先の魏との戦いに勝ったというのに、皆が集まるこの玉座は今重い空気に包まれている。
話は数刻前に遡る。
魏の軍勢を追い払い、見張りのための最低限の兵を残し俺達は姉さんのいる医務室に向かった。
すると部屋の外には付き添っているはずの小蓮が壁に寄りかかり座っていた。
「あ、お兄ちゃん……」
「シャオ、こんなところでどうしたんだ?姉さんは?」
こちらに気が付いた小蓮に姉さんの様子を聞くと、
「それがね、今お医者様に見てもらってるんだけど……」
そう言い扉の方を見る。
皆も釣られて扉のほうを向くと、扉の向こう側から声が聞こえた。
「くそっ!なんて強力な病魔だ!だが、俺は負けない!うおおおお!元気になれぇぇぇ!!!」
「きゃあ!」「うわあ!」
部屋の中で男が叫ぶと扉の隙間から目が眩むような光が漏れ出し、思わず叫んでしまった。
「いったいなんだ?」
少しして部屋から出てきたのは俺と同じか少し上の歳の赤い髪をした青年だった。
「き、君は?」
「俺か?俺は華佗だ!」
華佗と名乗った青年は俺達を部屋の中に入れると説明を始めた。
「俺は大陸を回りながら人々を治療している医者だ。
最近魏と呉が戦争を行うという噂を聞いてここに来たんだが、その時に孫策殿を運ぶ尚香殿に出会ってな。
見るとひどい様子だったので、受け継いだ秘伝の力、ゴットヴェイドォーを使い治療を行ったというわけだ」
「五斗米道……確か漢中で起きた宗教だったか……」
冥琳が思い出すようにつぶやくと、
「ちがーう!五斗米道ではない!ゴットヴェイドォーだ!」
「そ、それよりも姉さんの様態を教えてくれ!」
なんだか長くなりそうなので、突然怒りだした華佗をどうにかなだめ話の続きを聞くことにした。
「まあいいだろ…こほん、孫策殿の受けた毒はさっきの治療でほぼ取り除いた。
しかしまだ予断を許さない状態だ。しかも毒の一部が神経にまわっている。
目が覚めたとしても、日常生活には支障はないがもう二度と剣を振るうことはできないだろう……」
「そんなぁ……」
それはあまりにも残酷な告知だった。
これまでの呉は姉さんの力、英雄孫策の力によってまとめられていたところが大きい。
その英雄が戦えないとなると独立を考えている豪族が黙っていない。
反乱が起き、呉は瞬く間に戦火に包まれることとなる。
華佗の話を聞いた俺達は処置を彼に任せ、これからのことを話しあうため玉座に集まることにした。
「早く次の王を決めないと……」
「そんなっ!雪蓮様はまだ生きているのに!」
冥琳の漏らした言葉に亞莎は泣きそうな声で叫び反論する。
「じゃが、力を無くした王に民は付いてこんのも事実じゃ」
「そんなぁ……」
祭の言葉に涙を我慢できなくなったのか亞莎は顔を手で覆ってしまった。
ふと玉座の隣に置かれた南海覇王を見る。
姉さんが母さんから受け取った孫家に伝わる宝剣。
今回の魏との戦いで抜かれることの無かった王の剣。
「?…一刀様?」
玉座の階段を一段上ったところで思春が気が付き俺に声を掛ける。
「我が母、孫堅の夢は天下の統一……」
もう一段上がり一呼吸する。
「そして我が姉、孫策の夢は呉の安寧。
この南海覇王はその願いを叶える為、王と共にあった」
南海覇王を取り、鞘から引き抜き中に掲げる。
「孫仲謀がここに宣言する!我は今より孫呉三代目の王となる!
この南海覇王と共に向かい来る敵を撃ち砕き!孫文台、孫伯符が見た夢を叶える事を!」
俺の言葉を皆は固唾を飲み見守る。
「呉の平穏の為、我が身を国に捧げ、民を導く!
我が願いは大陸の安寧!皆、我が背に付いて参れ!」
南海覇王を掲げ誓を立てた俺は玉座に集まっている皆を見回した。
「…我が身、孫権様のため。一刀様と共にあります」
思春は家臣の礼をとり宣言する。
それに続くように他の皆も家臣の礼をとる。
冥琳も頭を下げ、
「これよりあなた様は我等の王でございます」
今、俺は呉の三代目の王となった。
「おお、皆ここに居たのか!」
南海覇王を鞘に戻し、玉座から降りると華佗が慌てた様子でこちらにやって来た。
「どうかしたのか?」
「ああ!孫策殿の目が覚めたぞ!ってうわ~ぁ」
その言葉に皆は華佗を押しのけ、急いで姉さんのいる部屋へと向かった。
【孫策 side】
気がついたら真っ暗な空間を私は漂っていた。
あれ?どうしてこんなところにいるんだっけ……
「そうだ、私矢で射られたんだったけ……」
じゃあここは死後の世界?
