第四話 ~~ただいま~~
――――――――――昔から、少しだけ不思議だった。
別に練習したわけでもないのに、運動会の徒競争はいつも一番だった。
誰に教えられたわけでもないのに、逆上がりも跳び箱も誰よりも先にできるようになった。
竹刀なんて持ったこともない俺が、学園の剣道部ではたったの一か月で敵なしになった。
勉強は人並なのに、なぜだか運動だけはどんなことでも得意だった。
だけど、それは考えてみれば当たり前の事だったんだ。
だって俺は・・・・・・・
俺は、あの関羽雲長の息子なんだから―――――――――――――――――――――――
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「・・・・・・・・・・・・・・」
俺は、自分でも驚くほど冷静だった。
ただ冷静に、よみがえった記憶を頭の中で整理していた。
まるで今まで記憶を失っていた事なんてウソみたいに、頭の中には今までの記憶が溢れ出しそうなほど詰まっている。
・・・・・ああ。
俺は今まで、本当にこんなにたくさんの事を忘れていたんだろうか。
優しくてカッコいい父さんの事。
強くて美人だった母さんの事。
そして、両親と同じぐらい大好きで大切な、妹たちの事。
どれも俺にとってはかけがえのない存在で、二度と失いたくはない宝物たち。
時間にすればほんの数秒だったのかもしれないけれど、俺はまるで一枚ずつページをめくるように、たくさんの記憶に想いを馳せていた。
「・・・あに・・・・うえ・・・・?」
いまだ壁に繋がれながらも、急に変わった俺の様子を見て、愛梨は少し固まったように俺の方を見つめていた。
愛梨・・・・・。
大切な妹との、八年ぶりの再会。
本当ならすぐに駆け寄って抱きしめてしまいたいけれど、どうやらそれはこの状況が許してくれそうにない。
「くっ・・・・・ちくしょう・・・・・」
ようやく痛みから回復したのか、さっき俺に吹き飛ばされた男は頭をさすりながらゆっくりと身体を起こした。
それを合図に、少しの間固まっていた他の盗賊たちも表情を険しくする。
「このガキ・・・・・・。 関羽の息子だと? 息子がいるなんて話聞いたことねぇぞ!」
「あいにく、少しばかり留守にしてたもんでね。 そんなことより・・・・・・」
そうだ。
俺が記憶を失っていたことも、それが今よみがえったことも今はどうでもいい。
それよりずっと大事な事は・・・・・・
「・・・・・お前ら。 よくも俺の妹に手出してくれたな!」
自分でも今までにないくらいに怒りがこみ上げてくる。
俺は右手に持った剣を強く握りなおし、盗賊たちに向けて付きつけた。
「兄上・・・・・」
「ケッ。 こうなりゃテメェが関羽の息子だろうがなんだろうが関係ねぇ。 野郎ども、やっちまえ!」
「「「オォーーーーーっ!」」」
まるでどこかのマンガの様な安っぽい台詞と共に、俺を取り囲んでいた二十人の盗賊が一斉に迫って来る。
だけど大丈夫だ。
さっきまでとは違い、俺の頭は冷静に動いてくれる。
「喰らわねぇよ・・・・!!」
俺は次々と振り下ろされる鉄剣を潜り抜けながら、盗賊たちにめがけて刀を振り抜いていく。
「「「ぐぁ゛・・・・!!」」」
今ので四人。
打ったのは刀の刃ではなくみねなので死にはしないが、盗賊たちは苦痛に顔を歪めて床に倒れこんだ。
さっきまでが嘘のように、身体が軽く動いてくれる。
母さんから受け継いだ武人の血が、俺に戦い方を教えてくれる。
「「「がはっ・・・・!!」」」
俺の刀の一振り一振りが、盗賊を打ち抜いていく。
この刀の銘は、『緋弦(ひげん)』。
昔の大陸を巡る争いの中で、父さんが使っていた刀。
使うのは初めてだけれど、この刀は俺の手にしっかりと馴染んでくれている。
だから桜花は、俺にこの剣を渡してくれたんだ。
帰ったらお礼を言わないとな。
それと、ちゃんと「ただいま」って言わなくちゃ・・・・・・・。
「「「ぎゃあ・・・・!!」」」
嬉しい誤算というか、どうやら俺の実力は自分で思ってた以上だったみたいだ。
いろいろな事を考えながら戦っているうちに、気が付けば俺を取り囲んでいる盗賊たちは、誰一人立ってはいなかった。
「くっ、ばかな・・・・・・」
残ったのは、親玉である大男一人だ。
男は床に倒れている部下たちを見渡しながら、焦りの表情を浮かべている。
俺はそんな男に剣の切っ先を向けた。
「あとはアンタ一人だぜ。 大人しく負けを認めたらどうだ?」
