No.239038

鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第17話~19話

NDさん

大体、話はレディアントマイソロジー3の流れに沿っています。一応。

2011-07-28 11:24:55 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2606   閲覧ユーザー数:2528

~バンエルティア号~

 

『おかえりなさい。弟君は見つかった?』

 

アンジュはエドにそう質問したが、エドはそれが皮肉にしか聞こえなかった

 

ただ、エドはため息を一つ吐いただけだった。

 

『あ……居なかったのね』

 

『途中でサレに会った』

 

とっさに言ったその一言で、アンジュの表情が変わった

 

『え?……それで、どうしたの?』

 

『一回捕まったけど、まぁなんとか全員逃げだして来れたな。あと、ウリズン王国がガルバンゾ国に同盟結ばそうとしてたぞ』

 

同盟

 

その言葉を聞いた時、そばのソファに座っていたリタが立ち上がった

 

『同盟!?エステルの国があの最低野郎の?』

 

そう叫んだ後、溜息混じりで皮肉った。

 

『はぁ…。本当に最悪な方向に進んでるわね……』

 

『後でエステルに伝えておく』

 

『は?』

 

唐突の事に、リタは何か何だか一瞬分らなかったが、

 

すぐにそれはとんでもない事をしようとしている事が分かった

 

『はぁああ!?ちょっとあんたいきなり何とんでもない事をさらっと言ってるのよ!!何考えてんの!』

 

『そうだとエド。そんな事をエステルさんに言ったら……心配事が増えちゃうよ…。』

 

コレットもリタ側に付いてきたが、

 

アンジュは、エド側についていた

 

『あら?私は賛成の立場だけど?』

 

『アンジュ?何を考えてるの?』

 

リタが、真剣な怒りでアンジュを睨む

 

『なんでこんな状況で王女が何も知らないって事にしておくお前らの方が頭狂ってんじゃないのかと思うね。こんな時こそ王女様がなんとかするべき事じゃねえのか?』

 

エドが真剣な顔でそう話す

 

だが、リタはまだ納得した顔をしていなかった

 

『大体、どうしてそんな情報耳に入れたのよ……』

 

『言っただろ、ウリズン王国の野郎共に一回捕まったって。そん時に俺を材料に同盟の話を持ちかけやがったんだ。それが理由だ。文句は無えな』

 

リタはため息を吐きながら、ソファに座りこんだ

 

『じゃぁ、ほとんどあんたが居なかったらならなかった事だと言う事じゃない』

 

『リタ!!』

 

その無神経な受け答えに、アンジュは一喝する。

 

だが、リタは特に気にして居ないかのような顔をしていた

 

『まぁ、そう言う事になるな。』

 

エドも、特に否定していない態度を取っていた

 

『だけど、それじゃつまりは俺のせいじゃなくて、俺をここに連れてきた奴のせいになる』

 

『その前にあんたが目立つ行動をしたからじゃないの?』

 

『いいや、俺はずっと正当防衛をしてきたつもりだ』

 

『チビとか言われて、逆上しまくって暴れたんじゃないの?』

 

『なっ……てっ…てめ………!!!』

 

堂々と文句をつらつら言ってくるリタに、エドはついに堪忍袋の緒を切らした

 

その時、急に入口に大きな音が鳴る

 

『エミルゥゥウウウウ!!!』

 

甘える声の大声で、そいつはエミルに抱きついてきた。

 

その勢いで。エミルは倒れ、壁に頭を打った

 

『大丈夫だった?変な女に捕まらなかった?コレットの事好きになってないよね?』

 

つらつらと、マルタはエミルに質問攻めしている

 

『だ………大丈夫だから…は……離し……く…苦し……』

 

すごい力で抱きしめられているのか、エミルは息ができないようだった。

 

まだマルタは離れたくないと訴えたが、

 

『エミルが死ぬぞ』

 

とエドが言った所、あっさりとエミルを離した

 

『ねぇエミルゥ。ガルバンゾ王国の王都って、どうだった?』

 

マルタが、甘える声でエミルにそう質問する

 

『ええと……とにかく、とても大きかったよ』

 

『へぇ、私も行きたかったなぁ……ガルバンゾの王都……』

 

ぷくーと膨れっ面をしたマルタに、エミルは少し戸惑う

 

そしてエドとリタは、そのやり取りにイライラしていた

 

『ところでエミルゥ。その王都に、何かとっても良い物売って無かったぁ?』

 

マルタは、エミルにねだるようにすり寄ってくる。

 

その行動に、エミルはまた戸惑う態度を取ったが、

 

『ええと……ほら。こんな腕輪があったんだよ。』

 

エミルは、小さな紙袋に入れていた綺麗なレースの付いた白い腕輪を、マルタに渡した

 

『うわぁエミル!ありがとう!!愛してるぅ!』

 

『ちょっと待てぇ!てめぇアルの捜索中に買い物してやがったのかぁ!!』

 

エドがエミルに突っかかる

 

『え!?いや……そ……そのぉ……』

 

リタが後ろで言ったれ言ったれと人差し指を動かしている

 

『何よぉ!買い物ぐらい、ちょっとぐらいエミルの自由にさせてあげたって!!外見だけじゃ無くて中身まで小さいのね!』

 

『てめぇクソアマァ!!』

 

『まぁまぁ、良いじゃないのよおチビちゃん。恋人を大切にするっていうのは、良い事だと思うぜぇ?』

 

その言葉に、エミルは戸惑い、エドは噴怒する

 

『ええ!?その…それは誤解で…』

 

『だぁれがチビだぁ!コラァアアア!!!!』

 

二人が一人に人物に葛藤している時、一人の少女がその男を見る

 

『ところで、あんた誰よ』

 

リタがエドの後ろの人物を見つめる。

 

気付かれたその男は、にこやか笑顔になり、リタに近づく

 

『こんにちは、お譲さん。今夜、時間がありましたら、俺と一緒に二人で楽しい事しなぁい?』

 

『キモッ!』

 

後ろでエドが身ぶるいするほどの寒気を感じる

 

『キモッ!』

 

さらにリタがエドに続くように寒気を感じた

 

『なぁんちゃってぇ!冗談よ冗談!!』

 

そう言って笑い続けるその男は、まだ陽気に笑っていた

 

『ちょっとチビ助。こいつ誰よ』

 

さらにチビと言われたエドは、逆上した

 

『だぁ―――――!!!てめぇまたチビっつったな!!許さん!今日こそは殴っちゃる!!』

 

『分かった分かった。エド、こいつ一体なんなのよ』

 

エドワードという名前を短縮されて言われた事に、噴りを感じたが

 

チビから訂正した為に、ギリギリ許してやることにした。ただ、こいつとはあだ名で呼ばれたくない。し、こいつともあだ名で呼びたく無い

 

『コレット』

 

正直、俺はこいつの事はあまり知らん。

 

だから、コレットに押し付ける事にした。

 

『えっと……この人はゼロスって言ってね、私達の仲間だった人だよ。』

 

『やだなぁ、コレットちゃん。仲間だったじゃなくて、まだ仲間じゃないのよぉ。』

 

正直鬱陶しそうだ。

 

エドとリタは、その男に結構な嫌悪感を感じていた。

 

『ええと……ゼロスさんはこのギルドに新入隊員として迎える…で良いんですよね?』

 

アンジュさんが、契約書をゼロスに見せるようにしていると、

 

ゼロスはその契約書を目に付けた瞬間、

 

瞬時の速さでその契約書に拇印を押して

 

『当然当然♪んじゃ!今日から俺、この船の一員になるから、世話んなるから、よろしくな。リタちゃん♪アンジュちゃん♪それと…おチビちゃん♪』

 

当然のように言ったその言葉で、完全にエドの堪忍袋の緒が切れた

 

―――やったれ、やったれ

 

リタが小声で、シャドウボクシングするように手をパンチする仕草を見せ、エドに殴る事を勧めている

 

そのリタの行動を見てエドは頷き、ゆっくりとゼロスの方に向かう

 

『んで、君はその他のアンテナ君ってあだ名にしておこうかなっと。』

 

『いえ……僕はエミルと言いまして……』

 

『それでえ?美しいお譲さんのお名前は?』

 

『私?私はマルタ・ルアルディ。エミルの将来のお嫁さんよ!』

 

ついにゼロスの後ろに付いた時、エドは拳を振り上げ、

 

『鋼の、帰っていたのか』

 

丁度良いタイミングに大佐が入ってきた

 

『お?あんたもこの船の船員?』

 

ゼロスが後ろに振り向き、軍服を着ている大佐に目を向ける

 

『チッ!』

 

『チッ!!』

 

リタとエドが同じ顔で嫌悪感が溢れる表情をして舌打ちをした

 

『初めまして、私の名前はロイ・マスタング。またの名を焔の錬金術師と申します』

 

その軍らしい自己紹介は、ゼロスはあまり馬が合わなかったようだ

 

『ん~。ちょっと堅苦しいんじゃねえの?』

 

『そうですか?ならば、自分を少しさらけだしましょうか?』

 

変わったテンションに、ゼロスもテンションが変わり

 

『おお!じゃぁ頼むわ。俺の名前はゼロス・ワイルダーってのね。まぁ何かよろしくな』

 

女たらしの話が広がり、そしてその世界がその場所にできた。

 

やってらんねぇエドは、その場所から離れていった。

 

扉を開き、閉め、ある場所へと向かった

 

 

 

 

 

 

~ヴェスペリア組の部屋~

 

『師匠!?…それは本当の事なんでしょうか……』

 

エステルは、初めて自分の国が、ウリズン王国と同盟を結ぼうと企てている事を知った。

 

その話は、当然ユーリも気持ちの良い話では無かった。

 

当然、アスベルにとっても

 

『後、ソフィさん。とても良い情報、ありがとな』

 

怒りで引きつった顔に似つかわしくないその言葉に、ソフィは頭を傾けた

 

