No.249634

電波系彼女2

HSさん

続きです

2011-07-31 04:01:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:371   閲覧ユーザー数:360

 慣れっていうのは怖いもので、そんな常識外の出来事も毎週続くと日常になってしまう。

人に話したところで解消出来る様な事でもないと思うし、むしろ可愛そうな人ねぇなんて

同情されるのがオチだしな。

 聞こえてきたのが普通のラジオっぽかったのも幸いしたのかもしれない。これが、もし

意味不明な音声やノイズ、不気味な内容だったら俺だって病院にいってみようなんて考え

たはずだ。

起きてしまったことは仕方ないと素直に物事をそのまま受け取る(柚葉に言わせると考え

が足りないらしい)性格がこういうときはいい方向に働いてるよな、なんて思う。

 神経質なヤツだったらとっくに寝込んでるだろうし大雑把なのも時にはいいもんだ。

 そんな一月前の事を思い出しつつ今週も強制的に放送を聴いているわけだけど、番組も

半ばに差し掛かったとき、普段なら第3位あたりの曲を流す時間帯に音声が乱れた。

「では、今週のだいさんキャッ」

 だいさんきゃっ……なんだ、放送事故か?

 こんなアクシデントなんて起こるとは思ってなかったけど強制的に聴かされてる身とし

ては有難いイベントだ。

 

「ちょっとパパ!なに勝手に入ってきてんのよッ」

 リスナーの存在をすっかり忘れたぱるすが喚いている。

 年頃の娘の部屋にノックもなしに入ってしまうデリカシーの無い父親が思わず頭に浮か

んだ。

 いや待て、親が乗り込んでくるってどんなスタジオで放送してるんだよ。

「お前という娘は勉強もせずに遊んでおったのかっ」

 正に娘に雷を落としに来た父親そのものといった感じだ。父娘バトルの勃発か?

「ちょっと休憩してただけでしょー」

 いいぞ、放送終わるなよ。

「お前が1回も勉強会に出ていないことは兄から既に聞いておるっ親に嘘をつくような子

になってしまってワシはワシはワシは悲しいぞおっ」

 熱く嘆く父親VS娘の一騎打ちは今のところ娘の形勢が不利な様子。

「いやーパパ、盛り上がってるところ悪いけど、あの勉強会ってうちを継ぐお兄様がきち

んと出来てればいいわけで、わたしはあんまり関係ないと思うんだけどなー」

「大体お前は暇を見つけては日本にちょくちょく遊びに言って居るそうではないか、くだ

らんっ全くくだらんっそんな事をしとる暇があったらマナーの一つも身に着けんかっ」

「くだらないですって?人の趣味にケチつけるならまず自分の格好をどうにかしてよねッ、

赤い王冠とマントなんて組み合わせもどうかと思うし、しかもそのヒゲ!タイツとブルマ

まで履いてどこの王様?って感じでおかし過ぎて直視できやしないわよ!」

 はいはい、典型的な王様スタイルですね。

「これはサキちゃんがワシに送ってくれたものだぞ?貴方に似合うと思い送ります大切に

なさってくださいね、なんてメッセージまで付いておったんだ趣味が悪いわけなかろっ」

 ヒートアップしてんなぁ。

「いい年して自分の妻の事をちゃん付けで呼ぶのはどうかと思うんだけど」

「それにそれが似合うなんてママの冗談に決まってるじゃない、パパってすーぐ騙されち

ゃうんだから」

「うるちゃい」

「かんだ」

かんだな。

「ううううるさーいっ、サキちやんのおらん間にまともな娘にしてやろうと言う親心がわ

からんバカ娘めっ、ぺぺぺぺぺっ!もうお前のような娘は許してやらんもんね!」

「そんなに遊びたいなら好きなだけ遊んでくるがいっ」

「いや、むしろワシが送ってやるもんねっ」

お父さん暴走しすぎだろう。

「い、行き先くらい選ばせて欲しいなーとか……だ、駄目かな?」

「だまらっしゃい、甘いわっ」

「そーれ」

「ウソでしょぉぉぉぉぉぉ」

「ぱるすー達者でなー」

 極上の微笑みで手を振るハートのキングが頭に浮かんだ。

「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 やけに陽気に娘を見送るお父さんとぱるすの叫び声が聴こえた刹那、俺の部屋の真ん中

に光の球が現れたかと思うと真っ白な光に包まれた。

 目、目がっ。

 一瞬の出来事に何が起こったのか理解することすら出来ず、あまりのまぶしさに思わず

光球に背を向け目を閉じる。5秒?10秒?いきなりの光の爆発に時間の感覚を奪われて

正確な時間が把握できない。痛みは感じないのでなにか直接俺に被害が及ぶような現象で

もないらしい。

 どれくらいの間ギュっと瞳を閉じていたのか、

 ようやく光が消え去ったのを感じた。

 ……お、終わった?

