第10話 暗雲
長安に到着した月たちを長安の民は歓迎し、受け入れた。長安は洛陽同様悪政が続き荒廃していたが「董卓様や天の御遣い様ならきっとよくしてくれる」と口をそろえた。
そして1ヶ月ほど経過した。
それに応えるように月や詠、一刀は政治、霞と華雄、恋、陳宮は軍事関係を担当し、長安はすこしずつ復興を進めていった。
また反董卓連合を破ったことで小さな諸侯たちが月の元に帰順。領地もすこしずつ増えていった。
そんななか長安の月たちのもとへ西涼からの使者が訪れ、衝撃的な情報がはいる。
「西涼の太守・馬騰死す」
そして・・・
「え、馬超が私たちに帰順したいといっている?」
詠が驚き使者に再度問いかける。
「はっ!亡くなられた馬騰様が遺言に『自分が死んだら董卓に降れ』と」
使者の言葉に詠は考えをめぐらせる。熟考に入った詠に代わり一刀が返事をする。
「そちらの要求はわかりました。ここまで長旅だったでしょう。すこし休んでいくといい」
一刀は近くにいた侍女をよび使者を休憩場に送らせる。
使者を送らせた後3人は執務室へ
「詠、そんなに悩む必要はないと思うよ」
まだ顎に手を当てて熟考してる詠に一刀はちょっと笑いながら話しかける。
「え?」
「馬騰本人とは会ったことがないけど、馬超とは何度か顔を合わせてる。彼女はどっちかというと統治者の器ではなく将軍の器だ。たぶんだけど馬騰は娘のことを思って俺たちに托そうとしてるんじゃないかな」
「ふむ・・・一刀がいうのにも一理あるわね」
「それにここから優秀な文官を西涼に送り、馬超を西涼の太守として残ってもらえばいい。西涼のことは彼らが一番分かってるし、これからの戦乱の世を考えると背後の憂いは消しておいたほうがいいとおれは思うけど」
「そうね、そうしましょうか。月。帰順を承認するって書簡を書いてくれる?」
「うん、分かった。いまから書くね」
詠と一刀が話している間もほかの書類に目を通していた月が書類の山から顔だけだして応える。なにかをずらす音が聞こえるから書簡を書くためのスペースをつくっているのだろう。
印を突く音が聞こえまた月は書類の山から書簡と顔を出した。その書簡を一刀が手を伸ばして受け取り詠に渡す。月が書いた書簡を一通りみた詠は「よし」とつぶやいた。
一刀が侍女を呼び先ほどの使者はどうしているかを聞くとやはり疲れがでたのか横になっているとのことだった。おきたらここに呼んでくるように伝えると侍女は執務室をあとにした。
月たちが玉座の間に戻って半刻もしないうちに先ほどの使者が現れ、詠がその使者に書簡を渡す。
「我々は西涼の方の帰順を認めます。このことを馬超さんにお伝えください」
月が使者の方に声をかける
「はっ!ありがとうございます!」
使者は一度礼をした後、玉座の間をあとにした。
使者と入れ替わるように兵士が玉座の間に入り報告する。
「報告します。北郷将軍にお会いしたいという者が城に来ておりますがいかがしましょうか?」
「え?月じゃなくておれに?朝廷の使者かなにかかい?」
伝令の言葉に心当たりがない一刀は伝令に問いかける。
「いえ、軍師希望で名を程昱と名乗っております」
「!」
―――程昱って曹操の下にいた軍師のはず・・・これが歴史を変えた影響か・・・
今度は一刀が熟考する形になった。そしてその様子を見ていた詠が一刀に話しかける。
「一刀?」
詠の言葉に我に戻った一刀は伝令に風をここに呼んでくるように伝えた。
風が玉座の間に案内される
「はじめまして、おれが北郷一刀です」
「はじめましてーお兄さん。私の名は程昱、字は中徳といいますです。」
「お、お兄さん?」
風の言葉に月と詠が冷たい視線を一刀に送る
―――痛い!視線が痛い!月さん、詠さん!その視線は人を殺せますよ!