どうして感謝を述べているのに、そんな顔なのだろう。

 

『まさかとは思っていたが、ウリズン王国が我が国に関係を持とうとするとは……』

 

『にしてもよ、良く帰って来れたなエド。そんな状況で』

 

ユーリが言った言葉で、エドは皮肉な声で答えた

 

『ああ、大変だったな。ほとんどの国家権力に喧嘩売ってきたようなやり方だったしな…』

 

『でもよ、まさかフレンまでもがお前の敵になろうとしていたとはな。こりゃぁ俺の誘拐犯疑惑ってのも危ういかもな』

 

その話を聞いた中で、エステルは反発するように反発する

 

『そんな…!フレンならきっと分かってくれるはずです!』

 

『そうです!フレン隊長が誘拐されたエドワードさんに危害を加える事なんて……!』

 

『まぁ、ちょっと異質な感じだったしなぁ…。そのフレンって奴だけ、錬金術に興味無く、王女であるエステルにだけ気にかけていたからなぁ』

 

『こりゃぁ、益々俺の立場が危いな。』

 

ユーリが皮肉るように、笑顔でそう言った

 

『楽しそうだな』

 

『まぁな。こんな時こそ、フレンに出会った時の顔が楽しみになるってこった。』

 

仮にも友であるフレンに、そのような思いを感じているとは。

 

『少なくとも、あいつは俺とは仲良くなれねぇだろな。爆撃やってきやがったし、エミルがあいつに太刀向けたし』

 

『フレン隊長に剣を向けたのですか…!?』

 

『いんや、俺は向けてない。むしろあっちが向けてきやがった。』

 

『だからって。……いえ。国王に従う事でも精いっぱいだったのでしょう。』

 

エステルが、少しだけしょんぼりした顔になる

 

『でもよ、ウリズン王国と同盟国になったからって、ガルバンゾ国はどう利益になるんだ?』

 

『星晶が山分けされるのが一番の目的だろうけど、このままいくと政略結婚とかもあり得そうだな』

 

エドが半分冗談に言ったが、エステルは本気で受けとめ、ガタガタと震えていた

 

『……益々国に帰りたくなくなりましたね……。』

 

『だからと言って民衆が反対したりしても、サレって奴が何するか分かんねぇしな。さてどうするべきか』

 

ユーリが半分真剣にその話を持ち出す。

 

すると、エドは一つの提案を引き出す

 

『星晶の原料って、知ってる奴いるか?』

 

『原料?』

 

『その原料を調べて、何を行うと言うのですか?大量生産して、ウリズン王国に賄賂として送るのですか?』

 

アスベルが険しい表情でそう言っていたが、勿論エドはそんな事を考えているわけでもなく

 

『そんなセコイ事するかよ。俺が言ってるのは……』

 

その次の言葉で、全員は言葉を失った。

 

それは、あまりにも大きく、そして下手をすれば、いやとても正義とは言えない絶望の言葉だったからだ

 

『その星晶で爆弾を作るんだ。それも巨大な。奴をな』

 

『……正気かよ。てめぇ』

 

『そうですよ師匠!!例えウリズン王国の者としても、そこには罪の無い人達だってたくさん……!!』

 

『何、勘違いしてんだよお前ら』

 

エドが、全員の行動に突っ込む。

 

『俺が言いたいのは…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~バンエルティア号~

 

『おっ!新入り』

 

レイヴンがゼロスの方に近づき、挨拶をした

 

『ん?おっさんもこの船の一員なの?』

 

『そうよぉ。俺の方が先輩なんだから、ちゃんと敬語使いなさいよぉ』

 

ゼロスは、そのおっさんを見て

 

『ふぅん、ま。よろしくな』

 

と、特に興味なさそうに答えた

 

『ちょっとぉ。そんな態度は無いんじゃないの?酷い扱いねぇ』

 

『ま、悪いけど俺はオッサンさんには興味が無いんだよねぇ。』

 

『酷いわぁ。オッサンショック~』

 

と、子供の戯れみたいに話をしている二人の間に、一人

 

『そういえば、自己紹介がまだでしたね』

 

と、ロイがレイヴンに頭を下げる

 

『お、そうそう。こんな風にオッサンに敬意を表すって良い事よぉ』

 

『恐れ入ります。私の名前はロイ・マスタング。またの名を焔の錬金術師です。以後お見知りおきを』

 

敬意を表したその自己紹介に、レイヴンは満足したような顔になったが、

 

ゼロスは、また少しだけ苦い顔をした

 

『ほらぁ、そんな堅苦しい挨拶しちゃぁ、女の子は寄って来ないぜ。もっと柔らかく行こうぜ。』

 

呆れるようにそう言った。

 

『いえ、女性を口説くときの口調と仕事の口調は使い分けておりますよ。ちゃんと』

 

仕事と聞いて、ゼロスが突っ込む

 

『そう言えば、お前は一体どんな仕事やってたのよ。そんな堅い格好して』

 

『そう言えば、オッサンも興味あるわねぇ』

 

二人が、ロイに質問する

 

『知りましたら、ビックリしますよ?』

 

アンジュは、笑顔でロイを見た。

 

彼女は知っていて、二人がどんな反応をするのか楽しみだったからだろう。

 

『私は、とある軍の大佐をしていましてね、あの小さい赤いマントの少年の上司なのですよ』

 

その少年の事は、詳しく説明したので二人は納得した

 

『そう、私はとある目的のために、頂上の位を目指しているのです』

 

『頂上?俺は興味無いねぇ』

 

ゼロスが、皮肉るようにそう言う

 

『俺も、そこまで行くと自由じゃ無くなるからねぇ』

 

二人は、少しだけブルーな気持ちになってしまった。

 

『で、何の目的で頂上目指してるって?』

 

せめての楽しみと言えと、その言葉を聞く事だった。

 

その言葉を聞いたロイは、急にクックック…と笑いだした

 

『聞いて、面白いか否か分かりませんがね…』

 

『な…何よ』

 

レイヴンが、さすがに少し気味の悪さを感じた

 

ゼロスも、まさかこいつは何かとんでもない事を考えているのではないかと考えた。

 

そしてロイは、大きな声で、はっきりと堂々と答えた

 

『軍に所属する女性の制服を!!全てミニスカートにするためだッッ!!』

 

その大きな声は、船の大部分に響き渡った。

 

そこに居たアンジュが固まる

 

リタも、固まる

 

甲版で絵を描いていたカノンノも固まる

 

そして、その場には沈黙が流れる

 

そして、沈黙が破られるかのように、レイヴンとゼロスは、ロイの元へと駆け寄った。

 

ゆっくり、そして徐々に素早く、そして

 

『先生ぇぇぇぇええええええええええええ!!!!』

 

『一生付いていきます!!先生ぇぇぇぇえええええええええええ!!!!!』

 

レイヴンとゼロスは、ロイ・マスタングを尊敬の眼差しで見て、そして抱き合った

 

『はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!』

 

ロイは、その状況で高らかに笑っている。

 

今、彼の頭の中には何があるかは分からない。いや分かりたくない

 

彼のそのたった一言で、二人は完全にロイを尊敬している。

 

ロイの支配下に置かれた、と言っても良いだろう。

 

『………最っ低……』

 

リタが、汚物を見るような目で三人を見つめ、そしてその場から退却した。

 

とっとと自分の研究に没頭しようと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~カノンノとエドの部屋~

 

『エド、帰ってたの?』

 

カノンノが、出来あがった絵を持って部屋に戻ってきた

 

『まぁな。今日だけで4件の仕事を終えた。疲れた。眠い』

 

文句を言いながら、ベッドでダルそうに寝ているエドに、

 

カノンノは、微笑ましいと感じ、笑顔が表に出た

 

『…ん何笑ってんだよ……』

 

その笑いが気に入らなかったのか、エドは眉が釣り上がる

 

『え?いえ……その……』

 

カノンノは、その予想外な展開に驚き、戸惑ってしまう

 

『今日のその4件の仕事全部が無駄な仕事だぞ。全部だぞ。ふざけんな畜生……』

 

そのうち2件は自分のミスなのだが、一つは勝手に卑怯な手を使ってきて、

 

もう一つは目撃証言がミスっていた事が原因だった。

 

それだけで、エドはため息を吐いた。

 

『やっぱ俺、ギルドは向いてねぇのかなぁ…』

 

その言葉に、カノンノは動揺してしまう。

 

『そ…そんな事ないよ!だって、エドだって信頼されてアンジュさんにわざわざ指名されたり、クラトスさんに指名されたりしたんでしょ?それって結構凄い事なんだよ!』

 

『……良いように利用されているだけだと思うけどな…』

 

『ううん、それにエドにしか使えない錬金術っていう技があるじゃない?それもあるんだと思うよ。それに、エドは戦闘能力だって高いじゃない。』

 

そこまで言われれば、エドも少しだけ調子に乗ってしまうが、

 

今はどうにも乗り気では無かった

 

『…にしてもなぁ、今日もあのサレって野郎に出会ってから、明日も出会うんじゃねえかとめんどくせぇ気持ちになる。』

 

『サレに会ったの?』

 

カノンノが、真剣な顔になる

 

『ああ、相変わらず鬱陶しい奴だった。今度は誘拐してきやがるんだぜ?』

 

『そんな……』

 

カノンノは、そこまでする奴なのかと噴りを隠せなかったが、

 

エドは特に気にしてはいなかった。

 

『後、ガルバンゾ国に恨み買っちまった』

 

それは余りにも意外だった。

 

サレの国であるウリズン王国ならまだ分かるも、エステルの居たガルバンゾ国に恨みを持たれるのは理解が出来なかった。

 

『どうもこうも、ウリズン王国が同盟を結ぶ為に俺を利用してくるとはな。今度から徹底的に警戒しとけばいいか』

 

『………エド』

 

