No.225835

異聞~真・恋姫†無双:四

ですてにさん

星と風のフリーダムさを失念していた俺は、
現代編を絡める隙さえ許されなかった!

2011-07-02 11:59:34 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:11759   閲覧ユーザー数:8228

「ふむ、盗賊に囲まれている様子だったゆえ、急ぎ駆けつけてみたものの・・・どうやら必要無かったようですな」

 

回想に耽っていた自分の意識が、懐かしい声に引き戻される。

白い振袖風の衣服に、透き通るような空のような青い髪。趙子龍~『星』の凛とした立ち姿がそこにあった。

周回の記憶を持って、改めて、絆を育んだ一人の女性を出会うってのは、色々感慨深いものがあって。

俺は、言葉を失っていた。

 

「えぇ、あのぐらいの相手なら、造作も無いわ。手間を取らせたわね」

 

華琳がいてくれて、本当に良かったと思う。声が出ない俺の代わりに、適切な対応をしてくれる。

 

「しかし、その珍しい出で立ち、異国の方ですかな? 光を反射する服とは初めて目にしましたな」

「えぇ、珍しいみたいね。こちらが男性用、私が着ているのが女性用だけど、

意匠もそれぞれ統一性を持たせながら、ちゃんと差別化をしているから」

「二人並んでいると、眩しさすら感じますな」

「たぶん、管路の予言にある『天の御遣い』さんたちではないでしょーか~?」

 

俺たちの後方から聞こえる、忘れぬことのない、妙に間延びした独特の声。

華琳が微かに─俺や春蘭や秋蘭で無ければ気づけないほどの─動揺を、見せるのも無理は無い。

本来の華琳の髪色である金髪とは少し色合いの違う、綺麗な黄金色の髪。

 

「おお、風。もう追いついたか」

「はい~。って、御遣いさんたち、私の顔に何かついてますでしょうか~?」

 

この場面で、星が現れたのなら、風も姿を見せるのは当然と分かっていた。

華琳にも俺の経験として、話は通していた。そんな華琳ですら、すぐにはうまく言葉が出ないみたいで。

俺は、この込み上げる気持ちをどう抑えたらいいのか、真名を呼びたい感情を、堪えるので精一杯。

これで、稟まで来たら、俺は。

 

 

「ぷはぁああああぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

え? いきなり? 再会の感動も何も無し?

というか、久しぶりに見た鼻血のアーチ、今まで見た中で、最高の高さを描いてないかっ!?

 

「おぉ!? 真剣な場面になるはずが、全てをぶち壊す稟ちゃんの鼻血曲線・・・すごいですねぇ」

「見とれてる場合!? って、鼻血を止めないと! 流石にこの出血量はまずいわよ!」

 

華琳も一気に我に返ったようだ。今回ばかりは稟の鼻血癖に感謝・・・って、まだ噴出してるー!?

 

「とんとん、とんとん・・・って、困りましたねぇ、まだ止まりませんよ?」

「これはいかんな・・・どれ、荒っぽいやり方ですが。ふっ!」

 

星が出血大サービス中の稟の首筋に手刀を落とす。

かくりと項垂れ、意識を飛ばした彼女の鼻からはまだ血が出ていたが、徐々にその量は減っていく。

 

「よし、これで一安心」

「・・・いや、あの出血量だから、医者に見せた方がいいんじゃないかな?」

「ふむ、御遣い殿の言うことも一理ある」

「いや、あの御遣いって断定されても・・・まぁ、いいや。今はその娘を早く街か村に連れていかないと」

「ですねー。ではお兄さん、いきましょ~」

 

イヤ、アノ、ナゼシゼンニ、オレノウデニテヲマワシテイルノデスカ?

あぁ、華琳の目線が刃に! 首筋が寒いっ!

 

「風・・・初対面の男性にいきなり、腕を絡ませるというのは、いかな私とてやり過ぎと思うが」

 

気絶した稟を抱えながら、星のフォローが入る。そうだ、そうだよね! 星の言う通りだ!

 

「だって、お兄さんはお兄さんなのです」

『いや、意味が分からないから(わよ)』

 

華琳と俺の同時突っ込み。風は元々不思議な子だけど、さすがにこれは意味が分からない。

それにしても、俺と華琳の息もぴたりと合うようになったもんだ。阿吽の呼吸に近いな、うん。

 

「それに天女様、お兄さんはちゃんと片腕が空いていますよ」

 

確かにそうだ、空いてる、ってなんか違うだろ、風・・・って呼びそうになるな、危ない。

 

「天女って、私・・・しかいないか。まぁ、いいわ。一刀、腕を貸しなさい」

 

華琳はもう一方の俺の腕に、自然にその身を預けてくる。約一年間、二人で過ごした時間の、嬉しい絆の結実の一つ。

こうして素直にお互いに寄り添えるようになれただけでも、

俺が元々過ごしていた世界で、一緒に過ごした意味があると思える。

 

「・・・さすが、御遣い殿と天女さまだ。変な照れも、それでいて、嫌味にも感じないとはな」

「妙な感心はしなくていいわよ・・・」

 

星の感想に華琳が呆れ顔で返す。

俺が直接は知らない三国鼎立後のやり取りって、こんな感じだったのだろうか。

 

「お兄さん、なんか嬉しそうですね~」

「そう見える?」

「えぇ、この状況にニヤける訳でもなく、なんともいえない優しい微笑みをされてます」

「俺が夢見た風景の一つを、垣間見れたからかな」

「ぐぅ・・・」

「寝るなっ!」

「おぉ、思わず、お兄さんの意味不明な回答と身体の温もりにうとうとと・・・」

「あのなぁ・・・」

 

ふと横を見れば、華琳まで微笑んでいる。

 

「ふふ、一刀。夢じゃなくて、現実にするのよ。貴方が見れなかった、世界の続きを」

「・・・あぁ」

 

なんて出来たパートナーだろう。

微笑みだけで、こっちの真意まで読み取ってくれる、才女が隣にいる。

 

「やってみせるさ」

 

見上げる空の青さを目に焼き付けながら、俺は決意を新たにした。

 

(そういえば、まだ自己紹介してませんね~。まぁ、街に着いてから、ゆっくりやればいいですかね~)

(なんとも居心地のいい御遣い殿だが、お互いの名前さえ、まだ明かしていないような?)

 

うん、風と星の考えなんて、これっぽちも気づいていない俺だった。


 
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