上野晴樹、十七歳。この春、高校三年生に進級したばかりである。
将来の夢は、まだ見つからない。自分がどうしたいのか、何をしたらいいのか、それさえも全く分からない。
一方幼馴染であり藍田樹里は、晴樹とは正反対だった。中学三年生でバンドを組み、毎年文化祭で演奏している。しかもルックスと多彩な音楽性で、今では学園のアイドル的存在になっていた。そんな樹里を疎ましく思う女子は少なからずいた。しかしそんなことは全く気にしていないようで、相変わらず樹里は真っ直ぐに前だけを見ていた。
樹里は誰よりも輝いていた。晴樹はそんな彼女にいつしか魅かれていた。だが同時に樹里に置いて行かれるような気がしていた。樹里は前を向いて進んでいるのに、自分は今いる場所から動けずにいる。どうやったら彼女に追いつくのかさえ分からない。
学園のアイドルである樹里は当然ながら男子に人気があった。そのせいで晴樹は気になってはいても、彼女に気持ちを打ち明ける勇気が出ないままだった。
将来のことも、芽生えた恋のことも、全く先が見えないまま、いつの間にか高校最後の年になってしまっていた。
「どうしたの? ハル」
溜息をついていると、樹里が顔を覗いてきた。驚きのあまり、接近してきた樹里の顔を反射的によけた。
「いや、何でもないよ」
慌ててそう言うと、樹里は首を傾げた。
「そう? 何か難しい顔してたけど?」
「そんな顔……してた?」
晴樹の問いに樹里はコクンと頷いた。確かに色々と悩んでいたが、樹里には言えない。言えるはずがない。
「何でもないよ」
晴樹は笑って誤魔化した。
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晴樹たちは高校最後の文化祭を楽しみにしていた。
しかし事件が次々と起こり,文化祭開催が危なくなる。
その魔の手が幼馴染の樹里にも及んで……。