No.233460

【まどか☆マギカ】Ave Maria(前編)【ほむあん】

fujiyamasanさん

魔獣出現後の杏子(+ほむほむ)なお話です。杏子視点。とりあえず前編です。

2011-07-26 11:30:36 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:530   閲覧ユーザー数:518

結局、そういうことなんだろう。

 

いろいろあったけど、あたしはそれなりにこの人生、楽しんできた。

無茶もやったし無理も通したし、

もちろん無茶をされたり無理を通されたこともあった。

そりゃそんなもんだ。今更、後悔なんてあるはずない。

 

ただ、まぁ、もし……

 

いや。

 

もう、いいや。

 

 

                 ◆

 

 

四方八方から押し寄せる魔獣を、突き刺し、払い、打ち据え、斬り払う。

魔力で視野を拡張したあたしにとって、「背後」なんてない。

もともと、背中を守ってもらう必要なんて、あたしにはなかった。

グリーフシードは魔力の源。魔力があれば、あたしは何でもできる。

なんての? ほら、あの、ドラクエとかいうやつ? あれと一緒。

魔獣を殺してグリーフシードをゲット、それさえあれば何でも手に入る。

 

だから、戦うなら一人で戦ったほうがいい。

そのほうが絶対に効率がいい。そんなの、あたしでも分かる。

「パーティを組む」だなんて、意味ないじゃん。

あんたら馬鹿面並べて徒党を組んで、なにそれ、世界でも救うつもり?

笑える。そんなの笑うっきゃない。

 

あたしは毎日スライムみたいなの倒してりゃ、それで十分贅沢できるもの。

 

槍の連結を解いて振り回し、連結を戻しながらカウンターの横蹴り、

コンパクトに足をたたんで石突きを鳩尾にぶち込んで、

槍を旋回させて袈裟に切り裂く。布と肉をぶった切る感触。

すっかり慣れ親しんだ、手応え。

こんなのに慣れても、なんにもならないのにな。

 

ん、お前も他の魔法少女と組んでただろうって?

 

ま、ちょっと、な?

 

ちょっとだけ、馴れ合ってみるのも、いいかな、ってさ。

 

その手の、気の迷い。

そんなこともあったな、って、その程度のこと。

 

 

 

                ◆

 

 

「あなたはきっと信じないでしょう。でも、私にとって、これは本当のこと」

「ふうん……

 あんたは何度も何度も時間を遡って、

 最後にはそいつは神さまになっちまった、か」

「適切な要約とは言いかねるけれど、概要はそのとおりよ」

「信じるさ」

あいつはびっくりしたように黙り込んだっけ。

「……信じるの? あなたが?」

あのときあたしは、親父の言葉を思い出してた。

「世の中な、悲惨なこと、苦しいことで、てんこ盛りだ。

 だからさ、誰だって思うのさ。

 『神さまは、なぜこの世をかくあらしめるのですか』

 『神さま、あなたは本当にこの世をご覧になられているのですか』ってな。

 あたしはさ、神さまを信じる人の心を信じる。

 だから、あんたの話も、あんたのことも信用するさ、暁美ほむら」

 

 

                 ◆

 

 

気がつくと、広間から魔獣はいなくなってた。

雑魚みたいな連中ばっかりだったとはいえ、数が数だったから、

結構いい感じに魔力を消耗してる。

「出てこいよ! あんたがそこにいるのは分かってんだ!」

あたしは大声で挑発する。

とはいえ、ここは勝手知ったる我が家みたいな場所だ。

捜す気になれば、あいつがどこにいるかなんて、だいたい想像がつく。

 

案の定、あいつは奥の部屋から出てきやがった。

 

あいつは、もともとは、うちの教会で事務をやってた男だ。

教会が急にデカくなったもんだから、

もともと会計士だったけど失業してたっていうあいつを、

親父が雇ったのが話の始まりだ。

 

親父があたし以外の家族を道連れにして死んで、

教会はあっというまにバラバラになった。

事務長になったあいつは、自前の教会を作り直したけど、

親父の説教DVDを垂れ流しても、あの熱狂は復活しない。

 

でも、あいつはそこで諦めなかった。

そしてその執念は、悪い方向に芽を吹いた。

 

あいつの苛立ち、疎外感、妬み、使命感、その手のグツグツは

魔女の釜みたいに煮こまれて、煮詰まって、やがて魔獣を生んだ。

魔獣の力を得たあいつは、かつての親父までとはいかないけれど、

人間離れしたカリスマを手に入れて、

そうしてあいつの教会は

――忌々しいことに、昔のうちの教会の名前と支部を使ってやがる――

一気に膨れ上がって、そうして類友の要領で集まった信者たちは、

とんでもない濃さの瘴気を吐き出すようになった。

 