「ふざけんじゃねぇ! 誰がテメェみたいなガキに・・・・・・・!」
狼狽していた男は、ふと何かに気付いたように表情を変え・・・・・・
「きゃっ!?」
「愛梨っ!!」
男は壁に繋がれていた愛梨の鎖を手早く外し、後ろから首に手をまわして彼女の顔に剣を突き付けた。
「動くな! 可愛い妹の顔に傷が付くのが嫌なら、大人しく武器を捨てろ!」
「お前・・・・・・」
まったく、つくづく安っぽい悪役だな。
それにこいつ、一つ大事なことを忘れてる。
「どうした!? 早く武器を捨てやがれ! さもないとこの女が・・・・」
「お前・・・・・頭悪いだろ?」
「なに!?」
「一つ聞くけどさ、お前今までどうやって愛梨を捕まえてたんだ?」
「あ?」
どうやら男はここまで言っても気付いていないらしい。
今までこいつらが愛梨を拘束していられたのは、丈夫な鎖で縛りつけていたからだ。
なのにこの男は今、自分の手でその唯一の拘束を解いた。
つまり・・・・・・・
「!! しまっ・・・・・」
今更気付いたってもう遅い。
今男が得意げに人質に取っているのは、あの武神・関羽の娘だ。
「・・・・今まで、よくも好き勝手やってくれたな!」
「ひぃぃぃ!!」
「下衆め! そこで寝ていろーーーーっ!!!!」
“ドバキッ!!”
「げふぅ゛っ・・・・・・!!!」
愛梨の鉄拳一発。
さすがは関安国将軍。
青龍堰月刀無しでも、素手で男の巨体を吹っ飛ばした。
男は無様に右頬を腫らしながら、床に倒れこんだ。
なんというか、最後の最後まで安っぽい悪役だったな。
「ふぅ・・・・」
男を吹っ飛ばしていくらか気分が晴れたのか、愛梨は小さく息を吐く。
そんな彼女に、俺はゆっくりと歩み寄った。
「さすがだね、愛梨。」
「! あに・・・・北郷殿」
我ながら、もう少し気のきいた再会の台詞は無かったものかと思う。
愛梨の方も少し戸惑い気味で、俺を素直に兄とは呼んでくれなかった。
「傷つくなぁ・・・・兄ちゃんに対して北郷殿はないだろ?」
雰囲気を変えてみようと、少し冗談めかして笑って見せる。
「・・・・本当に、兄上なのですか?」
「ああ。 そうだよ」
やっぱりまだ少し不安と言うか、信じられないといった表情の愛梨。
無理もない。
つい数時間前まで、俺は彼女の傍に居ながら彼女の事を忘れていたんだから。
今更いきなり兄さんだって言われても・・・・・・・
「ぐすっ・・・・・・」
「へっ?」
あれ?
どんな言葉をかけようかと悩んでいたら、いきなり愛梨が泣き始めてしまった。
「ちょっと愛梨? ごめん、俺何か変なこと言ったか?」
「いえ・・・・違うのです」
あたふたと情けなく動揺する俺に気を使うように、愛梨は泣き顔を隠しながら恥ずかしそうに首を振った。
「その、嬉しくて・・・・・・」
「愛梨・・・・・・」
ヤバい。
すげー可愛い。
実の妹にこの感情はどうかと思うけどすげー可愛いぞ。
今すぐにでも抱きしめてしまいたいけど、俺はその気持ちを抑えて、愛梨の頭を軽く撫でるだけにした。
「愛梨、泣くのはもうちょっと我慢しないか?」
「へ・・・・?」
「城で桜香達が心配してるよ。 せっかく八年ぶりに会えたんだ。 どうせなら、皆でいっしょに喜ぼうよ」
「兄上・・・・・」
本当なら、俺だって今すぐに愛梨と再会できた喜びを思いっきり味わいたい。
だけど、今こうしてる間も城では桜香や他の妹達が俺と愛梨の無事を祈ってくれているはずだ。
なのに今二人だけで再会を喜ぶのは、さすがに悪いもんな。
それに愛梨の無事と、俺の記憶が戻ったことを一刻も早く知らせたい。
「帰ろう。 愛梨」
「・・・・・はい♪」
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「・・・・ふぅ。」
岩場の上に腰をおろして、少し気の抜けたように息を吐く。
ベンチ代りにしてはちょっと固いけど、これがヒンヤリとしてなかなか気持ちいい。
「フフ。 疲れましたか?」
隣の岩場に腰をおろして、愛梨が俺の様子を見ながら可笑しそうに笑っている。
ここは街からさほど遠くない森。
その中を流れる小さな川だ。
もはや日も沈み、月明かりだけに照らされた川辺は美しく、サラサラと水が流れる音も心地いい。
「ああ、少しね」
わざとらしく苦笑いを浮かべながら、愛梨に応える。
今この場にいるのは、俺と愛梨の二人だけ。
なんで二人きりでこんなところにいるのかと言うと、話せば長いんだけど・・・・・・・
愛梨と一緒に城に戻ってからは、本当に大変だった。