周りを見渡してみても、何もない。
「……ん?何か光ってる?」
よく見るとかすかに光っているところがあった。
そちらに泳ぐように漂ってゆくと、篝火に照らされた私のよく知る女性が立っていた。
「か、母様?」
母様がいるってことはやっぱりここは死後の世界なのね。
「久しぶりね、雪蓮」
「そうね。母様がいるってことは私死んじゃったの?」
死んだのはほぼ確実っぽいけど一応聞いてみると、
「いえ、貴方はまだ死んでいないわ。
そうね…ここはいうなれば現世と黄泉の間の世界って所かしら」
「えぇ!?私まだ死んでないの!?」
「あら?死んでたほうが良かったの?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど……」
覚悟していたのに死んでないって、透かされた感じだ。
「それよりも少し話でもしましょ」
母様は地面に座り私に座るように促した。
「なにから話しましょうかね……」
「そういえば、私を撃ったのって魏の兵でしょ?だったら呉と魏の戦いはどうなったの?」
「ああ、それなら一刀のお陰で追い返すことに成功したわ」
「そう、よかった……」
呉を守ることは出来たのね。
「それであなたが眠ったままだから、一刀が王の座についたわ」
「へ?今なんて?」
「だから、一刀が王になったって」
あまりにも衝撃的なことに思わず聞き返してしまった。
「一刀が王に……あ~あ、本当は平和になってから譲ろうと思ったのにぃ。
……苦労かけちゃうな……」
「そうねぇ。……ねえ、あなた一刀のこと好き?」
「え?と、突然何言い出すのよ?一刀は弟なのよ!?」
母様の衝撃発言その2を喰らい再びキョドってしまった。
「あら?でも血はつながってないわよ。
私、貴方達が小さい時から言ってたでしょ」
「……そうね、私一刀のことが……」
でも、それはもう叶わない。
なぜなら……
「でも、もう無理よ。母様、私のことを迎えに来たのでしょ?」
「あら、違うわよ。そんなこと言った?」
衝撃発言その3だった。
「逆よ、逆」
「逆?どういう事?」
「追い返しに来たのよ。確かに貴方は死にそうになった。
でもまだ貴方にはすることがあるわ。
……それに子供に死んで欲しいって思う親なんていないわ」
そう言い母様は私を優しく抱きしめた。
もしかしたら初めてかもしれない、こんなふうに優しく母様に抱きしめられるのは。
「だからもう行きなさい。そしてちゃんと生きて幸せになりなさい」
抱きしめる腕を緩めるとぽんと押された。
すると何かに吸い込まれるように、ドンドンと母さんから離されていく感覚が来た。
「何時も見ているからね。何時までも見守っているからね」
「母様、母様!」
手を伸ばしてももう母様に届かないところまでやって来た。
すると今度は私の周りを光が包み込むように明るくなり、あまりの眩しさに目をつぶった。
そしてどこかに飛ばされる感じした……
「…れん。し…れん。雪蓮!」
誰かに呼ばれたような気がして、ゆっくりと目を開けると冥琳が心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいた。
「めい…りん…?」
「雪蓮!気がついたか!」
「雪蓮様!」「よかった」
寝たまま視線を横に向けると他の皆も心配そうな顔をしていた。
「私……生きているのね…」
「ああ、生きているぞ。本当によかった……」
冥琳は目頭をおさえながら、でも喜んでいた。
「姉さん……」
声の聞こえる方を向くと一刀も心配そうな顔をしていた。
「なんて顔してるのよ、一刀」
「姉さんが心配かけるからだろ」
一刀は目尻をぬぐいながらも明るい声で答えた。
「そうね、少し寝過ごしたみたいね」
皆の顔を再びみ、精一杯の笑顔で、
「皆、おはよう」
【孫策 end】
ということで23話でした。皆様いかがだったでしょうか。
雪蓮生きててよかったですね!
孫堅の性格ですが、悪戯っ子でポヤヤンな感じです。
でも戦場になると一気に雰囲気が変わり、敵には容赦ない鋭い…そんなイメージです。
話は変わりますが恋姫を作っている会社、BaseSonの新作が発表されましたね。
その名も「あっぱれ!天下御免」
戦国時代にタイムスリップする話かなって思っていたら、どうやら時代は現代の学園。
しかし、江戸の徳川幕府がずっと続いていたような世界観となっています。
登場キャラも江戸時代の人物をもじったような感じです。
なんだか百花繚乱みたい……
キャラクターを見て気になったのは、徳河詠美!
黒髪ネコ耳釣り目少女とポイントを突きまくりです。
そしてまさかの水戸黄門も女体化……
もう嫌この国(/_;)
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魏を追い返した一刀たち。しかし新たな選択に迫られます。
そして雪蓮の運命は?
では、どうぞ!