No.227333

『舞い踊る季節の中で』 第117話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 曹操の砦を次々と突破する袁紹軍。
 被害を出しながらもそれなりに順調な進軍に麗羽達は……、
 そして決戦が行われている地とは掛け離れた場所で、一人の少女は決意を決めて、深夜に彼の天幕へと一人訪れる……。

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2011-07-10 16:35:16 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:12899   閲覧ユーザー数:8832

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√ 第百十七話

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   ~ 春の香りに華麗に舞う命の姿に、悲しき詩を詠む ~

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、太鼓、

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

 

 

 

 

斗詩(顔良)視点:

 

 

「敵影を前方に確認。 旗は曹、夏、郭の三つ」

「そうですか。では何時もの通りに負い散らかして、華琳さんに無駄な抵抗だと教えて差し上げなさい」

 

 伝令兵の言葉に麗羽様が、優雅に対応して見せています。

 その心の内に一行に決着のつかない苛立ちと不満を隠して……。

 白馬の城と幾つかの砦をそれなりの被害は出したものの、想定していたより遥かに少ない戦死者で突破した私達でしたが、曹操さんは毅然と徹底抗戦の構えを崩していません。

 荀諶ちゃんと沮授君が言うには、野戦においてはその殆どが歩兵である私達の軍を、騎馬を主体とした曹操さんの部隊が一撃離脱を細目に仕掛けて、此方が部隊を分けて包囲する陣を轢かせるのが目的との事。

 そのため、苛立ちや隙を誘うための攻撃だから、間違っても単独で突撃を仕掛けたりしないように文ちゃんが注意されていました。

 

 本気の攻撃では無い証拠。

 それは起きた戦闘の規模の割に怪我人は多くても、戦死者は少ないとの事でした。

 これは相手を殲滅する事より、相手の陣形を崩し冷静さを奪うのが目的としたため、騎馬の突撃力を生かし過ぎているためとの事。

 突撃が早すぎて此方の兵士を狙い付ける事が出来ずに、適当に剣や槍を振るった先に此方の兵士が居ただけの事。そんな剣や槍では死人も出ますが、相手を殺す事も出来ない半端な攻撃にしかすぎません。

 むろん馬に跳ねられたり、踏まれたりして死ぬ兵士も多々いますが、衝突の規模や回数からしたら兵士の錬度を差し引いても少ないと言えます。

 ならば慌てず騒がずに、当初の計画通り【無策の計】を貫くのが良いと二人は言ってますし、私もそう思います。

 

「これ見よがしに見せつける曹操の頸を討とうとは思わないで、陣形を保つ事を死守なさい。

 そうすれば数は此方が圧倒的に上なんだから、敵は勝手に自滅して行くわっ!」

「……袁家の兵士達よ。 我等は勇猛果敢は求めない。 ただ一兵士として己が仕事を果たせ」

 

 荀諶ちゃんと沮授君の指示と鼓舞が戦場に響き渡ります。

 死にたくなければ、必要以上の仕事をしない事だと。

 敵を、ただ数でもって踏み潰せと。

 

「報告っ! 西より新たな敵影を確認」

「其方も今まで通りの対応をお願いします」

 

 新たな伝令の言葉に、私は二人の軍師を通すことなくそう指示を与えます。

 この二人ならば、間違いなくそう指示すると分かっていますから。

 この大軍を手足のように扱うこの二人に、これ以上負担を掛けないように、分かりきった答えはこちらでするのは当然の事。

 そして此方の様子を、次々と指示を飛ばしながらでも聞いていた荀諶ちゃんは、視線を此方にやっただけで、何も言わずにフンっと鼻を鳴らしながらも、他の指示を飛ばしている事から、此方の事を荀諶ちゃんなりに信頼してくれているんだなぁと思うものの。

 ああ言う所を素直に表せないから、沮授君との仲も一向に進展しないんだろうなぁと苦笑を浮かべてしまう。

 ですがそんなやり取りも。

 

「敵陣営の旗は、夏、許、典、そして曹です」

「「「なっ!」」」

 

 伝令兵の続く言葉によって、一瞬で緊張が走ります。

 【夏】は分かる。 夏侯姉妹は有名ですから、同じ牙門旗があるのは当然。

 どちらかが夏侯惇さんで、どちらかが夏侯淵さんと言うだけの事。

 【許】と【典】は曹操さんの親衛隊長である許緒さんと典韋さん。

 ならば新たに表れた【曹】の牙門旗はいったい誰の?

