「たぶん、ヨウコは僕のこと好きじゃないよ。」
と、夏島は言った。
寺崎は意外な顔をして見せて、
「ふーん」
とだけ言った。
部活は特殊な空間である。と卒業後、夏島は振り返る。
しかし、いま彼らは青春の真っ最中だ。
夏島、寺崎、そして工藤の三人は廃部寸前の弁論部なる奇怪な部活に所属している。
いや、本来は普通の部活だったのだが、彼らは三年生だったし、十一月で引退を迎えると、彼らの骨を拾ってくれる可愛い後輩という存在が皆無なのだ。
つまり弁論部は廃部になる。
夏島と寺崎は工藤に憧れて弁論部に入ったクチだ。いや、正しくは工藤がいなかったら、長続きはしなかっただろう。そんな男二人を釘付けにする工藤とはいかなる女子高生なのか。
最初、工藤は大人しい部類に属する女の子だった。県立高校の紺色のブレザーがよく似合っている、どちらかというと肉付きのあるほうだった。決して細身ではない。
ただ、内面というか、性格が素敵だと思われていた。
可愛いさ、ということが目をひくけれど、その中にも芯というものがしっかりあって、そのギャップが魅力的だった。この高校ではかなり草食動物っぽい夏島が惚れ、同じように異性関係では草食動物な寺崎も惚れた。それはある意味同じ部活というお手軽感がなかったわけではない。しかも競争相手は限られているわけだ。
そんなこんなで、続いた高校三年間だった。最初の高校一年のときは先輩がいたが、あとはずっとこの三人だけである。
新入生をあまりまじめに入れようとは思ってなかった二人だったし、この高校がどちらかというと進学校で、暇もない、という事情にもよる。
「彼女、どっちがいいのかなぁ」
と思わず夏島がつぶやいた。
「そりゃあ、俺だろう。筋肉あるしなぁ」
と寺崎が茶化した。
二人はいま部室だ。二人とも授業をサボって部室である。
廊下から足音が聞こえてきた。
「いるとしたら、ここなんですけど」
げげっ、工藤の声である。
二人は凍りついた。
ガラガラ。
瞬間的に見えたのが夏島と寺崎の担任の山口である。
これはまずい。
二人はテーブルの下、という絶好のポジションにいる。
「いませんねぇ」
そのとき、さっき寺崎が読んでいたマンガ本が棚から落ちる。
「おかしいね」
担任の山口は笑いをこらえることが出来ない。
二人のうちの一人の健康診断の結果があまりよくないことを伝えに来ただけである。
あまりたいしたことはない、という医師の言葉であるけど、早く伝えるのに越したことはない。そう思って、工藤に二人がいる場所を聞いてきたのだ。
「そういえば、あの二人ってデキてるんか」
山口は二人がいるということを承知で工藤に聞いた。
工藤はびっくりしたような顔で、
「えっ、デキているって、付き合ってることですか。なるほど。確かにそう思わなくもないですけど」
冷や汗をたらしているのはテーブルの下の二人である。
いつの間にかゲイのカップルにされてしまった。
「おーーい。仲がよいことだね」
テーブルクロスを跳ね除けて山口の顔が見えた。
うわぁぁ
二人とも声にならない声で、テーブルの下から飛び出した。
「おい!!おめぇらぁ、授業サボるんじゃねえぞ」
と元気よく山口も声を出す。それにつづいて、工藤が
「ねぇぇ二人とも、同性愛は病気じゃないからねぇ」
とか何とか言って、二人のあとに続いていった。
<つづく>
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三人だけの部活。
弁論部。その中での三角関係を書いた作品です。面白いかは不明。
ていうか、いままだ書きあがってないし。