 荒くなった呼吸をなんとか整え緊張と力の入れすぎでガチガチになったまぶたを恐る恐

る開くと、そこには初めていきなり流れたラジオを聴いたとき以上に俺を驚かせるものが

そこにはいた。

 

「誰だこの子?」

 思わず口に出る。

 女の子だ。

 しかもとびきり上等の。

 気を失っているのか眠っているのかピクリとも動かない。

背の中ほどまでもある髪の毛は金糸を束ねたようにキラキラと煌き、肩から背中へのラ

イン、そしてそこからヒップに続く曲線はシミ一つない色素の薄い肌で覆われている。

 全体的に肉付きは薄そうだけど、男のゴツゴツした体とは全く違うその柔らかそうな体

つきは女の子の色気を十分に発揮していた。俺をはじめ思春期の男だったら誰でも見てみ

たいと思う胸のふくらみや顔はうつ伏せになっているために確認することが出来ないのが

残念だ。

この子に触れてみたい衝動に駆られないわけじゃなかったけど、流石に見ず知らずの唐突

に現れた女の子に手を出せるほど俺は馬鹿じゃない。

 ううむ、どうしたものか。

 暫くの間見とれていた俺にもようやくこの子は誰なのか?とかどこから俺のベッドに入

り込んだのか?なんて考える余裕が出てきた。

 だがしかし、いくら考えを巡らせても答えは出ない、当たり前だけど。

 

 そんな時俺の思考を中断するかのように窓をノックするコツコツという音が聞こえる。

 柚葉だ。

 ちょっと待ってくれ、わざわざこんな時に来なくたっていいだろ?って言うか多分さっ

きの光のせいなんだろうけどこの状況を見られるのはヤバ過ぎないか?

 逆光でよく表情が読み取れないが押し殺した感情はガラスを通しても十分に感じられる。

「あ、開いてるぞ」

 柚葉に声をかけると無駄なことだと思いつつ女の子を柚葉の視線からさえぎる努力をし

てみた。本当に一瞬で無駄な努力になってしまったけど。

「その子は誰なのかな?」

 カラカラとガラス戸を開いて部屋に入ってきた柚葉は笑顔で、但し笑っていない瞳とピ

クピク動くこめかみのおまけつきで聞いてくる。

 やっぱり気になるよな、俺だって柚葉の部屋がいきなり光ったら見に行くだろうし、ベ

ッドに全裸の男が横たわっていたらそれが誰なのか聞きたくなるもんな。

 ……だけどちょっと待て、よくよく考えると俺と柚葉は付き合ってるわけでも何でも

無いんだからやましい事なんて何も無いんじゃないか?

 クラスの奴らからは2人セットで見られているけど、10年も付き合いのある相手なら

普通だと思うし、たまたまそれが男と女だったってだけで、2人はコイビトだなんだなん

て話しにはならないしな。

 そう、だから俺に非がある問題でも無いんだから堂々としてれば……

 ちら、と柚葉を見上げてみる。

 ……無理くせえ、柚葉の顔すげー怖いッス。

 でも、思い出してみると柚葉は俺を男として意識なんかしてなかったし、これだけピリ

ピリしてるのは、友人としてふしだらな行為は許せません!て所か。

 

