「今度バイト遅刻すると減給らしいんでな、悪いが速攻で片付けさせてもらうぜ」
発砲による足止めから開放された何かはゆっくりと歩く速度で真司へと近づいてくる。
そんな人ならざる何かを目の前にしても真司は動ずることなく、肩に掛けていた竹刀袋を開く。
だが、中から出てきた物は竹刀ではなく、真剣だった。
「中村さん!拳銃でも足止め程度にしかならなかった化け物相手にあんな・・・ッ!?」
「今井・・・お前さん、ウチに入るときに死ぬほど分厚い資料渡されたでしょ・・・?」
「え、あっ・・・はい、ですが・・・」
「・・・お前さんも半信半疑だったクチか」
「・・・す、すいません・・・」
中村は驚くことも怒ることもなく、予想通りと言った表情で肩をすくめるだけだった。
そんな上司を見て、今井はばつが悪そうに萎縮する。
「奴等の通称・・・災忌って単語は記憶にあるか?」
「は、はい!しっかり熟読しましたので、資料内容は完璧に覚えています!」
「奴等は昔から土野市に稀に出没する化け物だ。
まぁ、見た目どおり人間離れした怪力を持っていたりするが、それは大きな問題ではない」
「・・・?そう、なんですか・・・?」
中村は目の前で真剣を抜き、化け物、災忌と対峙する真司を眺めながらタバコに火をつける。
「奴等の最大の特徴は俺たち一般人には手も足も出ないってところなわけ」
「・・・その、何で僕たちには・・・化け物、その災忌に傷を与えられないんでしょうか・・・?」
熟読して完璧に覚えていたはずの内容は目の前の現実離れした光景と緊張の所為ですっかり飛んでしまっていた。
「奴等はな、膜を張っているのさ。俺たちには見えない薄い膜をな。
・・・まぁ、目には見えない分厚い甲冑を着込んでいると考えた方が分かりやすいかな」
「・・・それで、銃弾も・・・ですが、それなら尚更あんな日本刀ぐらいでは・・・」
「まぁ、話は最後まで聞くもんでしょ?毒には毒をってね。真司くんを見てみろ」
「・・・?」
中村に言われ、今井が真司の方を見てみると、災忌と目と鼻の距離にまで近づいていた。
そして、目を引いたのは真司の持っている日本刀。
先ほどまでは何の変哲も無い代物だった筈が、今では僅かに刀身が青白く光っている。
夕暮れの赤に染まっている景色の中では、その僅かな青い光は目を引く綺麗な色だった。
「な、なんですか・・・あれ・・・電気・・・じゃないですよね・・・?」
「まぁ、よく聞く言葉で言うなら霊力、らしい」
「・・・たまに心霊番組や漫画なんかで聞くアレですよね・・・」
「そうそう。僕もこの目で見るまではその類の話は信じていなかったけどさ。
で、災忌の膜・・・そいつが霊力で出来ていることが分かっているわけ」
「・・・そういう、ことですか・・・」
今井は納得はしていないが、理解は出来たような、そんな複雑な表情だった。
「・・・同じ霊力を持って、奴等の膜を中和、無効化し・・・本来の攻撃をブチ込める。
それが対魔征伐係と言われている役職の人間が持つ能力ってわけなのよ」
「・・・彼が、そんな・・・」
二人の目線の先には今まさに動き始める真司の姿があった。
「・・・お前に怨みはないが・・・悪いな」
真司は独り言のように呟く。
タンッ
剣道で言う中段の構えから一足飛び。
先ほどの発砲されていたシーンから観察していて相手の動きが緩慢だと踏んでの先制攻撃だった。
相手も馬鹿ではなく、真司の飛び込みに反応し、その腕と思われる部位を振り下ろしてくる。
だが・・・
・・・ザシュッ!!
災忌のカウンターは空を切り、真司の剣閃が袈裟斬りの流れで通り過ぎていった。
大きく切り裂かれた災忌の身体。
傷口からは血液のような赤い液体が流れ出ている。
倒れこむその姿と傷を見て、例え化け物と言えども絶命したことは明白だった。
「・・・これが・・・彼の・・・」
「ま、コレが係としての真司くんの実力ってやつさ」
驚愕、驚嘆と言った顔のお手本を示している今井の肩に中村はポンポンと手を当てる。
「・・・」
真司は倒れている災忌の絶命を確認すると、刀に付いた返り血に似た液体を軽く振り払う。
そして、静かに鞘へと刀を納めた。
「真司くん、お疲れ~」
「いえいえ、それじゃ俺はバイト行くんで、いつものように事後処理、お願いします」
「任せて頂戴。バイト頑張ってな」
「はい、それじゃあ、また」
笑顔で仕事の完了を労う中村に真司も笑顔で答える。
そして来たときと同じく、剣道袋を背負いなおすと早足でその場を後にする。
夕暮れに溶け込んでいくその後姿を二人の刑事は見送っていた。
「・・・バイトは走るのかよ・・・」
ますます真司という少年が分かりかねる今井であった。
なぜなに!!征伐係!!
◇霊力って何?どういう設定なの?
・この世界での霊力とは生命全てが多かれ少なかれ生まれながらに持っているもの。
・殆どの人間は霊力というものを持ちながらも実感することは無く生涯を終える。
・時たま霊力の恩恵で、幽霊を見たり、何かを感じたり、特殊な能力は使えたりする人間が出たりして有名人になることもある。
・その霊力を操り、戦闘応用可能なレベルにまで昇華することが出来たごくごく一部の人間だけが退魔師となる。
・霊力を操ることにより、人間本来が持つ能力を何倍にも引き出す、引き上げることが出来る。
・また、霊力と古来からの術式を組み合わせることによって術が扱える(この術とは催眠、呪いなどの精神的な類のものが多い)
・どれだけ霊力があろうとも、人間として生まれ持って居ない芸当は出来ない。
(空を飛ぶ、謎の飛び道具を出すなど)
・鍛錬により、最大値を増やすことは可能だが、一年で見違えるほど、ということは不可能。
(基本的には生まれ持った才能のような形でおおよその最大値が決まる場合が多い)
◇は?じゃあ霊力とか使えたら現実最強じゃないですかー!やだー!
・霊力を持つものはその有用性と同様に危険性も兼ね備えており、政府レベルで厳しく監視されている。
(世間的には霊力という単語自体ネットの噂程度の認識)
・強い霊力を持つものは他の霊能力所持者から見つかりやすく、見つかった場合は施設へ連行される。
・そこで退魔師になる場合と、断り、霊力を封印、その記憶そのものを消される場合とに分かれる。
(ここで強制的な圧力などはなく、本人の自由意志)
・退魔師には掟があり、日常生活では霊力の使用は禁止されている。
(非常事態の特例を除く)
・日常生活で行われる、運動、格闘技などは全て霊力によるブースト(強化)なしが原則。
・万が一掟を破った場合は非常に厳しい罰則が与えられる。
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