愛紗との戦いを終え、陣に戻る途中でユーリは
ユーリ「・・・いつまでコソコソしてるんだ?」
と、近くにあった岩場に向かい声をかけるユーリ、何の変哲もない岩場だがユーリの声に答えるかのように話し声が聞こえてきた。
孔明「はわわっ!ば、ばれてますよ、鈴々ちゃん!」
鈴々「えっ!えっと・・・にゃ、にゃ~ん、なのだっ。」
桃香「り、鈴々ちゃん、猫は『なのだ』って言わないよ~~」
(こいつら隠れる気あんのか?てか三人とも声がでけえっ!)
鈴々「しゅ、朱里!軍師なんだから何とかするのだ!」
朱里「は、はわわ!わ、私でしゅか~?え、えと、えとぉ~」
桃香「ふ、2人とも!ユーリさんこっちに来るよ~」
朱里「えと~、えと~、はっ!閃きました!」
鈴々「本当なのかっ!?」
朱里「はい!」
桃香「さっすが朱里ちゃん!で、で?どんな作戦なの?早くしないと~」
朱里「はい、ではまず鈴々ちゃんがこの岩場から飛び出しユーリさんの気を引きます。」
桃香「うん、うん、それで?」
朱里「その後、鈴々ちゃんにユーリさんが気を取られている間に――」
鈴々「間に?」
朱里「――私と桃香様が見つからない様に逃げ出します。」
鈴々・桃香・朱里「・・・・・・・・・・・・・・」
鈴々「何なのだーっ、その作戦は!?鈴々が囮になるだけじゃないかー、なのだっ!」
朱里「あはは・・・ばれちゃいました?」
桃香「ばれるも何も、何一つ隠してなかったよね、朱里ちゃん。」
ユーリ「あぁ、本当に何も隠せてなかったな。」
朱里・桃香「!!」
鈴々「そうなのだ!おにーちゃんからも言ってやって欲しいのだっ!」
朱里「あのー・・・鈴々ちゃん?」
鈴々「どうしたのだ?朱里?」
怪訝な表情で自分を呼ぶ朱里に疑問を浮かべる鈴々、そこへ
ユーリ「そうだな、鈴々の言う通りだ。」
鈴々「ほら見ろ、なのだ!鈴々の言うことに間違いはないのだ!」
桃香「り、鈴々ちゃ~ん・・・」
鈴々「?桃香おねーちゃんまでどうしたのだ?」
ユーリ「ホントにどうしたんだろうな、2人とも?」
鈴々「全くなのだ!そんなことよりも、おにーちゃんに覗いてたことがばれる前にここから逃げるのだ!」
ユーリ「へぇ、覗いてたのか。」
鈴々「そんなつもりはなかったんだけど、鈴々達が着いた時には2人が戦っていて声を掛け辛かったのだ!だから仕方なく覗いていたのだ!」
ユーリ「そうか、そりゃ悪かったな。」
鈴々「とにかく!おにーちゃんもおにーちゃんから上手く逃げれる方法を考えて欲しいのだ!」
ユーリ「・・・それは難しい注文だな。」
桃香「・・・朱里ちゃん。」
朱里「・・・何ですか?」
桃香「あれって鈴々ちゃんの作戦、なのかなぁ?」
朱里「いえ、残念ながら違うと思います・・・」
桃香「そうだよね・・・素直に謝ろうか?」
朱里「はい、そうですね・・・」
そんな呆れて見ていた2人の会話が終わるころ、ユーリの存在に気付いた(?)鈴々はその場を逃げ出そうとした所をユーリに捕獲されたところだった・・・。
桃香・朱里・鈴々「・・・ごめんなさい(なのだ・・・)」
ユーリ「いや、まぁ鈴々から事情は聞いたし別にいいんだけどな」
鈴々「じゃあ許してくれるのか!?なのだ!」
ユーリ「許すも何も元々怒っちゃいねぇよ、ただ愛紗の方は見られたくなかったんじゃねえか?」
桃香「そうですねぇ、まさかあんなに思いつめていたなんて・・・」
朱里「・・・」
ユーリ「ま、愛紗は気付いていなかったようだし、お前らから何も言わなきゃいいんじゃねーの?」
鈴々「そうなのだ!愛紗には秘密にしておくのだ!」
朱里「・・・」
ユーリ「その方がいいだろ、それよりそろそろ戻ろうぜ、愛紗が先に戻っちまうのも変な話だしな。」
桃香「そうですね、私もうおなかペコペコです~」
そう言って少し早く歩き出す桃香。
朱里「・・・」
鈴々「?朱里、さっきから何もしゃべらないけどどうしたのだ?」
朱里「!い、いえ何でもありましぇんっ!そ、それより、早く戻りましょうか。」
桃香「鈴々ちゃ~ん、朱里ちゃ~ん、早くしないと置いていくよ~」
鈴々「あっ!おねーちゃんずるいのだっ!朱里もおにーちゃんも早くするのだ!」
朱里「わ、私はゆっくり行きますから鈴々ちゃんは桃香様と先に食べていて下さい。」
ユーリ「オレもゆっくり行く、さっきの戦闘で疲れちまったからな。」
鈴々「わかったのだ!皆の分はちゃんと取っておくから安心するのだ!」
そう言って鈴々も桃香を追いかけて駆け足で陣に戻っていった。
