No.241643

真・恋姫無双 EP.79 冒険編(3)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2011-07-28 23:16:07 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:3213   閲覧ユーザー数:2953

 朝、霞が目覚めるとすでに一刀たちは出かけた後だった。昨日は稟と二人で出かけた一刀が、帰りは風も一緒に三人で戻って来たのだ。風とは仲が良かった霞は久しぶりの再会を喜んだが、昨日の風は何か考えているのか、少し暗く落ち込んでいるように見えた。

 華佗もいつの間にか戻っていて、元気そうな霞を見て嬉しそうだった。

 

「今日も、出かけてくるわ。行くで!」

 

 亞莎にそう言い、ミケ、トラ、シャムを呼んで霞は待ち合わせ場所に急いだ。西門の前には、すでに小蓮が到着していた。

 

「もうっ! 遅い!」

「これでも急いだんやで。あれ? パンダはどないしたん? こうへんのか?」

「ああ、大喬と小喬は目立つから、もう街の外に出てるわ。それじゃ、行きましょ!」

 

 小蓮を先頭に、霞が後を追う。門を抜けて森を目指すと、隠れていた二頭のパンダが姿を見せた。

 

「おう、元気やったか?」

 

 霞がそう言いながら腕をポンと叩くと、パンダたちはどこか嬉しそうな顔をした。

 

「森の奥って言ってたけど、どれくらいなのかしら?」

「さあなあ……シャオ!」

 

 突然、霞が真剣な顔になり、小蓮の腕を掴む。

 

「ど、どうしたの?」

「……誰かおる」

「えっ? もしかして、見張りかしら?」

「どうやろう。でも、ただ者やないで」

 

 全員に、緊張が走った。

 

 

 焚き火に砂を掛けて消すと、華雄は戦斧を持ち立ち上がる。

 

「そろそろ出発しよう」

 

 華雄がそう声を掛けると、紫苑は黙って頷いた。弓の弦を確認し、矢筒を腰に下げる。決意の眼差しを上げ、歩きだそうとしたその時、ほぼ同時に二人が足を止めた。

 

「誰か来る……」

「ええ……」

 

 頷いた紫苑は素早く木の幹に身を寄せ、気配の様子を探った。華雄も草むらに身を隠し、油断なく武器を手に隙間から覗き込む。

 

「戦士らしき女が一人に、あれは何だ?」

「パンダよ……大きいわね。二頭もいる」

「それに、少女が一緒だ」

「捕えられた子かしら……助けないと」

 

 紫苑の言葉に華雄は頷くと、草むらから飛び出す。

 

「援護を頼んだ」

 

 それだけ言い、返事を待たずに走り出す。相手の戦士もこちらに気付いたようで、殺気を放ちながら身構えていた。

 

 シュッ!

 

 華雄の背後から、矢が放たれる。耳元を通り過ぎ、目の前の戦士に向かった。それを槍ではじいた直後、華雄は戦斧を振り下ろす。重い一撃だったが、相手はそれを難なく受け止めた。

 視線が絡む。お互いに、ただ者ではないことを察した。後方に飛んで距離を置き、間断なく攻め立てる。相手の戦士がニッと笑い、釣られるように華雄も笑った。

 

(生きている!)

 

 心の底からそう思えるほど、満たされた戦いだった。

 

 

 牽制の矢を放ち、華雄が戦いやすいように援護をする。紫苑は戦況を離れた位置から冷静に眺め、的確に矢を放つ。

 紫苑と華雄はまだ出会って日は浅いが、その連携は永年の相棒のように息が合っていた。

 

(次はこっち!)

 

 華雄が身を引いた瞬間、紫苑が矢を放つ。そしてすぐさま、華雄は攻撃に転じるのだ。紫苑が華雄の動きを読んで、的確な援護を行っているのである。

 紫苑にとって、華雄の動きは読みやすかった。それは決して単調ということではなく、武人らしい戦い方だったからだ。余計な策は弄さず、愚直に攻める。戦場で多くの戦いを目にしてきた紫苑も久しく見ないほど、清々しい戦いだった。だからこそ、援護をしつつも邪魔はしない。

 

(あの相手も……)

 

 華雄に応えるように、相手の戦士も真っ直ぐ攻撃を仕掛けている。今、目の前で本当の戦いが繰り広げられていた。紫苑はガラにもなく、興奮していた。だが、ふと気がつく。

 

(あの子、パンダに守られている?)

 

 捕らわれたと思っていた女の子を、パンダが庇うようにして守っていた。大切な商品だからという理由も考えられたが、それにしては女の子の様子がおかしい。明からに、こちらを敵視している。

 

「二人とも、戦いを止めて!」

 

 ハッと気がつき、紫苑が飛び出す。どうやら大きな誤解をしていたようだ。華雄と相手の戦士は紫苑の声が聞こえたのか、まるで時が止まったかのようにピタリとその動きを止めた。

 

「どうした?」

「誤解よ、華雄。この子は誘拐されたわけじゃないわ」

「えっ!? わ、私?」

 

 突然、自分の事を指で差され女の子は驚いたように目を丸くする。

 

「ふう……どうやら、早合点だったようだ」

「何や? 終わりか?」

 

 華雄が武器を収めると、相手も構えを解いた。緊張していた空気が一気に弛緩し、誰ともなくホッと息を吐いたのである。

 

 

「本当に、ごめんなさいね」

「いいのよ、別に」

 

 誤解とはいえ、攻撃を先に仕掛けたのは紫苑たちだ。頭を下げると、女の子は気にした様子もなく手を振った。

 

「でも、びっくりしちゃった。あいつらの仲間かと思ったもの」

 

 女の子は目を丸くして、そう言うと笑った。その顔は、どこか紫苑を安心させる。年齢は離れているが、愛娘の璃々の顔が浮かぶようだった。天真爛漫というのか、邪気のない笑みは似ている気がする。

 

「それで、どうしてここに? えっと……なんて呼べばいいのかな?」

 

 女の子が訊ねる。紫苑の心臓が跳ねた。ほんの一瞬の間を置き、彼女は答えた。

 

「私は紫苑って言うの。呼び捨てで構わないわ」

「えっ? でもそれ、真名じゃないの?」

「ええ。いいのよ、あなたたちにならね」

 

 優しく微笑みながら、紫苑は別のことを考えていた。本当は、黄忠と名乗ることを恐れたのだ。万が一にも、孫策暗殺の犯人として名が知られている可能性がある。だから今まで、極力名前を口にはしてこなかった。どうしても言わなければならない場合は、適当な偽名を使った。だがそれでも、彼女なりの一線があった。それは、自分を信じてくれた者と子供にだけは、嘘をつきたくはないという事だ。だから女の子には、真名を名乗ったのである。

 

「私は華雄。私も本当ならば真名を名乗りたいところだが、事情がありそれを知らない。これで勘弁してもらいたい」

「それなら、こっちも真名を名乗らないとね。私は小蓮、この子たちは大喬と小喬」

「うちは霞や。こっちのチッコイのがミケ、トラ、シャムや」

 

 元気そうな一行に、紫苑は久しぶりに心から笑顔を浮かべた。

 

「よろしくね、小蓮」

「シャオでいいよ! みんな、そう呼ぶの」

「そう、それじゃシャオちゃん」

「うん! よろしくね、紫苑! 華雄!」

 

 少し頬を染め、どこか嬉しそうに小蓮は笑った。


 
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