夜が明けた。
空は漆を塗ったような黒から、爽やかな青に移り変わる。木々が生い茂る森にも、太陽の光が徐々に差し込んでくる。
良い天気、響き渡る鳥のさえずり、涼しげな風、そういったもの全てが心地よい。
このような素晴らしい朝を迎えたにも関わらず、一刀の表情は決して良いものではなかった。
彼の眼に映るのは一機の巨大なヘリ。 機体右側面の『Marine Corps』という文字は、『米海兵隊』所属の証だ。
「(あれから10時間くらい経ったが・・・・捜索機すら飛んでねぇな)」
空を見上げても、航空機が飛んでいる様子は無い。あの激しい騒音を奏でるエンジン音やローターの回転音すら聞こえない。あの耳がイカレるほどの騒音が、今はとても恋しく思える。
海兵隊を含む米軍は高度な軍事組織だ。 当然ながら救助システムも整っている。 あらゆる方法で情報を瞬時に収集し、それを基に航空機が上空から捜索活動を行う。 これら一連の作業は極めて迅速に行われ、発見しだい救援部隊が出動する。
が、救助活動が必ず成功するわけではない。救助の第一段階である『捜索』が失敗した場合は『MIA(作戦行動中行方不明)』とされ、最悪の場合『KIA(作戦行動中死亡)』と判断される場合もある。 現段階で捜索機が見当たらないということは、墜落地点がまだ把握できていないということだろう。
本来なら自ら行動を起こして、友軍との合流を図るという手段もある。だが、見知らぬ土地ゆえにリスクは高い。それに、一刀は頭を怪我している。激しい頭痛と目まいが残っている状態では、長距離行動の際に支障をきたす危険性がある。
「・・・・とにかく、しばらくはここに待機だな」
めんどくさそうに、気だるさを吐き出すかのような溜め息をもらす。
ヘリの周辺をぐるりと一周するように歩きだし、半周した所でピタリと立ち止まった。
「んなことより、まずはこっちをなんとかしねぇと・・・・・」
ポツリと呟いた一刀は、ふと自身の右横を見た。
自身から少し離れた所に、一本の木が生えている。 いや、木が生えているのはどうだっていい。 問題はその木に背を預け、座り込むようにして眠る一人の少女だ。
オレンジのような明るい朱色のショートヘアに、まだ子供っぽさが残る顔。 徐福だ。
陽の光をシャワーのように浴び、徐福の眉がピクッと反応する。
「んっ・・・・・」
「よぉ、起きたか」
「え、北郷殿・・・・・?」
徐福はホケーっとした表情で、周囲をキョロキョロと見まわす。どうやら状況が把握できていないようだ。
「えっと、私・・・・・」
「泣き疲れて寝ちまったんだよ。 俺はアンタの通う女学院の場所なんて知らねぇから、とりあえずここまで連れて戻った。 他に質問は?」
一刀の言葉を聞き、徐福の目がハッと見開いた。 どうやら思い出したようだ。
徐福は慌てて立ち上がり、一刀と向かい合う。 そして、深く頭を下げた。
「昨夜は・・・・・・本当にありがとうございました」
「礼を言われるのは嫌いじゃないんだが、『この一件』はアンタが無事に女学院に帰らないと終わらねぇんだよ」
一刀はニッと笑みを浮かべると、肩から斜めに引っさげていた1挺の銃を手に持った。
「さ、帰る時間だ。 行こうぜ」
二人は会話もそこそこに、まるで散歩のような感覚で森の中を歩いていた。
その途中、一刀は徐福にいくつかの質問をしていた。
「あめりかぐん、ですか? 聞いたことないですね・・・・」
「じゃあ、AK、PKM、G3、ガリル。そういった銃の名を聞いたことは?」
「じゅう? それはどういうものでしょうか?」
一刀の質問に対して、徐福は首を傾げることしかできなかった。
「(米軍も知らない、それ以前に銃を知らない・・・・・。 どうなってんだ?)」
頭痛が酷くなるのを覚えつつ、自分が手に持っている銃を徐福に見せる。
「銃ってのは兵器の一種だ。たとえばコイツ、『M4』っていうカービンライフルの改良型モデルなんだが・・・・見たことあるか?」
「えいむ、ふおー?」
「お前イントネーション酷いな」
一刀のライフルをまじまじと見つめる徐福。 「なんだか変な形ですね」と呟くあたり、どうやら見たことはないようだ。
徐福は興味深そうにカービンライフルを見つめている。
「北郷殿、この『えむふぉー』を兵器と言っておられましたが、どうやって戦うのですか?」
「この筒みてぇな所から弾を発射し、弾を人や動物に命中させて殺傷するんだよ。 知らねぇか?」
「はい・・・・この国には無い兵器ですね」
どうやら、徐福は本当に銃というものを知らないようだ。
「銃がない国なんて聞いた事ねぇぞ」