必然的にユーリと孔明の2人で帰路に着くことになり、2人は並んで歩いていた。
(は、はわわ~!ユーリさんと二人っきりでしゅ!ど、どうしたらいいんでしゅか~))
心の中でも噛み噛みの孔明、最早計算としか思えない噛みっぷりである。
ユーリ「・・・孔明?」
孔明「は、はひっ!な、なんでしゅかっ!?」
ユーリ「・・・少し落ち着けって。」
孔明「は、はひ。だ、大丈夫れす。」
(全然大丈夫じゃねーな)
ユーリ「ま、いいや。んで、どうしたんだ?鈴々も言ってたがさっきから黙っちまって?」
孔明「あ・・・」
そう言うと何か考えるような顔で下を向く孔明。
そのままゆっくり歩き続けているが、ユーリもまだ答えない孔明に話しかけることはしない。
まぁ話したくないことなら別に構わなかったので、
そのことだけ言ってやろうと口を開こうとした時
孔明「あ、あのユーリさんは今この大陸がどういう状況に置かれているかご存知ですか?」
考えが纏まったのかようやく孔明が話しかけてきてくれた。
しかも、話し方はまだたどたどしいが、先ほどまでの噛み噛みではなく、きちんとした意志を持って話している様に思える話し方だった。
ユーリ「いや、聞いたかどうかは知らないがオレは『北郷一刀』と同じ国の人間だからな――」
孔明「あ、そのことについてはお伺いしています。その、ご主人様を助けに来てくれたっていうこともです。」
ユーリ「――そうか、まぁそういうわけで何も知らねーぜ。」
孔明「そうですか・・・実は今この大陸では漢王朝――あ、漢王朝というのはこの大陸を束ねている組織と思って頂ければ結構です――に対する大衆の反乱が頻発しています。
いつから、どこから現れたのかははっきりしていませんが、そういった人たちが集まり、一つの組織のようなものを作っているのです。
彼らはその所属を表すために、必ず体の一部に黄色い布を身に着けているのが特徴です。
最初は王朝に対する不満からの反乱の様相を呈していたのですが、規模が大きくなるにつれ、自分たちの欲を満たすため、そのほとんどが窃盗や略奪、凌辱などを行う賊と成り下がってしまったのです。」
ユーリ「・・・・」
突然の話しだったが、その内容と孔明の普段とは違う雰囲気に話しに聞き入るユーリ。
孔明「そして、王朝の圧政に耐えかねた人々が反乱を起こし、その反乱が善良に暮らす民の生活を脅かし、脅かされた民が賊の真似事を始める、という最悪な構図が出来上がってしまったのです。どうでしょう、ここまではお分かり頂けましたか?」
ユーリ「あぁ、にしても胸くそ悪い話だな。」
孔明「はい、そしてそんな状況を憂い立ち上がったのが桃香様なのです。」
ユーリ「桃香が?(・・・まぁエステルでも同じことしそうだがな、そう考えれば納得か)」
孔明「意外でしたか?」
ユーリ「ん、まぁ・・な。桃香にゃ悪いがそんな人物には見えなかったな。」
孔明「ふふふ、そうですね。確かに桃香様は武に優れているわけでも無ければ、知があるわけでもありません。ですが桃香様の理想、それは本当に理想にしか過ぎないのですが、私はその理想にとても尊い心を感じました。だから私は桃香様についていくことを決めたのです。」
ユーリ「いいんじゃねえのか?自分が信じれるものってのがあるのは。」
孔明「そう言ってもらえるととてもうれしいです。
さて、そこでユーリさんに一つ質問をさせて頂きたいのですが、よろしいですか?」
ユーリ「オレに答えられることならな。」
孔明「結構です、それでは。
私の先ほどの話――この大陸の現状について――を聞いて何を感じましたか?」
ユーリ「・・・さっきも言ったが『胸くそ悪い』だな、その漢王朝っていうのもそうだが、それで苦しい生活になったからって他人の生活奪ってまで生きようとする賊に成り下がったヤツらも含めてだ。」
孔明「・・・では、この状況を何とかする為にはどうしたらいいと思いますか?」
ユーリ「そりゃ・・・元を正すしかないんじゃねえのか?ま、そこまで腐ったモンをどうこう出来るとも思えないがな、いっそのこと全部壊した方が早いんじゃねえかとも思う。」
孔明「・・・では最後の質問です。
もしもの話ですが、ユーリさんが元からこの国の人間で、今この時代に生きているとしたら、この大陸の現状に対して何をしていましたか?」
ユーリ「・・・」
この質問に対しての答えを考えているとユーリはふと既視感に襲われる感覚がした。
そう、これは規模は違えどユーリが元の世界で直面していた問題と酷似しているのだ。