そこまで聞いて、今日だけでエドは本当に大変な目に会ったのだと、確信した。

 

それに比べて、私は今日何をしたのだろう?倒れて、休んで、皆に迷惑をかけただけだ。

 

『ところで、その絵は?』

 

エドが、カノンノの持っていた絵に気付く

 

『え?…あ!いや……その』

 

少しだけ気まずそうに、その絵を隠すようにしていた。

 

本来なら、倒れる前、絵を描いた後見せるのを拒んだ事と、

 

エドの本能ならその絵を意地でも見ようとするのが性格だが、

 

今は半端なく疲れているエドにとって、それはどうでも良い事だった。

 

『ふぅん、見せられないってのならそこまで散策しねぇけど。』

 

そう言って、エドは寝返り打った。

 

カノンノは、その様子で少し安堵した息を吐いた。

 

『……なぁカノンノ』

 

『?』

 

エドのその声は、少々捨てるように荒かったが、とても優しさがつまっていた。

 

『……何か悩みがあるのなら、相談に乗るぞ。仮にもルームメイトなんだからよ』

 

そう言った矢先、エドは欠伸をして、そのまま眠りについてしまった。

 

その言葉を聞いたカノンノは、少しだけ照れてしまい、

 

小さく、『ありがとう』とつぶやいた。

 

さすがに今日はもう、あの地獄絵図が頭に浮かぶ事は無かった。

 

だからって、見せられない絵では無い事では無い。

 

この絵は、人物画であるからだ。

 

『……………』

 

そう、それはエドワードの人物画だったから。

 

見せられるわけが、無かった

 

『ちょっと子供っぽく描きすぎたかな……』

 

怒られそうな事と、もう一つ理由がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ヴェスペリア組の部屋~

 

『爆弾…か』

 

ユーリが、エドの説明に納得したような態度でそう言った

 

『本当に、そんな物が通りますかね』

 

『通るんじゃない、俺達が通すんだよ』

 

ユーリがそう伝える

 

『ですが、まずフレン隊長の誤解を解かなければ……』

 

『んなもん、後でも良いだろ。遅かれ早かれあいつも納得するはずだからよ。』

 

ユーリの言葉に、エステルは頷く

 

『…そうです。フレンは、ウリズン王国との同盟なんて望んでいないはずです。だからきっと、私達のやっている事を、認めてくれます。』

 

フレンを信じ切っている人が言うセリフだった

 

『ま、まずはその爆弾ってのをエドにまかせるこったな』

 

そのセリフに、エステルは笑顔になる

 

『ええそうですね。まずは師匠を信じましょう。』

 

『エステリーゼ様、その…あの小さき者に”師匠”と呼ぶのは、あまり望ましくないのでは……』

 

アスベルのその言葉に、エステルは首を傾ける

 

『どうしてです?』

 

『その…例えその者がエステリーゼ様の錬金術の教師だとしても、さすがに年下の者に格上の敬意を表すのは…王女としては…』

 

エステルは、首を横に振る。

 

そして、笑顔で答えた

 

『師匠は、私なんかよりもずっと、ずっと偉い人です。』

 

その言葉に、アスベルは困った表情を露わした。

 

ソフィは、そのやり取りは理解できず、ずっと部屋の模様を迷路にして遊んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~バンエルティア号~

 

夜中、風が強くなる

 

だからその時、外の扉を開くと、そこそこ大きな音が部屋に響き渡る

 

『む………』

 

クラトスは、用心しながら扉を閉める

 

『皆、寝静まったのか』

 

クラトスは、とある地図を教壇の上に置く

 

それは、ある場所に赤い印が記されている

 

『…気づいてくれればいいが』

 

クラトスは、そう言って自分の部屋に戻った。

 

誰も居ないその大広間に、一枚の紙が置かれている。

 

その紙には、ある場所が記載されていた。

 

その場所は、カルト宗教『暁の従者』の拠点である、アルマナック遺跡が書かれていた。

 

その場所に向かう者は、まだ決まっていない。

~バンエルティア号~

 

今日も、また新しい一日が始まる。

 

昨日と一昨日は、沢山の隊員が増え、忙しい一日となった。

 

今日もきっと、そのような一日となるだろう。

 

そう考え、アンジュは定位置である広間の教壇へと向かった。

 

その教壇の上に、一枚の紙が存在している事に気が付く

 

『これは?』

 

手に取り、読んでみると、それは地図であった。

 

その地図には、ある情報が書かれていた。

 

『……暁の従者……?』

 

ディセンダーを祀っている宗教団体であった。

 

その教団の名前が記されている地図、それを見て、

 

その場所に。その”暁の従者”が存在している事に気付く

 

『……!』

 

調べたのは…クラトス。クラトス宛てと書かれている

 

『今日も、忙しい一日になりそうね…』

 

アンジュが真剣な顔で、意気込みながら紙をじっと見つめた

 

 

 

 

 

 

『暁の従者?』

 

エドが、朝食を終えて広間から部屋に戻ろうとした所を、アンジュが捕まえる

 

最初はものすごく嫌そうな顔をしたが。暁の従者という言葉を聞き、表情を変えた

 

『ええ。あの赤い煙を持ち去った、と言ってた。あの教団の拠点の存在が確認されたの』

 

『ふぅん、どうせ行けって言うんだろ?』

 

『対策を考えないと、と言ったのはエドワード君でしょ?それに、逃げられた相手なら再び追いかけたそうな性格してるし』

 

その断定した言い方が、エドは気に入らなかった

 

だが、あの暁の従者という団体を捕まえたいと言うのも事実である。

 

逃げられたからには、絶対に捕まえてやる。あの時、そう誓ったのも事実

 

その為、エドはそれ以上は何も文句は言わなかった

 

『……で?他に連れていく奴は決まってんの?』

 

『ん――…できれば大人数では行動したくないのよね……』

 

『なんでそんなまた。昨日、無理やり同行人付けさせたくせに何言ってやがる』

 

アンジュはそれを聞いて、また唸りだした

 

しばらく考えた結果、アンジュは

 

『そうねぇ……じゃぁロイ・マスタングさんなんかは』

 

『ああぁあぁぁああああああああ!!!やっぱりできるだけ少人数で行こう!な!!』

 

アンジュは割と本気で考えていたらしいのだが、

 

否定された為、渋々拒否する事にした。

 

『どの道、その遺跡の入口付近に、もう一人来るらしいのよ。』

 

『ん?その一人って誰だ?』

 

『それは…私も会った事ないから分からないから。一度行ってみないとね』

 

結局、アンジュとエドと二人だけで、その暁の従者の拠点に行く事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~アルマナック遺跡 入口付近~

 

その入口付近に、人が待っていると言うのだが、

 

エドとアンジュは、できるだけ暁の従者に気付かれぬよう、その者を探したが、

 

『どこにも居ねぇぞ?』

 

『あ…あれ?おかしいな……』

 

入口付近を所々探しても、その者はどこにも存在しない。

 

『すっとばしたのか、遅れてんのか分かんねぇけど』

 

エドは欠伸をして、アルマナック遺跡の方に目を向けた

 

『俺はもう待てないね。とっとと先に行かせてもらうわ』

 

そう言って入口へと向かって行くと、アンジュはある人影を見つけた

 

『あっ。あの人じゃないかしら?』

 

そう言って、アンジュはその人影の方へと向かう。

 

エドも、渋々その人影の方へと向かったが、その人影を見たエドは、目を少しだけ見開いた

 

『あれ?あんたは』

 

そう言って、その男はこちらの方に目を向けた

 

『おやぁ?君は昨日のどこぞの少年じゃないですか。』

 

眼鏡の男性は、エドの頭に手を乗せる

 

それは、子供を撫でる大人のように

 

『いやぁ、あの時はルークが無茶をしましたから分かりませんでしたけど……。少々私からじゃ見にくい姿だったのですね。』

 

その言葉に、エドは顔を険しく変える

 

『それは…どういう事だ?』

 

『いえ、いかにもあの時もよく見えなかったと思えば、今こうして落ち着いてみて見ると、なるほどなと納得したまでです。』

 

意地でも身長の事を言わない姿勢でエドを虐める言葉に、エドは怒りでフルフルと震えた

 

顔色が、ますます険しくなり、殺意も混じる顔で眼鏡の男を見る

 

『どこぞの大佐を思い出すな……!!』

 

『ところで、貴方方はどうしてこんな場所に居るのですか?』

 

眼鏡の男が、この二人がこの場所に居る事を存じてないような言葉を出した。

 

おそらく、知らされていないのだろうか。

 

『あの……聞いて居ないのでしょうか?』

 

『?何がですか?』

 

『いえ……私達以外にも、一人他のギルドの者がこの場所に来るという情報を、こちらはお聞きしたのですが』

 

アンジュのその言葉に、眼鏡の男はハッハッハ。と高笑いした

 

『残念ですが、私はギルドの者ではありません。ライマ国の軍の大佐をさせてもらっている者です』

 

『大佐……ねぇ。』

 

その言葉を聞き、エドはほとんどの大佐は嫌味を言うムカツク野郎が多い者だと理解した。

 

エドの後ろの存在する嫌悪感あふれるオーラに、アンジュは少し怯えたが、

 

眼鏡の男は、そのオーラに気付いていながら嘲笑いしているようにも見える。

 

『まぁ、私もこの暁の従者に話があるからこんな所に居るのですがね。』

 

そして、眼鏡の男は二人の方に目を向ける

 

『私の名前はジェイド・カーティスと申します。目的な同じなら、一緒に行動をしませんか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

~アルマナック遺跡~

 

『ホントさ!ディセンダー様の手から金を山のように出したんだ!』

 

一人の男が、もう一人の男に話をしている

 

『しかし、ディセンダー様は、救世主と言う自覚が無い。自分が何者かも分からないとは…』

 

一人はまっすぐな目をした青年で、

 