「でも、こんなもの見たことありませんよ?」
「・・・・・わかった。 もうこの話は終わりにしよう」
これ以上話せば、ますます困惑してしまうだろう。
この国の事を知るためには、時間をかけてじっくり考察する必要がある。
それ以降は、一刀は徐福に何も質問しなかった。
歩き続けること約1時間。
森を抜けしばらく歩いたところで、一軒の屋敷が見えてきた。
「あ、アレですっ! 水鏡女学院ですっ!!」
喜びと安堵で心が満たされる徐福。
それに対して、一刀は警戒心を厳にしていた。銃の安全装置を外したまま、屋敷に銃口を向けている。
「徐福、俺の事は一切他言するんじゃねぇぞ」
「えっ?」
一刀は屋敷に銃口を向けたまま、ゆっくりと一歩ずつ後ろに退いていく。
徐福は一刀の不審な行動に対して、ちょっとした驚きと不安を抱きつつも彼の後を追う。
「どうかなさったのですか!? 早く女学院に行きましょうよ!!」
「俺が女学院に行く意味は?」
「貴方にお礼をしたいんです! それに、女学院にはたくさんの書物があります。 北郷殿がこの国について知ることだって―――――」
「リスクが高すぎる。 俺にとって、外部に身元を知られるってのは色々と都合が悪いんだ」
一刀はどんどん退いていく。 徐福も彼の後に続き、なんとか一緒に女学院に来てもらおうと必死に食いつく。
「都合が悪いって・・・・。 私にはお名前を教えてくれたではないですか!?」
「アレは特別だ。俺みてぇな特殊部隊の隊員が一般人に名前を教えるってのはすげぇ珍しいことなんだぜ?」
「特殊・・・・部隊・・・・?」
一刀はニッと笑みを浮かべると、くるりと反転して徐福に背を向けた。
「しばらくはあの森にいるが、俺の事はくれぐれも他言しないように」
そう言うと、一刀は歩き出した。
「ほ、北郷殿っ!!」
「礼はいらねぇ。 言いたいことがあるなら後日にでも俺んとこに来るといいさ」
これ以上は何を言っても無駄だろう。 そう悟った徐福は、トボトボと屋敷の方へ歩いて行った。
「水鏡先生、ただ今戻りました」
「徐『庶』! こんな時間に帰って来るなんて・・・・・みんな心配していたのですよ?」
「ごめんなさい。 想定外の事が起きて、森で一晩を過ごすことになってしまいました」
「・・・・見たところ怪我もないようですが、あまり無茶なことはしないでください。 今まで何を?」
「森の中で、一人の男性と一緒にいました」
「えっ・・・・!?」
「偽名を名乗って接したのですが、たいへん興味深い御方でした。 聞いたこともない単語をしばしば使っていたので異国の人間かと思っていたのですが、どうやらそうでもないようです。」
「見たこともない巨大な物体、『じゅう』という兵器・・・・・・いろいろ見聞きできました。 これは可能性の域をでませんが――――」
「――――彼は・・・・・・北郷殿は、噂の『天の御使い』ではないかと思われます」
「(泣き疲れて眠るってのは、精神状態が極限まで疲労した証拠でもある。 なのに、アイツは目が覚めた直後、すぐに歩けた。元気そうに話をしていた・・・・。)」
「かしこくて演技力もあるが・・・・・・詰めが甘ぇな」
あとがき
どうも、マーチと名乗る者です。
最近は学校行事、校内模試、定期テスト、受験勉強・・・・・けっこう忙しい毎日を送っていました。
息抜きに『北斗の拳』見てたみたらハマってしまい、気が付いたら8月になっちゃいました。
ガチでごめんなさい。
次回もいつになるかわからないです・・・・。気長に待っていてくれるとうれしいです。
コメントの返事。
kyou様 ただいまっす。 そうか、俺はkyou様のしゅ・・・・ゴホンゴホン!! えーっと、でも原作の一刀より口悪いでよねぇ~。
森羅様 ただいまっす。 色々な武器兵器を登場させるつもりなんで、楽しみにしてくれたら嬉しいです。
アル中の黒山羊様 M134ですか・・・・考えておきます。 受験勉強これからも頑張ります。
海平?様 ショートメールのお返事ありがとうございました。これからも頑張ってください。応援してます。
ryou様 ヘリが動くかどうかは、後々わかるのでそれまで気にしててください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。 誤字、脱字、文章のよじれ等は発見しだい報告してください。
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約2か月ぶりの投稿です・・・・・ごめんなさい。
暇つぶし程度にでも読んでいただければ幸いです。