 その場に居る誰もが、遥か前方の方に見える混戦の中に在る人影を凝視する。

 

「金髪の巻き毛、小柄な体格で真っ平らな胸、 ついでに特徴ある鎌状の槍」

 

 誰の声かは敢えて言いませんが、遠目にも確かに曹操さんと分かる特徴を述べる声が聞こえます。

 舌戦の時に見せた胸はやはり詰め物だったらしく、今はその面影はありませんが、間違いなくあれは曹操さん。 ですが……。

 

「その姿は金色の髪を空に舞わせ。 その小柄な体そのままの細やかな胸。 そして死神の鎌を持ち我等の兵士の命を次々と狩り獲って行っています。 何よりその身体から発せられる覇気の前に、混乱の輪が広まっています」

 

 伝令兵の告げる言葉が、影武者と言う考えを否定する。

 曹操さん程の特徴ある人間が、二人もいるとは考えにくいです。

 しかもそれが覇気を携えてとなると、余計に影武者とは考えられません。

 ならいったいどういう事?

 

「顔良さん。言わなくても分かりますわね」

「はい、行って確かめた上で兵の混乱を収めて見せます。 文ちゃんにも伝令を走らせます」

 

 私の疑問は、そのまま麗羽様の疑問となり答えを見つける。

 今は此処で憶測を立てていても仕方のないと言う答えを。

 

 

 

華琳(曹操)視点:

 

 

「でぇぇーーーいっ!」

 

 ざしゅっ!ざしゅっ!

 

 気合と共に横に振るう鎌は、敵の突き出す槍を巻き込みながら、敵兵の手首諸共その頸を刈り取る。

 その勢いは横に居た兵士の視力を奪い、新たな敵の鮮血を宙に舞わせ、地に吸い込ませてゆく。

 今のは危なかった。 後ろからの秋蘭の支援の矢が無かったら殺られていた。

 もっとも、あれくらいならば秋蘭なら何とかしてくれると言う自信はあったのだけど、冷や汗を掻くのは別の問題と言うもの。

 

「はぁ、はぁ、季衣、流琉、足を決して止めるなっ!」

「「はいっ!」」

 

 左右に己が足で駆けているにも拘らず。馬の歩みについてくる二人と周りの兵士達に、私は息を乱しながらも決して弱気を見せずに鼓舞してみせる。

 それにしても、ギリギリまで命を敵の槍に晒しているとはいえ、此処まで体力と精神力が削られるだなんて、少し武人として鈍ったかもしれないわね。

 でも私は御旗故に、たとえ疲労していようとそんな無様な真似は見せられない。

 敵の剣と槍の自らを矢面にさせてこそ、この策の成功率が上がると言うもの。

 ……ならば、私はその役目を果たすのみよ。

 それがあの娘のために、姉としてできる私の示し方。

 今の私以上に敵の槍に、その命を晒されているあの馬鹿な娘の信頼を裏切らない道。

 どんな艱難辛苦な道だろうと、覇道でもって民を導いて見せる事こそ我が生きる意味。

 

「我は曹孟徳!

 我が覇道を立ち塞く愚か者よ、その命を大人しく差し出すがよい!

 これは慈悲であるっ!」

 

 

 

春蘭(夏侯惇)視点:

 

 

ぎぃーーーっん!

ざぐっ

ざしゅ

 

「ぐわぁぁーーっ」

「腕が、俺の腕がっ」

 

 突き出される槍を纏めて薙ぎ払ったついでに、何人かの敵兵の手を斬り落としたようだが、私は構わず敵陣の中へと騎馬を進める。

 何度、稟の指示のもと突撃と離脱を繰り返しただろう。

 騎馬の突進力を活かしたこの戦法は、突撃の勢いを殺しては意味が無くなるため、敵の陣形の薄い所狙って只管敵兵を削って行く作業。

 本来であれば、もっと敵陣形の分厚い所を狙って行きたい所だが、今回ばかりはそれをする訳にはいかない。間違ってもここで【曹】の牙門旗を折られる訳にはいかないからだ。

 

「香燐(曹洪)。まだいけるか」

「はぁ、はぁ、はぁ、……あ、…当たり前でしょ。それに今の私はお姉ちゃんよ。

 春蘭。貴女はお姉ちゃんに…はぁ、はぁ、そんな心配するの? むろんしないわよね。

 はぁ、はぁ、はぁ、……それに、私だってやればできるんだから!」

 

 もう一刻以上も休みなく騎馬を駆けさせながら槍を振るい続けていると言うのに、私の言葉に大きく息を乱しながらも気丈にも応えてくる。

 そしてその言葉を証明するかのように、その手に華琳様の武器を模した双頭の鎌でもって、突き出された敵の槍をその鎌で薙ぎ払い。ついでその反対側の鎌で敵の両の腕を敵兵の悲鳴と共に空高く舞い上げてみせる。

 華琳様によく似た顔の下から覗かせる強い眼光に、流石は華琳様の従妹で曹の名を許されているだけの事はあると笑みが浮かんでしまう。

 

「そうか、ならば今迄のような遠慮は無用だな ついて来い」

「ちょっ、今までので遠慮って!」

「春蘭殿、まさかっ! ……いえ危険ですが、好機か」

 

 敵は戦場に二人の華琳様の部隊の出現に混乱をし始めている。

 ならばやる事は一つ。

 混乱する敵に一息付けさせるまもなく強烈な痛撃を与える事によって、更なる混乱を生ませるのみ。

 

「敵中央近くを駆け抜けるっ!」

「お姉ちゃん、こんな猛獣どうやって抑えたらいいのよっ。 ええい、もう自棄よ自棄っ!

