No.227304

真恋姫無双 天遣三雄録 第二十二話

yuukiさん

反董卓連合編。スタートー

2011-07-10 12:37:06 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:4584   閲覧ユーザー数:3528

始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。

なお、オリキャラ等の出演もあります。

 

そして、これは北郷一刀のハーレムルートではありません。

そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。

 

 

第21話 多数派の正義は、もはや暴力でしょう by于吉

 

 

袁招、袁術、孫策、曹操、公孫賛、馬騰、からなる各諸候達。

そして劉備を始めとする義勇軍の活躍によって、黄巾党は大陸から消えて行った。

それは誰もが望んだことであり、誰もが願ったことであった。

 

ある者は地位と名誉の為に、

ある者は来るべき時に備え力を蓄える為に、

ある者はただ愛した者を守るために、

そして、ある者はただ誇りの為に。

 

誰もが黄巾党の消滅を思い、戦い。勝利した。

 

ある村人は叫んだ、『世に正義はあった』

ある兵士は叫んだ、『悪は報いを受けた』

 

誰もが、黄巾党という悪の死を喜んだ。何万もの人の死に歓喜した。

 

黄巾の乱。それが少女達の純粋な夢が起こした悲劇だと知る者は少ない。

大陸の民達は少女達の純粋な夢を踏み躙り、淘汰し、穢して。それを喜び謳うのだ。

 

『正義』の二文字を。

 

それを間違っているとは思わない。少女達が悪かったのだ。

夢を応援してくれる者達を御し切れなかった罪。だから、罪には罰が有り。罰故に悪になった。

そして、罪を裁くことは正義だ。

 

しかし、それが正しいとも思わない。正義が正しいとは、俺は、思わない。

 

小さい頃、大好きだったテレビアニメ。正義のヒーローが悪の秘密結社を倒す話。

何時からだろう。胸を躍らせて見ていたそれに一抹の疑問を抱くようになったのは。

悪は正義に勝てない、悪が栄えた試しなし、正義は最後に必ず勝つ。

そんなこと、子供だった俺だって知っていた。なら、悪者達はどうしてそれを知らないのだろうか?

ヒーローを時には追い詰められるほど、頭の良い悪者が知らない筈がないじゃないか。

 

なら、どうして悪者たちは悪役になったのか?

倒されることがわかっているのに、悪になる筈がない。

幼いころの俺はわからなかった。だから聞いてみた。

 

幼馴染の奴は『悪に理由などない』と言い切った。

最近友達になったアイツは『負けると理解できないから悪』と三日後に答えを出してきた。

 

「それが、十年以上の話だ。情けないけど、俺はあの二人の様に答えを出すことは出来なかった。だが、ようやくわかったよ。理解した」

 

「悪の理由について、っすか?」

 

「ああ、悪になる理由は二通りある。一つは、悪になってでも叶えたい何かがある時。そして、もう一つは」

 

『反董卓連合』

 

多くの『正義』の旗が掲げられるそこを見ながら。凄惨に笑う。笑うしかなかった。

あの月を『悪』と呼ぶ、『正義』を前に。笑い以外の何が出来る?

 

「正義があるから、悪が生まれるんだ」

 

「なるほど、正論っす」

 

俺の笑いに答えるように、仲達も笑う。

その眼に宿した、企み一切を隠し切る。

しかし、連合に掲げられた旗の文字が見えるほどに近づいた瞬間、手に持った手綱はぎりぎりと音を立てていた。

 

「どうした、仲君。感情を隠しきれないようじゃ、軍師失格じゃないかな?今は于吉も居ないんだ。しっかりしてくれよ」

 

「わかってるけど、ごめんなさい。まさか、連合に劉備がいるとは思わなかったんすよ。確か、あそこにはあの二人が居るから。真実に気づいてない筈がないのに、、、」

 

「知り合いが居るのか?」

 

