「大体、父さんは気が多すぎるのよ」
「そうじゃな。あっちにもこっちにも手を出しすぎるから、結局後になってややこしいことになるのじゃ」
「ずずず……はふはふ」
「そうそう。まるっきり一刀だよな」
ちくちくと。椅子に座ってPCをいじっているこの俺の背中に、これでもかというくらい棘の生えた言葉を投げてくる、ちゃぶ台を囲んでお茶をしている娘という名のいじめっ子ども。
「……あの種馬とは違って、少なくとも下半身には節操あるぞ、俺は?」
と、ちょっとでも反論しようものならば。
「おとうはんの場合は、節操がある、言うんやなくて、リアルでは一切もてへんだけやろ」
「ちゅるちゅる……はふ」
「そうよね。リアルじゃほんっっとにさえないおっさんだものね。……寄ってくる女の子は“猫”ぐらいじゃないの?」
「違いない」
「……どーせどーせ。いーもーんだ。バイト先なら仲のいい女の子だって何人かは」
「……そういう対象には一切見られておらんがの」
「……ちゃーしゅー、おいしい。ずずずー」
……とまあこんな感じで今日は朝からずっと、この娘たちにいじめられっぱなしのこの俺。外史の剪定者であり、観測者。そして記録者でもある狭乃狼(はざまのろう)。そいでもって、その俺にさっきから冷たい視線とともに言葉の暴力でいじめを行っているのは、うちの愛娘たちなのである。
黒髪ツインテールを時折揺らしながら、優雅に紅茶(オレンジペコが一番のお気に入り)の入ったカップを手にし、でもって開いたもう片方の手でなにやら怪しげなタイトルの本を読んでいる、コバルトブルーの瞳をしたつり目少女、輝里(かがり)。
茶髪で短髪の少ねn・・・もとい、男の娘・・・でもなく、本人曰く花も恥らう可憐な乙女(笑)だそうな、その少女。・・・まあ、可憐な乙女はあんまり、奇声を上げながらP○Pをやったりはしないと思うが。名前は由。
まるで炎の様に真っ赤な髪をポニーテールにまとめ、TVで流れている某物理法則完全無視な変形ロボットアニメの再放送を、目を輝かせて見ている男女(別におかまでは無い)、蒔(まき)。
やたら長い黒髪をお下げにし、なぜかメイド服を着込んで緑茶をすすっている、ちびのくせに胸だけは超絶グラマー(古)な少女、命(みこと)。
でもって時折聞こえてくる音は、大好物であるラーメンを夢中でほおばる、黒のゴスロリを着た銀髪ツインテールっ娘、瑠里の至福の時間を過ごす音である。
一応。ここにいる面子全員、この俺が脳内にて生み出した、俺様の娘たちである。まあ、今ここにはいない娘たちも他に居るけど、彼女たちはほとんどモブに近いのでとりあえずスルーしておくとする。
【こらー!私たちもちゃんと紹介しろー!このへたれ親父ー!】
・・・なんか聞こえたような気がするけど、まあ、多分空耳だろう、うんw
【後で覚えてなさいよー!後悔するぐらい虐めちゃるけんなー!】
まあそれはともかくとして。さっきから一体何の話をしているのかという事なんだが、正直言って、俺は別に何にも悪いことはしてませんよ?彼女たちが一方的にとある件について、人を責めたててくれているだけで。
「……どこの誰が、何にも悪いことしてないって?」
「ぅおっ!?心を読まれた?!さては輝里!お前まさかさとりの力を……!?」
「……思いっきし、声に出してたで?」
「あ、そだった?……てへ♪」
「てへ♪じゃないじゃろうが。大体のう、今日のこの部屋が何で、こんなぴりぴりとした空気に包まれているか、親父殿は分かっておるのか?!」
「……いや、まあ、その」
ええ。命の言いたいことはよっく分かってますよ?・・・この外史の狭間に作られた、俺専用の観測所であるこの楽屋には、だ。ただいまなんともいえない、緊張感超MAX状態の空気が漂っているわけでして。で、その殺気にも似たピリピリした空気は、先ほどからとてもいい香りとともに、キッチンのほうから漂ってきております。つまり、
「お~い、狼~!飯の仕度が出来たから、こっちに来て器を運んでくれないか~?」
「あー、べつにええで~?器運びはこっちの力馬鹿な猪さんがやってくれるから~。狼くんはそこで待っとってくれな~?」
「……おい。だれが力馬鹿な猪だって?」
「ん~?私は別に華雄はんのこととは一っっっ言も言うとらへんよ?そんな自覚でもあったん?」
「ぐ……!!」
バチバチバチバチバチバチッッッッッッッ!!
