No.246690 My Little Lover 22011-07-30 03:49:03 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:948 閲覧ユーザー数:922 |
僕が彼女の手を繋いで登校し始めてから一週間。
相変わらず彼女の口は悪いままだ。
言葉の裏にある真意を知ってしまえば、そんな所も可愛く映るのは贔屓目じゃないと思う。
でも、手を繋がなかった時に制服の裾を引っ張るのは止めて欲しい……。
My Little Lover 2
彼女は毎日、僕を起こしに来る。
流石に僕も、あれからはなるべく自分で起きる様にはしている。
それでも習慣付いている寝起きの悪さはそうそう直るものでもない。
よって、毎朝彼女のお世話になる。
あの時の寝起きの良さは何だったんだ、と母さんに毎朝嫌味を言われる。
あの時はあの時。
そう言って僕は誤魔化す。
実際その通りだし。
「あの子ったら、何時まで経っても子供と一緒なんだから。毎日御免なさいねぇ、迷惑じゃないかしら?」
「そんな事無いです」
母さんの前だと彼女も別人の様に大人しい。
借りてきた猫みたいだ。
「うぅ……おはよ……」
「朝からだらしないわね。もう少しシャキっとなさい!」
「解った、解ったから。そんなに大きな声出さないでよ」
母さんの嫌味と彼女の視線をやり過ごしながらの朝食。
全くもって居心地が悪い。
父さんは母さんの味方だから、一切タッチしないのは何時もの事。
彼女と顔を合わせるのも恥ずかしいのか、新聞を手にしたままだ。
「じゃ、行って来る」
「行って参ります、おじ様、おば様」
針のムシロではないけれど、実に居心地の悪い朝食の時間を済ませてから玄関を出る。
しかし、彼女は玄関を出たと思うと瞬時に膨れっ面になる。
勿論、頬も薄っすらと赤い。
「じゃ、行こうか?」
「……ん」
おずおずと差し出してくる手を繋ぎ、僕と彼女は学校へと向かう。
僕の方が三十センチ背が高い分、歩幅を狭めてゆっくり歩く。
それでも僕よりも背が低い彼女にとっては、結構早い速度で歩く事になる。
「まだ早い?」
「ん、大丈夫」
耳迄赤くして、彼女は僕を追い越そうとする。
「そんなに慌てて歩かなくても」
「……」
「僕と一緒に歩くの、嫌になった?」
ピタリ、と歩くのが止まる。
赤い頬が一層赤くなって、彼女は首をぶんぶん振り被った。
「ホント?」
僕が顔を覗き込むと彼女はこくり、と小さく頷く。
はっきり言って、凶悪な可愛さだと思う。
今迄何で気付かなかったんだろう?
何度も何度もこういう所を見てきた筈なんだけど。
まさか、単に恥ずかしがってるだけだなんて思わなかったよ。
ずっと怒ってるんだとばかり思ってた。
「ほら、早く行こうよ」
顔を赤くし、俯き立ち尽くす彼女を促して学校へと向かう。
そうそう、僕達が初めて手を繋いで登校した時。
クラスの雰囲気が変だったんだよね。
大騒ぎになる訳でもなく、何と言うか……生暖かい目って奴?
何でも僕と彼女はワンセット扱いだったらしい。
彼女があんまり僕を蹴ったり叩いたりしてるし、毎朝一緒に登校しているから、既に付き合ってるって思われていたらしい。
付き合ってるも何も、僕と彼女は単なる幼馴染。
彼女が僕を起こしに来るのだって、単に隣同士のよしみだと前日迄思ってた位だ。
それに親友兼悪友の二人が教えてくれたんだけど、彼女は結構人気があったらしい。
悪友の一人は新聞部と行動を一緒にする写真部に所属しているだけあって、校内の噂には結構詳しい。
活動上、誰が誰に告白したとか、誰と誰が付き合ってるとか、そういう恋愛についての噂はよく耳に入るんだとか。
つまり、彼女はとても可愛いと思われていて、彼女を好きになる奴が多かったって事だ。
尤も、ウチの学校は土足で靴箱にラブレターなんてベタな事は無かったから気付きにくいけど、って事らしい。
確かに僕みたいな暢気な性分だと気付かないだろうね。
一番近くに居た彼女の気持ちさえ、近くに居た事で慣れちゃって判らなかったんだから。
クラスの奴は逆に、彼女の僕への気持ちはバレバレで筒抜けだったらしい。
それもあって、彼女に告白という事をする人は、大抵下級生か上級生に絞られていたとか。
うん、前の僕なら何とも思わなかったかも知れない。
今の僕は……嫌だと思う。
どうも僕は自分で思っていた以上に独占欲があるみたいだ。
その癖手を繋いで歩くのが平気なのは、他の奴に見せびらかして牽制したいって気持ちが何処かにあるんだろうね。
多分、その辺は遺伝かも。
母さんって父さんと外出した時は結構腕を組みたがるんだ。
父さんも父さんでそれが満更でもないみたいだし。
両親の遺伝子に感謝、かな?
