No.241799

真・恋姫†無双~恋と共に~ #54

一郎太さん

という訳で今日も今日とて更新の日々。
ちなみに今日は8時に千葉にいってバイトして23時に帰ってきました。
帰りは乗り換えが悪くて2時間かかったのは内緒だ。
明日はまた8時から23時までバイトなので、これを投稿したらもう寝る。
というわけで、どぞ。

2011-07-28 23:53:38 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:12249   閲覧ユーザー数:8391

 

 

 

#54

 

 

 

『ひと月後より、禅譲の儀を執り行う。

 漢王朝の漢室の命數はすでに尽きかけている。

 故に新しき天子を授かり、朕、禅譲せんが為にこの令を発す。

 

諸侯に命ず。

 その智勇以って雌雄を決し、大陸の覇者たらんとあれ。

 ただし、以下の事を禁ずる。

 

一、 民の強制的な徴兵及び徴収

一、 戦時における、民からの略奪及び拷問

一、 終戦後の将兵及び官の殺害

一、 戦時、および終戦後の将兵の拷問

 

以上を破りし者及び軍は、董卓率いる禁軍及び天の御遣いによりこれを罰す。

ただし、軍の法規に則りこれを罰するものはあたらず。

 

 戦に敗れし者は勝者に従い、尽力せよ。

 また、降伏を受けし者は、それを従え、よく使え。

 

 民及び将兵すべてに至るまで、これをよく伝えよ。

 

すべての戦を儀とし、その戦の終了を以って禅譲の儀の終了として、然る後に漢王朝の終焉を宣言する。

すべての戦が終了した際には、董卓以下中央の者はその勝者に従い、政に尽力するものとす。

 

 各々、そのすべて以って新しき時代を切り拓かんことを。

 

第十四代皇帝 劉協伯和』

 

 

 

 

 

 

――――――陳留。

 

 

「―――という事よ」

 

華琳自身の説明を受け、玉座の間は騒然とする。無理もない。国家の最高権力である帝が自身の落日を謳い、その天帝の座を明け渡すと言っているのだ。普段は冷静沈着な秋蘭ですら、その表情を驚き一色に染め上げている。

 

「どういう事だ、秋蘭?」

「ねぇ、流琉、どういう意味?」

「これより我らは大陸に覇を唱えるという事よ」

 

曹武の大剣と親衛隊の少女が首を傾げ、荀彧が説明を付け加える。分かりやすい行動指針に納得したのか、2人はなるほどと頷く。

 

「えぇ、桂花の言う通り。いずれは我らも覇道を行く予定ではあったけど、まさか帝自身がおあつらえ向きの状況を提示してくるとはね。でも………」

「はい。おそらくは董卓と一刀殿の意見もいくらか含まれているのでしょう」

「どういう事だ?」

 

稟の言葉に、春蘭が問う。

 

「途中に出てくる『董卓率いる禁軍及び天の御遣いがこれを罰す』という部分だ、姉者。先の連合の時に一刀が董卓軍にいただろう?董卓と一刀は既知の仲という事だ。なればあいつの性格を知らぬはずがない」

「そうね。あの男が入れ知恵をしたかどうかは別として、少なくとも否定はしていないでしょうね」

 

秋蘭と荀彧の言葉に、春蘭は頷くが、よくわかってはいないようだった。

キリがいいと踏んだか、そこでおずおずと凪が手を挙げた。

 

「それで、華琳様。我々はまずどのように動くので?」

「焦っては駄目よ、凪。勅にもあるように、禅譲の儀は一か月後から始まる。まずは可能な限り軍備を増強する事ね。さすがに今のままで麗羽の軍を相手にするのは少々骨が折れるわ」

 

その言葉に、家臣たちは頷く。

 

「春蘭、季衣、流琉、そして凪たちは軍の調練にいっそう力を入れなさい。秋蘭と桂花、稟は周囲の情報収集と、この布告によって新たに軍に志願する者の対応を。戦は既に始まっているものと思いなさい」

 

華琳の命が下る。彼女たちのやるべき事は決まっていた。

 

 

 

 

 

 

――――――長沙。

 

 

「それにしてもやってくれるわね、一刀も」

「気づいてたか」

「当り前じゃない」

 

執務室で顔を合わせているのは、城の主である雪蓮と呉の軍師である冥琳、彼女の弟子の穏と宿将祭だった。冥琳の言葉にわからないはずがないと雪蓮は酒を呷る。

 