「お兄さんはお兄さんなのですよーあと真名は風といいますので、風と呼んでください」
「真名ありがとう・・・じゃなくて!風さん?なんでここに来たの?」
「・・・・」
返事がない
「風さ~ん・・・?」
「グゥ・・・」
風に近づいた詠が一刀に振り返りつぶやく。
「一刀この子寝てる・・・」
詠の言葉に唖然としつつも一刀はこう叫んだ。
「起きなさい!」
「おおう、いやぁ~突然眠気が」
一刀の言葉におきたのか風が返事する。
「それで繰り返しになるけどなぜ風はここに来たの?」
今までふざけていた風の目が真面目な目になる。
「必死に体と心をすり減らしながら夜空に浮かぶ月を守ろうとしている人がいたからですよ。その人にすこしでも安息の風を吹かしてあげたいと思ってきたのですよ。こういえばお兄さんはわかるはずです」
一度その言葉を受けて目を閉じていた一刀が月に振り返った。
「風、君の想いは分かった。月、詠。風を仲間に入れたいのだけど許可してもらえないか?」
「一刀さんが認めた方でしたらかまいませんよ。風さん、私は董卓、字は仲穎。真名は月といいます。月とよんでください」
「ボクは賈詡。字は文和。真名は詠よ。一応ここの筆頭軍師をやってるわ。これからよろしくね。風」
このあと4人はその後の計画や推測について話し合い、その晩風の歓迎会を行った。
風が仲間になってから1週間が経過したある日の午後
「一刀はいったいなにをしてるのよ。午後から軍議をするっていったのはあなたじゃない。まったく・・・」
午後最初に反袁紹・袁術連合に関する軍議を行うためにほぼ全員が集まったが、一刀が姿を現さなかった。それからしばらく待ったがそれでも一向に来ないので月が玉座の間でお留守番するなか、ほかのメンバーで城の中を探していた。
「守衛によると城からは出ていないそうだし、一刀の部屋かしら?寝てたりしたらひっぱたくわよ」
詠はそういいながら城内の居住区にある一刀の部屋を目指す。
そして、一刀の部屋がある居住区についた詠は一刀の部屋の前で横になってる一刀を見つける
このときは寝てしまっていると思っていた詠。
「こら、一刀!起きなさい!午後の軍議が・・・一刀?・・・ちょっと一刀大丈夫!?」
詠が一刀の肩を触ると一刀は呻くような声を発し、そして体は異常な高熱を発していた。
咄嗟に異常事態と判断した詠が助けをもとめて叫ぶ。
「誰かある!」
その言葉に偶然見回りで通っていた兵士達が駆け寄る。
「どうしましたか賈詡様・・・っ!北郷将軍いかがなされた!」
「医者の手配と月たちに一刀の部屋にくるように伝えて!大至急!」
「はっ!」
そのうちの2,3人が駆け出していき、残った兵が一刀を背負い部屋に運び入れた。その間も一刀の様子は回復することもなく逆に悪くなっていっているようだった。
その間に恋、霞、風が一刀の部屋に飛び込んできた。
「ご主人様!」
「一刀が倒れてるって聞いたんやけど、ほんまかい・・・っ!一刀大丈夫か!」
「お兄さん!」
騒ぎ始める3人を詠は手で制する。
「静かにしなさい!あなたたちが慌てたら兵たちにもそれが伝わるわ!」
その言葉にすこし落ち着きを取り戻した風が詠に質問する。
「お兄さんはどこで倒れていたのですか?」
「部屋の前よ。最初は部屋の前で眠ってしまったのかと思って話しかけたんだけど様子が変で近づいてみたらこの状態だったのよ。」
「医者の手配はしたんか?」
「今日城の薬師は町に出てしまってるから兵に呼ばせに行っているわ」
その間に一刀の寝台の横に移動した恋が一刀の手を握る。
「ご主人様・・・」
その後月や華雄も合流したがあまり部屋に大勢いてもいけないということで部屋には恋、詠の2人が残り医者の到着を待っていた。その間、恋は布に水を浸して絞っては一刀の額に乗せ、ぬるくなるとまた浸して乗せるという作業を繰り返した。
「ご主人様・・・」
その様子を見ていた詠は今まで思っていて聞けなかったことを恋にたずねた
「ねぇ、恋。1ついいかしら?」
「・・・?」
突然の詠からの質問に恋は首をかしげる。
「恋の一刀への想いって主君への敬愛とか恋愛とはなにか違う気がするの。まるで一刀が消えるのを恐れている感じかしら?それをいままで恋を見て感じていたのよ」
「・・・恋、1度ご主人様を失った。もう2度と失いたくない。だから恋はご主人様のそばにいる」
「1度失ったってどういう・・・」
詠が恋に質問をしようとした瞬間に一刀の部屋の扉がひらき兵士が入ってきた。
「失礼します!五斗米道の華陀様をお連れしました!」
「病人がいるのはここか?」
部屋にはいってきたのは赤髪の青年だった。
「私はこの国の軍師で賈詡というわ。あなたが華陀?」
詠が青年に尋ねる
「ああ、『五斗米道(ゴッドヴェイドー)』の華陀だ」
「『五斗米道(ごとべいどう)』?」
詠が聞き覚えない単語を反芻する。
すると華陀が叫んだ。
「違う!ゴットヴェイドーだ!」
「え、ごっとべいどー?」
「違う!ゴット『ヴェイ』ドーだ!」
このまま無限周回に入ると直感した兵士が止めにはいる。
「華陀様!それよりも北郷将軍を!」
「おっと、そうだった。彼が噂の『飛将軍』北郷一刀か」
華陀が一刀へ向き、寝台に近づく。恋は華陀のために一刀の傍から離れて詠のとなりへ移動した。
そして華陀は氣を込めはじめる・・・
「よし、それではいくぞ。はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
―――なにをしてるのかしら?