ヒッ!さ、殺気と敵意が物理反応起こして、部屋の中に火花と稲妻が走ってる~!!
「……まさか、あの華雄さんと対等に張り合える人が、あの世界以外にも居たとはね……」
「見た目はとてもそうはおもえんのにな……」
「まあ、だからこそ、親父殿が惚れる女人なのだろうが……さすがはあの伝説の機動六課部隊長、八神はやて。……おそるべし」
え~まあ。ぶっちゃけるとですね。つまりはそういうことでして。・・・え?説明になってないって?・・・だからね?最初はまず、恋姫世界の嫁である華雄と約束したわけよ。剪定者権限で持って、君を楽屋に招待するから、飯でも作ってくれないかなあ~って。ほしたら、華雄はその場で即OKしてくれたんだよ。いや、もう、うれしくてうれしくてつい舞い上がっちゃってね?そのことを、だ。なのは世界の嫁であるはやてに、ついぽろっともらしちゃったんだよ、これが。そしたらね?
「……ほんならわたしも、狼くんのために何か作りに行ってあげるわ。え?次元の壁?……超えるための鍵、もちろん、私にもくれるんよね?ふふふ」
……否といえる人、居たら手を上げてください。夜天の書を持って、ラグナロクの準備に入ったはやてを前にして、拒否の返事が出来ますか?いやもちろん、楽屋の鍵を渡すのは、俺としても願ったりかなったりだったんだけど、できればブッキングしないように、計画的に渡して招きたかったんだけどね。
早い話、ダブルブッキング、という奴です。
うん。これは単に運が悪かったと。それだけのことであって。俺には一切罪は無いんだ。なのにさ、みんなして俺を悪者扱いしてさ。俺は何にも悪いことはしてない!複数の女の子を同時に好きになって、両方とも嫁にしただけじゃあないか!リアルでは絶対無理なことをして、それの一体何が悪い!?
『……悪いに決まってるだろうが!このどすけべ親父がー!』
どかばきぐしゃ!!
……釘バットは止めてください、お嬢様方……ガク。
「ほいほ~い。お鍋の準備できたで~……って、狼くんどうしたん?なんか赤黒い液体まみれやけど?」
「どーせこのあほの事なのです!きっとはやてちゃんのあれやこれやを妄想して、それを口に出してしまって、みなさんにオシオキされたに決まってるですよ、はやてちゃん!」
「まあいつものことさ。私は“しょっちゅう”見ている光景だから、とくに驚きはせんよ。めったに同じ世界に居ない、誰かさんと違ってな?」
「ほうか~。いつものことなんや~。だから“いつも”、わたしのとこに治療受けにくるんやな~。手当ての出来ない誰かさんのところや無くて、わたしの、ところに」
フッフッフッフッフッフッフッフ。
……あの。顔と声は確かに笑っていらっしゃいますが、目は全然笑っておられませんよ?お二方。
あ、ちなみにですが。さっきのはやてと華雄の間に入った声は、はやてのパートナーで自立型のユニゾンデバイスである、リインフォースⅡ(ツヴァイ)の声である。……まあ、ちょっと口うるさい小姑みたいなものです。
「誰が小姑ですかこのあほ狼!リインははやてちゃんのパートナーとして、これ以変態狼の毒牙にはやてちゃんがかからないよう、監視しているだけです!」
「ぅぬぅ?!ここにもさとりが?!」
「……全部普通に口に出していたが?」
「あ、さいですか」
ぐつぐつぐつ。
鍋の煮える音だけが、今、部屋の中には静かに流れている。さっきから誰も、その口を開こうとは一切していない。理由は簡単だ。
何か一言でも、うかつにその口にしたら、今は沈静化している二人の殺気が、再び大きく火花を散らし始めるのは目に見えているからだ。
そう。
そんな一触即発な空気を、普通なら誰でも感じ取れるはずのその、臨界寸前の不発弾に気がつかずに触ろうとする者など、居るはずがないのだ。
なのに。
「……ぷはー。やっぱりテンカワ屋のラーメンが一番おいしい。……で?結局お父様は、華雄さんとはやてさんの、どちらが本命なんでしょう?」
ビシャアアアアアアンッッッッ!!!!!!!
ゆっちゃったよこの娘はーーーーーーーーーー!!この空気の中で、しかも一番言ってはならない一言をーーーーーーーー!!