愛梨が無事だった上に、俺の記憶が戻ったと知った皆は大騒ぎ。
桜香には大泣きしながら抱き付かれるし、麗良と煌良はそもそも戻ってきた俺と会っていないから大慌て。
しかも、その場も落ち付かないまま流れで宴会に突入して、ついさっきまで飲めや歌えの大騒ぎだった。
ずっと愛梨と俺を心配をしていた気疲れもあったんだろう。
結局桜香たちは騒ぎ疲れてそのまま眠ってしまった。
それで今、城を抜け出して愛梨と二人で宴会の余韻に浸っていると言うわけだ。
「それにしても、今考えると不思議なものですね」
辺りを見回しながら、ふと愛梨がそんな言葉をもらした
「何が?」
「いえ。 昨日の晩、ここで兄上と会った時には本当に驚いたと言う話です」
「ああ、そのことか」
そう。
実はこの川辺は、昨晩愛梨と俺が出会い、俺が気を失った場所だ。
もちろんあの時は気付かなかったけど、今になってみればこの場所は良く知っている。
子供の頃、父さんや母さん、それに愛梨たちと一緒によく遊びに来た川だ。
「あの時はすごい美人がいてビックリしたよ」
「なっ・・・・! からかわないでください!」
俺がいたずらっぽく言うと、愛梨は顔を赤くして少し眉をつり上げる。
白い肌が少し赤く染まって、夜の闇の中で綺麗に映えているけれど、それを言うとまた怒られそうなのでやめておこう。
「さぁ、そろそろ行きましょう」
「ああ、そうだね」
照れ隠しか、少し焦った様子で愛梨は立ち上がり足早に歩き出し、俺もその後に着いて行く。
目的地は、この森の更に奥。
この川の下流の方だ。
実はこの森に来た理由は、ただ単に宴会の余韻に浸るためだけじゃない。
それよりももっと大切な目的がある。
この森はさっきも言ったように思い出の場所だけど、今から向かう場所はもっと別の意味で大切な場所だ。
俺たち兄妹にとってはだけど。
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「着きましたよ、兄上」
「・・・・ここか」
さっきの場所から数分あるいて、ここは川の下流。
小さな川は更に細くなって、水の流れる音も静かだ。
そしてそこには、俺の身長の半分ほどの岩がいくつか寄り添う様に並んでいる。
「どうぞ兄上。 この岩ですよ」
「ああ」
愛梨に促されて、並んでいる岩のひとつの前に立つ。
「・・・・ただいま、母さん」
ここに来たのは、つまりはこういう訳だ。
愛梨から話を聞いた時は、さすがに驚いた。
あの強かった母さんが、まさか病で亡くなっていたなんて。
母さんだけじゃない。
桜香の母親の劉備様も、麗良や煌良の母親も、他の妹たちの母親も、ここで眠っている。
俺の知らない戦乱の時代を父さんと共に戦い、父さんが誰よりも愛した仲間たち。
皆強く、優しく、いつも俺たち兄妹の事を気にかけてくれた。
「ごめん。 帰るのが少し遅れちゃったよ」
ばつが悪そうに頭をかきながら笑いかけても、母さんからの返事はない。
もちろん悲しいし、悔しくもある。
だけど、不思議と涙は出なかった。
今まで記憶を失っていたとはいえ八年間離ればなれだった母さんと、どんな形でもこうして再会できたことが、もしかしたら悲しい以上に嬉しかったのかもしれない。
「母さんは苦しそうだった?」
「いいえ。 とても安らかな表情で眠られましたよ」
「そっか・・・・・」
せめて苦しまずに済んだのなら・・・・・なんて考えること自体、意味はないのかも。
あの母さんの事だ。
きっとどんな最期だろうと笑って受け入れただろう。
唯一母さんの人生に後悔があったとすれば、それは最後まで最愛の人と再会できなかったくらいだろうか。
「あの・・・兄上。」
「ん?」
しばらく母さんと向かい合っていると、後ろにいた愛梨が遠慮気味に声をかけて来た。
「実は、ずっと気になっていた事があるのですが・・・・・」
「何だい?」
「父上は、お元気ですか?」
「!・・・・・・・・」
不意の質問に、俺はつい言葉を詰まらせてしまった。
そうだ。
俺はまだ大切なことを愛梨に伝えてない。
母さんよりずっと早く、父さんがこの世を去ってしまった事を。
「父さんは・・・・・」
「兄上?」
どう答えたらいいのか分からなかった。
愛梨がどんなに父さんの事を大好きだったのか、それは俺が一番良く知っている。
もし本当の事を知ったら、この場で泣き崩れてしまうかもしれない。
「元気だよ」と、笑顔で答えてあげるべきなのかもしれない。
だけど、それでいいのか?