 我は曹の牙。 我等が進撃を止めれるものなら止めて見よっ!」

 

 前以上に腹が据わったのか、横から伝わる気迫に口元が緩みかけた時、私の勘がとっさに剣を上げる。

 

「なら、アタイが止めてやるぜっ!」

「きゃっ」

「くっ!」

 

 振るう者の身体を隠しきるほどの巨大な剣【斬山刀】が、我が剣【七星餓狼】に止められながらもその巨大な剣の質量と飛び込んできた勢いを利用して、香燐を共に受け止めている鎌ごと叩き斬ろうとする。

 くっ、こやつ何処からこんな力をっ!

 

「ぐのぉぉおおおおおおおおっ!!」

ぎぃーーっんっ!!

 

 裂帛の気合いと渾身の力でもって何とか弾き飛ばすが、香燐の鎌の柄は折られ。

 私は無理な姿勢で剣を放った事もあり、右腕に痺れが走る。

 生じた痺れは一時的なものだと躰が教えてくれるが、同時にすぐさま戻るものでもなく一呼吸以上反応が遅れるとも教えてくれる。

 

 

 

 

 ならば左手を主に変えるのみと、剣の握り直しながら。

 

「今のは本気で焦ったぞ文醜」

「高覧の馬鹿力を上乗せした今の一撃を弾くだなんて、どんだけ化け物なんだよ」

「春蘭殿、動きが止められました。 このままではっ!」

 

 高覧と呼ばれるこの間の鎧女に今度は己を投げさせ、己をただ一条の剣と化しながらも我が剣の前に弾き飛ばされた文醜は、それでもしっかりと両足で着地しながら不敵な笑みを浮かべ。それに応えるべく私の背後から稟の焦る声が聞こえる。

 確かに再突撃しだした直後とは言え、騎馬隊である我等の足を止められたのは痛い。

 幸い稟が機転を利かせて、騎馬隊で小さな円を描く様に走らせながら袁紹軍を牽制しているとはいえ、このまま小競り合いをしていては、致命的になりかねない。

 

「分かっている。目の前の敵を蹴散らかした上で、再突撃すれば何の問題もないわ」

 

 私の言葉と共に陽炎のように立ち上がる気迫を前にし、文醜は前回と違い楽しげな笑みを浮かべる。

 

「えへへっ。分かってるんだぜ。 右手痺れて使えないんだろ。 それにそっちの娘。遠目では分からなかったけど、初めて見る顔って事は、こっちの曹操は影武者と言う訳か。 こりゃあ裏を掛かれたな」

「ほうー。見抜いた事は褒めてやるが、それで我が剣に敵うと思っているのならば、この夏候元譲も舐められたものだな」

「はっ、まさか。 アンタは正真正銘化け物で、今の状態でもアタイより上だって分かってるさ」

 

 その巨大な剣をまるで普通の剣のように、まっすぐと正眼の位置で剣を構え。油断なく私を見据えながら。

 

「……でも、決して届かない高さでもないって分かっちゃうんだよね」

 

 なるほど、そう言う事か。

 大馬鹿だとは思っていたが、先程の一撃といい、この状況下での不敵な考えといい。

 此処まで無茶な馬鹿となると、いっその事、心地が良い。

 

「二十回やって一回勝てるかどうかと言う所と私は見たが、……それでもやると言うのだろう」

「あったりまえだ。その勝率だからこそ燃えるんだよ」

「己をより高みに上げるのに、ちょうど良い相手と言う訳か。

 ふはははっ、面白いっ! つき合ってやろう。 そして我が一撃の前に、己が無力を知るがよいっ」

 

 私と文醜の一騎打ちを取り囲むように姿を現した歩く鎧こと高覧に対して、香燐が折られた鎌の代わりに本来の己が獲物である【回転慙愧】を取り出し、其処に付いた小さな刃の塊を音を立てて回転させ始める。

 真桜の【螺旋槍】と同じ仕掛けで動くそれの前にはどのような獲物であれ、鎧であれ削り取られる凶悪な武器。

 …もっとも、真桜同様"氣"を大量に使うので、長時間戦うには不向きと言う欠点を持っていたりする。

 そして、同じく姿を現した張コウが率いる部隊が、互いにこの一騎打ちを邪魔が入らぬ様、稟が率いている我等が部隊を牽制しながら削り合う。

 すまんなっ。だがすぐに終わらせる。

 

「来いっ!」

「へへ~っ、行くぜぇっ」

 