仲達は目を袖でこすりながら、笑う。

虚しさ、悲しさ、劉の旗を見た瞬間。それがとめどなくあふれ出ていた。

信じていた者に裏切られた。昔した約束を、あの二人は忘れてしまっていたみたいだと仲達は思う。

 

「はい。昔、私塾が同じだった友達っす。僕と違って、女ですけど、それなりに仲は善かったんすよ」

 

「ふーん。で、それでなんで泣くんだ?感動の再会でうれし涙!、、、には見えないな」

 

「何でも無いすっよ。何でも無いから、、、今は話しかけないで欲しいっす」

 

「そうか。わかったよ。連合の陣に着くころには、泣きやんどけよ」

 

「はいっす」

 

泣き始めた仲達から目を外して、俺は連合の陣を見る。

掲げられ、はためく旗の中に、曹の旗が見える。

 

「わかっていたよ。華琳。君が真実に気づいていたとしても、迷わないことくらい。けど、居てくれないといいなとか、思ってだぜ?」

 

華琳や季衣に久しぶりに会えるのは素直にうれしい。けど、それを素直に喜べる状況じゃなかった。

思わず、零れそうになる嗚咽を呑みこみ、思う。

これは、不審に思われない様に最初からテンション上げとかなきゃならないな。

 

「まったく、賈詡ちゃんもエグイこと言うよな。月を裏切って、華琳も裏切れだなんて。なんで最愛の二人を裏切らなきゃなんないんだか。終わったら、ご褒美にご奉仕でもしてもらうか。ねちっこく」

 

そして、覚悟を決めた。

 

 

 

 

「おーほっほっほ!」

 

意味不明な高笑いが響く中、反董卓連合の陣内では軍議が始まろうとしていた。

既に主だった諸候達は揃い、開始の時を静かに待っているのだった。

 

「さーて、これで主要な諸候はそろったようですわね。びりっけつの華琳さんも来ましたし、軍議を始めましょうか」

 

全身が金色に輝く袁招は、手を口元に添えながら言う。

幽州の公孫賛。平原の劉備。涼州連合の名代、馬超。陳留の曹操。河南の袁術。その客将、孫策。

確かに、確かに主だった諸候達はそろっていたが、ただ、まあ、一人遅刻している者も居た。

袁招軍の将、顔良は目をつぶり、言い難そうに言う。

 

「あの~、麗羽様。あと一人、来ていない人がいますけど」

 

「あと一人?他に誰か、呼びましたかしら?」

 

「長安の北郷さんです」

 

顔良の言葉に、その場に居る多くの者が反応する。

そして、華琳は口元に薄い笑みを浮かべていた。

 

「、、、誰ですの?それ?」

 

「えっ、忘れちゃったんですか!?ほら、確か天の御使いを名乗ってる人ですよ。劉邦様への敬意で長安を復興したなら、まあまあの人物。連合に声をかけておこうって言ったのは麗羽様ですよ」

 

「ああ、そう言えば。お風呂の時、そんなことを言ったような、言わなかったような、、、」

 

「言ったんですよ~」

 

深くため息をつく顔良を無視して、無視して袁招は笑う。

 

「まあ、それなら後は、北郷さんを待ちましょう。善かったですわね、華琳さん。びりっけつじゃなくて」

 

「そうね」

 

華琳が袁招の問いに口少なく答えた後、天幕の中には沈黙が訪れる。

誰も喋らず、ただ北郷一刀を待っているのだが、時間と共に、目に見えて袁招がイライラしてきているのが誰の目にも明らかになってくる。

多分、暇で暇でしょうがないのだろう。

そんな空気を読んだ劉備は努めて明るく、声を上げた。

 

「そ、そういえば。長安の北郷さんって、どんな人なんですか?平原にはあんまり噂は入って来ないですけど」

 

「うむ、なかなかの人物のはずじゃ!」

 

問いに答えたのは以外にも、袁術だった。

 

