「ふむ、盗賊に囲まれている様子だったゆえ、急ぎ駆けつけてみたものの・・・どうやら必要無かったようですな」
回想に耽っていた自分の意識が、懐かしい声に引き戻される。
白い振袖風の衣服に、透き通るような空のような青い髪。趙子龍~『星』の凛とした立ち姿がそこにあった。
周回の記憶を持って、改めて、絆を育んだ一人の女性を出会うってのは、色々感慨深いものがあって。
俺は、言葉を失っていた。
「えぇ、あのぐらいの相手なら、造作も無いわ。手間を取らせたわね」
華琳がいてくれて、本当に良かったと思う。声が出ない俺の代わりに、適切な対応をしてくれる。
「しかし、その珍しい出で立ち、異国の方ですかな? 光を反射する服とは初めて目にしましたな」
「えぇ、珍しいみたいね。こちらが男性用、私が着ているのが女性用だけど、
意匠もそれぞれ統一性を持たせながら、ちゃんと差別化をしているから」
「二人並んでいると、眩しさすら感じますな」
「たぶん、管路の予言にある『天の御遣い』さんたちではないでしょーか~?」
俺たちの後方から聞こえる、忘れぬことのない、妙に間延びした独特の声。
華琳が微かに─俺や春蘭や秋蘭で無ければ気づけないほどの─動揺を、見せるのも無理は無い。
本来の華琳の髪色である金髪とは少し色合いの違う、綺麗な黄金色の髪。
「おお、風。もう追いついたか」
「はい~。って、御遣いさんたち、私の顔に何かついてますでしょうか~?」
この場面で、星が現れたのなら、風も姿を見せるのは当然と分かっていた。
華琳にも俺の経験として、話は通していた。そんな華琳ですら、すぐにはうまく言葉が出ないみたいで。
俺は、この込み上げる気持ちをどう抑えたらいいのか、真名を呼びたい感情を、堪えるので精一杯。
これで、稟まで来たら、俺は。
「ぷはぁああああぁぁぁぁぁぁ・・・」
え? いきなり? 再会の感動も何も無し?
というか、久しぶりに見た鼻血のアーチ、今まで見た中で、最高の高さを描いてないかっ!?
「おぉ!? 真剣な場面になるはずが、全てをぶち壊す稟ちゃんの鼻血曲線・・・すごいですねぇ」
「見とれてる場合!? って、鼻血を止めないと! 流石にこの出血量はまずいわよ!」
華琳も一気に我に返ったようだ。今回ばかりは稟の鼻血癖に感謝・・・って、まだ噴出してるー!?
「とんとん、とんとん・・・って、困りましたねぇ、まだ止まりませんよ?」
「これはいかんな・・・どれ、荒っぽいやり方ですが。ふっ!」
星が出血大サービス中の稟の首筋に手刀を落とす。
かくりと項垂れ、意識を飛ばした彼女の鼻からはまだ血が出ていたが、徐々にその量は減っていく。
「よし、これで一安心」
「・・・いや、あの出血量だから、医者に見せた方がいいんじゃないかな?」
「ふむ、御遣い殿の言うことも一理ある」
「いや、あの御遣いって断定されても・・・まぁ、いいや。今はその娘を早く街か村に連れていかないと」
「ですねー。ではお兄さん、いきましょ~」
イヤ、アノ、ナゼシゼンニ、オレノウデニテヲマワシテイルノデスカ?
あぁ、華琳の目線が刃に! 首筋が寒いっ!
「風・・・初対面の男性にいきなり、腕を絡ませるというのは、いかな私とてやり過ぎと思うが」
気絶した稟を抱えながら、星のフォローが入る。そうだ、そうだよね! 星の言う通りだ!
「だって、お兄さんはお兄さんなのです」
『いや、意味が分からないから(わよ)』
華琳と俺の同時突っ込み。風は元々不思議な子だけど、さすがにこれは意味が分からない。
それにしても、俺と華琳の息もぴたりと合うようになったもんだ。阿吽の呼吸に近いな、うん。
「それに天女様、お兄さんはちゃんと片腕が空いていますよ」
確かにそうだ、空いてる、ってなんか違うだろ、風・・・って呼びそうになるな、危ない。
「天女って、私・・・しかいないか。まぁ、いいわ。一刀、腕を貸しなさい」
華琳はもう一方の俺の腕に、自然にその身を預けてくる。約一年間、二人で過ごした時間の、嬉しい絆の結実の一つ。
こうして素直にお互いに寄り添えるようになれただけでも、
俺が元々過ごしていた世界で、一緒に過ごした意味があると思える。
「・・・さすが、御遣い殿と天女さまだ。変な照れも、それでいて、嫌味にも感じないとはな」
「妙な感心はしなくていいわよ・・・」
星の感想に華琳が呆れ顔で返す。
俺が直接は知らない三国鼎立後のやり取りって、こんな感じだったのだろうか。
「お兄さん、なんか嬉しそうですね~」
「そう見える?」
「えぇ、この状況にニヤける訳でもなく、なんともいえない優しい微笑みをされてます」
「俺が夢見た風景の一つを、垣間見れたからかな」
「ぐぅ・・・」
「寝るなっ!」
「おぉ、思わず、お兄さんの意味不明な回答と身体の温もりにうとうとと・・・」
「あのなぁ・・・」
ふと横を見れば、華琳まで微笑んでいる。
「ふふ、一刀。夢じゃなくて、現実にするのよ。貴方が見れなかった、世界の続きを」
「・・・あぁ」
なんて出来たパートナーだろう。
微笑みだけで、こっちの真意まで読み取ってくれる、才女が隣にいる。
「やってみせるさ」
見上げる空の青さを目に焼き付けながら、俺は決意を新たにした。
(そういえば、まだ自己紹介してませんね~。まぁ、街に着いてから、ゆっくりやればいいですかね~)
(なんとも居心地のいい御遣い殿だが、お互いの名前さえ、まだ明かしていないような?)
うん、風と星の考えなんて、これっぽちも気づいていない俺だった。
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星と風のフリーダムさを失念していた俺は、
現代編を絡める隙さえ許されなかった!