神殿にはその主と、客人が一人。神殿を覆うのは闇。
その頂点にのみ、蒼い月が儚げな光を浮かべている。
今宵は珍しく神殿の一室に客がいた。
女主人と向かい合って座っているのは、褐色の肌の男。
黄金の杯から酒を飲み、二人は親しげに話し込んでいる。
彼女は客人に最高のもてなしで応じた。
男はよく響く声で語る。
「近頃、マグナ・マテル殿は人の子等とよく戯れているそうだな」
「私を愛してくれる者達ですから、庇護するのは当然かと」
女主人は悪びれもせず、すこし肩をすくませた。
「死でもって祝福を受けた輩もいると聞いたぞ、
寵愛を受けていた若者が我が身を切り刻んだとか。
お前は血を好むな」
彼女は杯から唇を離して微笑った。
背の高い玉座にもたれ、挑戦的な目で男を見る。
「これは異なことを仰る。
私程生命に愛を持っている者はありませぬ。
私にとっては生ける者の一片の肉、
一滴の血すらも愛の対象だというのに」
芝居がかった女主人の言葉に、男の目が一瞬細まる。
「義兄上とて、愛し方が違うだけのことでしょう。
私も及ばないほどの情熱をお持ちだというのに」
男は苦笑し、杯に唇をつける。
「かもしれん。人の子に執着するのもほどほどにな」
男の忠告に曖昧な笑みを浮かべて、
女は周囲に侍らせていた獅子の鬣を指で梳いた。
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キュベレとある神の対話。
真・女神転生のキャンペーンキャラクターの前世話。
キュベレの裏切った男性を発狂させて自刃死させてしまう激しさは割と好きです。
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