 去年俺の部屋でゲームをしていた時の事だ、

 俺はショートパンツにTシャツ、柚葉はタンクトップにブラウスを羽織りミニスカート

っていう蒸し暑い日にはぴったりの格好で遊んで居たんだが、俺も柚葉もエアコンってモ

ンが余り好きじゃないから暑い暑いと言いつつも扇風機だけで過ごしていたわけだ。けど、

当然それだけじゃしのぎ切れないわけでじわじわとシャツが汗ばんでくる。

 一人で遊んでいるならパンイチになってしまうのもいいだろう。でも、相手が柚葉とは

言え一応女の子が一緒なわけだからそれは遠慮しておかないとマズイ。

 そんな俺の気遣いなんざ何処吹く風、柚葉のヤツは俺の目の前でブラウスを脱ぎ始めや

がった。別に何が見えるって訳じゃないけど高校生にもなって男の前でいきなり脱ぎ始め

るのはどうかと思うぞ。

 こいつには羞恥心とかってものがないんだろうか。

 大体そのミニスカートからしてけしからん、これが俺じゃなかったら襲われても文句は

いえんぞ?と健康的な脚に目がいってしまう自分のことは棚に上げて思う。

 タンクトップの生地は薄くて柚葉の決して大きいとはお世辞にも言えないけどそれなり

にボリュームのある胸の形がおぼろげながらわかる。

 いくら幼馴染だとはいえ俺も男だし、その2つの凶器に自然と目が向いてしまうのは仕

方のない事だな。

 まあ、俺と違って上には2枚着てたんで我慢しきれなくなったんだろうし、もう1枚着

てるわけだからソコまではいいんだ。

 目の保養にもなるし。

 だけど問題なのは柚葉がブラウスを脱いだ事じゃなく、寧ろそれ以前に着ていなかった

いや着けていなかったのが正しいというか。

 ハッキリと言ってしまうと柚葉はブラをつけてなかった。

 それに気づいたのは対戦もひと段落してお菓子をパリパリ食べたりお喋りをしながら柚

葉を団扇で扇いでやっていた時のことだった。

「暑ぢー」

「暑いわねー」

 外でミンミンミンミンと単調なリズムでうるさく喚くセミ共にうるせーなんて悪態をた

れつつ、ぱたぱたと団扇で風を送ってやっていると、ふとした拍子にシャツの隙間から……

その……なんだ、胸の谷間の奥の方が覗けてしまった。

 事故だ、これは事故なんだ俺は悪くないぞ確かに胸に目が行っていたのは否定できない

がそれはあくまで柚葉がそんな無防備な格好で隙だらけでいるためであって決して俺に非

はないと思う。

 ここで何も言わずにいることも出来たけども、気づかない振りをし続けるのも辛いし、

第一後で柚葉がそのことを知ったら奢らされるか平手が飛んできて、どっちにしろ被害を

被るのは俺のほうなのは明らかだ。

 だが、幾ら二人で遊びに行くのが楽しいと言ってもお財布には限度があるわけで。

 まあそんなの断ればいい、断れればな。なんだかんだで小さい頃の遊び相手が柚葉と秋

っていう女の子2人だけだったせいもあり、どうも柚葉……に限らないが女の子からの

お願いには弱い。

 そんな訳で俺は一世一代の勇気を振り絞り、彼女の胸がほぼノーガードの状態って事を

教えてやることにしたわけだ。

「なあユズ」

 俺は出来るだけ平静を保ちつつ(体をさりげなくガードするのも忘れずに)呼びかけて

みた。

「なぁに?」

「お前さ」

「うん」

「何か忘れてないか?」

「なに?」

 手のひらで顔を扇ぐのを止め、きょとんした顔でこっちを見ている。

「いや、その……」

 がんばれ俺。

「いや、うちに来るのに忘れ物とか」

「うん?」

 埒が明かない。

 しょうがないよ、もうはっきり言うしかないんだよな。

「あのさユズ」

「だからなに??」

「お前、ブラ着け忘れてるぞ」

 バシッ

 直後、お腹をガードしていた俺の予想に反して飛んできたのはスナップの良く効いた顔

面への平手打ちだった。

「なに変なトコ見てるのよっ。こっ、このエロヒカリッ」

 エロってひどくね?俺は悪くないだろ??寧ろ親切に教えてやったんだから感謝して欲

しいくらいだ。じんじんする頬を押さえて一応反撃してみる。

 だが柚葉にそんな考えが通用するはずもなく翌日ケーキを奢らされる羽目になったのだ

った。

 親切心が仇となるってこんな場合にぴったりだよな。

 とまあそんな感じで、柚葉は女の子の恥じらいって物をまだ解っていない子だと俺は思

っている。

 

 さて、俺の部屋で全裸の女の子を見つけた柚葉は視線で人を凍らせることって本当に出

来るのね、って程の冷たい目で俺を見ている。

「ヒカリの部屋がなんだか明るかったから火事でも起きているんじゃないかって気になっ

て来て見たら誰なのこの子は!しかも裸だしエロいヒカリの事だからなにか人に言えない

ようなことでもやってたんじゃないでしょうねッ」

 一気にまくし立てるとフンッっと鼻息を鳴らす。

 まだ何もしてないって言うかびっくりしてそんな事を考える暇もなかったって言うか勝

手に現れちゃったんだからそんなに責めるような目つきで見られても困る。

「いや、俺にも状況が良く飲み込めていないんだけど……」

 実際こんなふざけたシチュエーションなんて想像できないだろ?

