「あ、あれは……」

 

「なんやカガリちゃん。知ってるんかあれ?」

 

 あの姿には見覚えがあった。

 魔法学校時代、図書室でふと手にした本の挿絵に描かれていた異形の姿。

 

幻想世界(ファンタジーゾーン)アルハザードに生息するという伝説の砂獣……コバビーチ!」

 

「そ、そらまた偉いもんが出てきたな!」

 

「……を機械で模しただけのただの巨大魔法兵器のようです」

 

「って偽者かい!」

 

 はやてさんとの会話は、何だか楽しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.

第四話『その昔。遥か次元の彼方にアルハザードがあった。』後編

 

原作:アインハンダー

原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ

原作設定:日本製シューティングゲーム各種

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日の向こうに敵影が見えた。

 超長距離砲撃ならば撃ち落せる距離。

 

 既に戦闘空域だ。

 

「本部。こちら蒼穹紅蓮隊トリューフォー、及びトリューセブン。戦闘空域に入りました」

 

『こちら本部。陸士108部隊のゲンヤ・ナカジマ一等陸尉だ。大まかな指示はこちらで行う。そちらの映像まわせるか?』

 

「カメラアイ映像送ります。映像スフィアは使えないので、全体映像は先行の警備隊か後続部隊にお願いします」

 

『ああかまわんよ……と、映像多いな』

 

 シップに搭載されているカメラアイの映像を全て送ったからだろう。

 私はこの全方位をカバーする視界と各種センサーで音速を超える弾丸を回避するのだ。

 

「基本視点には赤でマーキングしてあるので他は任意で落としてください。青マーキングをつなげれば全方位三六〇度視界になりますが」

 

『んな視界に対応できる脳の持ち主なんぞこっちにゃいねえよ』

 

 そういえば人類はそういう生き物だったか。

 

『あんたたちは都市結界を狙う高高度爆撃機と肌色のでっかいやつを狙ってくれ。どっちも陸士部隊じゃ相手にするのが難しいんだ』

 

「了解。でっかいというのはあのコバビーチもどきですね」

 

『どこかで見たことあると思ったら童話のあれか……』

 

 次元世界の各世界に点在する幻想世界(ファンタジーゾーン)アルハザードの逸話。

 過去の民俗学者は世界を渡り童話としてまとめあげた。

 一見何のつながりも無いはずの世界にも似通った話があり、一部の人はそこに浪漫を感じるという。ユーノくんとか。

 

『よし、肌色のをコバビーチと命名。上空の機体を一掃したのち、コバビーチに当たってくれ。それ以外は警備隊が引き受ける』

 

「了解しました。戦闘開始します」

 

 こちらからの音声通信をカット。

 後はシップの外部集音マイクの音がカメラアイの映像とともに本部に伝わるだろう。

 バックアップ体制も完璧。突入を残すのみだ。

 

「さ、はやてさん降りてください。まずは空に居るのからです」

 

「うう、見れば見るほど頑丈そうやなぁ」

 

「バルーンに誘導弾を当てる要領で全力で撃てば、はやてさんの魔力量なら小型機程度楽勝です。ですよね、リインフォースさん」

 

『当然だ』

 

 はやてさんにはそこらのインテリジェントデバイスなどよりはるかに優秀な爵位級デバイスの管制人格がついている。

 細かいことはリインフォースさんに任せよう。気にしすぎて私が撃ち落されては元も子もない。

 

 はやてさんがシップの副座から飛び降りた。

 コートのすそがひらめいた。

 高速に風景が流れていく中、魔力障壁により強風は全て防がれている。

 

 足の未だ治りきらぬはやてさんにとって、空は自由に動ける空間だ。

 シップの斜め後ろに追従するようにしてはやてさんが空を翔けていく。

 

 この場は既に戦場。私と彼女はこうして戦友となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔力炉を全力で回転させる。調子は良い。

 怪我をする前よりも魔力が満ち溢れてくるのを感じた。

 

 人体というものは、損傷と再生を繰り返すことでより強固になるという。

 強化された人類である私ならば、なおさらだろう。

 

 現在のメインシップとなっているR-GRAY2に魔力を流す。

 これらも魔力炉と身体の成長に合わせて調整していく必要があるだろう。

 