「何しろ、長安で作られている蜂蜜は美味じゃからの~。わざわざ、遠くから取り寄せる価値のあるほど美味しい蜂蜜じゃ!あれ程の蜂蜜を作れる者なら、優秀な者に違いない筈じゃ!」

 

「あはは~。人の判断基準が蜂蜜って所が美羽様らしくて、可愛いですよ。確か、あの味の秘密は蜜を集める花を決めているとか何とか。長安の人は蜜蜂を操る術でも使うんじゃないですかね~」

 

「なんじゃと!?」

 

顎に指を当ててそう言う張勲とそれを聞いて驚く袁術。

周りの者はほぼ呆れながらそれを見る。孫策にいたっては二人の姿に、舌打ちをしていた。

 

次に答えたのは、馬超だった。

 

「長安じゃ救世主って呼ばれているらしいぜ。けど、天の御使いを名乗っている北郷より。お国柄か、そいつに使える将の噂の方が涼州には入ってきているな」

 

「仕えている将、ですか?」

 

「ああ、何でも北郷軍には神速人が居るって。曰く、徒歩で馬と並走が出来るらしい。まあ、けど、ただの噂だと思うぜ。馬と同じ速度で走れる人なんて、居る筈ないしな」

 

笑いながら馬超はそう言うが、残念ながら事実であった。

一人で三万人を倒せる武人が居るんだから、馬にも劣らぬ速度で走れる人くらい、居てもいいじゃない。

 

「ふーん。まあ、色々な噂が有るみたいだけど、本当のところどうなのかしら?曹操。実際、天の御使いについてはあなたが一番よく知っているでしょう」

 

孫策は薄い笑みを携えながら、そう言う。その言葉で華琳に視線が集中した。

華琳は笑みを浮かべたまま言う。

 

「そうね。一刀については何とも言えないけれど、左慈についての噂は真実でしょう。あの男の足の速さは、もう人間じゃないわ」

 

華琳の言葉に回りは騒然とするが、孫策は構わず質問を続ける。

 

「北郷一刀については何とも言えない?それは何かの冗談かしら?左慈っていう男じゃなくて、そっちの方が天の御使いなのでしょう?」

 

「冗談じゃないわよ。一刀になにかしらの才が有るのは確か、けれどそれが何かは私も見ていない。見せてくれなかったから、追放したんですもの。、、まあ、けど、一時、一刀の主だった私の感想でいいなら話してもいいわ」

 

「へぇ~、善いわね。是非、聞きたいな」

 

「誰にだって平等。わけ隔てなく優しくて、甘いわ。一刀が言うには、世には善人も悪人も居ないそうよ。お腹が減っていれば誰だって機嫌が悪くなるし、また逆も然り。善悪なんて、そんなものだと真顔で言ってみせる。そんな男よ」

 

「へぇ、随分優しくて、甘い男なのね」

 

「まあ、その言葉には続きがあるのだけれどね」

 

「へ?」

 

「人生なんて不条理なことばかりなんだから、そんなことでいちいち一喜一憂している奴がいるなら、別にぶん殴っても構わない。機嫌が悪いってだけで誰かの迷惑になるんだからな。だ、そうよ」

 

「、、、、それ、まったく逆の意味じゃないの?」

 

そして、そんな孫策のつっこみが終わる前に、北郷一刀は到着した。

凄まじい音と、砂埃を巻き上げて、誰も予想しなかった、袁招の派手さが霞むほど豪快に。

 

空から、降って来た。

 

天幕の天井を突き破り、豪快な音がしたと思えば、中心に置かれた机の上に北郷一刀は立っていた。

 

「颯爽登場!銀河、美少年!ホンゴーウ!」

 

誰もが目を疑った、疑わずには居られなかった。ただ、三人を除いては。

 

「相変わらずね、一刀」

 

「元気そうで何よりだ。北郷」

 

「左慈は居るか!北郷!」

 

机の上で颯爽とポーズを決める青年が、長安の救世主。北郷一刀だと知って。

天幕の中には、何とも言えない沈黙が立ちこめたのだった。

 

 

 

 

「と、言う訳で。長安の北郷です。遅れてすいませんでした」

 

用意された場所に座りながら、頭を下げる。

はて?何故全員黙っているのかな?やっぱ、新参者の癖に遅刻はまずかったか?