もう一人は、その青年よりは目が濁っている青年だった。

 

『ほら、予言でも言うだろう?ディセンダー様は、世界樹から生まれたばかりで、記憶と言う者が無い。それも、恐怖すら。と』

 

『でも、ディセンダー様は裏切り者をあんなに簡単に……』

 

『……恐怖という感情が無ければ、確かにあんな事は出来ないだろう?』

 

『それは…』

 

すると、目が少しだけ濁っている青年は、溜息を吐いた。

 

また、ディセンダーは正義だと完全に正当化したように

 

『はぁ…俺もディセンダー様に願いを叶えてもらいたい物だ。』

 

『無理さ。司祭クラスの許可無しでは会えないだろうし、ディセンダー様も、私達には会おうともしないだろう』

 

すると、向こうから一人の少年の声が響く

 

『ひっでぇな。そのディセンダー様ってのは。下等な生物には何の感情も無しか』

 

『誰だ!!』

 

二人は、足音のする方に目を向ける。

 

『おっ?』

 

エドは、一人は見た事のある顔だと断定する。

 

そうだ、あの山の頂上らへんで赤い煙の人物を連れ去った奴の一人だ。

 

『貴様…!!よくもこんな所まで!』

 

二人が武器を取り出し、エドに殺意を見せる

 

『やれやれ、貴方はもう少しオブラートに行動する事はできないんですか?』

 

『嬉しそうな顔しやがって、何してやがる』

 

『おっと』

 

ジェイドは、すぐににやけた顔を手で元に戻す

 

『貴様ら……!ディセンダー様を盗みに来たのか!そうはさせんぞ!!』

 

『んな事言われてもな。俺は別にどうでも良いんだ。あんなもん祀ってる事で後悔するのはお前らだと忠告しに来ただけだしよ』

 

その言葉に、さらに信者は不愉快にさせた

 

『黙れ!!ディセンダー様の愚問は許さんぞ!』

 

エドは、頭をポリポリと掻いて、溜息を吐いた

 

『忠告終了。んじゃ、こっからは俺の自由にさせてもらうぜ』

 

パン!とエドは手を叩き、地面に手をつけようとした

 

『!』

 

それが術を使うモーションだと知ると、信者たちは一斉にエドに襲いかかる

 

『うらぁああああああああああ!!!』

 

刃物をエドの左脚へと投げ、止めようとした。

 

カン!という鈍い音がした

 

『なっ…!!』

 

信者たちの顔が、また青ざめる。

 

切れたズボンから見えるそれは、まさに鋼の脚

 

右腕と同時に、左脚も鋼であるその姿に、信者たちはさらに恐怖した

 

『おやおや?随分興味深い脚を持ってますね?』

 

だが、ジェイドは面白そうな顔でその機械鎧に目をつける

 

『ただの義手だよ。とっておきの技師特注のな!!』

 

そう言って、錬成しそこねたその手を、自分の右腕に錬成をした。

 

そこから、刃を出し、エドは更なる戦闘態勢に入った。

 

『くそっ……!!お前ら何かに……!!!あああああああああああああ!!!』

 

信者は発狂し、刃物をぶんぶんと振り回し、エドに突進した

 

『ちゃんと下も見ようぜ?』

 

エドはそう言って、地面を錬成し、その信者の床の所にだけ盛り上がりを見せた。

 

『あああ!!』

 

信者は思い通りこけて、持っていた刃物は手を離し、地に落ちた

 

『おっと。』

 

落ちた刃物を、エドは掴み、そして別の物に変形させた

 

ただの、中が空洞の鉄性のピコピコハンマーに

 

『さて?こっからどうする?』

 

だが、信者の諦めは悪かった。

 

盛りあがった地面の上でも、地面のタイルを剥がし、そしてエドの方に向かってきたのだ。

 

『ああああああああああああああああ!!!』

 

『馬鹿だなぁ。お前も本当に。』

 

そう言って、エドは振りおろされたタイルを、鋼の右手でぶん殴り、

 

刃はなんとか皮膚には接触させないよう、拳の下半分で額を殴った。

 

だが、そいつを気絶させるには、落ちてきた慣性の法則からして、十分だった

 

ぐだりと気絶したそいつを見て、もう一人の男は小さな悲鳴をあげた

 

『ひっ…!!』

 

『さて、あんたはどうすんだ?大人しくディセンダーとやらの居場所を教えるか?それともこいつみたいになるか?』

 

『エドワード君、それ悪役の使う言葉よ』

 

だが、そいつを脅すには十分の言葉だ。

 

しかし、すんなりと渡してくるとは、エドも思っていなかったが

 

『ラ…ラ……ラザリス様ぁ!!!』

 

男は、悲鳴を上げながら一目散に逃げていった。

 

『あっ!待ちやがれ!』

 

当然、逃げられたら追いかける性質であるエドは、そいつを追いかける。

 

『くそっ!逃げ脚が早え!』

 

『全く。甘すぎるんですよ貴方は。二人同時に闘い、ボロボロにさせれば簡単に案内された物を』

 

『てめぇは何もしなかっただろうが!!!』

 

アンジュは、走りながら怒っているエドをなだめるが、途中で息が切れてしまった

 

『はぁ……はぁ……ちょっと……待って……ねぇ』

 

アンジュが、ついに息切れを起こし、その場で座りこんでしまった。

 

『おいアンジュ!何やってんだ!置いてくぞ!!』

 

『脚……疲れて……息が……』

 

こんな事している間にも。どんどん信者との距離は遠ざかっていく。

 

そのたび、エドの気持ちは焦っていくばかりだが

 

『あ―――――!!』

 

考えている暇も無く、地面をある物に錬成させた。

 

それは、普通よりも結構大きな大きな

 

『乳母車?』

 

ジェイドが、疑問の声を出す

 

『乗れ!走れねえならこれに乗れ!!乗りたくねえなら走れ!!』

 

いきなり錬成された乳母車に、アンジュは一瞬混乱する

 

『え?でも……これ……乳母ぐる…』

 

『なるほど。確かに、このままでは貴方はお荷物ですからね。走るのが辛いなら、こうした方が運びやすいですしね。いい考えじゃないですか。』

 

ジェイドが、ニヤニヤしながら乳母車を見つめる。

 

嫌だ。

 

そんな牙と鬼と角が混ぜ合わさったような乳母車に乗るなんて、恥ずかしい。

 

だが、エドは一向に不機嫌になっていき、息も荒くなっていく

 

ジェイドは、ニヤニヤしながら私を見ているし、

 

でも、これ以上走れないし………

 

……………

 

 

 

 

 

『オラオラぁ!待ちやがれカルト野郎!!』

 

エドは、今まで以上に全力でそいつを追いかけていた。

 

多分アンジュは、この日以上に恥ずかしい日は存在しないだろう。

 

最悪のセンスのデザインの乳母車に乗らされ、

 

『乗り心地はどうですか?アンジュさん?ついでにガラガラも付けましょうか?ん?』

 

ジェイドさんが嫌味を言いながらこの乳母車を楽しそうに押している。

 

それだけで、恥ずかしくて泣きそうだった。

 

顔が真っ赤になってくる

 

『待てぇぇええ!!カルト野郎ぉおおおおお!!』

 

エドがそう叫んだ瞬間、信者は右の通路に入り、

 

そして扉が閉まる音がして、さらに鍵がかかる音が聞こえた

 

『はははっはぁ!!馬鹿がぁ!!鍵なんざ閉めようが、んなもん錬金術にかかればなぁ!!』

 

―――ギャアアアアァァァァァ……

 

その扉の向こうから、悲鳴が聞こえた。

 

『ん?なんだ?』

 

『足を滑らして、こけたんじゃないでしょうか?』

 

それならば、好都合だ。

 

エドは、さらにニヤニヤ顔になり、錬金術で扉を再錬成して、鍵の無い扉にした。

 

そして、その扉を蹴飛ばし開けた。

 

『おらあ!観念しやがれ!!てめぇはこのエドワード・エルリック様……が…』

 

そこで見たのは、エドが信じられない、

 

いや、信じたくない光景だった。

 

そこに居たのは、あのカルト信者と、もう一人

 

『せ……』

 

『エドワードさん?どうなさったのですか?』

 

ジェイドと乳母車に乗ったアンジュが遅れて、その部屋へと入ってきた。

 

その光景を見たアンジュは、息を飲んだ。

 

『え……?』

 

その光景を見たジェイドは、また少し笑った

 

『ふっ』

 

何がおかしいのか分からなかったが、エドはちっとも笑えなかった

 

『エド、久しぶりだねぇ。こんな所で何してる?』

 

その光景は、エドが世界で一番恐ろしい人が、ボコボコにされた信者の襟首をつかみ、

 

所々の壁と床には、何かがぶつかったひび割れが存在し、

 

さらにそのヒビの近くに、血痕が多数残されていた

 

『せ……師匠……?』

 

エドが、ガタガタ震えながら指をさしたままその女性の方を見ていた

 

『エド、その大きい赤ん坊と、眼鏡の男の人は誰だ?』

 

師匠が、掴んでいた襟首を離した瞬間、その信者は死んでいるかのようにベタリと床に伏せた

 

大きい赤ん坊と言われたアンジュは、さらに顔を真っ赤にして、

 

口を開いたまま乳母車の枕の方に顔を蹲らせた

 

『初めまして。私はこの二人とはあまり関係が無いのですが、ライマ国の軍の大佐である、ジェイド・カーティスと申します。』

 

ふぅん、とエドの師匠は頷く

 

『そして、この乳母車に乗っている人が、このエドワードさんの所属しているギルドのリーダーである、アンジュさんだとそうです』

 

エドの師匠は、死んだ目でそのアンジュを見ていた。

 

アンジュはただただ、虚しい思いが頭の中で回るだけだった。

 

『所で、師匠はどうしてこんな所に居るんですか?』

 