 私はまだ子供だ。シップが身に着ける武装であり、動力を体内から引き出すものである以上、体に合ったカスタマイズというものが必要になってくる。私はまだまだ強くなれる。

 

 

 機械翼(アフターバーナー)から推進魔力の火を噴かせ、上空の機械の群れに突入する。

 

 ――MO-SYSTEM All Green

 

 都市結界へ向けて爆撃を続ける五機をまとめてロックオン。両肩から伸びた砲塔から雷撃を放つ。

 轟音とともに撃ちだされた紫色の光が空を走り、紫電を撒き散らしながら五機全ての装甲を打ち砕いた。

 

 突然のこちらの強襲に、AIを搭載された小型機の動きが変わる。

 私を敵とみなし、標的を結界からこちらに変えたのだ。

 カメラアイの視界からは下方の機体もこちらへ銃口を向けようとしているのが見える。

 

 いやはや人気者だ。過去の戦火でマークされているというのもあるかもしれない。

 だが、これでいい。都市結界を長く維持できればテロの被害も抑えられる。

 私に攻撃が多く集中すれば、はやてさんも安心して各個撃破ができるだろう。

 

 敵機の銃弾が発射される。だがその狙いの先にはすでに私の姿は無い。

 弾道予測と高速回避。私の基本スタンスだ。

 

 ブレードを構えて突進してくる人型機を機銃で撃ち落しながら、はやてさんの方を念のために見てみる。

 

 空中に魔法陣を展開し、誘導魔力弾を一つずつ確実に撃ちこんでいる。

 ディバインシューター。

 なのはさんから蒐集した魔法だろう。

 

 そんなはやてさんに念話を送る。

 

「敵機が多いので、集中砲火されないよう常に動くことを気にかけて。ディバインシューターなら移動撃ちでも当たるので大丈夫」

 

『おっけーや先輩。カガリちゃんに当てんようにだけは気をつけるわ』

 

「その心配は全く無いので安心してください」

 

 本物であるなのはさんのディバインシューターでも避けきれる自信がある。

 混戦状態でもはやてさんの魔力は大きいので見落とすことは無い。

 

『言うなあ。と、ほんまにこっちにも撃ってきよった。無駄話は危険やな』

 

 敵機の質量ミサイルをディバインシューターで迎撃しながら、はやてさんが念話を閉じた。

 

 

 あちらは大丈夫だ。

 私は私の戦いを続けよう。

 

 R-GRAY2の兵装は三つ。

 

 一時魔力補助(パワーアップ)システムを搭載したレーザー照射型の機銃、追尾性能の高い魔法の雷を放つロックオンレーザーMO-SYSTEM、ロックオンレーザーを使い続けることでチャージされる魔力属性変換エネルギーを解放する特殊解放爆撃(スペシャルアタック)だ。

 

 魔力残滓を集める一時魔力補助(パワーアッ)システムと、ロックオンレーザーでチャージされる特殊解放爆撃(スペシャルアタック)がある以上、シップは戦えば戦うほど一時的ながら強くなる。

 

 

 上空から降下してくる二機とビルの陰から飛び出し上昇してきた下方の二機をロックオン。

 雷撃を撃ち出す。

 

 そして急旋回し、はやてさんへ左右から高速で迫っていた二機をロックオンする。

 始めの四機を貫いた雷が弧を描きはやてさんの左右の機体へと迫り撃ち抜いた。

 

「うおああああ!? あぶなっ! こっちが安心できへんやんカガリちゃん!」

 

「狙っていない相手には殺傷性を持たない魔法の雷なので何の問題もありません」

 

 言いながら左前方の中型機をロック。

 はやてさんの周囲でうねりをあげていた紫電が飛び出し、駆動部を雷撃で食い破る。

 

 一度放たれた雷撃は霧散する前に新たにロックオンを続ける限り、周囲の魔力残滓を巻き込んで消えることなく破壊を続ける。

 R-GRAY1の持つ多弾速射型のロックオンレーザーのような複数同時攻撃が出来ない代わりに付随された持続性能だ。

 

 狙った相手以外に被害を与えないのもロックオンレーザーの特徴だ。

 機銃からのレーザーを無闇に撃たなければ流れ弾の心配も無く、都市圏での運用に秀でた機体となっている。

 

 右上空に小型機の急降下を察知。

 魔力残滓で強化された機銃の照射レーザーで狙い打つ。

 