その様子を見ていた詠の率直な感想。
「なんだ・・・これは・・・この男なんて無茶を・・・」
華陀が驚きの声を上げる。
「華陀、一刀はどうなの?」
詠が驚愕している華陀に話しかけるが華陀はその言葉を無視して診察をつづける。
「この病魔のもとはどこだ・・・これか・・・違う・・・これか!」
そう叫んだ華陀は懐から金の鍼を取り出し、氣を込める。
「我が身、我が鍼と1つなり!善利益・注理薬・威禍消離厄!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
という叫びのもと一刀の右胸に鍼を打ち込んだ。
「治療完了・・・!」
華陀が一刀から離れ、治療の様子を見ていた恋・詠に振り返る。
「華陀、一刀の容態はどうなの?」
詠が再度呼びかける。
「一応病魔、いや北郷の場合は負の気を発しているところは打ち砕いたが・・・北郷の体の中は今、過労と無茶な運動による負担でボロボロになっている。北郷の体付きから考えて元々ここまでの武力はもってなかったのにもかかわらず自分の体に限界以上の負荷をかけて急速な成長をしてきたようだな。そして噂通りならば、常になにかしらと戦っていたと聞いている。それが原因で修行でできたその負荷を回復する時間も心の余裕もなかったはずだ。しかし最近になってやっと少しの間戦いから離れたために心の緊張が解けてしまい、いままでの負担が一気に体にきたのだろう。」
華陀の診断を聞きながら詠は整った寝息を立てている一刀を見る。恋はいまにも泣きそうな顔で一刀の左手を握っている。
「華陀、このあとはどうすればいいの?」
「体の負担はかなり溜まっているようだから、しばらくは安静にさせるべきだ。体の負担を軽減させるツボもすでに撃ってはあるが、一応しばらくの間オレもここに留まって様子を見よう。」
「そう、ありがとう。華陀。あなたの部屋をすぐに用意させるわ。あとなにか必要になったら城の薬師に言って頂戴」
そして詠は侍女を呼び出し、華陀のための部屋を用意させる。詠が侍女と話している間に華陀は恋に話しかける。
「君がもう1人の『飛将軍』呂布さんかい?」
「・・・・(コクコク)」
「北郷は心も体にも大きな疲れを持っている。体の疲れは安静にしていれば治るが心はそうはいかない。だが、そのように手を握っていてあげるのが心の疲れには一番効果がある。時間があるときで北郷が休んでいるときは手を握ってあげるといい」
「!・・・(コクコクコクコク)」
華陀の言葉に恋は何度も首を縦にふる。
華陀に詠が部屋の準備ができたと伝える。
「それじゃあ、おれは一度出よう。北郷になにか起きたらよんでくれ」
「繰り返しになるけどありがとう。華陀。一刀を救ってくれて・・・」
「おれは医者として当然のことをしただけさ」
と言い残すと華陀は侍女の案内で部屋を出て行った。
その途中華陀は心のなかでつぶやく。
―――あの2人にはいわなかったが、北郷の体にはおかしな部分がある・・・本人が目を覚ましたら聞いてみるとしよう・・・
華陀の診断が終わった後、月、風、霞、華雄、ねねが一刀の部屋にもどってきた。彼らがいうには軍部の仕事は各小隊長、政務は文官達が口をそろえて
「きょうは私達にまかせて、北郷将軍の傍にいてあげてください」
と言ったそうだ。
その後一刀の部屋でみなは雑談や食事をしながら一刀の目覚めを待った。
結局一刀が目が覚めたのはその日の深夜だった。
「う・・・ここは・・・オレの部屋・・・?ああ、そういえばあの時軍議にいこうとして突然眩暈に襲われたんだっけ・・・そのあとの記憶がない・・・」
とそこまでいってなにかの部屋や寝台に違和感を感じて、上半身を起こし目が暗闇に慣れるのを待つと・・・
「え・・・なんだこれ・・・」
一刀の左手を恋が握り締めた状態で寝台にもたれかかるように寝ていて、ねねはその恋にもたれかかるように寝ている。
机には月と詠が腕を枕に寝息を立てて、霞と華雄は床にゴロンと転がるように寝ている。
風は窓際のいすにすわり壁にもたれかかって寝ていた。
「みんな、おれを心配して来てくれたのか・・・?」
