『…そして、王子様に心から愛されたお姫様。2人は永遠の愛を誓い、幸せに結ばれるのでした…。 ~ END ~』
…なんてハッピーエンドな童話が、ちょっと前までの妹のバイブルだったらしい。
成る程と、それは今なら理由を聞かずとも理解できる。
どこぞの意気地なしな王子様が、やっと…やっと愛しの可愛いお姫様を愛してあげて「愛の言葉」を囁いてあげた。
それからその可愛いお姫様は、毎日本当に幸せそうな笑顔を浮かべる様になったから。
だが、そのお姫様には残酷な様だが、このリアルな世界と童話の世界の間には大きなギャップが存在する事を強く意識して欲しいと思う。
兄妹の高い垣根を乗り越え、禁断の領域にまで踏み込む事を物ともせずに実らせた、恋焦がれた秘密の恋。
そこへは、現実と世間と言う名の途轍もない大きな障壁が容赦なく翳を落としているという事を、常に忘れずに心に留めておいて欲しいと。
ベッドで横になりながら天井をぼんやりと見つめ、ふとそんな事を俺は思う。
その視界を不意に、愛らしい微笑みを顔いっぱいに湛えた「お姫様」が占領した。
「おにーちゃん、どう…したの? 又、なんかぼーっとしてる…」
「…ん? いや…、なんでも…ない」
穏やかに笑い返すと、スッと妹はその笑顔を視界から外した。俺が身を起こそうとするのを判ってるからだ。
全く…どこの熟練夫婦だよ、これじゃ正に阿吽の呼吸じゃねえか…と内心苦笑いする。
「何時もの…よっと…、…しょーもない考え事、さ」
身を起こし壁に背を預けながら愛美に答える。
それを妹は微笑を崩さずに、ただ側で黙って俺だけを見てて。
もう2人の間には珍しくも無くなった、日常と化したこんなひと時。
けど、どこかほっとする様な時間。
愛美に応えてやってから、2人の間にはもっと強くお互いを求め合う事が多くなるのかと思った。
ところが不思議な事に、俺は俺であんな凄い快感を経験したってのに、妹の肢体をもっと求めたいって欲望が殆ど沸いてこない。
小●6年なんて外見は少女なのに、抱けば一人前の女性でおまけに彼女の中は極上品…なのにも関わらず、だ。
と、同時に妹も、どうもそんな感じらしい。
幼い肢体にも関わらず、男を十分に受け入れて感じ、女としての喜びで頂点に達する事だって出来るってのに。
勿論、彼女が聡いってのも大きな理由だ。
自分が望んでいる受け止め方を、あんなにまで愛して叶えてくれた兄が、心の隅では、やはり完全には拭いきれない「ある懸念」を残してる。
俺が妊娠させちまったら…って危惧してるのを敏感に感じ取って、その気持ちを尊重してくれてるのか、決して無理に求めて来たりはしない。
まず少なくとも、必ず安全な時を見計らって…それで初めて求めて来てる。
尤も、抱かれる時は俺を全部感じたいって事で避妊なんかは拒否するから、それも大きな理由の一つにはなってるんだろうけど。
けど基本的に、エロゲー展開宜しく快楽に溺れて…なんて事はこれっぽちも無いし、やっぱりその頻度自体がかなり少ないんだと思う。
つまり、双方とも単に肉欲的なものだけで…ってわけじゃないって事なんだろう。
その代わりと言っては何んだが、最近では俺が妹を愛撫してやってなんてのも増えてるし、キスなんかは本当に熱っぽい物が多くなった。
無論彼女の『お口での愛撫』なんかも、前よりもっと熱のこもった一途さで、胸にグッと来る物に変わったし。
ありふれて陳腐な言葉なんだろうけど…、2人とも本当にお互いを愛しいって思ってるからこそ
俺たちにとっての「抱く、抱かれる」って行為は、お互いの気持ちを心の底から確かめ合う時の謂わば『特別な儀式』
…最近では、そんな位置づけになってる、って気がしてならない。
ぶっちゃけ、一番の肉体的な交わりなのに、そのヘンは寧ろ逆で純粋で一番プラトニックに近いって事なんだろうって気もしてる。
何とも奇妙な話ではあるが。
だが、まあ細かい事は構わない。
俺たちは、どちらから言うでもなく自然に今のスタイルで十分に愛し合えてるって実感はしてるから。
――――ピッ。
側にあったリモコンでTVを付け、なんの気なしに画面を眺め始める。