 相打ち狙いか、直撃と同時に弾を撃ち返してくるが、回避行動を取るまでも無く弾は逸れていった。

 

 私とはやてさん二人の猛攻に反撃するように魔法機械が次々と銃撃を放ってくるが、それが一度も魔力障壁をかすることはなかった。

 一年前より敵機の狙いが甘い。

 ミッド各地に出没する高速迎撃機である私が出撃しなくなったことで、命中より破壊力へとカスタマイズを変えたのだろう。

 だが、その判断は早計だ、中解同。

 再びミッド中を駆け回って破壊しつくしてくれる。

 

 

 ロックオンレーザーの光が夕暮れの都市上空に舞い続けた。

 

 チャージが完了したシステム音声がシップから発せられる。

 

「はやてさん。一斉攻撃兵器を使います。巻き込まないよう合流しましょう」

 

『おお、あたしも慣れてきたから援護魔法使うで』

 

 くねるようにして回避飛行を続けるはやてさんの元へ、シップの装甲を副座式に変形させながら向かう。

 

 リインフォースさんと座標計算通信をしながら、速度を落とすことなく合流。

 流れるようにしてはやてさんがR-GRAY2の前方へ搭乗した。

 

 はやてさんはその間、魔導書を開き魔法の詠唱を続けていた。

 

 夜天の書の処理能力の高さが、この一瞬だけで十分に察せられた。

 

 

「いくで! 広域捕縛! 過負荷覚聖絶死界(ガールダツー・フリーズ)!」

 

 

 剣十字の魔法陣が弾け、結界魔法独特の感覚が空間を満たした。

 途端に、視界の中で動き続けていた中解同と思わしき機体が急に停止した。

 

 これは、空間固定結界魔法か。

 

 何という大魔法だろうか。

 蒐集されたオリジナルの術者は、ここまでの魔法効果を発揮していなかっただろう。

 だからこそ、私もはやてさんの蒐集魔法一覧で特に注目もしなかったのだ。

 

「ザ・ワールド。時は止まるってなあ。カガリちゃん、今や!」

 

 はやてさんの言葉にうながされるように、特殊兵装のチャージを解放する。

 

 術式規模AAAランクと認定された広域爆撃兵装だ。

 チャージの過程に難があるために本来なら使うタイミングが難しいのだが、大群でやってくる中解同戦では今まで大きな戦果を上げていた。

 

 シップから次々に青白い光線が撃ち出されていく。

 斑鳩の力の解放にも似ているが、その規模はこちらのほうが圧倒的だ。

 

 空間に停止した銃弾を吹き飛ばし、貼り付けになった機体を貫いていく。

 

 都市の空を満たした青い光が爆発、爆発、爆発。

 砕かれた敵機の装甲も、さらなる光爆で粉々に粉砕される。

 

 やがて光が収まると、空には私たち以外の影は残っていなかった。

 

「やるなあ、カガリちゃん」

 

「味方が居ると使いづらいんですけどね、と。本部。上空の掃除終わりました」

 

『おう、予定通りコバビーチにかかってくれ』

 

「了解です」

 

 再びシップからはやてさんをパージ。

 都市結界の最外層の内部に入り込んだ円い機体の元へシップを走らせる。

 

 指揮本部から送られてきたコバビーチの解析情報がバイザーに表示された。流石地上部隊の解析班は仕事が速い。

 

 

 

全顔型爆装機「コバビーチ」

 

推定武装:

魔力光線照射機 ×9

 

推定装甲:

耐魔力多重装甲

 

 

 

 いや、全顔型ってこんなときに笑わせる気か。

 どんなお茶目さんだ解析班は。

 

 しかし、耐魔力装甲というのは厄介だ。

 こんなものまで開発しているというのか。中解同は。

 軍事開発への技術力と生産規模が最早大企業を超えた存在になっている。

 

 シップをR-GRAY2から背中のビックバイパーT301へと換装する。

 背中から肩を通り、縦に回転するようにして装甲が切り替わる。

 R-GRAY2は腰へと装着され待機状態になる。

 

 蓄積した魔力残滓を使い、魔力弾の援護射撃を行う補助魔力スフィアのオプションを四つ生み出す。

 さらに、機銃を魔力弾モードから<ruby><rb>魔力光輪</rb><rp>《</rp><rt>リップルレーザー</rt><rp>》</rp></ruby>射出モードへ。