そう小さくつぶやくと不意に声をかけられた。
「おおぅ、お兄さん起きたのですか」
「風、起こしちゃったか、ごめん」
「みんな心配したのですよ?お兄さん」
「疲れが出たのかなぁ、まだ鍛錬がたりないっぽいね。アハハハハハ」
と一刀が苦笑いを浮かべると風がジト目で一刀を睨んだ。
「お兄さん、それ本気でいってますか?それだと風怒りますよ?」
「え・・・」
「お兄さんがいまそこまで回復できたのは華陀さんのおかげなのです。そして風たちは華陀さんからお兄さんの体の状況を聞いているのですよ」
―――華陀が診察したのか・・・
「お兄さんの体はもうすでにボロボロの状態。この1週間お兄さんをよく見ていてたまに顔をしかめているのを見ましたのです。あのときには体に痛みを伴ってはいたのではないのですか?」
「!」
―――さすがはあの曹操に仕えていた程昱といったところか・・・気づかれるとは・・・
「その様子だと自覚があったのですね・・・まったくお兄さんと来たら・・・」
風は棒付き飴を口にくわえて呆れ顔で答えた。
「すまん・・・」
風は飴を頭に載せてある彫刻(宝慧)に持たせて一刀の傍にいき、一刀を寝かせつつ右手を取り両手で握った。そして風はやさしい声で一刀に話しかける。
「お兄さんココにいる人たちはお兄さんを慕っている仲間なのですよ。そして風もお兄さんのことが好きなのですよ。だからこそお兄さんはいなくなったらダメなのです。みんなを守りたいというお兄さんの気持ちはわかりますけど、もっと自分を大事にしてください。お兄さんがいるだけでもみんながんばれるのですから・・・」
その風の言葉は一刀の心に響いた。そして無意識に涙を流す。
「お兄さんはいままでがんばりすぎたのです。いまはゆっくりやすむといいのですよ」
「そうさせてもらうよ・・・おやすみ風」
そういって一刀は瞳を閉じた。まだ疲れがあったのだろうすぐに一刀は暗闇の世界にはいっていった。
「おやすみなさい・・・お兄さん」
整った寝息を立て始めた一刀の髪を撫でながら風も布団にもたれるように睡魔に身を任せた。
はい、どうも。作者です。気がついたらもう10話まで来てしまいました。これも皆様の御愛顧のおかげここで再度お礼申し上げます。
序盤に翠が董卓軍に帰順するというところから始まり、風が仕官するのが今回のお話の序盤。
風は個人的恋姫ランキング。恋、詠に続く第3位です。異論は認めるがこの気持ちを変えるつもりは毛頭ない(`・ω・´)キリッ!
そして医者王華陀の登場。今回華陀が鍼をうつときに叫んだこのセリフ
「我が身、我が鍼と1つなり!善利益(ぜんりゃく)・注理薬(ちゅうりゃく)・威禍消離厄(いかしょうりゃく)!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
真・恋姫無双をプレイしたことがある方はご存知と思います。漢√「不死身の悪龍を打ち破れ!」後半から蓮華につかったときのものをそのまま引用しました。
恋姫無双をやったことがない人は↓のURLに動画がありますので見てみてください。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm6769500
華陀のあの熱いセリフは大好きなので定期的に登場する予定です。
続いて今回の話の軸として一刀が倒れます。
いままでほぼ無敵の一刀でしたが、それ相当の代価を払っているというのを描きたかったのと将来的に重要になってくることを含ませました。
いままでの戦闘やのんびりパートとは違いシリアス展開に挑戦してみましたが。、いかがでしたでしょうか?
次回は本編ではなく第10話を記念しての外伝の予定です。お楽しみに。
では次回お会いしましょう。
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長安に入った月や一刀。そして新たに合流する仲間。月たちは束の間の平和を楽しんでいたが、一刀の身に暗雲が立ち込めてきていた・・・
作者)
第10話外伝は7月17日投稿予定