急に敬語になったエドを見て、アンジュは驚きの表情を隠せなかった。

 

それほど、怖い人なのだろうか

 

『私?商店街の真ん中に妙な樹があってね、そっからはよく覚えてない』

 

瞬間、落ちていた信者を拾い、すごい勢いでエドに向かって投げてきた

 

『ぬぉあ!!……ぶっ!!』

 

気絶している信者は、見事にエドワードの命中し、エドはその投げられた物体と共に地面に叩きつけられた

 

『後、もう私を師匠と呼ぶな。と言ったはずだが?』

 

鬼の表情であるそれに、エドはガタガタ震える

 

『ごごごごごめんなさいいいいい……』

 

エドは、それ以上言えない様子だった

 

『ここで何をしている』

 

また一人、もう一人信者の者がこの場所にやってきた

 

『私達の仲間を、そんな風に痛めつけて、覚悟は決まっているのだろうな?』

 

その信者は、険しい表情でエドの師匠の方を睨みつけた

 

『ふん、何て言ってもいいけど、怪我したくなかったら、あんたらの持っているディセンダーとやらを渡しな』

 

『え!?』

 

エドの師匠の目的がエド達の目的と同じ事に、エドとアンジュは驚く

 

『貴様も……願いを叶えるという力に魅入られた醜き者か……』

 

『そんな力には興味無いね。私が知っているのは、それはとんでも無い存在だと言う事さ』

 

エドの師匠の言葉に、信者は不敵の笑みをする

 

『とんでもない存在だと…?馬鹿な事を。あれは私達の望み、いや世界の望みを叶えて下さる偉大な者だ』

 

『話はまだ終わってないよ。まだ聞いた事がある事は…』

 

『黙れ!あの方はこの腐敗した世の中を正す為に降臨されたディセンダー様だ!貴様のような下等な生物に何も言う資格は無い!!』

 

信者たちは、手に力を込め、その力で巨大な岩を浮き上がらせる。

 

『我等に勝てると思うな!ディセンダー様より授かった力、とくと見よ!』

 

そう叫び、信者達は手をエドの師匠の方に向け、

 

その巨大な岩を、エドの師匠に向かって突進させた

 

『危ない!』

 

アンジュがそうとっさに叫んだが、

 

エドとジェイドは、ピクリとも動かなかった。

 

そう、正しくは動く必要が無いのだ

 

ゴッ!!

 

突進した岩は、エドの師匠の拳に辺り、一瞬で粉々と化した。

 

『なにぃ!?』

 

信者がそう叫んだ瞬間、イズミは床を錬成し、巨大な地震を発生させた。

 

『くっ!!』

 

その地震で信者たちは宙に浮き、身動きが取れない状態に、

 

その状態を、エドの師匠は見逃さなかった。

 

エドの師匠は、そんな地震などどうって事無いように、地面に飛び上がり、その信者の方へと飛び近づく。

 

『ぐぼぉお!』

 

そして回し蹴りを食らわせ、ぶっ飛んだ信者Aが。信者Bまで宙に浮きながら移動し、そしてぶつかる。

 

だが、師匠の攻撃はそれでは終わらない。回し蹴りを終えたら、動きを休むことなく、

 

足を大きく上に開き、膝を曲げ、

 

そして一気に重なった信者AとBの頭を踏みつけるように、地に振りおろす

 

『ぐばぁあ!!』

 

まるで串団子のように二つ重なった頭は、その踏みつけらえる足によって、完全に戦闘不能へと導かれた

 

『で?話を聞く気になった?』

 

黒い笑顔でエドの師匠は踏みつけている二つの頭を見下ろした

 

『ご……ごめんなさい……ごめんなさい……』

 

『僕が悪かったです……許して下さい……』

 

ガタガタ震え、舌を噛む勢いで必死に口を動かした信者を見て、

 

エドの師匠はその足をどかした。

 

その姿に、アンジュは恐怖でガタガタと震えていた

 

『彼女は素晴らしいですね。私の国の軍にも欲しいくらいです。』

 

ジェイドは、納得するような態度で、エドの師匠を見ていた。

 

『んで?そのディセンダーという奴は、どこに居るんだい?』

 

エドの師匠が、脅すような口調で信者にそう言う。

 

『ラ……ラザリス様は……この先の通路に居る……』

 

『だが……頼む…連れて……行かないでくれ……!!』

 

エドは、こんなになってまであんな者を信じる、その姿勢には尊敬するほど呆れてしまった。

 

『あのねぇ、さっきも言ったけど、私はそのディセンダーを連れていく為にここに来たんだ。もう一度言うけど、そいつは忌々しい奴だって聞いたぞ』

 

そのエドの師匠の言葉に、また信者たちは頭に血が上る

 

『違う!!ディセンダー様は腐った世のしくみを打ち砕く人なのだ!!』

 

『いい加減にしろ!!お前ら!!』

 

『はぃぃいい!!』

 

エドの師匠の一喝に、また信者たちは縮こまって正座をしてしまった

 

『なんなら、また踏みつけてやってもいいんだぞ?今度はボキボキになるくらいなぁ…!』

 

『ごめんなさぁぁぁい!!!ですが…信じて下さい!!ディセンダー様は…』

 

瞬間、信者Aの皮膚が、急に変な音を発する

 

ガガガ

 

『ん?何の音だ?』

 

エド達は、まだその音の正体が分かっていない。

 

『おい……お前、その皮膚…』

 

エドの師匠が、その音の正体に気付く。

 

信者Aの皮膚から、鉄のような管が身体の中から露出しているのだ

 

『あ……うわああああ!!なんだこれは!!』

 

信者Bが、信者Aの皮膚を見て、後ろ退がって行った

 

『お……お前も……!!』

 

信者Bの顔の皮膚も、まるで鎧になっていくかのように、鉄のような形になる。

 

だが、皮膚はどことなく、トカゲのようだった

 

『ああぁ……なぜだぁ……!なぜ、こんな姿に……。ラザリス様ぁあ!!!』

 

信者たちは、叫びながらある方向へと向かって行った。

 

『あ!!おい待ちやがれ!!』

 

エドの師匠より先に、エドが逃げていくそいつらに声をかけた

 

『あれは?』

 

『この前に見た…、ジョアンという奴と同じ症状だ…!』

 

ジョアンという言葉を聞いた、アンジュは顔の色を変えた

 

『ジョアン……さんの……!?』

 

『やっぱり、そのディセンダーって奴はとんでもない存在だったみたいですね。』

 

前に居た信者二人が、ある部屋へと駆けこんだ

 

『そこか!』

 

エドが先頭に、その部屋へと飛び込む。

 

そこには、あるテントが一つあるだけの寂しい部屋だった

 

『ラザリス様……ディセンダー様……!助けて下さい!こんな……こんな姿!』

 

『あん中にそのクソ野郎が居るってか?』

 

エドが、そのテントの方に目を向ける

 

『助けて……だって?』

 

テントの中から、声が聞こえる

 

『望んだから、欲しかったから、力をあげたのに……』

 

それは、か細い女の子の声だった。

 

その声に、エドは一瞬戸惑う

 

『……?お前は、本当にあの山で出会った奴なのか?』

 

エドが、疑問に思いながらもテントに話しかける

 

『おいエド!勝手に先に飛び込むな!』

 

エドの師匠と、ジェイドと乳母車のアンジュが、ようやく部屋に入ってくる

 

『で、あのテントの中に居る人が、ディセンダー様という人物ですか。』

 

ジェイドが、そのテントを一点にしてみている

 

『ラザリス様!!こんな……元に!元の姿に戻して下さい!』

 

『今の君達は…とても強いよ?なぜなら、僕がそうしてあげたから…』

 

それは、まるでエド達を無視しているかのような語りだった。

 

それが、エドには気に入らなかった

 

『おいコラ、やっぱりディセンダーって奴はとんでも無い奴だったんだね』

 

エドの師匠が、即席して答えたが、

 

その次はエドが言葉を発した

 

『願い事をヒョイヒョイ叶えて、そんで余計な物を付け加えて、対価と言う特価交換を無視している。とても世界を救う存在とは言い難いなぁ。』

 

エドが皮肉るようにそう答えた。

 

『貴様……!ラザリス様にそんな言葉は……!』

 

『そんな事言える立場かよ。今の自分の姿を見てみやがれ』

 

そう吐き捨てた瞬間、テントの中から、そのディセンダーという者が姿を現した

 

『大丈夫だよ。まだ半分ヒトだけど、直に完全に変化する。そして本当に強くなれるんだよ』

 

『そんな……!こんなの……!!こんなのって…!!』

 

エドは、異形化した信者たちを無視して、ラザリスの方を見る

 

『おいヒトデ女。本当の強さって奴を知らないで、何をほざいて言ってやがる』

 

『強い?そんなのは決まってるよ。少なくともヒトじゃ無い。』

 

そう断言したラザリスを見て、エドとエドの師匠は、表情が険しくなった

 

エドは自信の機械鎧に刃を錬成して、その女の子を脅すように言った

 

『そうか。だったら俺たちは弱くても良いね。つーわけでこいつらをとっとと元に戻せ。そしてどこかに消えろ。ディセンダー』

 

エドが脅すように、ラザリスに刃を付きつける。

 

だが、ラザリスは怯む事も動じる事も無く、ただエドを見ていた。

 

『ヒトって言う物体は、本当に醜い生物だね。欲望と我望のままに、世界を壊し、ただ自分たちのままに生きる』

 

『てめぇも、そのヒトっていう姿じゃねえか』

 

『僕だってこの姿は醜くて耐え難い。でもしょうがないよ。やっと自ら行動する姿が、これなんだから』

 

エドは、呆れた息を出し、腕を引っ込めた

 

『貴方が人々の願いを叶えてきたの?願いを叶えるのは何故?』

 

ラザリスは、今度は質問をしてきたアンジュに目を向ける

 