けど、出来る限り急いできたんだぜ?文字通り、飛んできたんだぜ?

 

「え、え~と。あなたが北郷さんで、間違いありませんの?」

 

金色の人。多分、袁招は何故か眉を顰めながら聞いて来た。

何を聞いていたんだ?さっき颯爽と自己紹介したじゃないか。

しかし、まあ、大人な態度を持って接することにする。

なんか金ぴかな人だし。

華琳ちゃん然り英雄王然り、大概金ぴかな人と敵対するとロクなことにならないしな。

 

「はい。北郷一刀です。、、ああ、そう言えば、天幕の天井破いちゃってすいません。弁償しますね」

 

「いえ、結構ですわ。お金には困っていませんもの。おーほっほっほっ」

 

、、、、、すげえ、俺は人生で初めて恥ずかしげも無いお譲さま笑いと言うものを見た。

なんか、思ったよりイヤみじゃないな。姿といい、恥じらいの無さといい、胴に入ってるせいかな?

 

「ははは、そりゃよかった。長安の方はようやく財政が安定してきたばっかりでさ。実際、天幕一つにしたって正直、弁償なんてしたくなかったんだよね」

 

「なら、、変なことはしないで普通に登場することは出来なかったんすか?」

 

袁招の高笑いに笑って答えていると、後ろから鋭いツッコミが入った。

振り返ればいつの間にか天幕の入り口に仲達が立っていた。

まったく、入口から入ってくるなんて面白みのない奴だ。

 

「一刀さんが異常なんすよ。普通、人は入り口から入るもの。天井突き破って入ってくるなんて、龍かタコ助(大馬鹿)のやることっす」

 

仕えている君主を公衆の面前で馬鹿呼ばわりとは、まったくもって常識のない軍師だ。

 

「いや、俺だって色々考えて左慈に蹴り上げてもらったんだぞ?やっぱさ、第一印象って大切だろ?それを考えれば俺の登場は強烈だった筈だ。もう、只者ではない感がパないだろ」

 

天幕内に居る全ての者が頷いていた。

 

「はぁ。もういいっす。一刀さんのやることは僕には理解できない」

 

ため息を付きながら仲達は俺の隣に寄ってくる。そして、立ったまま周りを見渡した後、挨拶を始めた。

 

「北郷軍。軍師の司馬懿です。よろしくお願いするっす」

 

ペコリと頭を下げた後、仲達は座る。心なしか、劉備と思われる子の方を見ているようだったが。

ああいう子が趣味なのか?体に似合わず巨乳好き?

 

「体に似合わずじゃなくて、せめて顔に似合わずにしてくれないっすか?」

 

「ちょくちょく心を読むのは止めない?マジで怖いから」

 

ジト目で見てくる仲達を無視していると、華琳が話しかけてきた。

本当に久しぶりにみた。声を聞くのも久しぶりだ。なんかこう、心に来るものが有る。

 

「久しぶりね、一刀」

 

「、、、、、、、、、」

 

「あなた、于吉以外の軍師も手に入れたのね。まさか、司馬八達の一人を引き入れるなんて、やるじゃない」

 

「、、、、、、、、、」

 

「、、、一刀?聞こえていないのかしら?」

 

「、、、、、、、、、」

 

だんだん、天幕内の空気が悪くなってくる。というか、悪くしているのは俺だった。

華琳をガン無視である。完全にシカトを決め込んでいた。

 

だってさ、これくらい許されるだろ。なんか訳も分からない理由で追放されて、色々苦労してきたんだぜ?

建国編、跳ばしたけどさ、その裏には聞くも涙語るも涙なことがあったんだぜ?

