■少女■
私は学校が好きだった。
友達がいて他愛のない事で笑い合い、
勉強をして難しい問題に頭を悩ませ、
部活をして日が暮れるまで汗を流し、
屋上に忍び込んで先生に見つかって怒られ、
そんな、なんでもない日々がいつまでも続くと思っていた。
でもある日、
全てが壊れた。
突如現れた大嵐。
竜巻のような「それ」は、大きなビルも、整備された公園も、
良く登った裏山の大樹も、私の家も、友達の家も、
友達と走った通学路も、
先生の字で埋め尽くされた黒板も、
体育館裏の用具室も、
屋上から見た抜けるような青空も、
全部全部持っていってしまった。
私は、毎日毎日、屋上に登ってたくさんのシーツを干す。
そこから見える景色は、一面の瓦礫の山だ。
道も、家も、何も存在しない。
私は、毎日毎日、たくさんのシーツを持って
土砂の流れ込んだ廊下や窓ガラスの散らばる階段を歩く。
終業のチャイムで、空の籠を持って屋上へと登る。
ふと、もう二度とあの大好きな学校には戻らないのだと思うと、
不意に涙が出て来た。
真っ白なシーツで自分の小さな体を世界から隠して、私は泣いた。
「ねぇ。願い事を一つ叶えてあげる代わりに、ボクと契約して魔法少女になってよ?」
■魔法少女■
私は、魔法少女になった。
学校は建てたばっかみたいに綺麗になった。
突然修繕された学校に、先生も避難してる人もその他色んな人も驚いていたけど、
それはそれとして、ドロや瓦礫で使えなかった教室も元に戻り、皆が喜んだ。
でも、学校は元には戻らなかった。
使える教室には他の避難者が入ってきたり、必要なものを置いておくための倉庫になった。
私はやっぱり、毎日たくさんたくさんシーツを干した。
洗濯物は増えたけど、その分人も増えた。
終業のチャイムで、空の籠を持って屋上へ登る。
屋上にはぼーっとフェンスの外を眺めてる人が増えた。
魔女と使い魔は次から次に現れた。
陽が沈み、赤と青を混ぜたような空が運んでくる心細い風に乗って。
夜が訪れ、真っ暗闇のそのまた隙間から忍び込む不安に隠れて。
どれだけ追い払っても、どれだけ倒しても、すぐに現れた。
私が護るんだ。私しか出来ないんだ。
そしていつかまた、皆で学校に通うんだ。
そう思っていた。
でも、あるとき気付いた。
魔女にそそのかされるのは、大体決まっていた。
放っておくと、その人の周りからさらに広がっていった。
学校が綺麗になっただけでは、元通りになんかならないんだと。
私は、毎日たくさんたくさんシーツを干した。
あぁ、このシーツ昨日から汚れが抜け切っていないわ。
こっちは綻びて裂けてそうだわ。
昨日、綺麗にしたのにまた汚れてるわ。
昨日、直したのにまた綻びてるわ。
あぁ、手が足りない。一人じゃ足りない。
どんなに頑張っても、どんなに直しても、どんなに綺麗にしても。
戻ってこない。壊れていく。汚れていく。
シーツを干す手を止める。
セーラー服の少女と一瞬、目があった。
私は何も感じない。
フェンスの前に少女が一人。
白いシーツを体に巻いて。
飛び越え、飛んだ。
ほんの一瞬風を吸ったシーツが青空に白い影を描いて、
視界から消えた。
私は見ているだけだった。
私は何も護れていなかった。
私は何も取り戻せていなかった。
友達一人救えない。
友達一人護れない。
何も出来ない事から目を背け
出来る気になっていただけだ。
まだ青空が広がっているのに、終業のチャイムが鳴っていた。
あぁ、シーツを回収しなきゃ。
■魔女■
あおぞらのみえる きれいな きれいな がっこう
いすも つくえも みんなそろっている
ともだちも みんな いる
りそうのがっこう
でも みんな こしから しただけなの
なんでかな?
あ そうか うえは よごしちゃったんだね
だから あらって ほしてるんだね
ここは なにも おこらない
みんなが しあわせに じゅぎょうを うけて
べんきょうを して ぶかつを する
だいじょうぶ なにも おこらない
わたしが ちゃんと みているから
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魔女の生前について妄想したくなったので。兼小説投稿テスト。