 我が気迫に押される事なく、その巨大な剣を振り下ろす文醜。

 その重い一撃を、殆ど左手一本で受け止めながらも、剣を押し返し我が一撃を振るう。

 剣だけではなく、拳も、脚も、そして体当たりも使ったお互いの攻撃は、当初予想していた攻防の数をとっくに超えて今に至る。

 

「えへへっ。楽しいなぁ~。 やっぱり戦いってのは、こうなくちゃねぇ」

「ふっ。 興が乗れば乗るだけ、一撃が重くなり鋭くなるとは、何処までも巫山戯た奴だ」

 

 一撃受ける毎に、敵の攻撃が重く鋭くなるのが分かる。

 一撃受けられると毎に、身体が浮かなくなり、力を貯められるようになるのが分かる。

 攻防の一瞬一瞬でもって、敵が成長するのが良く分かる。

 これで楽しくないと言ったら嘘になる。

 例え、まだ私に遠く及ばない相手であろうともな。

 だが……。

 

「悪いが此処までだっ!!」

「なっ」

 

 相手の巨大な剣の間合いを、溜めに溜めた"氣"と膂力でもって一気に間合いを削る。

 右手が使えない分、その全てを脚に使った事で、文醜の一撃が力の入りきらない攻撃の内側に入る事の出来た私は、そのまま文醜の剣を下から払い上げるように、そのまま文醜に突進した勢いと全ての力をぶつける。

 

 どがっ!

 

 我が剣と体当たりにの勢いに負けて、受けた剣ごと空に飛んだ文醜は、そのまま受け身を取れないまま地面に背中から叩きつけられる。

 文醜。その勇猛さは買うが、我が前に立ちはだかるには、その牙はまだあまりにも小さすぎる。

 我が一撃の衝撃に、フラフラになりながらも立ち上がろうとする文醜に、私は足を歩め剣を真っ直ぐと横に構え。

 

「終わりだ」

「くっ」

 

ひゅっ!

 

「……ぐ……っ!」

 

 文醜にまっすぐと突き入れる我が剣は……。

 風切り音と共に突然襲った痛みと暗闇によって、その軌跡を大きく外す。

 

 

 

 

「春蘭っ!」

「春蘭殿っ!」

 

 暗闇と大きく歪む視界の中、香燐と稟の声が聞こえる。

 だが脳髄が焼けるような熱さと痛みに、私は絶叫を上げてしまう。

 

「…………ぐ……くぅぅ…っ!」

「ちょ……っ!?」

「ぐ………あああああっ!」

「くっそぉぉ……っ! 誰だ! アタイの一騎打ちに水を差す馬鹿は! 出て来やがれ!」

「わははははっ! 敵将夏侯惇を袁家の将、麹義が討ち取ったりーーーーっ!」

「てめぇか、このくそ爺っ! 一騎打ちを邪魔して恥ずかしくねえのかっ!ああっ!」

「黙れ小娘っ。 今、儂に弓によって命を助けられた事に感謝すべき言葉も忘れるとは、それでも礼節を重んじる袁家の将が一人か。

 だいたいどんな手を打とうと勝てばいいのよ。 一騎打ちなど馬鹿のやる事だ」

「てっめぇっ!」

 

 真っ赤に焼ける鉄の棒を、頭の中に入れられたような痛みの中に、そんな醜い言い争いの声が聞こえるが、そんなどうでも良い事。くっ、このままでは・。

 混濁する意識と思考の中、凛とした声が響き渡る。

 

「春蘭殿っ! しっかりなさってくださいっ!

 貴女は何ですか! 華琳様の何なのですか!」

 

 そうだ、私は魏武の大剣。

 華琳様の盾であり矛。

 華琳様の歩まれる覇道を梅雨払いすべき誇り高き大剣。

 我が剣が折れると言う事は、華琳様の矛が折れると言う事!

 ならばその大剣が、このような事で折れて良い訳があるかっ!

 

「ぐああああああああああああ……っ!」

 

 痛みを吹き飛ばすかのよう名裂帛の気合いでもって、突き刺さった矢を引き抜く。

 

 ごぼっ!

 

 そのあまりの痛みと、同時に大きな何かを引き裂くように抜く痛みを、気合の声と共に吐き出す!

 弱気を見せるな! 敵に弱気を見せたら付け入られるだけだ!

 

「……天よ! 地よ! そして全ての兵達よ! よく聞けぇい!」

 

 ならば、見せつける!

 弱ってなどいないと!

 この程度の事など、我等が障害にすらならぬと!

 

「我が精は父から、我が血は母からいただいたもの!

 そしてこの五体と魂、今は全て華琳様のもの!

 断りなく捨てるわけにも、失うわけにもいかぬ!」

 

 そう、私の全ては華琳様のもの。

 故に勝手に死ぬことも、倒れる事も許されぬ。

 私が華琳様に永遠の忠誠を誓うのならば。今こそ、その証を立てる時ではないのか!