「でも丁度いい機会ね。連合以降うやむやになってたけど、立場は袁術ちゃんの客将だし、これを逃す訳にはいかないわ」

「そうじゃな。という事は、最初の相手は………?」

「えぇ、勿論袁術よ」

「かっかっか!それでこそ文台殿の娘じゃ。ようやくあの御方に顔向け出来そうじゃな」

 

宿将は嬉しそうにからからと笑い、主と杯をぶつけ合う。そんな光景を見ながら、穏が真面目な表情で切り出す。

 

「でもでも、袁術さんとの戦力差はやはり大きいですよ?袁術軍は現在約7万。対するうちは頑張ってきたとはいえ4万5千。倍とは言いませんが、それでも数の力は脅威ですぅ」

「そんなの関係ないわよ。1人あたま2人斬れば済む話じゃない」

「簡単に言うてくれおるわ。じゃが、確かにそこは骨が折れるのぅ」

 

如何に将軍級の武将が少ないとはいえ、数の力は大きい。下手をすれば一気呵成に押し切られる事もあり得るのだ。穏が案を出し、雪蓮や祭が口を挟むなか、冥琳だけはじっと何事かを考え、黙っていた。そんな様子に気づいたのか、雪蓮が杯を向けながら声をかける。

 

「どうしたのよ、冥琳?いつもなら率先して策を出してくるのに、ずっと黙りっ放しじゃない」

「そうだな………」

「………冥琳?」

 

しかし返ってくる声に、雪蓮だけでなく祭や穏も彼女に注意を向けた。

 

「どうしたのよ、冥琳」

「いや、一刀もなかなかに意地が悪いなと思っていたところだ」

「どういう事じゃ?」

「………」

 

疑問を呈する雪蓮に祭。何事か思案している穏には、察しがつきかけているようだ。そして、はっと顔を上げて冥琳に視線を向ける。冥琳も頷いて口を開いた。

 

「この勅は………下手をすればすべてを奪ってくるぞ」

 

 

 

 

 

 

――――――徐州。

 

 

軍議の間では、劉備及び彼女の家臣たちが集まっていた。しかし、その顔ぶれは三種類にわかれる。城の主と軍師の2人は難しい顔をし、桃園の姉妹のうち下2人は興奮気味だ。そして趙雲はといえば、一歩離れた場所でそれを眺めていた。

 

「何故躊躇う必要があるのだ?今こそ桃香様の願いを叶える為に動く時ではないのか?」

「そうなのだ。略奪とかも禁止してるし、鈴々たちが頑張れば、民の皆は傷つかないのだ」

 

そんな関羽と張飛とは対照的に、諸葛亮と鳳統はじっと考えている。なおも畳み掛けようとする関羽たちに、趙雲が声をかけた。

 

「まぁ待て、愛紗よ。ひとえに動くと言ってもまずは色々と考えねばなるまい。そして考えるのは朱里たちの本分だ。まずは2人から事情を聞こうではないか」

「しかし―――」

「それとも、お主は『天の御遣い』から言われた事を忘れたのか?」

「ぐっ……」

 

反論しようとする関羽に、趙雲が待ったをかける。その言葉に思うところがあるのだろう。関羽は言われた通りにした。

 

「………すまなかったな、朱里も雛里も」

「いえ……」

「それで、何をそんなに考え込んでいるのだ?」

 

その質問に2人の少女は顔を見合わせ、代表して諸葛亮が応える。

 

「はい…まず、この勅には裏があり過ぎるという事です」

 

 

 

 

 

 

――――――長沙。

 

 

「どういう事じゃ?」

「簡単な事ですよ。我らは一度の負けも許されないとう事です」

「そんなの当り前じゃない」

 

祭の問いに応える冥琳に、雪蓮は何をと反論する。

 

「では聞くが、仮に袁術とあたるという時、どれだけの兵を投入する?」

「そりゃぁ、さっき穏が言った兵力差なら全軍行くわね」

「そこだ」

 

雪蓮の答えに、冥琳は眼鏡のつるを指で押し上げる。ガラスに隠れてどのような眼をしているのか見える事はない。

 

「この勅には禁じられる事がいくつかある。言いかえれば、それ以外はしてもよいという事だ」

「………」

「例えば、この『民の強制的な徴兵』………我らはその武を持って周囲の豪族をまとめ上げているが、そこにある種の脅迫がないとは言い切れない。もちろん連合以降も我らと善政に尽力してきたし、彼らもその態度を変えつつある。だが、それこそが不安要素と言ってもいい。

孫呉が袁術を相手に全軍を投入したとしよう。彼らがそれを機に連合を組んで此処を奪おうとしないと言い切れるか?それに………一度負ければ最後、我々はもはや孫呉の地を取り戻そうとする願いを持つ事すら出来なくなる。これはそういう勅令なのだ」