「おはようさん。ほんま毎朝の事やけど、お前らくっ付いたら妙に空気甘いのう……」
「……馬鹿ジャージ、五月蠅い!」
「――たああああああああああ! 何すんじゃワレぇ!」
彼女が途中で顔を合わせた悪友の一人に蹴りを食らわせた。
勿論、入れた場所は向こう脛。
「ふん! アンタがシツコイからよ!」
毎日顔を合わせると僕達をからかう悪友にも感謝だ。
もう一人の悪友に言わせると、案外このやり取りが虫除けになってるんだって。
「全く、毎日毎日五月蠅いったらありゃしない」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
「だって、あれじゃ子供と一緒じゃない!」
「でも、別にこうしてるのが悪いって言ってる訳じゃないんだからさ」
「……判ってるわよぉ」
バツの悪そうな表情で彼女は口を尖らせた。
それにしても、今日の彼女の機嫌は殊更悪い様な気がするのは気の所為だろうか。
手を繋ぎ始めてから口数が少なくなったとは言え、今日は何だか雰囲気が刺々しいというか。
いや、妙に敏感と言った方がいいのか。
動きがぎこちない気がする。
「ねぇ、今日はどうかした?」
ぎゅ、っと微妙な力加減で僕の手に力が伝わる。
「べっ、別に。何も無いわよ?」
一層頬を染めて声が震えてる。
そんな状態じゃ、何も無いなんて言われても説得力が無い。
「そう?」
「そうよ!」
「その割には何だか機嫌が良くないみたいだけど?」
「気の所為だってば!」
頬や耳だけじゃなくて、もう顔全体が真っ赤になってる。
あれ?
僕、また何か外しちゃったかな?
「だったらいいんだけど……」
「……何よぉ」
だって、ねぇ?
子供の頃からの癖、全然変わってないんだから。
「図星指されると必死に否定する癖、出ちゃってるかなって思って」
「アンタ馬鹿ぁ?!」
ああ、やっぱり。
何となくそうだと思ってたんだよね。
「だって、気になるじゃないか。仮にも彼女が機嫌悪そうにしてたら、誰だって自分の所為じゃないかって思うよ?」
必死に自分のペースを取り繕おうとしてる所だって、子供の頃から変わってない。
うーん……やっぱり自分のペースで動く方がいいのかなぁ?
でも、取り繕おうとして足を止めるのは何とかしようよ。
彼女の足はピタリと動かない。
僕の手を握る彼女の手から、じわじわと強まる力も感じる。
「……誰が誰の彼女ですって?」
「他に誰か居る?」
僕は彼女の顔を覗き込んだ。
彼女はぽかん、とあっけに取られた様な顔をしていた。
――あれ? 何か不味い事言ったっけ?
彼女は我に帰ると、今度は勢いよく僕に蹴りを入れた。
「ぃてっ! 何すんのさ!」
「何すんのじゃないわよ! 何勝手に人の事彼女にしてんのよ!」
「え? 違ったっけ?」
おかしいなぁ。
「違うわよ!」
否定してる割には毎朝僕を起こしに来るし。
「じゃあ、手を繋ぐの止める?」
僕は彼女の手を離そうと力を緩めた。
「そっ、それとこれとは話が別よっ!」
彼女はすかさず僕の手を掴んだ。
と、いう事は――?
「ねぇ? 手を繋ぐのは嫌じゃないんだよね?」
「そうよっ!」
「僕を起こすのも嫌じゃないんだよね?」
「それはっ、アンタがトロいからっ、困ると思っただけよっ!」
「僕は別に困ってないけど?」
「だからっ、それは――」
「うん、それは僕が遅刻するだけだし」
「うぅ……」
「言いたくない事なら言わなくてもいいけどさ、言ってくれなきゃ判んない事もあるんだよ?」
彼女は俯いて、繋ぐ手に力を入れ直した。
黙りこくったまま、何度も僕の手を握る。
「……ないんだもん」
そのうちポツリ、と彼女が呟いた言葉。
一瞬、思考が止まる。
何がと思い、思考を巡らせてみる。
特に思い当たる事は無い。
「何が無いの?」
そこで馬鹿正直に訊く僕も僕だと思うが、こういう事は訊かなきゃ判らない。
「アンタ、今迄ホントに何にも気付かなかった訳っ?!」
あ、これは僕でも判る。
彼女はホントに怒ってる。
でも……何に怒ってるか迄は判らない。
「うん」
だから、僕としては正直に答えるしかない訳で。
それを聞いた彼女は、何故かその場に座り込んでしまった。
「……僕、何か不味い事でも言った?」
彼女のテンションは一気に下がったらしく、そのまま口を噤んでしまった。
「ねぇ、黙ってられちゃ判んないよ。何が無いのさ?」
僕はもう一度彼女に聞いてみた。
すると彼女は、じろり、と僕を横目で見上げて重そうな口を開いた。
「アタシ、まだ何にも言って貰ってない……」
「へ?」
彼女は僕の手を思い切り握ると、口を尖らせた。
「そりゃ、アタシはアンタの言う通り、アンタの事が好きよ。でも肝心のアンタはどうなのよって事よ!」
あれ?
僕、何も言ってなかったっけ……?