 

 攻撃力ならば私の作ってきたシップの中でもトップクラスを誇るT301。

 耐魔力装甲にどれだけ通用するかは解らないが、全力を尽くして当たるのみ、だ。

 

 

 高層ビルの隙間へと降下する。都市結界の中層を突き抜けるこれらのビル群は建物の表面を覆うように結界に守られている。

 一部の結界は破られており、ビルの隙間から黒煙が上がっている。

 

 大規模結界を貫いた魔法攻撃。コバビーチによるものだろう。

 ビルの間から姿を現したコバビーチの装甲が見える。メタリックさとはかけ離れた、砂を模した肌色の塗装。

 薄い円筒状になったその形状と上下の一対の翼は、マンボウという魚を連想させられた。

 

 光線照射機は円の局面である前方にしか付いていないようなので、側面の円い顔の部分に回れば狙われないか?

 

 ビルの合間を高速で駆け抜け、機銃を発射。光の輪の形となったレーザーが飛んでいく。

 四つのオプションからも立て続けに魔力の光がコバビーチの顔へと集中する。

 

 連射連射連射。

 表面を覆っていた魔力障壁に穴が開く。

 だが、装甲には亀裂すら入らない。

 

 まだ撃ち足りないか、と思った瞬間、丸い顔の左方、コバビーチの前面に装着されている照射機が一門せり出し、先端に付いた眼球のような黄色い球体がぎょろりと回転した。

 狙われた!

 

 光線が視界を埋め尽くす。

 身にまとっていた<ruby><rb>強化魔力障壁</rb><rp>《</rp><rt>フォースフィールド</rt><rp>》</rp></ruby>が全て消し飛んだ。

 

 高速で動き回っていたというのに、完璧な直撃だった。

 障壁のおかげで機体に破損が無いのが幸いか。

 

 乱れそうになる重力制御を操縦で押さえつけ、体勢を立て直す。

 搭載位置から融通の利かない光線射出機かと予想していたら、何とも対応角度も命中精度も優秀な一撃だった。

 

 破壊力も高い。はやてさんに防御に気をつけるよう念話を飛ばすと、私は動きを捉えられないようにさらに速度を上げる。

 

 

『<ruby><rb>SPEED UP</rb><rp>《</rp><rt>スピーダッ</rt><rp>》</rp></ruby>』

 

 

 側面、後方、下弦、あらゆる位置を取り機銃から撃ちだされる光の輪を叩きつける。

 相手も応じるように魔力光線を撃ち、シップの魔力障壁をかすらせていく。

 

 一分以上に渡る攻防の後、パターンが見えてきた。

 魔力光線照射機はチャージ時間があるのだろう。

 縦に並んだ九門の照射機は上から一発ずつ順番に光線を撃ち出していた。

 

 断定するのは先ほどのような危険性がつきまとうが、これからの動きの組み立てを作るには有益な情報だ。

 光線の威力と速度は高いが、誘導性皆無の直線軌道のため、避けきることは不可能ではない。

 

 限界の速度に到達したシップの機械翼から激しい魔力の炎が吐き出されていく。

 

 

『WARNING!! WARNING!!』

 

 

 突如、未登録魔力警告が響いた。

 遥か上空から高速で降下してくる高魔力の物体をシップが捉えた。

 

「本部!」

 

『ああ、解ってる。……これは、きやがったな。アインハンダーだ』

 

 アインハンダー。デバイス戦闘機のお目見えか。

 

 一瞬どう動いたものかと迷うが、アインハンダーは中解同を標的にしているという第三勢力だ。

 今すぐどうこうしなくてもこちらの被害には繋がらない。

 

「このままコバビーチとの戦闘を継続します。よろしいですか」

 

『ああ、そちらを最優先で頼む。アインハンダーをどうするかはその後だ』

 

 はやてさんと二人、コバビーチの周囲を旋回する。

 コバビーチの攻撃は直線の一撃なので、はやてさんは防壁魔法を常にコバビーチの方向へ展開して猛攻を防いでいた。

 

 防壁魔法と同時詠唱で魔力の槍を投擲しているが、装甲は貫けていない。

 ビックバイパーのレーザーも、相手の光線照射機を狙ったもの以外は全て装甲の前に霧散していた。

 