 

冥琳の説明に、3人は沈黙する。その間も眼鏡の奥で冥琳は勅令に目を通し、対策を思案する。実際、いま述べたことに対する策はすでに考えていた。簡単な事だ。前もってしかと協力関係を結んでおけばいい。彼らとて、いつ元の愚者に戻るとわからない袁術の下につくよりは、一貫した孫呉の方針に従った方がやりよい事はわかっている。

 

「………一刀もやってくれるわね」

「まぁな。他にもいろいろ考えつく事はある―――」

 

 

 

 

 

 

――――――徐州。

 

 

「―――その他に『降伏を受けし者は、それを従え、よく使え』とあります。これは、逆の立場に言い換えれば、降伏さえすれば命の心配はないどころか、相応の地位を与えられる可能性も意味します」

「つまりは、大勢力の前に、戦わずして合力する勢力もあるという事です」

 

軍師たちの説明に、それぞれ難しい顔をする。言ってしまえば、戦いが始まる前にすでに大勢が決してしまう事を意味しているのだ。

 

「さらに、ここに禁じられていないという事は、戦に出た勢力の城を留守中に奪う事も許されています。これは通常の勢力争いと代わりはありませんが、それでも大勢力と戦う前に、少しでも勢力を増やそうとする側にとっては一番とりやすい選択肢であり、それを受ける側の危険度はぐっと増すのです」

「ふむ…つまりは、この勅の文面だけを信じていては負けてしまうという事だな?」

 

趙雲が納得したと頷く。

 

「そういう事です。これほど大それた勅を出しておきながら、その実質、諸侯のやる事は変わりません。しかし、勅という仮面に遮られてその本質を見逃す。言い方は悪いですが、漢王朝一世一代の茶番です」

「おっと、我らが軍師様は酷い言い方をするものだ。くくく…」

「でも、民に被害を与えちゃダメって点ではいい事なんじゃないかなぁ?」

 

劉備が首を傾げる。諸葛亮もその通りだと頷いた。

 

「そうです。だからこその勅であり、漢王室最後の大号令なんです。そしてこれが一番の障害ですが、『民の強制的な徴兵及び徴収』と『民及び将兵すべてに至るまで、これをよく伝えよ』いう部分です。もちろん私達もそんな事をするつもりはありませんが、この令を民が知れば、今後行われるであろう通常の徴兵ですら、強制的なものとみなされるかもしれず、兵を募ることが難しくなるのです」

「………つまりは現状で勝負するしかないという事か」

 

諸葛亮の説明に、関羽が苦々しげに呟く。

 

「はい。この時点で最後に残る勢力は、ほぼ決まっていると言ってもいいかもしれません」

「ほう?朱里にはそれが見えているという事か?」

 

鋭い視線で趙雲が少女を射抜く。

 

「……はい。まず北部の袁紹さんです。袁家の兵力は流石と言わざるを得ません。そして中部の曹操さん。兵力は袁紹さんほどではありませんが、その軍律は厳しく、精兵揃いなのは連合でも見た通りです。そして南の袁術さんと孫策さんです。袁術さんは袁紹さんと同様に数で群を抜いています。また孫策さんのところはその武で勢力を治めてきた家柄です。大人しく袁術さんの下で動くとは思えません」

「待つのだ!それじゃぁ鈴々たちは?」

「現状では、どうしようもありません」

「だからそれをこれから話し合うんだよ、鈴々ちゃん」

 

劉備の言葉を合図にしたかのように、彼女達は今後の対策を話し合い始める。

 

 

 

 

 

 

――――――陳留。

 

 

「―――とまぁ、懸念すべきはこんなところかしらね」

「そうですね。とはいえ、これに気づく者がどれほどいるか………」

 

執務室で荀彧と稟は話し合う。その内容は勅の裏に隠れるものであり、考えるべき事項だ。そんな彼女達の話し合いが終わったのを確認した華琳は、事もなげに言う。

 

「でも、それに気づかぬものは落ちていく。そんな勅ね、これは。その本質に気づいた者こそが残るべきものであり、大陸に覇を唱えるべき者と一刀は言いたいのでしょうね」

「まったく一刀殿らしい、いやらしい案ですよ」

「まぁ、私達のやるべき事は変わらないのだけれどね」

「えぇ」

 

彼女たちもまた話し合う。どういった経路で敵を討ち、どう地盤を固めていくか。しかし、華琳にだけはその先のものが見えている。

 

 

 

 

 

 

――――――長安。

 

 

