「それでは、これでHRは終わりにします。掃除当番になっている者はサボらずにすること、いいわね?」
1日の授業を終え、帰る前の気だるいHRも無事に終了。
掃除当番となっている者は掃除に。
部活に入っているものは部活へ、帰宅部は帰るなり遊びへと。
それぞれが思い思いの行動を始める。
郁先生はその見た目と姉御肌気質も手伝って、たった1日でクラスにすっかり馴染んでしまっていた。
朝の一件以来、怒らせると非常に恐いということだけは思い知らされたものの、その人気はかなりのものである。
「凌空は部活か」
「あぁ、真司はバイトだろ?」
「まぁな、入り時間になるまで適当に商店街で時間潰してるさ」
「分かった、じゃあバイトで会おうぜ」
「あぁ」
いつものように、前の席に座っていた凌空と軽くこれからの予定を話し合う。
凌空は陸上部のエースなので、いつものように日が暮れるまで部活で汗を流すのだ。
真司の方は帰宅部なのでバイトの時間までは適当に時間を潰す。
そして二人は同じファミレスでバイトをしているので、またバイトで、となるのだ。
「日比谷」
「・・・はい・・・?」
凌空と共に教室を出ようとしたとき、不意に郁先生に呼び止められた。
「放課後に職員室の私のトコまで来なさい」
「は・・・?・・・まぁ・・・分かりました・・・」
真司には職員室に呼ばれるような覚えは微塵も無かったが、朝の一件もあったので、とりあず頷いておいた。
真司が了解したのを確認し、郁先生は教室から出て行った。
そして・・・
「おいっ!真司ィ!!お前、郁先生とどうなってるんだよっ!?」
「・・・いや、俺に聞かれても困るんだが・・・」
案の定、郁先生にベタ惚れの凌空が凄い剣幕で詰め寄ってきた。
「ま、まさか・・・お前、もう・・・ッ!?」
ばちんっ
「イタイッ!?」
凌空の頬が赤く腫れ上がっていく。
「あのな・・・いくら俺でも1日で、しかもあの先生をどうしろって言うんだ・・・」
「そりゃあ・・・まぁ、そうなんだけどさぁ・・・」
お前ならやりかねない。凌空の目はそう訴えている。
真司は遅刻の他に、女好きでも有名だった。
別段キザというわけでもなく、変態チックな言動をするわけでもなく・・・
純粋に可愛い、綺麗な娘が居ると仲良くなりたいと思い、お近づきになる。
だが街中へ出てナンパなどは付き添いで暗いしかしたことはない。
学校やバイト先で出会った娘がほとんどだ。
そんな真司だが、異性関係で悪い噂は特に流れていない。
「ま、凌空と違って特に年上好きってわけでもないし・・・どうせ大した用事じゃないだろう。またバイトでな」
「分かった、またな~!」
真司が違うと言えば凌空はその一言で本当に何でもないんだと信じてしまう。
親友と呼べる仲だからこその信頼というものだった。
-PM04:42 鎮守高等学校.裏山-
(・・・さて、何でこんな所に俺は居るんだ・・・)
ここは鎮守高校の裏手にある緑豊かな裏山である。
郁先生に言われたとおり職員室へと向かったのはいいのだが、到着するや否や、有無を言わさずこの裏山まで連れてこられて来てしまった。
目の前には郁先生が仁王立ちしている。
当たり前だが、こんな裏山には他に誰も居ない。
凌空に言われたことが一瞬頭を過ぎり、僅かに今後の展開を期待してしまう自分が悲しかった。
「さて、手短に話させてもらうけど・・・私が鎮守高校に来たのは日比谷真司、アナタを鍛えるためなの」
「・・・は・・・?」
短すぎた。
真司は何を言われたのかさっぱり理解出来ない。
「だから・・・退魔師としてアナタは弱すぎるから、この私がわざわざ来る羽目になったのよ」
「・・・!?アンタも・・・同じか・・・?」
真司の高校生とは違う役職、対魔征伐係は一人ではない。
高嶺家の者を頂点として、それぞれ才能のある家柄、或いは退魔師として素質のある者・・・
現在この土野市だけでも何名かの対魔征伐係が居る。
係は高嶺家によって統括されており、それぞれが土野市全域に配置され災忌征伐、及び超常現象の解決に奔走している。
係の条件のひとつとして、一般人にその事実を知られてはならないと言うのがある。
災忌の存在を一般人は知らないように、それらを退治する係の存在も知られてはならないのである。
(災忌を見てしまったり、係の存在がバレてしまった場合、その一般人は呪術によって記憶操作されることになる)
「ここ最近、災忌の出現頻度が上がっているのは感じている?」
「・・・まぁ、以前よりは増えた気はするが・・・」
「で、現状のアナタの実力では不安が残る・・・だから私がこうして鍛えに来た・・・理解したわね?」
「・・・甚平じぃちゃんか・・・」
そんなことを言いそうなのは高嶺家の頭首である甚平くらいである。
そもそも、係の者を自由に動かせる時点で高嶺家の者であることは明らかだ。
「・・・けど、俺だって今まで逃したり失敗した仕事は無かったんだ、アンタがどれほどのモノかは知らないが、わざわざ鍛えるだなんて出来ることならお断りしたいんだが」
「・・・今までは運が良かっただけね。アナタなんて左手だけでイチコロよ?」
「・・・なるほど」
安い挑発だった。
それこそ子供の言い合いのレベルだ。
だが、真司は自分なりに係の仕事には真剣に取り組んできたし僅かながらにも誇りがあった。
それをこんないきなり現れた、よく分からない女にコケにされて癇に障らない分けがなかった。
「嘘だと思うなら、掛かってらっしゃい?全力で」
郁先生は自信に満ち満ちた笑顔で真司を尚も挑発する。
「・・・女相手に手はあげたくないが・・・そこまで言うならやってやるさ」
「そうそう、負けたらきっちり私のことは師匠と呼び、修行に励み、言う事は必ず聞くこと。良いわね?」
郁は言いつつ笑顔で左手をぶらぶらさせている。
「・・・俺が勝ったらどうするんだ?」
「ふふ、その時は私のことを好きにして良いわよ?」
そう応える郁の表情は一切の不安もない、完全に見下した人間の目だった。
「・・・それは願ったりだな、泣いて謝っても撤回は受け付けないぜ?」
「男の子が無様に泣いたりしないようにね?」
「・・・いくぞ・・・」
真司は竹刀袋に入れてあった木刀を抜き、ゆっくりと身構えた。
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