる。

「何でそうなるんだよ、まあ、確かに最近置いてきぼり感があるのは否定できないけど、

寂しいって程じゃないぞ」

「はいはい、心配しなくてもユズと二人の時はちゃんとヒカルの話題でも盛り上がってる

から大丈夫よ」

 欠席裁判のようないやーな感じだ。

「俺の話題って、俺がバカだからとかなんとか言ってるような気がするのは気のせいか?」

「当たらずとも遠からずだけど、悲観する事はないのよ?バカな子ほど可愛いっていうじ

ゃない」

「そうかそうか、やっぱり俺は可愛かったんだな……前々からそうじゃないのかなって

自覚はしていたんだけど改めて他人から言われると照れるなぁ……って」

 ぱるすは俺の渾身のボケを右から左に受け流し、すたすたと数歩先を歩いてこっちに手

招きしていた。

「ほらヒカル、何してるの。早くしないと暗くなっちゃうわよ」

「俺が珍しくボケたんだからつきあうとかしたらどうなのよ」

「あら、あえて受け流すことで突っ込んだつもりだったんだけど?」

 俺の手を取って歩きながらくすくす笑っているが、周囲の人ごみといいこれじゃまるで

夏祭りの時に母親に連れられた子供みたいじゃないか。

「で、どこまで行くんだ?」

 少し大またでぱるすの真横までたどり着きそう聞くと、

「もうちょっとだからさっさと行きましょ」

 器用に人ごみをかいくぐり連れて来られたのは、さっきまで周っていた店とはまるで雰

囲気の違う店……実際にはそんな事は無いんだろうが、どことなくかび臭さを感じさせ

る店だった。

「じゃあ、すぐ買い物終わらせてきちゃうから少しここで待っててね」

 と言われ入り口で放置プレイな俺。ぱるすが欲しがってた様なものは置いてそうに無い

店なのに一体何を買うんだろうかと想像を巡らしていると、本当にすぐに戻ってきた。両

手には白いビニール袋に詰められた機械?や部品の山。どこをどうみても萌えとやらには

縁がなさそうだ。

「今日一日秋葉原をうろうろして、さっきまでみたいな店で買い物するってのは何となく

理解出来るようになったし、パソコンとか家電製品やCDは普通に置いてあるから違和感

無いけど……今手に持ってるそれは……なんつーか、ディープだな」

「し、仕方ないでしょ、どうしても必要になっちゃったんだから」

 少しあわてた様子でそう言うと、

「はい、これっ」

 と買い物袋をぐっと俺のほうに差し出してきたのは俺に持てって事なんだろうな。

 この、持ってもらって当然って態度が頭にこないのが柚葉のわがままで随分慣らされて

いるせいだと思うと少し情けなくなるけど、女の子に対して優しくするのは嫌いじゃない。

別にそう躾けられたからってだけじゃなくてバレンタインにチョコが貰えるって利点もあ

るし。

 ま、お返しにうちの店のレシピを使ってケーキを作ってるからそれ目当てってのもある

かもしれないが。ただ、やりすぎるとクラスの男子から反感を買ったり本命と間違われた

りするんでそこだけは要注意だ。

「なんかやけにゴツイもんばっかり入ってるけど、なんに使うんだ?」

 袋の口から覗いている基盤やコード類じゃ判断できないし、中身を広げて見たとしても

きっと俺には何に使うのかさっぱり分からないだろう。

 職務質問をされたら過激派が時限爆弾でも作ってると勘違いされそうな気はするけど。

「ん、まあちょっと、ね……出来上がったら当然見せてあげるけど、記憶を頼りに作っ

てるから、もしちゃんと作れなかったら恥ずかしいし……それまでは秘密ってことでい

い……かな?」

 鼻の頭をぽりぽりかきながら自信なさそうに言った。

 普段強気な女の子が時折見せる儚げな表情、そのギャップが新鮮な感情をもたらす。こ

れがぱするの言っていた萌えってやつか……。男心をつかむのにこれだけ有効な手段は

そうそうないよなあ?不良がちょっと良い事をしただけで凄い善人に見られるような反則

っぽい手ではあるけども。

 多分似たようなものに、運動が得意で黙ってれば美少女なのにゲームオタク、だとか、

吸血鬼なのに血を吸わずにむしろ噴き出す、とか、文武両道でとてもしっかりしているの

に心は乙女な男子高校生、猫型ロボットなのにネズミが苦手なんかがあるんだろう。

「しかしぱるすにも殊勝なところがあったんだなぁ」

「なによそれ」

「なんてか、間違ってたら素直に謝るけど、ぱるすって結構強引でわが道を行くって感じ

だろ?しかも結構ストレートに自分のやりたいこととか他人への希望とか口にするしさ、

いい言い方をしたら自分があってそれを曲げない、悪言い方だと自己中っぽいとこがある

ような気がしてたからちょっと意外でさ」

「そんなの違うに決まってるじゃない、そんなわたし中心に地球は回ってるみたいな事考

えてるはずもないでしょう?これでもわたし自分じゃ控えめなほうだと思ってるんだけど

な」

 どの口がその言葉を吐くんだ?と思わないでもなかったが、本人が言うんだしまだ出会

ってそう長くも無いから誤解や齟齬もきっとあるんだろう。

「そうか、そりゃ済まなかったな」

「うん、解ってくれればいいのよ。ま、地球はわたしが回してるんだけどね」

 どんだけ自己中なんだよ!。

「……ま、まあいいわ。取りあえずそろそろ帰ろうぜ。いくらうちらは夏休みつっても

世間は動いてるし、こんな荷物持って下りのラッシュに巻き込まれたらたまらないしな」

 目的のものを購入して満足したのか、

「そうね、随分歩いて疲れちゃったし、わたしも早くお部屋でのんびりしたいと思ってた

所だわ」

 そう言って、起き抜けの猫のように背伸びをしている。

 夕暮れというにはまだまだ明るいのに時計を見ると夕方の4時を過ぎていた。

 楽しいと時間が短く感じるってのは本当で、6時間もこのあたりを徘徊していたとは驚

きだ。

 そうして俺達は秋葉原を後にしたわけだが、俺が最初に想像していたのは色々なグッズ

を買い漁るぱるすの姿だったのに、財布の中身には限度があるとは言え結局手にしたのは

何に使うか解らない機械類で、いまいち何をしたかったのか良く分からないが十分に今日

一日を楽しんでいたようでなによりだ。

 柚葉の買い物に付き合った経験上なにかをねだられたりするかなと思ったけどもそんな

事も無く、人ごみと暑さ、狭い店の作りなんかに辟易させられたけれど、ぱるすのナビの

お陰もあって俺自身も楽しめたし次は一人で来てもいいかもしれない。


 
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