 

「我が左の眼……永遠に我と共に共にあり!」

「夏候惇………!」

「んっ、んぐ……ぐっ……がは……っ!」

 

 突き刺さった矢ごと抜き取った眼球を、口を一杯空けて飲み込む。

 流石に噛み潰す事を躊躇った私は、我が信念を飲み込むように、そのまま嚥下するには大きすぎる眼を、それでも無理やりを嚥下する。

 そして滲む視界の中で、全ての兵を地面の上から見下ろす。

 魏武が大剣、夏侯元譲此処に在りと。

 

「春蘭殿、大丈夫ですか」

「……大事ない。私がこうして立つ限り……戦線は崩させん」

 

 稟の言葉に、私を叱咤激励してくれた礼は戦線で返すと視線で返しながら、改めて前に立つ文醜を見る。

 今度は先程のような油断はしない。

 いや、あのような醜態は二度としてはならない。

 

 

 

 

「水を差されたが……待たせたな。 さぁ、一騎打ちの続きと行こうではないか」

「へへっ、あんた狂ってるねぇ」

「フン、まさか怖気づいたか」

「それこそまさかさっ。 生きて修羅と戦えるだなんて機会を、そうそう見逃せれるかっての。

 それより良いのか、その眼を治療しなくて? 今ならアタイが勝つ自信あるんだぜ」

 

 そう言いながらも、文醜は頭に巻いていた布の予備なのか。色鮮やかな布を、そのどっちが背中か分からないような懐から出して私に投げ寄越す。

 私はそれを片手で受け取り、無造作に目に巻きつけ血止めを行い。

 

「この怪我と出血でも互角と言った所だろう。 もっとも、それでも勝つのは私だがな」

「へへっ、こりゃ勝っても負けても自慢できる一戦になりそうだ。

 知っているだろうけどアタイの名は文醜、真名を猪々子だ。 あの世の土産に持って行きな」

「そうか、ならば私もそれに応えよう。 我が名は夏侯惇、真名を春蘭。 地獄の鬼共に我が真名を許された事を自慢するのだな」

 

 再び繰り広げられる一騎打ち。

 文醜は先程の痛手を負っているも、それは徐々に回復しつつあり。

 此方は歪む視界と慣れぬ遠近感に戸惑い。その上痛みと頭痛に耐えながらときた。

 我ながら時間が経てば経つほど不利になる状況に苦笑が浮かぶ。

 だがそれ故に頭の中が冴え渡って行くのが分かる。

 決して負けられぬのは同じ。

 

「礼を言うぞ猪々子」

「へへー、全く嫌になるほど強いな春蘭は」

 

 彼女の放つ一撃一撃は、先程より重く鋭く。なにより剣が生きている。

 此方の体調を重んじて長期戦に持ち込もうとせずに、短期で決着を付けようとする武人としての思いが…。

 此処まで我に対峙した事で一時的にだろうが成長した彼女の武が…。

 そして、不利であろうと勝たねばならないと言う我が想いが、私を更なる高みへと上げてくれる。

 ボンヤリとした視界が、以前より私に彼女の動きを教えてくれる。

 いいや、周りの動きが以前より良く分かる。

 だが、どうやらこの至福の時間も此処までのようだ。

 

「麹義様、曹の旗を掲げる一団が此方に魔真っ直ぐ向かって来ています」

「な、何故、曹操がもう一人! 曹操はこっちじゃないのかっ!」

「へへーんだ。私は魏の四天王が一人、曹洪。 そっちが勝手に勘違いしただけよ」

「くっ、我が鉄槍がこうも容易く叩き折られるとは」

「じゃあ、春蘭の目の敵を獲らせてもらうわよっ! って、またあんたなの鎧女っ!」

 

 視界の端に敵将の一人を追い詰める香燐が、鎧の彼方此方をズタズタに引き裂かれた高覧に、再びその行く手を阻まれ舌打ちをしているのが見える。

 

「高覧、文醜っ、夏候惇の先程の口上で兵の士気が異様に落ちてしまったわ。

 他にも混乱が広がっている以上、此処は一端戦線を引くべきだわ」

「そうだ、このままでは敵に囲まれてしまう。貴様ら命の恩人である儂を守れっ」

 

 張コウの言葉に騒ぎ出す男の言葉に、私達だけでなく猪々子達も心底嫌そうな顔をしていたが、それなりに事情があるのだろう。剣を引いて後退指示を周りに出し始める。

 此方も稟に此処は一端引くべき時ですと、何より厚い敵陣営を突っ切って来た疲弊している華琳様と秋蘭達と合流すべきだと言われれば私に否はない。

 

「猪々子よっ。いずれこの決着つけようぞ!」

「あったりまえだ。 今度こそアタイが勝って見せるぜ」

 

 格下の相手と言えども、その心根は確かな武人。

 ならば格下と侮らず、全身全霊で当たってこそ武人としての礼儀と心に決めつつも、とりあえず次に会いまみえた時にその事を覚えていればと、心の中で補足してしまう。

 

 