「……そんなもの、決まりきった事に決まってるさ。狼の嫁になったのは私が先。そういうことだろ?狼?」
「ほうかな~?わたしも結構前……A'Sの時(アニメの二期ですね)には嫁宣言してくれてたで?しかもわたしが画面に出た瞬間やって♪」
「……ぐ」
「それに確か、狼くんて恋姫世界では、最初はどこかの普通な人を嫁宣言してへんかった?」
「ちょ?!はやてそれは……!!」
「つまり、華雄はんはもともとから二号はんやったわけや。わたしのいうこと、なんか間違うとる?」
「……いえその」
顔をしかめて苦虫を噛んだような顔をしている華雄に対し、勝ち誇った勝者の余裕とでも言うべき表情をむけるはやて。で、ちらりと周りをよく見れば、他の面子はすでに、鍋の乗ったちゃぶ台ごと他所へ非難されておりました。
「ちょっと輝里さんたち!君らだけで逃げないで俺もそっちに入れて!」
『自分で撒いた種です。自分で何とかしてください』
「そんな殺生なーーーーーー!?」
「……わかった。このわたしが、口先だけで状況をどうにかしようとした事が、そもそも間違いだったんだ。結局、ねっからの武人である私がするべきは、こいつでもって勝利を掴み取ることだ」
じゃき、と。どこから取り出したのか、愛用の金剛爆斧を一瞬で取り出して構える華雄。って、ちょっと待て!まさかここで戦闘始めるつもりかよ!?
「……そういうことなら、わたしも華雄はんの礼儀に則ろうやない。リイン、ユニゾンや!」
「は~い!」
「ちょ!はやて?!」
俺が止める間も無く、はやてもまたバリアジャケットを装備し、リインのやつと合体して夜天の書をしっかりとその手に持ち出した。
これはまずい。
いくらなんでもまずすぎる。
いくら華雄でもこればかりは相手が悪すぎる。だって、相手は曲がりなりにも魔道師なんですよ?しかも、SSクラスという、あの世界でもなかなか居るもんじゃないほどの実力者。
……勝てっこないどころか、確実に……死亡フラグじゃんか!なんとかして止めないと、こっちにまでとばっちりが来るのは目に見えてる!!(注:多分に自業自得です)一体どうやったらこの二人を止められる?!考えろ~!考えるんだ俺~!
と、俺が灰色の脳細胞をフル回転させ始めたときだった。
「……ただいま、です」
救いの天使、キターーーーーーーーーーーーーっっ!!
「お、お帰り~、アインハルト~!」
「ふえ?アインハルトちゃん?」
「お?もうそんな時間だったのか?」
我が真の愛娘!そして我が永遠の天使!アインハルト=ストラトス!・・・いいタイミングで帰ってきてくれた~!!
「……はやてさん。華雄さんと喧嘩……ですか?」
「え?!あ、いや、これは別に喧嘩っちゅうわけでは」
「こ、これはだな、だからその」
よしよし。これでどうにか、二人とも矛を収めてくれる展開になりそうだな。良かった良かった。
「これはその……そ、そう!……二人で仲良く、事の元凶にO☆SHI☆O☆KI☆を、しようとしていただけさ!なあ、はやて!」
「そ、そうやねん!……つーわけで、狼くん」
……は?
『恨みは別に……たくさんあるけど、運が悪かったということで♪』
今回の結論。
二股、駄目。絶対。
「お、もうお鍋が煮えたな?ほら、アインハルトちゃん。手、洗っておいでや。みんなでご飯にしよな」
「……はい」
わいわいと。
とっても楽しそうなみんなの声と、とってもおいしそうなお鍋のにおい。
それが漂ってくるその中で、一人赤黒い何かの液体の中、尽きること無い涙を流し続けた俺だった……。
「……ぱぱ?」
「……(意識途絶中)」
「……頑張って///」(なでなで)
「……(アインハルトのなでなでで即復活w)あいんはると~!やっぱいい娘だ~!!」(ぎゅ~!)
「……ぱぱ、苦しい///」
「もう、ぱぱは君さえ居ればそれでいい!他の薄情な娘どもなんて知ったこっちゃね~!」(むぎゅむぎゅ~)
「……あ」
「ん?どった、アインハルト」
「……おねえちゃんたちが、怖い顔してる」
「へ?」
その後。
ゴミ箱に放り込まれた一人のおっさんが、外史のどこかへとその姿を消したという、そんな噂が剪定者たちの間に流れた。
もっとも。
その噂もすぐに聞かれなくなり、それ以降、彼の姿を見た者は居なかったという。
おわり。
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久々楽屋ネタです。
今回は初のクロスネタ。
お馬鹿なお話ですし、大して面白くないと思いますが、
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