『……少なくとも、貴方がそんな変な車に乗っている事の方が理解できない』

 

『ほっといて!!!』

 

その辺を突っ込まれ、逆上するアンジュに、

 

エドは、どこが不満なんだと心の中で文句を言った。

 

『…君らから少しずつ世界を知るのに、都合がよかったから。だと思う』

 

『貴方が願いを叶えた生物から学習した、こう言う事になりますか?』

 

エドが仁王立ちで、ラザリスの方を見ながら息を吐くように言う

 

『ふぅん。よくもまぁそんなちまちまとやってられたな。そんな面倒臭い事』

 

エドがそう言った瞬間、ラザリスの顔色が変わった、

 

そして、表情が変わった

 

『!?……なんだ?』

 

エドの師匠が、警戒態勢に入る

 

『その面倒臭い事のおかげで実態も思考も手に入れた。思う存分、僕の好きなように力をふるう事が出来る…』

 

あきらかに、その状態はさっきまでと違う。

 

それは、鷹が本性を現したよう。

 

それか、人が変わったようだ。

 

『お前は何者だ…?一体何を考えている……?』

 

『僕はね、この世界、ルミナシアの様に誕生するはずの世界だった』

 

『は?何を言ってるんだお前は』

 

いきなりの話の逸れ方に、一瞬混乱したが、

 

さらに、ラザリスは混乱するような言葉を出す

 

『ああ……あああああああああああああああああ!!』

 

急に、彼女は叫びだした。

 

それは、恐怖する叫びでは無く、怒りが混じった、叫び

 

『うんざりだ!!この世界はウンザリだぁあ!!僕ならもっと良い世界になるはずだった!!こんな腐りきった世界をもたらすヒトがいる世界なんて、僕なら造らなかった!!ああああああああああああああ!!』

 

ラザリスは、叫びながら腕を発光させ、何かを溜めている

 

『!!』

 

何か殺気を感じたエドとエドの師匠は、床を壁に錬成する準備をした。

 

そして案の定、ラザリスは発光した腕から、赤い光をエド達に向かって飛ばし、攻撃した。

 

『………』

 

だが、エドとエドの作った壁が少し欠けただけで、後ろに居たジェイドとアンジュも無事であった。

 

『ったく。いきなり術を発動させやがって……』

 

エドが不満そうに、皮肉を言う

 

術が上手く決まらなかった事に、ラザリスは嫌な顔をした

 

『…何者なんだお前らは。お前らのような奴、僕は知らない』

 

エドとエドの師匠が作った壁が完全に崩れ、二人の姿が徐々に表れてくる。

 

二人の表情は、笑っては居る者の、ほとんど怒りが大きいに違いない。

 

そして二人は、親指を立て、そして下に、地に向けて振りおろした

 

『錬金術師だ!!』

 

『主婦だ!!!!!!!!!』

 

その大きな声は、神殿の奥まで響いただろう。

 

地震が起こっているかのように、地面が揺れるほどの声を発した。

 

だが、相変わらずラザリスは、何も動じていなかった

 

『ふぅん…。どうしてこんな所に居る。そして、どうしてたかがヒトが、自然の力をそんな簡単に操れる!!』

 

またラザリスは怒りを露わにしたが、

 

二人が完全に戦闘態勢に入ると、ラザリスは大人しくなった

 

『…………』

 

さっきまで狂気になっていたその表情が、嘘のように落ち着いていた

 

『…君達と闘っていても、拉致は絶対に明かないだろう。』

 

そう言った瞬間、ラザリスの姿はだんだん薄くなっている。

 

消えていくその姿に、エド達は気づいた

 

『……逃げる気かてめぇ!!』

 

『逃げる?そんな言葉は知らない。でも、大丈夫』

 

ラザリスの表情は、最後まで変わらず消えていった

 

『まだ、相手する奴は居るよ』

 

その言葉を最後に、完全に消えた

 

『あっ!おい待て……』

 

エドが捕まえようとしても、もう遅かった。

 

そして、

 

『ぅぅう……がぁあああああ!!』

 

信者たちも、もう、遅かった

 

『!!』

 

信者たちは、完全に人の姿を失い、完全に魔物と化した。

 

『マジかよ……!!あの野郎!!』

 

魔物と化した信者たちは、本能のままに動き、エド達を餌と認識し、襲いかかる

 

『くそっ!』

 

エドは、機械鎧の刃で、その魔物の喉を切りつける。

 

『ギャァン!』

 

悲鳴を上げた魔物は、喉から血を流し、そしてビクンビクンと痙攣を起こす

 

『………!!』

 

元は人間だった魔物を、殺す事は気分の良い物ではない。

 

むしろ、完全なる不愉快までを感じる

 

だが、今はこうするしか方法は、無い。

 

『じゃぁああああああああ!!!』

 

魔物は、ジェイドの方に向かってくる

 

『あまり、調子に乗らない方が良いですよ』

 

そう言ってジェイドは、槍を抜き出し、その槍を魔物の口から後頭部にまで貫通させた

 

『私も、本気になってしまいますから。』

 

ジェイドは槍を引き抜き、ジェイドの襲いかかってきた魔物は、完全に事切れ、大きな音を立てながら地面に叩きつけられた。

 

その非常な行動に、エド一行、全員が固まってしまった

 

『おっと失礼。自己防衛という物は恐ろしい』

 

そう言って、持っていたハンカチで槍の刃についた血を拭きとり、

 

そしてハンカチを血の付いていない面を外側に、折っていく

 

『…とんでもない神経の持ち主なんだな、お前』

 

『ははは、それは褒め言葉になりますね。』

 

ジェイドは槍を鞘に戻し、いつも通りの態度に戻る

 

『でも…。こうなるのも、仕方の無い事なのですよね…。』

 

アンジュが、解釈をするように、そう答える。

 

その言葉で、また自分らに切ない風が流れてくる

 

『にしても……これは厄介な事になったね』

 

『はい。このまま、あの赤い煙の少女を野放しにすれば、どうなるか分かりません』

 

アンジュが、真剣な顔で、乳母車から降りた。

 

それで、ジェイドは、冗談そうな顔で、残念だという笑顔をした。

 

『これは帰って、リーダーに報告する必要があるみたいだ』

 

『リーダー?』

 

エドは、師匠の言葉を疑問に思う

 

『え?師匠って何かに所属しているのですか?』

 

『ああ。お前もそのギルドに入っているのだろう?』

 

これで、合点となった。

 

師匠がディセンダーを探していたのは、そのギルドの依頼だったのか。

 

『まぁ、他者のギルドの方でしたか』

 

アンジュが、エドの師匠に再び挨拶をする

 

『改めて自己紹介を致します。私の名前はアンジュ。アドリビドムというギルドのリーダーです。』

 

その挨拶に、少しエドの師匠は険しい表情になる

 

『……でも、さっきまで乳母車に入っていたのは……』

 

『あれはもう忘れて下さい』

 

アンジュは、さらに真剣な顔でエドの師匠に念押しした。

 

『なぁ、師匠の属するギルドって、どんなギルドなんですか?』

 

エドのその質問に、エドの師匠はため息を吐きながらも口を動かす

 

『……そういえば、まともに自己紹介してなかったねぇ……』

 

エドの師匠は、再び立つ姿勢を整え、エド達に向かって、自己紹介をした

 

『私は、”リメインド”というギルドに属する、イズミ・カーティスと言う。』

 

『カーティスですか?私と同じ姪ですねぇ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

~???~

 

どうしてだ

 

どうしてだろう

 

どうして、この世界が存在して、

 

僕の世界が存在しなかったのだろう。

 

どうして、こんな醜い世界が、存在して

 

僕の世界が存在しなかったのだろう

 

『分からない……』

 

ラザリスは、疑問を抱えながら岩だらけの場所で立ちつくしていた。

 

向こうの岩を見ると、そこには

 

ヒトが居た。いや、正しくはそれは”ヒト”ではない

 

そして…一人

 

『僕と……同じ……』

 

 

 

 

 

 

 

『おい、あれを見ろよ。出来そこないの世界様がこっち見てるぞ』

 

エンヴィーが、ゲーデにからかうようにそう言った

 

『おい、どうするよ?今のうちに殺しとくか?』

 

『止めとけ。面倒事に巻き込まれるのは御免だ』

 

ゲーデは、つれないような態度でエンヴィーにそう接した

 

『ねぇあれ、食べて良い?食べて良い?』

 

『止めとけ。どうせ食っても不味いと思うよあの女。貝殻と一緒に食べるようなもんじゃないかな?』

 

エンヴィーが、不気味に笑いながら、ゲーデの方に向き直る

 

『お前はどう思う?ゲーデ。話すくらいは後悔は無いだろう?上手くいけば人員を増やせるかもしれないぜ?』

 

ゲーデは、そのエンヴィーの言葉に、全く興味が無いのか、あくびをした。

 

そして、ゲーデの方を見たと思ったら、ふんっと息を吐いて正面に向き直り、

 

エンヴィー達の方にも向かず、捨てるように言った

 

『どうでも良い。あいつなんかに興味は無い』

 

ゲーデの目的は、今は一つ。

 

世界の復讐の前に、すべき事

 

それをする為に、今は第一関門の任務をこなす

 

『おっと、悪かったねゲーデ。今はそれどころじゃなかったな』

 

エンヴィーはそう言って、向こうの岩へと飛び移った。

 

ゲーデも、エンヴィーを追うように、向こうの岩へと飛び移る。

 

ゲーデの顔は、目的に近づける

 

活き活きとした顔をしていた。

~バンエルティア号~

 

『こちらです。』

 

先程のクエストは、最悪な結果を招いてしまい。

 

約二人の死人が出てしまったが。

 

アンジュは、あくまで協力をしてくれたと言う事で。

 

エドの師匠であるイズミをバンエルティア号まで招待した。

 

『おかえりなさい。』

 