「それにしても、一刀は相変わらずね」

「何がだ?」

 

大陸全土に勅令を発するという大仕事を終えた一刀たちは、中庭に面した四阿で飲茶をしている。そんななか、詠がふと一刀に声をかけた。

 

「あの勅に決まってるじゃない。月だけじゃなく、劉協様にまで悪影響を与えちゃって」

「なんじゃ、文和は朕と一刀兄様が義兄妹の契を交わしたのが気にくわんのか?」

「そ、そんな事………」

 

咎めるような詠に、一刀ではなく空が返す。途端に詠は小さくなる。

 

「くくく、すまんかったの、文和よ。気を揉むな。それに、そもそもは朕が決めた事じゃ。その事は先にも言うたじゃろう?」

「それはそうですけど…」

「ふふ、詠ちゃんも一刀さんと劉協様には勝てないみたいだね」

「月ぇ」

「詠ちゃんはおにーさんがどんどん離れていくようで寂しいのですよ」

「なっ、んな訳あるかぁ!」

 

そこに月と風まで加わって、まさに四面楚歌である。詠が騒ぎ、月が宥めるなか、風がそれよりもと一刀に声をかけた。

 

「よかったのですか?あの一文を付け加えて」

「『天の御遣い』のくだりか?風ならどう解釈する?」

「おぉっ、おにーさんは風を試すおつもりですね?にゅふふ、風はおにーさんの軍師なのです。おにーさんの考える事は何でもお見通しなのですよ」

「だったら聞かなくてもいいんじゃないか?」

「むぅ…おにーさんは相変わらずなのです。まぁよいでしょう。そですねー………」

 

風と一刀の会話に、空だけでなく月と詠も身を乗り出して耳をすます。

 

「ひとつは令の強化、でしょうねー」

「強化じゃと?」

「そです。明文化はしていなくても、天子と『天の御遣い』の連名の勅です、あれは。おにーさん自身の噂は連合に参加していない勢力の街でも十分に広まっていました。よって、あの禁止事項を冒す方はほぼいなくなるでしょう。まずこれがひとつ」

「そうね。民を傷つける事はもちろん、優秀な人材を失うのは惜しいし」

 

風の解説に、詠も補足する。新しい体制を創り上げるという事は並大抵の事ではない。それだけ時間も金も必要となり、もちろん優秀な人材はその最たるものだ。

 

「で、こっちが本命なのですが……すべてが終わった後の牽制の意味も込めているんじゃないですか?」

「牽制、ですか?」

 

月が首を傾げる。

 

「はい。すべてが終わった際には月ちゃんたちもその勝者に仕える。これはまぁ、軋轢を無くすという意味でも必要でしょう。お二人も納得済みの事ですし。ですが、『天の御遣い』もその人に仕えるとは書いてません。つまりは、万が一新しい皇帝―――今は暫定的に皇帝と呼びますが―――皇帝が愚者であった場合、最後の自浄効果としての『天の御遣い』の名前です」

「なるほどね。勅に従えば、すべての敗者はその勝者に従う事となる。つまりは、その愚を止める者がいなくなってしまうというわけ、か」

「そです。更に言えば、曹操さんや孫策さんはおにーさんと仲良しさんですし、おにーさんが頼めば事を為す手伝いくらいはしてくれそうですしねー」

「でも………それってある意味賭けよ?」

 

詠が眉をひそめる。確かにその要素は、ある。

 

「はい。ですが、おにーさん自身は賭けと思っていないようですけど?」

「買い被りすぎだぞ、風?」

「事実を述べたまでです。おにーさんにはその先が見えているのですよね?」

「その先?先とは何じゃ、兄様?」

 

風の言葉に空が一刀に問いかけるが、その質問に応えることをせず、彼女の頭を撫でた。

 

「自分で考えてごらん。諸侯の政、兵力、民や街の様子……色々なものを絡ませて考えていけば分かるかもしれないぞ」

「むぅ…一刀兄様は意地悪なのじゃ」

「伯和の義兄だからな。それでも少しだけ手がかりを残すならば………そうだな、成るべくして成る。そんな人物たちが覇権を争うだろうさ」

「成るべくして、成る………よぅわからんのじゃ」

「頑張れ。兄として応援してるぞ」

「応援だけではないか」

 

そんな義兄妹の遣り取りに、周囲はそろって笑みを零すのだった。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

というわけで第54回でした。

前回※で疑問を呈した方もいらっしゃいましたが、今回のストーリーを以ってその答えとさせて頂きます。

 

 

………………もう駄目だ。寝る。

 

 

バイバイ………zzz

 

 

 

 


 
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