「ダメです、攻撃が通用しません。本部、ヤツをスキャンして弱点を探してください」

 

『……コンピュータ予測でました! 照射機への攻撃、または物理作用の高い魔法攻撃を行ってください!』

 

 通信機からナカジマ一等陸尉とは違う、おそらく解析班のものであろう声が通信から届いた。

 

 

「照射機機は危険なので私が。はやてさんは物理魔法攻撃、行けますか?」

 

「任しとき!」

 

 

 はやてさんは距離をとり、防壁魔法を展開したまま大魔法の詠唱に入る。

 

 私はさらにコバビーチ周囲の旋回を続け、狙いを照射機に絞って機銃を撃ち続ける。

 

 装甲への攻撃とは違い、照射機の守りは甘かった。

 台座に亀裂が入り、眼球のような射出口は黄色から緑、そして赤へと変色していく。

 

 光線の一撃を回避し、オプションを一列に並べて<ruby><rb>魔力光輪</rb><rp>《</rp><rt>リップルレーザー</rt><rp>》</rp></ruby>を撃つ。

 先ほどから狙われ続けていた照射機の一機が破片を撒き散らして崩壊した。

 

 解析班の予測は完璧だ。

 

「行くで!」

 

 はやてさんが念話と声の叫びを同時に放った。

 はやてさんの周囲には、空間を歪ませる魔力が渦巻いていた。

 

 重力魔法や重圧魔法独特の魔法現象だ。

 おそらく、物理と聞いて押しつぶす重力魔法を思いついたのだろう。

 

 あの巨体だ。潰せなくとも過負荷がかかるとどこかで軋みが生じるだろう。

 

 

「<ruby><rb>Schwere Bombe</rb><rp>《</rp><rt>シュヴェーレ・ボンベ</rt><rp>》</rp></ruby>!」

 

 

 コバビーチの上空で、巨大な魔力の渦がうなりをあげた。

 黒い魔力光を撒き散らしながら渦巻いたそれは、落下しながら物理現象としての形を取っていく。

 

 魔力の渦は固体化し、コバビーチの三分の一ほどもある巨大な分銅へと変わった。

 

 はやてさんの重さへのイメージが投影されたものだろう。

 魔力が物質化された分銅には可愛らしい文字で「16t」と書かれていた。

 

 機動力はさして高くないコバビーチに、分銅が直撃する。

 

 それまでびくともしなかった装甲に亀裂が入り、分銅が機体の中へとめり込んでいく。

 ただの巨大な分胴に見えるがこれは物理衝突魔法であると同時に重力魔法でもある。

 内部へと侵入したそれは、周囲の装甲を巻き込み、亀裂がさらに広がりより深くへと分銅が侵入していく。

 

 落下を続けた分銅はやがて装甲の下から突き出て、コバビーチの巨体を真っ二つにした。

 生々しく覗く機械の内部。爆発と崩壊を続けて、やがて都市の中へと墜落して行った。

 

「……一撃、か?」

 

 一撃だった。

 

「あー……魔力防御を高めたのは良いけれど、物理的な重圧は想定していなかったとかそういうのではないでしょうか……」

 

『……二人とも、あきれるのは良いが、アインハンダーのほうへ向かってくれ。やっかいなことになっている』

 

 二人して呆けてしまったが、ナカジマ一等陸尉の声で我に返った。

 アインハンダーの元へ、だ。バイザーには魔力から割り出した座標が表示されている。

 ここからはやや遠い、空港方面の位置に居るようだ。

 

 はやてさんを置いていかないように、やや速度を落として高層ビルを迂回してアインハンダーへの元へと翔る。

 

 

 視界の先、バイザーの反応位置では、アインハンダーと巨大な人型兵器が戦闘を行っていた。

 

 映像や写真で見たものと同じ、青と黄の装甲とそれらを取り付けたパイロットスーツ。

 ヘルメットまでもが全て映像の中と同じだった。

 

 バイザーからの測定結果でパイロットの身長データにわずかな差異が見られたが、これは成長からくるものだろう。

 

 やはり、低身長の種族というわけではなく幼子がこの機体を乗りこなしているということだ。

 

 

 それと対峙するのは、人型の上部と戦闘艦の下部を持つ半人型大型魔法兵器だ。

 戦闘艦の上部艦橋から人型兵器の上半身が生えた奇妙な造形をしていた。

 

