No.237950

ヒューレインジョーク 1

リハビリさん

中二病理論バリバリ展開小説ですので注意。

2011-07-28 05:59:25 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:503   閲覧ユーザー数:469

 

カウンセリング

 

 

「君はそれが何かわかって使っているのかい?」

男はそう問うた。追及のニュアンスが伺えた。

「だったら、あんたが教えてくれるかい?」

「いやいや、私はそんなものは始めて見たからね。」

”樹林”の向こうからやってきた男は、弁明でもする様に痒くない頭を掻く仕草をした。

「君はそれを使うことを後ろめたく思っているようだね。」

そうなのかもしれない。先ほどの男の問かけに俺は過剰に反応してしまったのだ。

「知ってるだろ?此処はろくに他所と交流もない辺境な村だ。

得体の知れない、制御も利かない、用途不明で田園をクレーターだらけにしちまうおっかないもんは、

敬遠されて果ては祭られる。そんな時代錯誤漂う村なのさ。」

男は合いの手をうって、煙草を取り出した。

俺は吐き出すように愚痴を零す。部外者のこの男なら、気を使う必要もないだろうと思えたからだ。

「だからさ、俺はこの村ではもう得体の知れない”コイツ”を使う、得体の知れない奴になっちまったのさ。そうでなくとも・・・」

くしゃみが出そうで出ない。そんな変てこな間を置いて、俺は現状をこの余所者に打ち明けることにした。

「俺は昔から変な人間だったからな。

世間はそういった人間をあざとく見つけるのが非常に上手い。

変な奴とは、もとい変な精神状態の奴とは、世間一般でいう一般人が経験のない精神状態にある人間のことを指すとしよう。

そういう人間の言動、挙動を見聞きして、一般人が自分の経験、あるいは常識というデータベースと照会して得られた違和感という”感情”を根拠に、そいつが変人だと断定する。

また実際、そういった性質のデータベースに引っかからない以上、それは変人であるという論理的帰結を得る。

つまりは違和感の延長上に変人は存在することになるから、”感情論があたかも真実を言い当てる”様に見えるのさ。

だから、世間一般でいうところの一般人が築く世間は、嫌味なほどに俺達の存在をあざとく見破る。

感情的だろうが、理屈だろうが、必ず正解にたどり着く。」

「おもしろいね、それ。」

男は間も置かずにそう結んだ。

「僕はこれでも学部が哲学だからね、その話はこうも聞こえる訳さ。

従来、科学的思考は感情や私見を排除して臨むものだが、感情、感覚、情動、なんでもいい、ともかくそれらが一つの事象、事物、概念に対して常に定量的な反応を見せるのなら、それは一つの観測装置として有効であり、そして現状の科学者にとってはそれは観測装置の拡張、つまりは考え方の発展に繋がるわけだ。」

この話をしてまともに返してくる人間は今まで周りにはいなかった。

その事実だけで、俺はこの男を少し信頼しかけているようだった。

思いの他、周りに味方がいないという状況に参っていたのかもしれない。

「なにもそんな偉そうな事を意図して言ってなんかいない。

今の俺は世間と折り合いがとれていないとあんたに愚痴っただけなんだ。」

「なるほど、つまりは世間一般の人間は既にその思考法を実行し、君たち変人を見事炙り出しているワケだ。

もう実績があるじゃないか。

ふむふむ、人間はその時、自分が何をどう認識し、考え、感じているかを客観視する様それすらも観測し、目前の事象を推し量るわけだ。まるで人類の革新だな。」

男は独り言のようにブツブツと呟きだす。後半部はほとんど聞こえなかった。

さっきから話が微妙に噛み合ってこない。

「愚痴といてなんだが、何を言っても駄目だな、あんた。」

「ああ?助手の幹塚くんにも同じことを言ったさ。

いいかい?志岐くん。ぼくはこう考えているんだ。

今のように一見、”間違いだからこそ正解である事象”はこの世にたくさんある。」

「よくわからないな、今の話の何を指して間違いだと言っているんだ?」

「一般的に感情論じゃあ何も解決しないし、何も解明されないものだろう?

だが蓋を開けてみれば、今回の様にとある事物だけに対しては、感情は恒常的に真実に反応するという性質もあるようだ。

反応に個人差があるようならば、個人の反応パターンに限って観測をすればいいだけの話だしね。

一見、間違っているようでいて、だからこそ正解だと言えるだろ?」

「あんたが何を指して間違いと言っていたかは解ったが、あんたの言うことを一般化したら、現実は間違いだらけになるぞ。」

「そうさ、僕はまさにそれを言いたかったのだよ!」

「そうかよ、俺にはよくわからんが」

「だからさ、この世にはオカルトなるものが確かに存在するのだよ。」

「・・あんた、そっちの人だったのか?」

「言わんこっちゃないな、その反応。現に君の”ソレ”は怪現象そのものだろうに。」

”ソレ”と言って男は俺の右手のあたりを指差したが、今そこに”奴”はいなかった。

”ソレ”は男のこめかみ辺りに浮遊しているが、男には言わないでおいた。

「思考放棄すれば、そう解釈することもできるけどもな。それじゃあ、村の連中と変わりあるまい。」

「そうだな、確かに。君の言うとおりだ。ぼくは話の順序を間違えてしまったよ。

では世間が言うオカルトという言葉が何を指示していているのかというところから始めようか。」

「止してくれ、長ったらしい講釈は聞きたくない。」

「そうか、じゃあ端的に言うとだ、君が先ほど言っていた思考放棄、そして村人の反応の内容そのものが世間でいうオカルトだ。

そして私が指示したオカルトの意味とは、まさに君が愚痴ったそれに他ならない。”間違いだからこそ正解という事象”を指す。

そして、世間が指示するオカルトなる事象と、私が指すオカルトの事象は間々、重複する場合がある。だから混乱する。

そして世間は僕を冷ややかな目で見る。さっきの君のようにね。」

「知ったことか。」

というか言ってる事の真偽はどうあれ、こいつも変人だったのだ。

自己嫌悪しているところに同族がひょこひょこやって来たのだから、お互い間の悪い間抜けである。

「でだ、僕が此処に来た理由は、この村で発生したその重複するオカルトの追究であり、君の”ソレ”だ。」

「ようやく本題か、あんたは前口上が長い。」

 

 

 

 
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