あたしは、あいつを止めなきゃいけない。

最悪、殺してでも。

 

あの頃のあたしの努力なんて、カスみたいなもんだ。

それを踏みつけにされるのは、どうでもいい。

でも、親父をダシにされるのだけは、許せねぇ。それだけは、絶対に。

 

問題は、この濃い瘴気の中で戦って、

あたしがあいつをなんとかできるか、ってことだ。

以前のあたしなら、諦めただろう。

絶対に無理だ、って言っただろう。

でも、今のあたしは、やってみなきゃわかんないだろと思ってる。

 

だってさ。これは、やらなきゃなんねえことなんだから。

 

 

                 ◆

 

 

「あなたが、あそこに行かなくてはならないと決めることに、反対はしない。

 でも、あなたがあなたの意思を遂げるには、私の力が必要よ」

「やってみなきゃわかんねえ。

 これは、あたしの身内の問題だ。あんたはすっこんでろ」

「これが最後の提案よ。私の助力は、不要だと言うのね?」

「いらねぇって言ってるだろ! ついてくんな!

 ついてくるってんなら、次は、外さねえ!」

あたしは槍の穂先を、ほむらの額につきつけた。

 

精一杯の脅しをかけてみたけれど、きっとあたしには、これ以上のことはできない。

そしてほむらは、頑としてついてこようとするだろう。

馬鹿なヤツ。なんで他人の自殺行為に付きあおうとするんだ。

 

でもあいつは、目を閉じて半歩退くと、踵を返した。

あたしは拍子抜けして、槍を取り落としそうになる。

 

そしてそのとき、あたしはようやくあいつの苦しみを理解した。

あいつは何度も何度も、気が遠くなるくらいの回数「まどか」を救おうとして、

結局はその「まどか」に救われたのだ。

 

人は、人を救うことなんて、できない。

人は、人によって、救われることしかできないのだから。

そのことを、あたしは鈍い痛みとともに、自分のソウルジェムに刻み込んでる。

 

きっと、あいつも同じなんだ。

 

毒々しいネオンの色に染めまった路地を歩くほむらの背中に、声をかける。

「暁美ほむら!」

ほむらの足が止まった。

「――その……ごめんな。でもって、あれだ――あんがと」

あいつは風に吹かれて乱れた髪を、左手で背中に跳ね上げ、肩をすくめた。

「謝罪にも、礼にも及ばないわ」

「あんたはそういうヤツだよな。

 じゃあな、これが終わったら、また一緒に魔獣狩りとでもしゃれこもうぜ」

あいつの頭の上で赤いリボンが揺れ、

それに押し出されるみたいに暁美ほむらは恥ずかしいセリフを口にする。

「佐倉杏子。どうか、最後まで――希望を捨てないで」

 

あたしは、うっかり大声で笑ってしまう。

 

 

                 ◆

 

 

「杏子君、久しぶりだ。そして、こんな形で会いたくはなかったな」

あいつは大仰にそう言い放った。すっかり教主様気取りだ。

「ずいぶん偉そうになったね、あんた。

 そうだね、あたしも、こんな形で会いたくはなかった」

「君は、私たちの偉大なる教祖様の、唯一の汚点だ。

 君が野良犬のように街を彷徨っているだけなら、干渉するつもりはなかった。

 だが私たちの家に牙を剥くのであれば、異端の魔女は焼かれねばならん」

「いやはや、まったくだね。あたしも同感だよ。

 でも、悪いけど、異端はあんただ」

「おお、恐ろしや! 教会の猟犬、佐倉杏子様に告発されてしまうとは!」

あいつはそう言って、薄く笑みを浮かべる。

あたしは油断なく、槍を構え直した。妙だ。この余裕の根拠は、何だ。

 

「告発されてしまったからには、仕方ない。

 邪悪な言葉を語る魔女に、正当な裁きを下さねば」

あいつは一歩下がると、指を鳴らした。

教壇の奥から、黒い修道服を着た、背の低い女が姿を見せる。

 

……馬鹿な。

 

あたしは、絶句した。

 

馬鹿な。

 

馬鹿な。馬鹿な。馬鹿な。

 

あり得ない。こんなことは、あり得ない。

 

右手に鈍く光るサーベルを下げた女は、

間違いなく、死んだはずのあたしの妹だった。

額にはソウルジェムが、冷たい光を放っている。

 

「杏子お姉さま。いえ、魔女杏子。教主の命により、あなたを滅ぼす。

 ――サンタマリアの名に誓い、すべての不義に鉄槌を!」

 

 

 

(続く)

 


 
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