聖フランチェスカ学園剣道場
パァンッ!!
道場に乾いた音が木霊した。
道場の中心には竹刀を持った二人の剣士が戦っていた。
一人は烈火の如き攻撃を仕掛け、もう一人はその攻撃を流れる水のように緩やかに受け流す。
その攻防とも言えない応酬が一時間以上続き、何合目か分からないほど剣を交えたその時、攻勢に出続けていた剣士がふとその剣を納め、自らの面を外した。
面を外したその素顔は絶世の美女と呼ぶに相応しい美貌を持った凛々しい女性だった。
女性は面を外した後、自身の持つ竹刀を見つめ、一言つぶやく。
女性「まだ届かない……か」
その一言が先ほどの戦いの勝者がどちらなのかを物語っていた。
女性の相手である剣士も女性同様ゆっくりと自身の付けている面を外した。
面の下には歳不相応に落ち着いた雰囲気を身に纏った男子高校生の姿があった。
青年は防具を外し終えると先ほどまで戦っていた女性の方に近づき、
青年「不動先輩は弱くありませんよ」
たった一言の慰めを口にする。
不動「……皮肉か?」
不動の恨みがましい一言に青年は苦笑いを浮かべた。
青年「皮肉ではなく、事実です。今回俺はただ先輩から逃げていただけです。試合なら逃げてばかりいる俺に注意が出るでしょうから先輩の勝ちです」
不動「だが北郷、先ほどまでやっていたのは試合ではなく死合だ……」
北郷と呼ばれた青年は不動の言葉に頭を悩ませた。
北郷「確かに今回は試合ではなく、死合だったのは否定しようのない事実です。ですが先輩は一つ勘違いしています。」
不動「勘違い?」
北郷「そうです。先輩は俺に死合を申し込むときにこう言いました。『北郷、私は少しでもお前に近づきたい!だから、より実戦に近い死合をしてお前の技を少しでも身に付けたいんだ!』と……」
北郷の言葉に不動は心の底から不思議そうに首をかしげた。
不動「……確かに言った。だが、それと手を抜くこととどんな関係がある?」
北郷「まだわからないんですか?俺はあくまで指導するつもりで死合を受けたと言ってるんです」
不動「なっ!?」
不動は北郷の言葉に目を丸くした。
不動「どういうことだ!!指導するつもりだったのならそれは最早死合ではないだろう!?私を馬鹿にしているのか!?」
不動は顔を真っ赤にして怒りをあらわにしたが、北郷は意に介さずに言葉を続ける。
北郷「怒るのはわかりますが話を聞いてください。確かに俺は手を抜きました……ですが、それはあくまで攻撃だけです。防御に関しては一切の手抜きはしていません。むしろ本気でした」
不動「……どういうことだ?」
落ち着きを取り戻した不動は率直に疑問を投げかけた。
北郷「俺が今回先輩に教えたかったのは実は防御なんです。先輩は確かに強い。お世辞抜きに強い。高校生レベルで先輩に敵う剣士は恐らくいないでしょう。ですが、どうです?その高校剣道最強の先輩が先ほどの死合では俺から一本どころか掠らせることもできなかった。あれだけ攻撃に全力を注いだのに届かなかった。……その理由わかりますか?」
北郷の問いに不動は無言で首を横に振った。
北郷「それは……先輩が俺を殺そうとしていないからです。」
不動「!?」
北郷「『そんなことはない!』って言いたそうな顔していますね……でも、誇っていいんですよ。それは先輩が剣道家として正道を歩んでる何よりの証拠なんですから」
言った北郷は心の底から嬉しそうに微笑んだ。
北郷「『人として剣の道を歩む者』が剣道家です。その剣道家である先輩が、人を殺すような人間になったら……それは最早剣道家ではありません」
不動「だが、私はお前の…………『北郷一天流』の技を---」
北郷「必要ありません」
続く不動の言葉を北郷一刀はばっさりと切って捨てた。
北郷「先輩に『北郷一天流』は必要ありません。北郷一天流は殺人剣です。人を斬り殺すためだけの術なんです。そんなモノを身に付けて先輩は何になるつもりなんですか?公式の試合で相手を斬り殺すつもりですか?」
不動「そ、それは……」
不動は何も言えなかった。
否、その一言で理解してしまった。
一刀が自分を攻撃しない理由に気づいてしまった。
北郷「俺は……俺はそんな先輩を見たくない!!俺は---」
一刀は---
北郷「先輩を---」
自分を---
北郷「殺したくない!!」
殺したく……なかったのだと---
不動「……落ち着いたか?」
北郷「……はい。すみません取り乱してしまって……」
不動「構わんさ。……むしろ嬉しいくらいだ」
北郷「え?」
不動「私は今まで……圧倒的なお前の強さばかりに目が行っていた。お前の強さに、圧倒的な剣技に酔いしれていて、同時に焦っていた。私にはあんな剣は振るえない。だけどお前に置いていかれるのは嫌だと、ならばいっそのこと北郷一天流を身に付けようと……そう思っていた。だが結果としてその焦りが自身の目と自身の目指すべき道を曇らせていた……」
北郷「先輩……」
一刀は心配そうに不動を見つめていたが、不動はそんな一刀の視線に気付くと照れ臭そうにはにかんだ。
不動「そんな心配そうな顔をするな。言っただろう?むしろ嬉しいと……。お前のおかげで気付けたんだ。今の自分に必要な『奪うための剣』ではなく、『護るための剣』という道を……」
北郷「先輩……」
不動「お前のおかげだ。北郷---いや、一刀」
北郷「!!」
不動「ははっ!冷静なお前でもうろたえることがあるんだな。」
北郷「///かっ、からかわないでくださいよ!」
不動「悪い悪い、……今日は色々と迷惑をかけた。お詫びをしたいのだが、この後空いているか?」
不動のその言葉に一刀は今思い出したという感じに両手を合わせた。
北郷「やばっ!!忘れてた!すいません先輩、この後兵衛と烈矢と一緒に久しぶりに飯食いに行く約束してたんで今日はこのまま帰らせてもらいます!本当すいません!」
不動「兵衛?……烈矢?……ああ、いつも君が一緒に居る男の子達か。確か一緒のクラスの子だったよな?見たところ二人とも相当の手練のようだったが……」
北郷「二人とも相当デキますよ。俺がこの世で最も殺り合いたくない奴らですから」
不動「それほどか!?ぜひ一度手合わせしてみたいものだな。今度道場に連れて来るといい」
北郷「暇が出来たら連れてきますよ。それじゃ失礼します」
そう言うと一刀は駆け足で道場を後にした。
あとがき
勇心です。
………本当にすいません。
本当は頑張ってオリキャラ二人も出そうと思ったのですが、文章書くのが難しすぎて上手く書けませんでした。
一刀のチートぶりもイマイチ伝えられてない感じなので、正直読んでくれた人達には大変申し訳ない結果になりました。一刀のキャラが定まってないわ 北郷一天流って何だよとか 不動先輩キャラ崩壊してるとか 色々ツッコミどころ満載のスタートですみません
今後少しづつ精進したいと思うので温かい眼で見守ってもらえると幸いです。
次回はオリキャラの巽兵衛と赤羽烈矢を登場させて一刀を含めた三人でファミレスで飯食う話から入ろうと思います。
それでは、次回も読んでいただけるように see you
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正真正銘生まれて初めての作品です。
力一杯頑張るのでよろしくお願いします。
まずは現代でのお話から始めたいと思います。
寛大な心で読んでいただければ幸いです。