太陽の畑の朝、畑唯一の建物から目覚まし時計が喧しく鳴り響く。
「ん~、もう朝なの?」
彼女は風見幽香、この畑―というか庭の花々を守っている妖怪である。
しかし最近彼女には悩みがある。
「はぁ、今日も曇り、か」
そう言って幽香はまたベッドへ潜る。そう、最近幻想郷は10日ほど曇り続きなのである。雨が降るわけでもなく、日が照るわけでもない。花々、草木にとってあまり良く無い状況である。
「何でこんなに長い間曇りが続くのよー、これじゃお花枯れちゃうじゃないの」
彼女は毎日花を見て回って様子を見るのだが、これほどまでに長い曇天となると花々の『声』に元気が無いのだそうだ。となればその花を守る幽香の気分も晴れないのである。
「ああもう、どうすれば花に日の光をあげられるのかしら」
無論『花を操る程度の能力』の彼女の力では日の光を作り出すことはできない。となれば誰かに頼る他無いのである。彼女はあまり人に頼りたくはなかったのだが、この長い曇天で、もう誰かに頼る他無い、と決意した。
「そういえば地底に人工太陽を作れる奴が居たっけ、いや、でも・・・」
しかし“地底の太陽”は核の力を使っている。もし花に何か影響があれば・・・
「そういえばあの魔女、「日符」とか使えたっけかな」
『あの魔女』とは言わずもがな、パチュリー・ノーレッジである。魔法の扱いに長けている彼女であれば出力を調整することも可能だろう。少し距離はあるが頼んでみる価値はあると判断した幽香は彼女の元を訪ねることにした。
「失礼するわ、魔女は居るかしら?」
「なっ、あなた急に何です!?」
図書館の司書である小悪魔は急に現れた大物妖怪に警戒の色を表す。
「もう一度言うわ、魔女は居る?」
「うっ・・・居ますけど・・・」
「騒がしいわね、どうしたのよ」
ものぐさそうに奥から出てきたのは魔女でありこの図書館の管理人、パチュリー・ノーレッジである。
「あ、魔女、貴女に頼みがあるのよ」
「頼み?ってあんたあの向日葵妖怪か」
「あら、私は只のフラワーマスターよ?というか本題入ってもいいかしら」
「ああ、頼みがあるんだったわね、で、どうしたのよこんな所までわざわざ」
「ええ、実は云々」
幽香は自分の畑の花々が近頃の曇天続きで活力がないことについて話した。
「あー、成る程ね。で、私にどうしろって言うの?」
「あなたの日符を太陽の代わりにできないかと思って」
「また面倒な事言うわね、制御が難しい上に魔力直ぐ切れちゃうじゃない」
パチュリーは頭を掻く。
「エネルギーを貯めておくみたいな事ってできないのかしら?」
「ああ、それは面白そうね、試してみようかな」
パチュリーはまるで頭の中で雲が晴れたかのように思考をめぐらせている。
「可能なのね、できないんじゃなかったの?」
幽香はすんなりと案が通ったことに驚いた。それと同時にパチュリーの知識的な能力に感心した。
「割とね。アイデアが重要なのよ、こういうのって」
「魔女って怖いわね」
「ふふふ、もっと崇めてもいいのよ」
パチュリーは自信ありげに少し胸を張ってみせた。
「それは癪ね」
「まあ、そうよね」
「まあ、頼んだわよ」
「頼まれたわ、その辺で座って本でも読みながら紅茶飲んで待ってなさい」
パチュリーは早速紙に何かを書いている。
「やる気ね」
「ええ、新しい研究課題を見つけた気分よ」
それからまた少しして、パチュリーの所謂バッテリー式日符は完成し、応用としてあらゆる自然エネルギーを日符のエネルギーに変換することも可能となった。幽香はこれを持ち帰り畑に設置、日光不足は無事解消したという。その後、このバッテリー式日符は紅魔館の明かりとして設置され、そこから幻想郷中で夜の灯りとして定着したというお話。人里では『日の元』という名前で呼ばれているのだとか。
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