エミルが、ソファに腰かけ、依頼目録を読んでいた。

 

マルタも近くで、エミルの手伝いをするように、依頼目録に目を通している

 

返事はあまり期待はしていなかったが、エドの反応は余りにもおかしい。

 

『エドワードさん?』

 

全身汗だらけで、心なしか少し震えていた。

 

その隣にいる女性は、ただ涼しい表情で辺りを見渡している

 

『ふぅん。なかなか良いギルドじゃないの』

 

『恐れ入ります。』

 

アンジュがその女性に礼をすると、イズミは頭を掻いた

 

『堅い言葉は、私はあまり好まないからね。あまり私を上として見ないでくれるか?』

 

イズミがそう言うと、アンジュさえも少し震えた。

 

あれは、自信が無く、何かが崩れ、不安と恐怖の震えだった。

 

その女性が、どれほど怖い人かは知らないが、確実に何かに震えていた

 

『ん?アンジュ。お客さんかい?』

 

しいなが、この大広間に入ってきた。

 

助け船に乗るように、アンジュはしいなに突っかかる

 

『そ…そうよ。なんでも”リメインズ”というギルドの人なんだけど、途中で助けられたから、礼がしたくて連れてきたのよ。』

 

リメインズという言葉を聞いて、しいなはイズミに対し、陽気な態度になる

 

『へぇ!リメインズって言ったら、リーガルの会社が作った巨大ギルド団体じゃないか』

 

『ええ!?』

 

リーガルという言葉を聞いて、エミルは驚き、

 

エドは、何の事か分からなかった

 

『驚いたねぇ。あそこのギルドは、顔見知りである私でさえ入隊試験が難しくて入れないってのに、よくあんたのような何の変哲もない主婦が入れたねぇ。』

 

しいなが感心するように、イズミを見る

 

『リーガル…ああ。リーダーの事ね。あんたとは顔見知りなのか?』

 

『ああ、そうだけど。試験がどうやって通ったのか、ちょっと教えてくれないかい?』

 

しいなは、興味しんしんでイズミの顔を見る。

 

イズミは、困ったように頭を掻いた

 

『いや…試験と言っても、ただ寝とまりしたいと言って入ったら、そのギルドだったって話で、なんか入りたかったら幹部の奴を倒してみろと言われて……』

 

幹部という声を聞いて、ジェイドは突っかかる。

 

『幹部の方…ですか、それはまたえげつない試験ですねぇ』

 

『えげつない?』

 

『リメインズの幹部は、あまり手加減をしない事で有名ですよ。まぁ手加減しても、攻撃を加えるのは難しいですけどね。それでもって、10分以内に幹部に攻撃が当たったら合格っていう内容でしたから。』

 

そのジェイドの口から発した、試験内容を聞いて、しいなは頷く

 

『そうだねぇ…あんな奴に攻撃加えるのは、私でさえ難しい奴だったからねぇ…。で、あんたはどうやって合格したんだい?』

 

イズミは、少し悩んだ顔をしていた。

 

エドは、イズミが何を悩んでいるのかが分かった。

 

おそらく、そんなに難しいと感じていなかったのだ。

 

『いや……ただ幹部をぶん投げて、みぞおちを数回軽く殴って気絶させただけで、1分もかからなかったよ。』

 

その時、バンエルティア号に静寂が訪れた

 

ただ、向こうの部屋でチェスをしている二人の笑い声が、この大広間に響いている程、この場所に静寂が訪れた

 

『え……?嘘?マジで?』

 

しいなが、目を点にして、混乱しながらもイズミに問いかけている

 

だが、イズミはどう答えて良いか分からなかった

 

『あ!師匠!』

 

今度は、錬金術の本を持っているエステルとユーリ、エステルに付くアスベルと研究書を持ったリタが、こちらに気づき、エドの隣に居る女性を見かけた。

 

『その隣の人は誰だ?』

 

ユーリが、素朴な質問をする。いや、当り前な質問をした

 

エドは、少しだけくぐもった声で答える

 

『……俺の。師匠……だった人です。』

 

いきなり敬語で返された事に、エステルとユーリは少し驚いたが、

 

エステルは、すぐにそのエドの師匠というのに興味を持つ

 

『師匠の……師匠さんです?』

 

イズミは、エステルの方を見ると、すぐにエドの方に目を向ける

 

『ふぅん、あんな大きな者を弟子に…ねぇ』

 

『いっとくけど、俺は師匠やってるつもりじゃねーから。あの野郎が勝手にそう呼んでるだけですよ』

 

エドは腕を組みながらそう答えた。

 

だが、微動だに震えているその腕の動きを、リタは見逃さなかった

 

『なぁに震えてんのよ。女師匠がそんなに怖いわけ?だらしないわね』

 

リタが、皮肉そうにそう言うと、エドは速足でリタの方に近づき、小声で忠告をする

 

『馬鹿!お前…師匠の恐ろしさが分かんねぇからそう言えるんだろうが、もう今からそんな失礼な言葉は無しにしろ!殺されるぞ!』

 

『は?』

 

リタが、当然理解できるはずがなかった。

 

あんなどこにでも居るような主婦に、怖い所なんぞどこにも見当たらないからだ

 

ただ、エドにとってはただの母親的な逆らえない所があるだけ、そう言う事なのだろう。

 

『私も、師匠の師匠に話を聞けば、錬金術に近づけるかもしれませんね。』

 

エステルが、思いつくようにそう言った。

 

エドは、それを聞いて

 

『止めとけば?止めはしないけど』

 

『大丈夫ですよ、師匠。錬金術を使うようになれるなら、私はどんな事だってがんばりますから!』

 

『いや、別にそれは気にしてないけどさ…』

 

エドが、少しだけバツが悪そうにしていた。

 

『おっ!?何何?これはまた美しい姉さんが居るじゃないの』

 

あまり出会いたくない奴が、ここに来てしまった。

 

赤い髪の長髪の男が、イズミに甘い声を囁きながら近づく

 

『お姉さん。俺の名前はゼロス・ワイルダーって言うのよ。この場所に出会ったのも、どこかの運。俺と一緒に、部屋で二人だけのお話しない?なんつて!』

 

相変わらずの、チャラチャラした言葉だった。

 

イズミは、差し出されたゼロスの手を握り

 

『ふぅん。お誘いの所、悪いけど』

 

イズミが腕を徐々に上げると、ゼロスの身体も、徐々に宙に浮いた

 

『え?』

 

『私には、今も燃え上がる程、愛してる夫が居るんでねぇぇぇええええ!!!』

 

ゼロスの身体は、宙に浮いたまま吹っ飛び、壁の方向に向かっていた

 

『ぎゃぁああああああああああああああああ!!!』

 

大きな音を立てて壁が崩れるが、それでもゼロスの勢いが止まる事が無い。

 

さらに次の壁が破壊され、

 

その次の壁が破壊された時、ようやく勢いが死んできたが、

 

その次の壁も、また破壊されてしまった

 

『ん?』

 

その壁の向こうは、清々しい青空、涼しい風、そして透明な海が広がっていた

 

ゼロスの身体の勢いは、完全に死んでいた。

 

それが、幸福か不運かは分からなかったが、

 

その時確実に、ゼロスは海に落ちていった事だろう。

 

 

 

 

ドボン

 

海に大きな物を投げ込んだ音がしたと同時、

 

多くの者はイズミを見る目を、化物を見る目に変わっていた

 

『全く、女を舐めているとしか思えないね。あの男は』

 

さっきまで馬鹿にしていたリタも、ガタガタ震えている。

 

そしてゆっくりと、エドの方に目を向ける

 

『ちょ…ちょ…ちょっと……!アレ、本当に人間なの…?ね……ねぇ…?』

 

言葉は途切れ途切れで、ぎこちない動きで口が動いていた

 

さっきまで、エドの師匠に話を聞こうとしていたエステルも、

 

そのまま立ちつくして、雨に撃たれている子犬のように、プルプルと震えていた。

 

だが、ユーリは、ただ珍しい物を見る目で、

 

『へぇ、エドの師匠って奴。結構やる奴じゃねえか』

 

『本当ですね。もしギルドに所属してないかったなら、ガルバンゾ国の騎士に抜粋したい物です。』

 

その話にジェイドが割り込む

 

『おっと、その時はすみませんが、ライマ国が抜粋させて頂きますよ』

 

『それは困ります。こちらの国も、あのような者が必要なのです。』

 

『私の国にしても例外じゃないでしょう?状況は同じという事です』

 

その話を聞いていたエドは、少し機嫌悪くばっさり切った

 

『一人の主婦に、どんだけ取り合ってんだてめぇら』

 

イズミの先程の技を見て、しいなはやっと納得をした。

 

『ああ…なるほど。リーガルが気に入るのも分かるような気もするよ……』

 

それほどの腕力と戦闘能力があれば、ギルドにとってもかなりの武力向上になるだろう。

 

リーガルは、その所も視野に入れて、ギルドに入隊させたわけだ。

 

『リーダーに気にいられても私は困るんだがねぇ。結構いい男だけどさ。うちの旦那には負けるけど』

 

捨てるようにそう言った。

 

先程も行った、イズミの夫の存在だが、今も愛しているという情報で、

 

一人、興味を持った人が居る

 

『…本当に、その夫さん。貴方に好かれてるのね。お二人ともお幸せですね。』

 

アンジュがイズミに微笑みをかけてそう言うと、イズミの機嫌も良くなるように。アンジュに話かけた

 

『いやぁ、そうなのよ。本当にうちの旦那は良い男でねぇ。出会ってからもう20年近く経つけど、時間が経てば経つほど愛が深まっていってねぇ…』

 

その夫婦愛の説明は、ほとんどの者は苦笑いするしかなく、

 

エドとユーリとリタは、別の話をしていた。

 

向こうの壁の穴から見える太陽を見つめ、

 

――良い天気だなぁ。ユーリ

 