それなのに普通に話しかけてくるんて、華琳の神経はどうかしてる。

悪いが、俺はそんなに心の大きな男ではなかった。

 

「、、、そう。話す言葉も無いという訳ね。まあ、善いわ。貴方が怒るのも無理も無い話しだったわね。けど、私は謝らないわよ」

 

「、、、、、、、、、」

 

結局、華琳とは口も利かないまま軍議は始まった。

 

 

 

「で、全員揃った所で早速、決めなくてはいけないことが有りますわ。劉備さん、わかります?」

 

「へっ?あ、えっと、反董卓戦の大まかな作戦ですか」

 

「違いますわ。まったく、駄目駄目ですわね」

 

「はぅぅ、ごめんなさい」

 

そこで劉備が謝る必要は無いと思う。突然、話を振る袁招は何を考えているのかわからない。

 

「ズバリ!総大将を誰にするかですわ!まあ、連合の総大将となれば、高貴な家柄の者くらいしか勤まらないということは皆さんもわかっているでしょうし。自薦他薦はといませんし、誰か、いませんの?」

 

全ての諸候が沈黙する。目を逸らす。

面倒事に巻き込まれるのは目に見えていた。

 

「あ、あら?高貴で華麗で優麗な者なんて、そうそういる筈ありませんし。恥ずかしがらずに他薦してもよろしくてよ。誰とは言いませけど!」

 

仲達に小声で話しかける。

 

「(なあ、仲君。あれはなに?ツッコミ待ち?)」

 

「(多分そうだけど、突っ込んじゃ駄目っすよ。多分、先陣とかめんどくさいことを押しつけられるっすから)」

 

「(ふ~ん。面白そうだな)」

 

「へっ?」

 

俺は思いっきり手を上げた。隣では仲達が青い顔をしている。

 

「じゃ、後期で加齢で幽霊な袁招が総大将でいいんじゃない?」

 

諸候達の目が一斉に俺に集まる。

おお、こんなに注目されたのは小学生の美術コンクールで表彰されて以来だ。

 

「な、なんだか、字が違っている違う気もしますけど、、よく言いましたわ。北郷さん。そこまで言うのなら、この私。この私が!総大将になって差し上げますわ!皆さん、異論はありますか?」

 

全員が無言で首を振る。

 

「「「正直、どうでもいい」」」

 

それが全員の本音だった。

 

 

 

 

そうして、袁招が総大将になったのだが。総大将になった袁招より何故か俺の方に多くの視線が集まっていた。

 

劉備は気の毒そうな顔。孫策は苦笑いを浮かべ、馬超もまた、非常に微妙な笑みを浮かべている。

、、、華琳は、目を合わせず少し俯きぎみな気がする。

 

「じゃあ、北郷さん。私を総大将に推薦してくれたのですし。連合の先頭で勇敢に戦う意志が、もちろん!、、有るのですわよね?」

 

袁招は笑顔でそう言ってくる。あ~、やっぱりそう来ますか。いや、わかってはいたけれども。

 

「ちょ、ちょっと待って!それは僕達が先陣に立てってことっすか!僕達の本拠地は知っての通り、長安。洛陽から近いから、守りの為に兵士を置いて来た!今、僕達の軍の兵士は少ないんすよ!」

 

仲達は立ち上がり、小さな体を精一杯伸ばしながら叫んだ。

 

「あら、先陣は武人にとって栄誉ある持ち場。喜んで受けるのが当然のことでしょう。少し、兵士が少ないからって、断るなんてことはありませんわよね?」

 

「このっ、僕達を捨て石にする気すっね!」

 

「な、失礼なことを言わないで欲しい物ですわ!北郷さん!貴方のところの軍師はどうかしているんじゃありませんの!」

 

袁招の言葉に仲達は歯を噛みしめる。その怒りのまま、言葉を放とうとした仲達を手で制する。

まったく、熱くなりすぎだって。もっと、クールに行こう。

 