 

麗羽(袁紹)視点:

 

 

「そうですか。 曹洪さんが表に出てきたんですの」

 

 高覧さんと張コウさんの報告に、私は静かに溜息を吐きながら、遥か昔の出来事を思い出します。

 あの洛陽の学び舎で、時折華琳さんについて来ていた女の子。 確かに目鼻立ちや顔つきは華琳さんに似ていたから、あのまま成長していれば、華琳さんに似ていたとしても不思議ではない。

 もっとも影武者とか多い袁家において、そのような事は日常茶飯事なので、それだけでは記憶にも残らないのですが。

 

『 流石学園一の頭脳と度量の持ち主っ 』

『 お~っほほほほほっほほっ。 そうでもありませんわ 』

『 次期袁家当主筆頭候補は伊達じゃないですね 』

『 私からしたら当然の事ですわ。 ほほほほっ、気分が良いですわ。

  ですから今日は好きな物を買ってあげます 』

『 やった、さすがだ名家(駄目名家) 』

『 ん? 今変な言い方をされたような… 』

『 え~、そうですか~? さすがだと言っただけですよ~。 くすっ 』

『 気のせいですわね。 さぁ私を案内なさい 』

 

 と、なんやかんやと持ち上げられて、何度か好きなだけ奢って差し上げた記憶がありますもの。

 今思えば、あんな小さな頃より倹約に慎み、力を蓄えていたと理解できます。

 いつか自分の大好きな従姉の力になれる日が来る事を見据えて。

 

「麗羽様、他にも曹の性を持つ者が居ると?」

「ええ確か曹真さんと曹仁さんが。 他にも何人かいたような気がしましたが、覚えていないと言う事は、対した事はないのでしょう」

「本物の曹操以外の牙門旗は地となる色が違いましたから、その辺りを誤魔化す気はないと言う事でしょう」

「あの高慢ちきな華琳さんですもの。 その辺りは疑いようがありませんわ」

 

 荀諶さんと沮授さんの言葉に、私は適当に応えながらも、華琳さんは華琳さんらしく悪あがきでも何でもなく、本気でこの兵数差に勝つ気でいる事に、いったいどうやってと思考を巡らしていると。

 

「なんですって、それ本当なの?」

「はっ、間違いありません」

「どうしたんですの?」

 

 新たな報告を受けた荀諶さんと沮授さんが眉を顰めている。

 その報告の内容そのものは対した事ではなく、ただ先程の戦闘による被害状況を報告しただけの物。

 負傷者。

 戦死者。

 離脱者。

 等と戦闘継続が不可能な者。

 そして、手持ちの幾らかの兵糧が焼かれた事。

 兵糧を焼かれたのは痛いですが、その数もたかが知れていて、そう問題にする規模の物でもありません。

 ただ戦死者の数が異様に少ない。

 その代わりに負傷者がそれに反比例して多い。

 今までの戦闘もそうでしたが、戦全体で見れば、あまりにも華琳さんらしくない被害数。

 これでは禄に力を保たない僻地の勢力を攻めているのと変わらない戦死者。

 

「戦死者が少ないのは喜ぶべきですが、これは………」

「少なすぎますね。 敵の策とみるべきでしょう」

「そんな事分かっているわよ。 問題は何を狙ってと言う事よ」

「………時間と私は見ます」

「そうね。……それくらいよね。

 それにしてもなんて厭らしい手を使ってくるのよ。あの姉はっ!」

 

 そうして荀諶さんが、軽蔑するような眼差しを何処かにいる自分の姉に向けながら語ったのは、正々堂々と決戦を望む華琳さんらしくない手段。

 敢えて此方の兵を殺さずに戦闘不能にする事で此方の進軍の足を止め。

 多くの負傷兵を抱え込む事によって、糧食をや物資を無駄に消費させると言う策。

 このまま負傷兵増え続ければ、士気にも影響するとの事。

 

 

 

 

「南下すべきです」

 

 そして沮授さんが出した答えは、重要な交易拠点でもある原武を落とす事無く。

 官渡、そして許昌に向かうべきだと進言してきます。

 確かにその考えは正解でしょう。

 ……ですが。

 

「原武と鳥巣を落とすのは、あの方達の意向でもある以上。

 私はその進言を聞く訳にはいきませんわ」

「しかし」

「沮授さん。 これは貴方の為にも言っている事ですわ」

 

 そう、これは天が下さった絶好の機会。

 

「私達はこのまま西に向かいます。

 ただし、このまま華琳さんの思惑に乗るのは面白くありませんから、高覧さん、張コウさん、

 負傷兵を含む五分の一の兵を引き連れて一旦我が城に戻ってください。 その上で叔父様方達に、新たな兵と糧食を送るようお願いしてくださいませんか」

「え、えーと、どうする高覧」

「………麗羽様」

「ちょっと待ってくだされっ! その二人に抜けられたら、誰があの凶暴な女と対峙されると言うんですか。

 袁紹様。どうかその役、この麹義にめにお任せください」

 

 私の真意を察した二人が決断時かどうか迷った隙に、空気の読めない方がわめき散らかしてきます。

 

「麹義さん。確かに、この任は貴方でも構いませんが、本当にいいんですの?