――ほんとうだなぁ。カモメが元気に鳴いてら

 

――イルカの肉って、美味しいのかしらねぇ。

 

等と、あまりどうでも良い話をしていた。

 

だが、そのイズミの話に人一倍興味を持っていたのは、

 

先程から目を輝かせてみていた、マルタだった。

 

蘭蘭とした目で、イズミの方に駆け寄り、唐突に質問をした

 

『あの!』

 

『ん?どうした』

 

『長く夫婦円満で居られる秘訣はなんですか!?』

 

その質問に、エミルは唾液が器官に入り、むせてしまった。

 

『そうだねぇ。通じ合う心。そして信頼。そして最も大事なのが……常に燃え続ける豪華な炎だ!!』

 

自信満々に答えたその言葉に、ほとんどの者が失笑した。

 

だが、その場でマルタだけが尊敬の眼差しでイズミを見ていた。

 

おそらく、”私もこの人みたいになりたい!”という顔なのだろう。

 

エミルは、遠い目をしながら、穴の開いた壁の向こうの太陽を見つめて

 

『……いつかマルタも、エドのお師匠さんみたいになっちゃうのかなぁ……』

 

と、そうつぶやいた。

 

その切ない言葉に、エドはエミルの肩に手を置いた。

 

おそらく、いや間違い無く。お前は尻に敷かれる。

 

やはり、そうとしか思えなかったのだ。悲しかったが

 

そう思うしか、無かったような気がした。

 

『おっと、時間だ。』

 

イズミは、壁に掛っていた時計に目を止め、はっと目が覚めたように言葉を出した

 

『悪いけど、私はこれから時間だ。他にもなんだか依頼が多くてね。ウカウカしていられないんだ』

 

イズミはそう言って、さっさと出入り口の方に向かおうとしていた

 

『あっ!イズミさん!まだお礼が……』

 

『一言のありがとうだけで十分さ。それより、時間が潰される方が、望まれていないからね』

 

イズミはそう言って、入口の取っ手に手をかけた

 

『イズミさん。戻るんならさ』

 

しいなが、戻る前に、イズミを呼びとめた。

 

ある用事を、リーガルに伝えてほしいと思ったからか

 

『リーガルに、アドリビドムの事を、伝えてくれないか?きっと、協定できると思うからさ。図々しいと思うけどさ…』

 

そう言われると、イズミは1秒経ってから

 

『別に良いよ』

 

と答えた

 

『でも、言わなくても もう知ってると思うけどね』

 

そう言って扉を開け、身体が船の外へと出ていった

 

『ああ、あとエド』

 

イズミは、エドの方に声をかけ

 

『その穴は、アンタが元の戻しといてくれ』

 

そう言って、扉を閉めた。

 

その後、また沈黙が流れた。

 

何か、猛獣が通ったあとかのように。

 

エステルは、ゆっくりと穴の開いた壁の方を見つめる。

 

その、向こうの壁にまで開いた壁は、

 

エドの師匠の恐ろしさを物語っていた。

 

『…………』

 

エステルは、エドに目を向けて、言葉を出した。

 

だが、どれもこれも震えていた

 

『師匠……師匠は師匠の師匠に、どんな修行をさせられたんですか?』

 

そう言った瞬間、エドの顔が衝撃の顔に変わった。

 

それは、まるで怖い者に出会ったかのように。

 

その後、エドはガタガタと大きく震え、小さく

 

ひぃぃぃぃ……

 

と悲鳴を発した

 

『……相当、怖い師匠ね』

 

リタが、同情するような目でエドをみつめる

 

さすがに、これはリタも同情するしかなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エドが、先程師匠が壊した壁を錬金術で修理すると、あまり時間がかからず、

 

たった1分で完治してしまった

 

『その便利な錬金術の成果も、イズミさんのおかげなんでしょう?』

 

アンジュが、笑顔でエドにそう告げる。

 

エドは、頭を掻きながら答える

 

『正直、もうあの修行の事は思いだしたくないから、止めてくれねえか?』

 

『それにしても、たった11歳で無人島に弟と二人で錬金術も使わず、30日間放り込まれたと聞いた時は、驚きましたからねぇ』

 

ジェイドが、エドの修行内容を告げた。

 

『そうそう。本当にあの時は参ったよなぁ。怪物演じてた野郎が襲いかかって……』

 

その辺で言葉を止め、ジェイドにある質問をした

 

『おい、どこでそんな情報を知り得たんだ』

 

ジェイドは、不気味な笑顔をしてエドを見て

 

『情報があるのなら、私は徹底的に調べを尽くす事が得意ですからね。あの主婦から聞きだすのは、結構容易でしたよ』

 

容易ではないだろう

 

絶対、何も文句言わずペラペラ喋ったに決まってる

 

『11歳で…30日間無人島?』

 

リタが、信じられない物を見るような目でエドを見つめた

 

『よく生きてたわね、あんた』

 

『死線をかなり彷徨ったぞ。それに一番死にかけたのは、無人島の後の修行だ』

 

その言葉を聞いたエステルは、また再びガタガタ震えた

 

無人島に30日間を生きていたとしても恐ろしいのに、

 

その後の修行がさらに死にかけたとなると……

 

『エド、お前、本当によく生きてたな』

 

『逃げても地獄、受けても地獄だったからな。どうしようも無かったんだよ』

 

エドは、皮肉を言うように、そう言った

 

『し……師匠…?』

 

エステルが、すがるようにエドに質問をする

 

『師匠は……師匠の師匠みたいに、厳しくはしませんよね?もっと優しく、死ぬような事は無いような修行をさせてくれますよね!?』

 

よっぽどイズミが怖かったのか、ガタガタ震えながら、エドにすがりつくように、言葉をぶつけた。

 

すると、エドは震えていた手を掲げ

 

『……正直、あそこまで厳しくする自信無いッス。』

 

と、そう答えた。

 

『それでは私は、これで』

 

ジェイドは、エド達に礼をして、出入り口の方に向かった

 

『ん?あんたも、もう行っちまうのか』

 

『ええ。ライマ国の大佐として、私も結構忙しい身でして。しかし、しっかりと情報得たので、問題なく帰れますがね』

 

『ふぅん』

 

正直、エドはこいつとマスタング大佐が出会わなかった事に、ホッとしていた。

 

こいつとマスタングが揃えば、最悪のコンビネーションが誕生するだろう。と考えていたからだ。

 

『ああ、そうそう』

 

『?』

 

ジェイドが、また再びエドの方に目を向けた

 

『エドワードさん。でしたね?もし、このギルドに居られなくなったり、飽きたりしましたら、是非こちらのライマ国の騎士団に顔を出して下さい。』

 

いきなりのその言葉に、アンジュが一番驚いていた

 

『え?それって……一体どういうつもりですか?』

 

『いえ、一応、私益の保険ですよ。さらに』

 

ジェイドが、また不気味に微笑む

 

『エドワードさんにとっても、ね』

 

そう言った後、ジェイドは扉の向こうへと消えた。

 

その後、また沈黙の時間が流れる。

 

先程の、騎士団の勧誘が頭によぎる

 

何故、このタイミングでそんな事を言ったのか、アンジュや、他の者はまだ分からなかったが

 

『ふぅん。どうだかねぇ』

 

エドは、これは”騎士団に入れ”という、遠まわしの言い方だった

 

『どういうつもりか知らねえけど、俺の得にはならねぇと思うぜ』

 

そう、もう居ないジェイドに吐き捨てるように言った。

 

ライマ国と言えば、あの赤髪の少年もジェイドと一緒に居た。

 

彼は今、どうしているだろうか。あの後、大きなけがを負っていなければいいが

 

負っていれば、ジェイドの良いように使われる可能性が高まるからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2時間後

 

先程のクエストから2時間が経つが、小さな依頼がちょぼちょぼと来るだけで、

 

比較的、大きな依頼はまだ無かった。

 

原石からダイヤを作れと言われれば、エドワードかアームストロングさんに頼めば、5秒もかからないし

 

討伐クエストさえあるものの、どれもサイノックスの討伐ばかりだった。しかも多い。

 

『………』

 

しかし、やはり先程のジェイドの言葉が気になる。

 

このギルドから、エドワード君を引き抜こうと考えているのではないだろう。

 

しかし、最終的に決める権限は、私には無い。

 

エドワード君にあるのだ。だから何も言えない

 

『うーん………』

 

困る悩みに、唸っている所、一つの依頼内容に目をつけた

 

『?』

 

その依頼内容を見ると、依頼人は”ウッドロウ”

 

王族の者が、一体どうしてこのギルドに依頼を送ったのだろう。

 

内容は、

 

 

依頼人:ウッドロウ

 

                           【少年剣士】

 

我が国に属する、リオン・マグナスという少年剣士が、アルマナック遺跡から戻って来ない。

 

指名手配犯の討伐を依頼していたのだが、何かあっては取り返しのつかない事になる可能性がある。

 

できれば、迎えに行ってきてはくれないだろうか?

 

 

 

 

 

 

どこか、何か疑問を感じる所は多かったが、

 

これも、依頼は依頼だ。

 

それに、依頼人がウッドロウと言うのなら、尚更

 

それほどの重要依頼なのだろう。

 

さて、この依頼は誰と誰が………

 

 

 

体力と経済、そして戦力と行動力、そして仕事の量

 

全てを合わせた結果、とんでもない組み合わせができてしまった。

 

『…………』

 

正直、不安が残るパーティになってしまったが、

 

他に出来る者は居ない。討伐クエストに行ってしまった。しょうがない

 

この3人で、行ってもらうしかないだろう。

 

『ごめんなさいね…』

 

と言いながらも、アンジュは少しだけ楽しそうな顔をしていた。

 

笑顔でくすりと笑った矢先、三人のパーティが生まれた

 

 

 

 

『エドワード、リタ、ロイ・マスタング』


 
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