――――キシッ。
軽くベッドが軋む音。
四つん這いで愛美が近づき、俺の足の間をチョット見つめてから顔色を覗き込む様に伺っていた。
黙って頷くと、彼女は嬉しそうに足の間に座り込み上体を俺に預け始める。
鼻腔を軽く刺激する髪のリンスの匂い。ふわりとした、女の子と呼ぶにはあまりにも躊躇われる女性を意識させる柔らかな肌。
丁度股間が殆どそれを独占してしまうのだが、柔らかでそれでいて張りを感じる小振りなお尻の感触。
それがまるで、子猫の様に身を擦りよせている。
彼女のお腹辺りに手を回してそっと軽く抱きしめると、嬉しそうに微笑みながら俺に寄りかかる様に上体を預けた。
温かい彼女の体温を感じて。
同時に、彼女も俺の体温を感じて。
穏やかでお互いを確かに感じあえるこの感覚が、とても心地いい。
不意に、厳しい現実がその翳を色濃く俺たちの間に落としている事を思い出し、俺を急速にリアルへと引き戻していく。
彼女を受けとめた時から感じ始めた、もう一つの完全には拭いきれない懸念。
『こんな事を、俺たちは何時まで続ける事が出来るんだろう?』
愛美だって気が付いてるはずだ。
この秘密の恋は、世間に知られる事無く何時か必ず終わりを迎えなきゃいけない。世間が絶対に許してくれる恋じゃないから。
彼女はどう思っているんだろう?
俺は…、俺は、許されたい…って思ってる。
この先どんな風に愛美が成長していっても、俺の大切な妹は…愛する妹は世界でたった一人しかいない。
今、この腕の中にいる彼女しかいないから。
この愛しい女の子を、絶対にこの腕から逃したくないから。
だから喩え世間が許してくれない恋だとしても、俺はこの恋を許されたい…、そう思ってる自分が居る。
それを彼女は…どう思っているんだろう…?
考えられない。
いや…、俺は考えたくない。
愛美がこの腕の中から消えてしまうなんて…、そんなの絶対に……絶対に、いやだっ。
…可笑しいよな。チョット前まで、彼女の事をここまで考えた事も無かったのに。
けど、今はこんなに…彼女の事で………心をかき乱されて…。
――――ポツリ。
あの時、魔法を掛けられたのは…、彼女じゃなくて俺の方じゃないか。
――――ポツリ。
全く…情けない………俺は、何て情けない……、ダメな兄貴なんだろう…。
――――ポツリ。
いつの間にか流していた涙。
その涙を、身を起こした彼女は驚くでもなく悲しむでもなくただ静かな瞳で見つめていた。
――――ふわっ。
優しく温かで心休まる様な香りと共に、彼女はそっと…俺の頭を胸に抱きよせてくれた。何も言わずに、ただ黙って。
本当に情けない。俺は肩を震わせて、まるでそれだけしか術が無い子供の様に涙を流し続けてるってのに。
「…ふ……、…う…………っ…………」
自然に彼女に縋り付くように抱きしめてしまう。
が、それでも黙って…俺を抱き続けてくれる。
――――きゅっ。
彼女の腕に僅かにこもる力。
強くなる妹の温かさと匂い。
未だ緩やかで膨らみ始めたばかりの慎ましい胸なのに…、なのに、全てを受け止めて包んでくれると思わずにいられない柔らかみが有って。
そんな抱擁。
何時までもこうして愛美に抱きしめられていたい。ずっと…、ずっとこうして。若しも、俺の…俺の全てが、許されるなら…。
「…おにーちゃん…」
やがて聞こえた彼女の、問う様で諭すような静かな呼びかけに、俺は抱きしめていた腕をゆるりと解く。
同時に彼女もスッと腕の力を抜くと、俺の頬に両手を添えて彼女の方に顔を向かせる。
滲んだ視界に映る、眩しいまでの微かな微笑み。
小さな桜色の唇がユックリと言葉を紡ぎ出した。それはまるで、遥か年上の女性が小さな男の子に優しげに語りかける様でもあり。
「…どうして…、泣いてるの…?」
答えられない。そんなの、答えられる訳が無い。
俺の口から…言えるか。愛する妹をこの手から失ってしまう事を考えてた、なんて…。
「…」
「…おにーちゃん…」
再び諭すような声。
「私は…、私は、今とっても嬉しいんだよ…?」
「…?」
何を…愛美は…?