「ぼーっとしてたら部屋が突然ピカッって光ってさ、で、気づいたらここにこの子がいた

って訳」

 俺は出来るだけシンプルに事情を説明しようと試みたんだが、どうやら事態はさらに混

沌としてきたらしい。

「突然、っていう割りにそのヒト随分落ち着いてるわね?」

 柚葉は俺の背後にいる子に鋭い視線を向ける。

 落ち着いてるんじゃなくて気を失ってるんだろ?と振り返ると、そこにはタオルケット

で胸を隠しバツが悪そうな顔で笑う女の子がいた。

 どうしてこう次から次へと常識と予想を裏切る出来事が続くんだ?俺がなにか悪いこと

でもしたのか?それとも罰ゲームかなにかなのか?

 浮気現場に乗り込まれた男みたいな状況に泣きそうになったが、魂が半分現実逃避した

お陰で少し冷静に半裸の彼女を観察する余裕を持てたらしい。

 見たところ同年代かちょっと上くらい、意志の強そうなしっかりとした眉と大きな口が

印象的で、可愛いと綺麗が6:4の割合でバランスよく交じり合った顔をしている。

 是非々々お近づきになりたいタイプです。

 って、好みの顔だからって喜んでる場合じゃねえ。

 誰?

 どこから?

 どうやって?

 考えることは山ほどあるだろう。

 しかし、俺がその疑問を口にするより早く、平凡な……異常事態には似つかわしくな

い挨拶をしてきたのはベッドの上でくつろぐ半裸の女の子だった。

「こんばんはー」

 聞き覚えのある甘く透き通った声。

 それは、毎週聴いているラジオから流れているのと寸分違わぬ声だった。

「こ、こんばんは」

「突然驚かせちゃってごめんネ。わたし天野ぱるすって言いまーす、えへへ」

 頭のネジが2,3どころか10本は抜けてる、いや残ってるのが数本か?と思えるほど

ゆるーい挨拶が彼女のチャームポイントである(と勝手に決めさせてもらった)口からこ

ぼれた。

 天野、ぱる、す??

 有り得ないと思いつつ声を耳にした瞬間から半ば予想していた彼女の正体。

 常識外の展開が予想の範囲内だったという奇妙なパラドクスが落ち着かない気分にさせ

る。

 こうした現実を突きつけられるまでは頭のどこかで妄想の産物だと思っていたぱるすの

存在が急にリアリティを持ち始めた。

 でも待てよ、ラジオにしたってこの子にしたって、実は全部幻だったってオチはないか?

事故に遭ったショックで幻覚を見やすい体質になっちまったみたいな……。

 ……ないよなぁ。隣に居る幼馴染まで俺の作り上げたものだとはとても思えない。

 柚葉は腕を組みしっかりとこっちを見据えているし、流石に彼女にも見えている人間が

幻とは考えにくい。

 お約束として軽く手の甲をつねってみてもしっかり痛みを感じる。

 だからってこれが胡蝶の夢じゃないという証拠にはならないが。

 取りあえず礼儀として返事はしておこう。

「あー、泉水ヒカルです」

 我ながら何の面白みもない自己紹介だと思う。しかし他に気の利いた科白も思い浮かば

ないから仕方ない。

「その子が誰でもいいけど、洋服くらい着たら?」

 他になにか言うべきか迷っていると、あきれたように柚葉が言う。

 と言われても秋に借りに行くわけにはいかないし、そもそも中学生の秋とこの子じゃサ

イズが合わないだろう。

 柚葉に借りる……のは無理だな。今はとてもそんな事を言い出せるような雰囲気でも

ない。

「取り合えずで悪いけどこれ着ておいて貰えるかな」

 俺は仕方なくベッドから立つと、がさごそと引き出しからパーカーとジーンズを取り出

し、出来るだけ彼女の方を見ないように努力しつつそっと差し出した。

 天野ぱるすと名乗るその子はえへへと笑って受け取ると信じられないことにこう言った。

「ねえ、下着は?」

 あんたは俺の部屋に女物の下着があるとでも言うのか!?

