二十分後
志木は”掲示板”があるという酒屋に丸太と訪れた。
そこは酒造と簡易的なバーテンが一緒くたになった様な店で、日本酒を主に扱うのか和の趣が内装外装ともに伺えた。
偏屈そうな店主に丸太が会釈し、俺のことを紹介した。ただ一言、異能者だと。
店主はこちらを一瞥してから、酒は好きかと問うてきた。
よくわからないと正直に答えたのは良かったのか、それとも悪かったのか、店主は”樹林”という銘柄の日本酒らしき酒瓶をカウンターに置き、泰然と俺のことを見てきた。
飲めということだろうか?
丸太に目配せをするが、肩を竦めてみせるだけでこれまたよく意図が分からない。
仕様がないので店主から酒を受け取り、蓋を開けてそのままラッパ飲みよろしく煽ってみる。
水だった。
なんだよ、それ。
親爺は辛抱耐えかねて吹き出し、丸太も眼鏡の位置をなおしてから意味深に小さく笑った。
「それはこれからお前さんの”ブランド”になる酒瓶だ。」
禿親爺が一通り笑って、ラッパ飲みとは日坂戸(ひさかど)の譲ちゃん以来だとまた笑い出す。
「まぁ、此処の慣例みたいなものだね。榊さんの道楽だから特に意味はないので気にしないことだよ、志木君。むふふう。」
ここぞとばかりに丸太は小馬鹿にしたような、且つ気持ちの悪い笑い方で俺の精神を苛んできた。
「それにしても日坂戸とは大物ですね、やはり姉君のほうですか?」
「ああ、妹の方は、そのなんだ、アレだからな。」
さっきまで楽しそうだった禿親爺は少し陰気な顔に浮かべて、そう歯切れの悪そうに言った。
「可哀相だよな。親族の人間はそうでもないが、例の取り巻きがなぁ・・・。頭にくる。」
今度は憤慨して、スキンヘッドを掻き毟った。すごく痛々しい。
自分が禿げであることを忘れて髪を掻き毟る仕草と取り違えたのだろうか?
志木は丸太に目配せを送って、日坂戸なる人物の説明を求めた。
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SNS交流の場、”掲示板”があるという酒屋にやってきた志木と丸太。