 未だ何の功もなく。あの方達の兵を壊滅させられた貴方が、あの方達の前に戻られて」

「そ、それは、……そうだっ! 敵将である夏候惇を・」

「討ち損ねた挙句に。 その何たらさんに、士気を著しく下げられたのでしたわよね」

「ぐぐぐっ……」

「私は、麹義さんにその何たらさんを討つ以外の機会をあげようと言ってるんですのよ」

 

 そしていい加減面倒になって来た頃に、私の気持ちを察した顔良さんが、

 

「つまり、此方の足手まといを増やす事を目的としているうちは、敵は本気で攻めてこずに、原武も負傷者と言う被害を出す程度で、あっさり此方の手に渡ると麗羽様はおっしゃっているんです」

「……つまり、儂に原武を落とす功を譲ると」

「麗羽様がそう考えてられるならば、私はそのために働くだけですよ。 文ちゃんもそれで良いわね」

「まぁアタイは姫と斗詩がそう言うなら、今回は我慢するけどさ」

 

 二人の言葉と、どういたしますか? どちらでも構いませんわと言う私の視線に、麹義さんは命より己が失敗の穴埋めを優先し、手柄を己が手にして引き続きあの方達に取り入る事を決めます。

 この時点で引き返しようのない道を選んだ事にも気が付かずに。

 

「あっ、言い忘れましたわ。 高覧さん。城に戻ったら、予備の同じ鎧があるのでそっちを受け取ってくる事を忘れないでくださいね」

「ぅぇっ! まだあるんですか此れっ」

「ええ。たいそう役に立っているようですから、前より頑丈に作らせてありますわ。

 これも部下の事を想う当主として嗜み。当然の義務ですわ。 ほーほほほほほっ」

「ふぇ~~~~~~~~んっ、忠義が、忠義が重すぎるのです~~~~~~っ」

 

 私の言葉に高覧さんはたいそう感激したのか、涙を流しながら走り去るのを眺めながら、私は心の中で呟きます。

 華琳さん。貴女がそういう手段で時間を欲するのならば、私はその時間を利用させてもらいますわ。

 袁家を真に掌握した時が、貴女の運が尽きる時ですわ。

 

 

「雄々しく、勇ましく、華麗に進軍ですわよ。 ほ~~ほっほっほっほっ」

 

 

 

詠(賈駆)視点:

 

 

 暗い天幕の中。

 天幕の隙間から刺し込む僅かな月の光が、ボクとアイツの顔を僅かに浮かび上がらせる。

 

「こんな夜更けに訪ねてくるなんて、内緒の話かい?」

 

 ボクの突然の訪問に驚きながらも、アイツはボクの立場を案じて心配げに聞いてくる。

 その心遣いが嬉しいと感じないと言ったら嘘になるけど、今はそんな心配は余計よ。

 ボクの決意を何らかの形で感じたのか…。

 

「明命が居ない時を選んでくると言うのは、あまり誉められた事じゃないって分かってるよね」

「ボクがそれを承知で来たんだって、分かってるんでしょ」

「悪かった。 でもよく明命がいないって分かったね」

「洛陽の陰を散々見てきたボクを、あのはわわあわわと一緒にしないでよね。

 アンタがボク達に内緒で動くために、何かを仕込むとしたらそろそろで、アンタの無茶な要求を頼める相手なんて、あの娘以外ないと思うのは当然の事でしょ」

 

 ボクの言葉に、降参とばかりに手を上げる仕草をして見せるアイツは、小さく息を吐いた後。

 

「そう言う訳で、彼女は俺と二人っきりで話をしたいらしいから、席を外してくれ」

「はっ」

 

 天幕の入口の外から、丁奉と言う巨漢の兵士の声が聞こえる。

 あの図体で気配を消して伏せ討ちを出来ると言うのだから、巫山戯た能力だと思いつつ、ボクがまだ此奴の掌の上である事を、今更ながら自覚してしまう。

 

「それと其処の二人も、明命に命じられているのは分かるけど、席を外してくれるかな。

 明命には後で俺から言っておくから」

 

 そして此奴が、孫家にも見張られていると言う事実も。

 こいつは望む望まないに関わらず天の御遣いを名乗った時点で、それは生涯付きまとって来てしまう。

 違う道を選べたにも拘らず。その道を選んだ地点で、此奴にはそれに対して文句を言う資格はなくなってしまった。

 そして、ボクは今から此奴のその立場を利用しようとしている。

 

「礼は必要?」

「いいや、俺がそうしたいからしただけだしね」

「そう、なら言うのは止めるわ。 ………頼みがあるの」

「だろうね。 必要なのは俺や明命の部隊が引き連れている軍馬。 違う?」

「ええ、その通りよ」

 