「流石にそれはちょっと……」

「そっか、じゃあいいやそっちの彼女に借りるから」

 背中越しでも柚葉が絶句しているのがわかる。

「ななななにいってんのッ、貸せるわけないいでしょッ」

 突然自分に振られてあわてふためく柚葉。

 そりゃそうだ、常識的に考えていきなり下着貸してくれなんて言われて、はいどうぞと

すんなり答えるほうがどうかしてる。

「仕方ないなー、それじゃこれだけ着ちゃうからそっち向いててよー?」

 いつの間にかこの場を仕切っているぱるすがそう告げた。

 言われなくてももう後ろ向いてるけどな。

 その声に反応したのか柚葉が隣にやってきて耳打ちをする。

「ちょっと、ホントにこの子なんなわけ?」

「さっきも言ったろ?俺にもわかんないんだって」

「だけどアンタの部屋にいるんだし何も知らないって事ないでしょう?」

「ほんとに知らないんだってば、逆に俺の方が何が起きてるのか知りたいくらいだし」

 なんてなんの解決にもならない事をこそこそ話してる間に着替えが終わったらしい。

「ありがと、もうこっち向いても平気よ」

 そう言われて振り返るとベッドの上にまるでこの部屋の主はわたしよ、といわんばかり

に悠然とした姿で座っているぱるすの姿を見つけたのだった。

 

「さて」

 コホンと咳払いを1つすると非常識の塊が壊れたマシンガンのように一気に話し始めた。

 いや壊れれたら動かないんだろうが、でもまあそんな感じで一気呵成って言葉がこれほ

ど似合う喋り方は無いってほどの勢いで。

「いきなりの事で混乱してると思うけどわたしが急に現れたこととかそのへんの事情は後

で説明するからちょっとしたお願い聞いてもらえるかな?いやいや血を吸わせてとか魂よ

こせだとか化け物や死神みたいにそんな怖いこと言わないし本当に大したことないお願い

なのよ、だから、ね?それにわたし自分で言うのもおかしいけど悪い人じゃないと思うし、

それにここが一番の問題なんだけどわたしどうやら帰る手段が無いようなのよね、よく言

うじゃないの袖振り合うも他生の縁情けは人の為ならずってね」

 ここで一旦区切ると、たっぷり2秒はタメを作ってからこう続けた。

「とゆーことでしばらくの間でいいからわたしをここに置いてくれないかな?」

「はいい?」

 思わず柚葉とユニゾンしてしまう。

 断られることなんて微塵も考えていない、魅了の魔法をかける時はきっとこんな感じな

んだろうなと思わせる期待に満ちた目。

 だがそう簡単にいいですよと頷くわけにもいかんだろう。

「や、その……うちに置くとかそういう話の前にまずどうして君……天野さんがここ

にいるのかとか聞かせ」

「チッチッ」

 全て言い終える前に人差し指を左右に振って遮る、住所不明無職かもしれない自称天野

ぱるす17歳程度、美少女。

 ここに置いてくれと頼んだときといい、今の指をふる仕草といいなんでこの子は一々行

動が芝居がかっているというかマンガっぽいというか、大げさなんだよな。

「やー軽くパパと喧嘩しちゃってさー、んで追い出されちゃったってワケ。ひどい話だと

思わない?ちょっと勉強しなかっただけなのに」

 俺の聞きたかったのはWHYじゃなくHOWつまりどうやって「突然」現れたかだった

んだがなぁ。

「で、わたしを置いてくれるって話だけど、いいわよね?うちに帰る手段も無いわけだし

まさか断るとは思ってないけど」

 ずずいと身を乗り出して改めて聞いてくる。

 いつの間にか引き受けることが前提になってるのが気になるが、有無を言わさぬ迫力が

ある上にこんな綺麗な女の子の頼みを断る男はまず居ないだろう。

 家族への説明をどうするかは後で考えるとして、しばらくなら置いてあげてもいいよな。

 それに実際なんでこんな事になってしまったのか純粋に興味もある。

 決して彼女の美貌に目がくらんだとかその美しい体に魅了されたとかではなく。

 本当だぜ?