先週から今迄の間の事を一つ一つ思い出してみる。
「手、繋いでくれるのは嬉しいけど……アタシ、判んない。だって、アンタは何も言ってくれないし。
それに何にも言ってくれないままじゃ、幼稚園の延長と一緒じゃない。判る筈無いわよ」
確かに。
言われて見ればその通りだ。
「そっか。判ったけど、解った訳じゃないよね」
「そうよ」
僕のその言葉に彼女が頬を膨らませたその時、聴き慣れたスピーカー音が辺りに響く。
「予鈴鳴ってる……」
「あああああっ! 遅刻じゃないのッ!」
座り込んでいた彼女がすっくと立ち上がり走り出す。
僕は釣られて引っ張られる様に彼女の後を追いかけた。
結局、僕達二人は遅刻ギリギリのタイミングで学校に飛び込む羽目に。
その日は一日中、クラスメートからは生暖かい目を向けられたのは言うまでも無く。
多分、道端でのやり取りを見られてたんだろうね。
「もう……アンタのお陰で今日は散々だったわ!」
「そう?」
「そうなの!」
相変わらず彼女の口の悪さは変わらない。
でもそういう所が無いと彼女らしくないと言うか、そういう所が逆に可愛く思えると言うか。
「話を戻すけどさ、それは僕だけに言える事じゃないんじゃない?」
帰り道、手を繋いで歩きながら僕は彼女に訊いてみた。
「何でよ?」
「それって、お互いに言える事なんじゃないかなって思ったから」
事実、僕はずっと彼女の態度は、僕に対して怒ってるんだと思ってた。
何時も口を尖らせてたし、怒りで頬が赤くなってるんだと思ってたし。
「僕への態度を一からよく考えてみて、それでやっと何となく判った程度だからさ」
「それで?」
「僕はそれで良いと思ってた所もあるんだ。子供の頃から一緒だったから、言わなくても通じるって思ってた」
ツーとカーの関係って訳じゃないけど、それに近いって言うか。
言わなくても解る、兄弟程近くは無いけど友達よりは近い関係。
「そんなの、ただの傲慢よ」
「うん。結局はそうじゃなかったよね」
彼女は、僕が背を追い抜いていく事で自分が取り残されるんじゃないかと思ってた。
僕の歩幅が大きくなるにつれて、自分を置いていくな、と必要以上に僕に構ってた。
それもこれも、僕の事が好きだったから。
僕の方は逆にそれまで一緒だったから、これからも一緒だとずっと思ってた。
兄弟じゃないのに兄弟みたいな感覚で、彼女が側に居るのが当たり前だと思ってた。
「確かに僕、何も言ってなかったと思う。でも僕の性格上から察して欲しかったな、っていうのはあるよ?」
「何をよ?」
「元々嫌いだったら一緒に学校になんて行かないし、手だって繋いだりしないよ。意味、解るよね?」
彼女は何も言わなかった。
彼女を見ると、耳や頬を赤く染めてたし、繋いだ僕の手をぎゅっと握ったから、僕の真意は伝わったと思う。
「……ホントに馬鹿なんだから」
彼女は別れ際、上目遣いで少しだけ頬を膨らませてポツリと呟いた。
実際その通りなんだから、僕に言葉は無い。
「アンタの気持ちは解ったわ。いーわよ、彼女になってあげる」
「ありがと」
「でも、一つ条件があるわ」
何とも強気な彼女らしいや。
僕が言質を取った筈なのに、何故か僕が取られた事にされてるし。
「やっぱり、ちゃんと言葉にして欲しいの」
「さっき言ったじゃないか」
「あんなの言った内に入らないわ!」
「えー……アレ以上どう言えばいいのさ」
「何でも良いの。ちゃんと言葉にしてアタシの事を好きって気持ちが伝わるなら」
「それって今?」
彼女は少し考えて、もじもじと小さな声で僕に強請ってきた。
「ほら、アタシ、もう直ぐ誕生日じゃない? 今年のプレゼントはそれがいいな……」
ふむ。
気持ちをプレゼント……ね。
いいかも知れない。
じゃあ、答えは一つだ。
「いいよ」
「ホント?」
「うん。楽しみにしてて」
「期待しちゃうわよ?」
「うーん……それは、ちょっと困る……」
僕が難色を浮かべると、彼女は心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。
花が綻ぶ、って言うのはこういう事を言うんだろうなぁ。
「期待外れな事言ったら、怒るから。覚悟しなさいよね、馬鹿シンジ!」
言葉尻にハートマークが付いてる様に聞こえるのは気の所為かな?
生半可な文句だと、許してくれなさそうだし。
相当腰を据えて考えなきゃ。
待てよ……?
生半可じゃなければ良いんだよね?
だったら、アレを言えば良いかな?
アレを言えば、絶対怒る事は無いと思う。
それだけは断言出来るよ。
早速部屋に戻ったら考えなきゃ!
でも、どんな反応するかな?
それが楽しみかも。
僕は彼女の反応に思いを馳せ、一緒に贈るプレゼントを選ぶ算段に入った。
大好きだよ、アスカ。
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