 手には戦闘艦にケーブルの繋がった大型の魔法バルカンが装着されており、魔力弾をアインハンダーに向けて連射していた。

 

 

「あの青いでっかいんもテロ機かあ?」

 

「いえ、見てください。下部の艦の装甲にでかでかとロゴが……。中解同がテロ宣言をした相手会社のロゴです」

 

 

 噂の企業の持つ私兵戦力というものだろう。

 

 今回のテロの標的になった企業は軍事産業を副業とする企業である。

 テロ対策にこそこそとこんなものを作っていたのか。

 テロからの自衛は認められているので、飛行許可もろもろは問題ないのであろう。

 

 

「ちゅーことは戦ってるちっこいんがテロ機?」

 

「それも違うはずなんですが……」

 

 

 アインハンダーが偽者、ということは無いはずだ。

 今も半人型機と戦いながらも小型のテロ機を機銃で撃ち落している。

 それにこんな高魔力が検知される特殊デバイスがそういくつもあってはたまったものではない。

 

 戦いを止めなければ。

 と、飛び出した瞬間にアインハンダーの長い片腕が持つ武装から撃ちだされたミサイルが半人型機の胸部を破壊した。

 半人型機は身をくねらせて煙を上げながらゆっくりと落下していく。

 

 間に合わなかった。

 

 余韻に浸るようにその場で停止するアインハンダー。

 

 私はそれに対し拡張音声を使って声をぶつける。

 

 

「アインハンダー! あなたが今撃ち落した巨大機は中解同の機体ではありません! 都市企業の所属機です! あなたを器物破損、危険魔法行使、無許可飛行で逮捕します! ただちに武装を解除し投降してください!」

 

 

 今もなお続く管理局とテロ機の戦闘音の中、拡張された声が響き渡った。

 

 アインハンダーのパイロットはそれに気づいてこちらに機体の正面を向ける。

 そして、ヘルメットの顔をちらりと下に向けると、再びこちらに向き直った。

 

 パイロットは首をかしげるような仕草。

 ヘルメットの中からぼそりと呟いた声をシップの集音マイクが拾った。

 

「相手間違えた」

 

「んなー!?」

 

 こちらがあっけに取られた瞬間に、アインハンダーはアフターバーナーの魔力炎を噴かせ上空へと高速で飛び出していった。

 残ったのは推進魔法の魔力残滓。

 

 あああああしまった逃げられた!

 

 

「本部! 本部! アインハンダー追いますか!?」

 

『いや、まだテロ機は残っている。後続部隊が到着したから協力して残存部隊の殲滅に当たってくれ』

 

 

 いきなり失態一つだ。

 音声は取れたが現行犯を目の前で逃がしてしまったのには変わりが無い。

 

 後ろからやってきたはやてさんは苦笑いをしている。

 気を取り直さないと。テロの鎮圧が残っている。

 

 

 

 企業戦をめぐる私とはやてさんとアインハンダーの事件は、こうして始まった。

 

 

 

――――――

あとがき:前回ラストと今回冒頭はSHOOTINGラスト石のような物体登場の自己パロディが書きたかっただけなんです。パロディウス的な意味で。

そしてサンダーフォース6が出るとつい先日初めて知りました。雷電4も出るので気力はまだまだ保てそうです。

 

 

SHOOTING TIPS

■相打ち狙いか、直撃と同時に弾を撃ち返してくるが

雑魚敵を倒した瞬間に、その敵が弾を撃ち返してくる仕組みをSTG用語で「撃ち返し弾」と呼びます。

ランク制(ゲーム中に変動する難易度)のSTGでランクが上昇した状態や、周回制(クリアした後にまた一面から始まる)のSTGの二周目などで良く見られます。

敵を倒せば倒すほど逆に境地に陥る不思議。

 

■ガールダツー・フリーズ

コンシューマー機(家庭用ゲーム機)ではよくバグやフリーズが話題になることがありますが、アーケードゲーム筐体でもちゃんとそれらは発生します。

エスプガルーダ2を持ち出したのは、別にガルーダ2にバグやフリーズが多いと言いたいわけではなくて、作者が実際にゲームセンターで体験して印象に残ったからです。

プレイ中に止まったら筐体に八つ当たりせずに店員さんを呼びましょう。プレイ回数をオマケしてもらえることもあります。

 


 
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