 ゴスッ

「なに鼻の下のばしてんのよッ」

 みぞおちに……肘鉄は……やめ・・く・れ。

「鼻の下なんて伸ばしてないだろ?」

「いーえ伸びてましたッ鼻が床につくんじゃないの?って程にね!」

 それじゃ鼻の下じゃなく鼻が伸びたって言うんじゃないのか?ピノキオじゃあるまいし、

とは思っても口に出せるはずもなく。

「私は絶対に反対よ!こんな訳のわかんない女をヒカルのところに置いておくなんてぜー

ーーーったいに反対ですッ」

 風呂上りにコーヒー牛乳を飲むポーズでそんなに頑張らなくてもいいんだぞ?

「だいたいヒカルもヒカルよね、ガラス戸に鍵もかけずに開けっ放しにしてるなんて、そ

んな事だからこんな女が勝手に上がりこんであまつさえ、ぜ、全裸になってベッドに潜り

込まれたりするのよッ」

 おいおい俺に矛先を向けるのは勘弁してくれ。

 それに……

「鍵をかけてなかったのはユズがいつ入ってきてもいいようになんだぜ?」

「な、なに言ってんのよ……」

 ぽっと頬を染め俯く柚葉はとても可愛い。

 拳で語らずにいつもこんな調子ならいいんだが。

「いや、ホントはたまたま忘れてただけだけどな」

 びしっ。

 こうなることが判っててもついつい柚葉をからかってしまうのは、決してそんな事はな

いと力いっぱい否定したいが俺は潜在的にマゾなんじゃないだろうかと時々心配になる。

「ところで、この子は誰?」

「それは私の方が聞かせて貰いたいわよッ」

 今日の柚葉は熱いな。俺に対してはいつものことだとしても他人にこうまで言うのも珍

しい。

「そんなにトゲのある言い方しなくたっていいだろ?こっちは四堂柚葉、一応俺の幼馴染

です」

「なるほど」

 ぱるすの瞳がキラリと光った気がした。

「わたしはさっきも言ったけど天野ぱるすって言います、柚葉ちゃんよろしくね」

「……よろしく」

 柚葉はしぶしぶと言った感じで差し出された手を握り返している。

「さてと、多少前後しちゃったけど軽く自己紹介も終わったわね。それでこれからどうす

るかなんだけど……」

「ヒカルの所にお邪魔するって言う話なら私は反対よ、それになんであなたがヒカルの部

屋に潜り込んでたのか説明するのが先じゃない?」

「えっと、それはなんとゆーか非常に理解して貰いにくいと思うんで返答を差し控えさせ

て頂きたいとゆーか」

「あなたさっき事情は説明するっていったわよね」

 風紀委員長が眼鏡を指先でくいっと動かしつつ発言してるような調子で鋭い突っ込みを

入れている。

「それはそうなんだけど……うーん」

 腕を組みしばらく悩んでいたが心を決めたらしい。

「じゃ、今から言う事を笑ったり嘘って決め付けないって約束して貰える?」

 何を言うつもりなのか知らないが、ここで頷いておかないと話が先に進みそうに無い。

 柚葉も同じ気持ちのようで、

「いいわよ、笑わないから先を続けて」

 ピリピリしているものの、出来るだけ抑えて言った。

「泉水君もいい?」

「ああ」

「それじゃ」

 と言うと大きく一つ息をして話し始めた。

「パパと喧嘩して追い出されたってのはさっき言ったわよね」

 うむ。

「で、その時ポータブルトランスポーターってのを使われたんだけど座標の指定をキチン

としてなかったせいでここに飛ばされちゃったみたいなのよね、でも通常こういう場合遮

蔽物のあまり無い場所に転送されるのが普通だし、着ているものや持ち物だってそのまま

移動するはずなんだけど。まあ、それは家具とかが干渉しちゃったんだろうけど何故開け

た場所じゃなくてここに来たのかって点だけが私にも不思議なのよね。ちなみに今の流れ

で解ってると思うけどポータブルトラスポーターって物質転送装置って思って貰えればい

いわよ」

 これがここにいる理由よと、そんなに胸を張ってこっちを見つめられても返す言葉が見

つからない。

 柚葉にしても目をぱちくりさせながら固まっている。

「……やっぱり信じてないんでしょ」

 ぶすっと膨れて不満そうにぱるすは言った。

「信じてないわけじゃないんだけど、どうも俺の常識の遥か彼方の出来事のような気がし

て……」

「最初に約束したから話したのに、柚葉ちゃんだってわたしの事頭の変な子だって思った

に決まってるわ」

「そ、そんな事ないわよ、私は信じて・・るけど」

 明らかに動揺してるのが見え見えの人に言われても、そう簡単に受け入れてもらえない

んじゃないか?