「おにーちゃんと、こうしてる…って事…。 こう出来る…って事…。」
…そりゃ、俺だってそうさ。けど、これは何時か終わりを迎えなきゃいけないんだぞ?
それを、愛美…、お前は…耐えられるのか? 耐えていけるのか? 俺は…俺はっ…
「だって…、『今』こうして、おにーちゃんに触れる事が出来て…、『今』こうして、おにーちゃんの側に居れる…から…」
頭を…鈍器で強く殴られた気がした。
重い、重い衝撃。
現実という名の障壁を、しっかりと彼女も理解していて…。いや、俺よりも、遥かに正しく受け止めて受け入れていて。
この恋の果てに何が待ち受けているかを判っていても。それでも、彼女は俺を愛してくれる道を選び続けている。
その覚悟にも似た強い想いは、俺の決意なんか軽く吹き飛ばしそうな強さで、しっかり前を見据えて。
全て理解していても尚、それでも彼女は前を見つめていた。
それが辛くない訳無いだろ?
苦しくないなんて事があるもんか。
そんなの彼女は、もう百も承知してるんだよ。
だからこの『今』を大切にして行こう、『今』を精一杯感じていこうってしてるんじゃないか。
その『今』の全てを刻みつけていこう、って。
だって、2人の間に確かにあるこの『今』は、この先喩えどんな事があったって曲げる事が出来ない真実なんだから。
…本当に…本当に彼女は、何て俺には勿体無い位に素敵な妹で…そして何て素敵な『恋人』なんだろう。
ポロポロと。
止め処なく、又、俺の瞳から涙が零れ落ちていく。
「……だから………、…泣かないで…。」
――――ちゅっ。
桜色の愛らしい唇が、咽び泣く俺の唇をそっと甘噛みし、声を遮る。
蕩けそうなマシュマロを思わせる柔らかさで、まるで慈しむ様に愛撫しながら何度も何度も。
その度に流れ込んでくる、彼女の温かな体温と想いと、そして愛してくれてる気持ちと一緒に。
「…んっ」
最後に甘やかな吐息と共に、そのピンクの柔肉が完全に俺の唇を塞ぐ。
けど、舌を絡めてくる激しさも俺を求めてくる情熱もないのに…、なのに、溢れんばかりの優しさと愛しさが、そこにはあって。
そんな彼女の感情がはっきりと伝わってくる、心が震える様な『優しい魔法のおまじない』
――――はぁ…。
別った唇から、吐き出された吐息。
微かに香る甘やいだ匂いが、更に俺の心に染み入ってくる。
「……ね…?」
僅かに上気しかけた頬と潤んだ様な瞳。
それが、穏やかな微笑と一緒になって俺の目に映った。
馬鹿…、やろ。
そんな顔で俺に微笑みやがって…。そんなんじゃ…余計涙なんか、止まるわけ…。
「…愛、美…。」
泣きじゃくる様な、情けない声。
「…はい」
静かな彼女の返事。
「…もっと…、もっと俺に…キス…、してくれないか…」
滲んでいた視界が、更にぼやけて彼女の顔を映していた。
「…………はい…。」
――――ふわり。
優しげな香りと。柔らかな腕と。温かな胸と。
そして俺を全て包んでくれる様な抱擁と。
可愛い妹で、俺の――――『大切な恋人』が。
俺に、キスと「彼女との『今』」を刻んでいく。
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