 圧倒的な兵の少なさを補うには、機動力が必要。

 それも敵にギリギリまで気取られない様に。

 今のボク達の状態は、相手がその気ならばいくらでも細作が入られてしまう。

 そのため味方にもなるべく秘密裏に事を進めなければいけない。

 

「構わないよ。 此方もそのつもりだったしね。 其方の兵で事を成すと言うのなら文句はない」

「気前がいいのね」

「そう言う訳じゃないさ。 これも貸の一つだと思ってくれないと困る」

「よく言うわ。そんな物は建て前のくせに。

 ボク達に何が何でも勝ってもらわなければいけないのは、そちらも同じでしょ。

 ならば、これくらいおまけしなさいよ」

 

 ボクの言葉に、先程と同じように両手をあげて、承諾の意を表してくれる。

 話の半分はこれで終わり。

 

 

 

 

 でも肝心な話が残っている。

 馬だけの話なら、別にあの娘が居ても良い話。

 それが何となく分かっているから、此奴は人払いしてくれたのよ。

 

「それと、こっちが本題だけど」

「だろうと思ったよ」

 

 ボクはゆっくりとアイツに近づいて行く。

 一歩、一歩ゆっくりと…。

 此処に来るまでに決めてきた覚悟を、跳ね上がるような胸の鼓動を抑えるようにボク自身に言い聞かせる。

 全部、月のためだって…。

 月が月であるためには、此れしかないって……。

 そして、もし天幕に他の誰かが居ても聞き取られない程にまでアイツに近づく。

 それは互いの息が掛かる距離。服と服が触れ合ってしまうほどの距離。

 簡易寝台に腰掛けるアイツの耳元にそっと口を近づける。

 

「返してもらいたいモノがあるの」

「それは・」

「最後まで言わせて」

 

 此方の息が掛かるように、此奴の息がボクの耳を擽ってしまい。その感触に一瞬身体が震える。

 その生温かい吐息がボクの耳の中まで入ってきて、ボクの力を奪おうとする。

 力が抜けそうになる身体を、脚に力を入れて踏ん張る。

 って、なんで内股がキュンとするのよっ。

 感じた事のない感触に戸惑いながらも、ボクは更に力が抜けそうになる内股に力を入れ、本来の目的を思い出す。

 

 此奴がどう思っているかなんて関係ない。

 此方の押し付けだって事は分かっている。

 天の世界では知らないけど、これが此方の流儀だもの。

 だから……。

 

「ボクが返してもらいたいモノ。それは………………よ」

「そんな事を態々?」

「言ったでしょ。最後まで言わせてって」

 

 やっぱり此奴はそう言う事は全然わかっていない。 勘違いしたままだ。

 ボク達にとって、……ううん、この世界に住み人間にとって、それくらい大切なモノだって事を理解できていない。

 

「アンタはどう思っているかは今ので大体分かったけど、これはそういう問題じゃないの。

 だからアンタが、もしそのつもりだったのなら拒絶できないわ。ううん、しちゃいけないの。

 此処はね。天の世界と違ってそういう世界なの」

 

 ボクの言葉と行動に戸惑う気配が、僅かに触れ合っている部分からも伝わってくる。

 此奴が最初からそのつもりだって事は江陵の街で確信が出来た。だって他に手が無いもの。

 勝てる可能性はあるけど、確実に勝つ手段は此れしかないって。

 そして、そのための行動を起こすには、もう手を打たなければ間に合わない。

 だから、此奴が戸惑える事だって分かって…。

 此奴がボクの知っている人間だって分かって…。

 馬鹿で、どうしようもなく無茶をやる人間で…。

 優しい普通の男の子だって…。

 そんなどうでも良い事に安心して…。

 ボクは此奴に全てを委ねる様に、身体の力を抜き決意を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「代価はボク。

 

 ボクの全てを、アンタに捧げるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

~あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 ~ 春の香りに華麗に舞う命の姿に、悲しき詩を詠む ~ を此処にお送りしました。

 

 原作のあの名シーンを此処に持ってきてみましたが、如何でしたでしょうか?

 猪々子と春蘭の一騎打ちに、戦闘パラメーターの誤りがあるんではと言う方もいますが、其処は其処、細かい設定なんてゴミ箱にポイしちゃって、素直に展開を楽しんでもらえたらとは思っています。(一応それとなくハンデを付けた結果ではあるんですけどね)

 そしてどこまでも腐っている袁家の老人とその関係者は、此処まで来ると清々しさを感じますよね~。

 

 互いが互いの意図を見抜きながらも、互いの手の内を利用し合う官渡の戦い。

 そして詠の決断とは。

 金髪のグゥレイトゥ様、何時も何時もキャラを使わせて頂き、本当にありがとうございます。

 

 最近忙しいですが頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程をお願いいたします。


 
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