いろいろな考えが頭の中をグルグルと回って口に出す言葉が思いつかない。
しかしそんな俺の答えを、愛梨は待ってくれなかった。
「・・・・・もう、いないのですね」
「えっ・・・・?」
しまったと思った時にはもう遅い。
愛梨の考えが当たっている事は、俺の反応が物語っていただろう。
「申しわけありません。 ただ、確認したかったのです」
「愛梨、どうして・・・・・」
「最期の時に、母上が言ったのです。」
――――――『・・・・これでやっと、あの人のところに行ける』―――――――――――――
「母さんが、そんなことを・・・・」
「きっと、母上には分かっていたのでしょうね。 離れていても、父上がもうこの世に居いないことが」
「そっか。 そうかもしれないね」
母さんなら・・・・・いや、母さんだけじゃなく、妹の母親たちも皆、それくらい感じていても不思議じゃないかもしれない。
母さんたちは皆父さんの事を心から愛し、父さんも同じように母さんたちを愛していた。
俺が言うのもなんだけど、父さんと母さんたちはこの世界で最高の夫婦だったんじゃないかと思う。
「兄上。 天の世界とこの世界とは、あの世では繋がっているのでしょうか・・・・」
「え?」
「できるなら、そうであって欲しい。 それなら、母上たちはこれからずっと父上と一緒にいられますから」
「愛梨・・・・・」
心からの言葉だっただろう。
そう言う愛梨の顔は、本当に優しく笑っていた。
「そうだね。 いや、きっとそうだ」
何の根拠も自身もないけど、笑って愛梨に答えて見せる。
もし本当に神様なんてものがいるのなら、どうかお願いしたい。
あれほど互いを愛し合いながら最期まで再開を果たせなかった父さんたちを、せめてあの世では一緒にいさせて上げて欲しい。
そんな事を考えながら、俺はあることを思いついた。
「そうだ愛梨。 ここに、一緒に父さんの墓も建てられないかな?」
「え?」
「からっぽの墓だけどさ、せめて形だけでも、父さんと母さんたちを一緒に居させてあげたいんだ」
「はい。 明日にでも、桜香に話してみましょう。 喜んで賛成してくれますよ」
「ありがとう」
俺の思い付きに、愛梨も嬉しそうに答えてくれた。
これで少なくともこの場所では、父さんたちは一緒にいられる。
「さぁ、そろそろ戻ろうか」
城を出てからもうずいぶん経つ。
街からそう遠くないとはいえ、これ以上遅くなる前に帰ろうと俺が歩き出すと・・・・・・
「あ! 兄上・・・・・」
「ん?」
後ろから愛梨に呼び止められ、足を止めて振りかえる。
すると愛梨は、顔を赤くして何か言いたそうにもじもじと落ち付かない様子だった。
「どうかした?」
「いえ、その・・・・」
何か言いにくいことでもあるんだろうか?