「仲君。ストップ。それ以上言えば、俺達はここに居られなくなるよ。袁招、家臣の非礼は君主の責だ。謝るよ、悪かった。代わりと言うのは何だけど、先陣の話は受ける」

 

「なっ、一刀さん!」

 

言葉をつづけようとする、仲達を睨みつける。仲達は怯み口を閉ざす。

わからない訳じゃないだろう。これ以上、袁招を怒らせるのは本格的にまずかった。

ふざけていられないぐらいに。

 

「まあ、そこまで言うなら司馬懿さんの非礼は不問にして差し上げますわ。けど、北郷さんも大変ですわね。礼も無い、そんな無能な人が軍師だなんて」

 

ぷっつん

 

ギリッと、隣から歯を食いしばる音が聞こえた。見れば、仲達の体は震えていた。

俺はため息をついた後、笑顔のまま袁招の方を見た。

 

「はぁ、そこまでだ。袁招。それ以上、俺の『友達』を馬鹿にしないでくれ。我慢が効かなくなるからさ」

 

「はい?事実を言っているだけでしてよ?」

 

「俺が馬鹿だからな。理と利は見えちゃいるが、服従しようとは思わない。それ以上言うなら、馬鹿には愚劣がお似合いだ。道理を通して作り笑いをするより、無理を通して笑ってやるぞ」

 

「、、っっ」

 

「仲君は、最高の軍師だ。異論はあるか?袁本初」

 

徹頭徹尾、終始笑顔で袁招を恫喝する。

周りからの視線がすごいが、気になんてしていられない。

袁招の言葉にカチンと来たのだからしょうがない。

 

誰が傷つこうが構わない。他人が苦しんだとしても、心は痛めるが癒そうとは思わない。

ありていに言えば、俺は普通の人間だ。

 

優しさを与えるのは友達にだけ。

それ以外に渡すのは同情だけ。

 

だからこそ、英雄なんて器じゃない。

だからこそ、仲達への誹謗には純粋に怒りを覚える。

 

「ふ、ふん。私は事実を言っただけですわ!」

 

「わかってる。謝る必要はない。ただ、黙ればそれでいい」

 

「くっ、、」

 

袁招は忌々しそうに口を噤んだ。

 

「うん。わかってくれて嬉しいよ。流石は、袁本初。器が大きいね。じゃ、軍議再開と行こうか」

 

そして、軍議は滞りなく再開されていく。

 

 

 

「それでさ、袁招。先陣の話は受ける。けど、一つ条件を付けたいんだが。善いかな?」

 

「条件?なんですの?」

 

袁招は腕を組み、眉を顰めながら返してきた。

なんだか、そこまで怒っている訳じゃないみたいだ。

もしかしたら、本格的に器が大きいのかもしれない。

 

「さっき、仲君が言っただろう。今、俺の軍の兵士は少ないんだ。いくら頑張っても、俺の軍の兵力だけじゃ。先にある汜水関は破れない」

 

「あら、案外弱気なんですのね」

 

「情けない話だけど、こればっかりは事実だしね。意地はって無理する気は無いよ。だからさ、連合が汜水関を越える為にも、少し協力者が欲しいんだ。一軍でいい、俺と協力してくれる軍は居ないかな?」

 

そう言って、見わたせば。目を逸らさないのは、馬超、孫策、劉備、華琳ぐらいだった。

袁術の隣に居る、張勲はニコニコ笑顔で俺を見ているが、協力する気は皆無だろう。

なんか笑顔がウソ臭い。

 

少し、天幕内に沈黙が訪れた後、すっと一本の手が挙がった。

 

「私が協力してあげても、いいわよ。一刀」

 

手を上げたのは、華琳だった。

 

「私の軍となら、連携も取りやすいでしょうし。貴方に作戦が有るというのなら、それに合わせてもいいわ」

 

さてと、返事はしないとな。

さっきは個人的なことだったから、無視出来たけど。

今は君主としての会話だ。無視もシカトも禁止。出来ない。

まったくもって、大人の世界とは面倒が臭い。

これならずっと、子供でいたいよ。ピーターパンシンドロームだよ。

 