ユーリの世界では大規模に賊は発生していないものの、やはり一部の権力者たちだけが私腹を肥やし、下町に住んでいるような人間たちは苦しい生活を強いられていた。
そんな状況を憂いたユーリは親友のフレンと共に国の内部から変えていこう、と騎士団の門を叩いた過去があった。
しかし、その騎士団も一部を除き、権力者達と同様であったという現実を目の当たりにして騎士団を辞め、結局自分の出来る範囲で人々を助けることしか出来ていなかった。
なのでこの質問はユーリにとって『もしも』の話ではなかった、勿論孔明はそのことを知らないだろうが。
そんなユーリが出した答えは
ユーリ「・・・国を・・・変える」
それは一度選び、しかし逃げ、今も親友が歩き続けている道だった。
いや、やり方は違えどユーリが旅の後に選んだ選択も、その言葉に繋がっているのかも知れない。
しかし、ユーリはもう目の前の困ってる人達だけを助けて満足するような人物ではなくなっていた。
孔明「・・・国を、ですか?」
ユーリ「大げさな言い方だがな、そうしなきゃどうもならんだろ。ま、そのやり方とかは置いといてな。」
ユーリの答えを聞いた孔明は黙って頷き、また何かを考えているかの様に沈黙してしまった。
ユーリ「で?いきなりだったが、何の試験だったんだ、これは?」
孔明「あ、急にわけの分からない質問をしてしまって申し訳ありませんでした。
しかし、『天の国』『ご主人様の助け』『愛紗さんを超える武』これらの言葉を備えるユーリさんには是非聞きたかったことなんです。
大変失礼とは分かっているのですが、個人的にも、一軍師としても、どうしてもユーリさんがどういった方なのかを知りたかったんです。」
ユーリ「なるほど、ね。で?お姫様の満足行く結果は出ましたでしょうか?」
孔明の思いを知ったユーリだったが、いつもの軽口に戻り孔明に尋ねる。
孔明「は、はわわっ!お、お姫しゃまだなんて・・・」
その軽口に先ほどまでの威厳のあった孔明ではなく、鈴々達と一緒の時の口調(噛み噛み)に戻ってしまう。ついでにお姫様と言われたことに顔を赤面させ、また緊張してしまった。
孔明「すっ、すいましぇんっ・・・また噛んじゃいまひた・・・」
噛んでしまった弁明すら噛んでいる、このままいくと永遠に噛み続けることも夢じゃなさそうだ。
本当にそうなっては困るのでユーリは
ユーリ「だから落ち着けって、深呼吸でもしてみろよ。」
孔明「は、ひゃいっ!・・・すーはー、すーはー・・・」
ユーリ「落ち着いたか?」
孔明「・・・はい、すいませんでした。」
ユーリ「よし、んじゃ続きを。」
孔明「はい、ユーリさんの考えは内容こそ桃香様と違えど、その根っこは同じものだと感じました。・・・本当は桃香様のことを知らずに桃香様を助けて下さった時点で良い人だとは分かっていました。こんな時に一銭の特にもならないことをする人は中々いないですからね。
それでも軍師という立場上、簡単に信用するわけにはいかなかったのですが――今の話を聞いて確信しました、ユーリさんは信頼するべき人物だということを。」
ユーリ「また随分持ち上げられたもんだ。」
孔明「いいえ、そんなことありません。見ず知らずの桃香様を助け、負傷した人々の手当ての手伝いを申し出てくれて、初対面にも関わらず愛紗さんを叱咤してくれました。
こんなことはそうそう出来るものではありません、ですから・・・私も『真名』を預けます。
私の『真名』は『朱里』、桃香様率いる義勇軍の軍師を務めております。」
と、愛紗に続き孔明も『真名』を預けてきた。
正直、武を感じず、まだ幼い容姿の孔明をユーリは子供扱いしていた。
しかし、今行われた問答は決してそのような振る舞いを感じさせるものではなく、ユーリの認識を改めさせるのに十分だった。
だから、その程度の認識だった自分を少し恥じつつ、認識を改めた小さな天才に向かって
ユーリ「あぁ、こちらこそよろしく頼む、朱里。」
朱里「はいっ!」
そう返事をした朱里は、年相応のとても可愛い笑顔だった。
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孔明が真名を預けます。
きっかけは覗き見w
本当に早く一刀を出したい、そうしないとユーリがどんどん崩壊していく。
星辺りを絡ませればユーリっぽくなるかな・・・
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