「こうなるのが嫌だったからなんとか違う説明の仕方しようと思ってたのに強引に聞こう

とするから……」

 立ち上がって窓の外を見ながらぱるすが言った。こっちに顔を向けないのはその震えた

声から察するに涙を見せない為だろう。

「泉水くんだって……・泉水くんだってこんなおかしな事いう子を近くに置いておくな

んて嫌よね……」

「いや、その……」

 なんかすげー彼女に対して凄く悪いことをしているような気分になってきたぞ。

「いいわ、わたし諦めるから……泉水くんには迷惑かけちゃうし柚葉ちゃんには嫌われ

ちゃったみたいだし、ここではないどこかで誰かが迎えに来てくれるの待ってる。ごめん

ね、悪いけどこの洋服だけ借りていくわね、それじゃ……バイバイ」

 そう言うとガラス戸をあけベランダに足を踏み出した。

「待った!」

「待って!」

 正体不明とは言え女の子を着の身着のままで放り出すのは、女の子は優しく扱うものだ

と教えられてきた俺にはどうも性に合わない。

 柚葉だってこのまま出て行かれたら後味の悪い思いをするに決まっているし、ぱるすに

対して刺々しかったのだって、嫌いと言うよりも訳のわからない状況を筋道を立てて考え

たいという彼女なりの考えがあってのことだろう。

 その柚葉も呼び止めたということはこの場で俺が取る行動は一つしかない

 

 柚葉に向かって小さな声で

「いいよな?」

 と囁くと当然のごとくコクリと頷いて来る。

「なあ天野さん、君さえ良かったら暫く家にいないか?そりゃいつまでとか確約できない

し家族も反対するかも知れないけどなんとか説得してみるからさ」

「いい……の?」

「ああ、乗りかかった船だし柚葉も賛成してくれてる。それに俺にも1つだけ君に聞きた

いことがあったの思い出したしな」

 色々な事がありすぎて例のラジオの事をすっかり忘れていた。

「柚葉ちゃん、本当にいい?」

「当然よ、そりゃまだ全部を信じきるなんて出来ないけどあなたの態度を見てると全部が

全部嘘って事もなさそうだし」

「ありがとう……」

 感極まったのかぱるすの肩と声がふるふると震えている。

「それじゃ、泉水くんに柚葉ちゃん改めてこれからもよろしくねッ」

 呆気に取られるとは正にこのことを言うんだろう。

 くるりと軽やかに振り返って満面の笑みでそう言ったぱるすの顔には一筋の涙の跡すら

なかった。

「やー、もっと早く引き止めてくれると思ってたら意外と粘ったわね、わたしもまだまだ

修行が足りないって事ですなー」

 などと言いつつケラケラと笑っている。

 いやもうね、これだけ見事に騙されると怒るとかそんな感情はまーったく浮かんで来な

いね。

 逆に賞賛したいくらいの気持ちになるし、最後まで見抜けなかった自分がなんとも可笑

しくて俺も釣られて笑ってしまう、笑うしかない。

 柚葉はようやく演技だったって事に気づいたのかぎゃーぎゃー言いつつぱるすを追いか

け回している。

「きゃー泉水くんたすけてー」

 と俺にしがみついて来るぱるすの腕に当たるぽよんとした膨らみが心地良い。

 そして、

「なにヒカルにくっついてんのよッ私はまだ認めたわけじゃないんだからねッ」

「さっきいいって言ったもーん」

「居候は居候らしくおとなしくしてなさいよッ」

 かしましい2人のやり取りを聞きつつ夜は更けていく。

 突如現れた謎の不思議系美少女天野ぱるすの泉水家における処遇を決める会議(命名:

天野ぱるす)は最終的に柚葉も不承不承ではあるが謎の美少女ぱるすがウチに居候する事

を認める方向で終了した。

 もちろん俺の部屋ではなく柚葉の所でもいいんじゃないかと言う至極当然な意見も出た

わけだが、トランスポーターのゲートが開いたときに自分が居ないと問題だから、と言う

ぱるすの発言にそれなりの説得力があった、若しくは上手く丸め込まれたので柚葉も納得

せざるを得なかった。

 そして各々柚葉は自室へ、ぱるすは何故か俺のベッドへ、そして俺は部屋の隅で丸くな

ると言うどうにも腑に落ちない布陣で眠りについたのだった。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択