俺と目を合わさないように視線を泳がせている。
「一つ、お願いというか・・・・兄上にして欲しい事があるのですが・・・・・」
「いいよ。 なんでも言ってごらん」
八年ぶりに会った妹の頼みだ。
俺に出来ることなら何だってしてやろう。
「では、その・・・・・」
「ん?」
「・・・・・ギュッと、してください」
「・・・・・・・・・・・・」
「兄上?」
「ぷっ・・・・あっはははははは」
思いがけない愛梨のお願いに、思わず吹き出してしまう。
「あ、兄上! 何も笑わなくても良いではありませんかっ!」
そんな俺の様子を見て、愛梨は整った眉毛をつり上げて反論する。
「あはは、ごめんごめん。 別に馬鹿にしたわけじゃないんだ。 ただ、懐かしいなって思ってさ」
愛梨に言われるまで忘れていた。
“ギュッとする”のは、愛梨が子供の頃父さんによくしてもらっていた事だ。
愛梨が悲しくて泣いている時。
怒って拗ねている時。
どんな時でも父さんにギュッとされると、愛梨の機嫌はすぐに直った。
さっき父さんの話をしている内に、その温もりが恋しくなってしまったのかも。
「愛梨は父さんにギュってされるの大好きだったもんな」
「~~~~~~~っ」
いたずらっぽく笑ってやると、愛梨は反論もできないまま今にも泣きそうなくらい顔を赤くする。
これ以上いじめるのはかわいそうかな。
「いいよ。 おいで、愛梨」
「・・・・・・・はい」
優しく微笑んで両手を差し出してやると、愛梨も顔を赤くしたままおずおずと手を伸ばしてきて・・・・・
・・・・・ポス。
心地良い重みが、俺の胸に伝わってきた。
「大きくなったね愛梨。 母さんに良く似てる。」
丁度俺の肩ぐらいの高さにある愛梨の頭を優しく撫でつける。
母親譲りの黒髪は本当に綺麗で、撫でる手にサラサラとした感触が心地いい。
「兄上の方こそ大きくなられました。 父上にそっくりです」
心地よさそうに目を細めて、俺の胸に顔を埋める愛梨。
「大きくて、とても温かい・・・・・」
強く抱きしめれば折れてしまいそうな細い身体。
そこから伝わるのは、八年間忘れていた優しい温もり。
できることなら、このままずっとこうしていたいとさえ思った。
だけど・・・・・
「兄上・・・・・・・っ」
「? 愛梨・・・・・?」
突然腕の中から聞こえて来たのは、今まで心地よさそうにしていたはずの愛梨の震えた声だった。
「どうして、もっと早く・・・・帰ってきてくださらなかったのですか・・・・・・っ」
「愛梨・・・・・」
「私は・・・・今まで、ずっと・・・・・っ」
「・・・・・・・・・・」
俺はバカだ。
こんな簡単なことに気付かなかったなんて。
俺は、愛梨の事をもう昔の様な子供じゃないと勝手に決め付けていた。
父さんや母さんがいなくても立派に国を支えているんだと思ってた。
だけど違うんだ。
どんなに強く見えたって、愛梨はまだ十代の女の子。
俺がいた世界なら普通に学校に通って、友達と遊んで、おしゃれをして、それが当たり前の普通の女の子と何も変わらない。
それが両親を亡くして、寂しくないわけがあるものか。
父さんの事を知った時だって、本当は思いっきり泣きたかったはずなんだ。
そんな悲しみや憤りを、この子は今までずっと押し殺してきたんだろう。
残された妹たちと、この蜀という国を守るために・・・・・・
「ごめん・・・・って言っても、許されることじゃないよね」
俺の服をギュッと握りながら、腕の中で愛梨は細い肩を震わせている。
なんだかそれがとても愛おしくて、俺は彼女を抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
「今まで、良く頑張ったね愛梨」
「兄上・・・・・ぐすっ・・・・・・」
「そういえば、まだちゃんと言ってなかったね」
今日はいろんなことがありすぎて、結局言い忘れていた言葉。
本当は記憶が戻った時に、一番最初に言うべきだったのに。
「・・・・ただいま、愛梨」
なぁ・・・・・父さん、母さん。
もし天国で会えているなら、二人はきっととても幸せなんだろうね。
今まで会えなかった分の時間を、ゆっくり過ごして欲しいと思う。
だけどその幸せな時間のほんの合い間でもいいから、どうか俺たちの事を見守っててくれないか。
父さんや母さんが俺たちを守ってくれたように・・・・・・
これからは俺が、妹たちを守ってみせるよ――――――――――――――――――――――
キャラクターファイルNo,002
個人的に女の子はショートの方が好きなので、愛紗のショートバージョンということでこんなデザイン
になりました。
次はできれば桜香を書きたいと思っております。
ではまた次回 ノシ
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前回からだいぶ間が空いてしまいましたね 汗
今回の表紙絵ですが、わかりにくいですが左が主人公の北郷章刀で右が父親の北郷一刀です。
パソコンで着色するスキルもないので色鉛筆で 汗
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