ふぅ、と一度息を整えてから喋り出す。

 

「いや、出来れば華琳には協力してほしくない。それより、劉備。どうかな?君は俺と協力する気はない?」

 

「な、、、、、」

 

華琳の慟哭を聞く為に、俺は華琳を拒絶した。

真っ向から、真っ直ぐに、至極分かりやすく拒絶した。

眼を見開く華琳を置き去りに、俺は劉備に話しかける。笑顔で。

諸葛亮は巻き込まないでくれと小さく首を振っているが、まあ、うん。シカトで。

 

「わ、私達、ですか?」

 

「ああ、君達だ。手柄や名声は欲しいだろ?汜水関を破れば、それなりの物が手に入る。無論、全部山分けってことで。ああ、名声を山分けってのは難しいかな。けど、どちらにも利が有る作戦を立てるからさ」

 

「え、えっと、、どうしよう。朱里ちゃん」

 

劉備は唇に指を当てながら、困った顔で隣に居る諸葛亮に問う。

ふむ、いっけんすると役に立たない君主にも見えるけど、部下を信じているのかな。

多分、華琳とは違う。俺と同じタイプの君主なんだろう。仲良く出来そうだ。

 

「ほ、北郷さん。知っての通り、桃香様の軍は今、ここに軍の中でも兵士の数は最小です。それなのに、私たちと組むのですか?その、曹操さんの軍と協力した方が、いいと思いますけど」

 

諸葛亮は言い難そうに言ってくる。そんなに俺と組むのは嫌かな?

もしかして、登場のインパクトが足りなかったか?もっと、派手な方が好きなのだろうか?

 

言いくるめようとして、口を開く前に仲達が喋り始めた。

 

「あんまり、大きな勢力な軍と組めば兵力で劣ってる僕達の権限が無くなる。幾ら、作戦は僕らに任せるとか言っても、口約束だし、信用も出来ない。なら、同じぐらいの兵力を持つ軍と組みたいと思うのは、当然じゃないっすか」

 

「あ、えっと、、仲達くん、いえ、司馬懿さんの言葉はわかりますけど、、」

 

「何か異論でもあるんすか?諸葛亮孔明」

 

「っっ」

 

仲達が声を低くして、名前を呼べば諸葛亮は怯えた様子で顔を俯けてしまった。

あ~、そう言えば劉備の軍に知り合いが居るとか言ってたっけ。

その知り合いは諸葛亮だったわけね。うん、まあ、取りあえず仲達の頭を叩いておく。

 

「いてっ!」

 

「小さい子を怯えさせるなよ。ごめんな、諸葛亮。このチビのことは気にしないでいいからさ。俺の軍との共闘、君はどう思う?嫌なら、嫌でもいいけど。利は、あると思わないかな?」

 

諸葛亮はしばらく、思案を巡らせた後、小さく頷く。

 

「わかりました。確かに、北郷さんの言う通り。利はある筈です。桃香様、協力するのも一計だと、私は思います」

 

諸葛亮の言葉に劉備は笑顔で頷いた。やっぱり、俺と同じタイプの君主なのかな?

 

「うん。わかったよ。朱里ちゃんがそう言うなら。北郷さん、そのお話受けさせてください。一緒に董卓軍を倒しましょう!」

 

「ああ、よろしく頼むよ。劉備」

 

互いに、笑顔で手を取り合った。

その光景に、華琳は顔を歪めていた。

 

 

先にある汜水関に関しては、劉備軍と北郷軍が共闘して落とすことにはなったのだが。

 

「なあ、袁招。取り合えず、大まかな作戦とかあるのか?」

 

「無論、ありますわ!華麗に優雅に雄々しく前進!ですわ!!」

 

作戦は自己判断でお願いしますと言うことらしい。

 

 

        後書き

 

特にないかな?言いたい事とか、なんかあるかな?

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
46
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択