真・恋姫無双SS ~この地に生きるものとして~
第5話「別離」
一刀は益州は漢中の街に一人でやってきていた。
なぜ一刀が漢中に一人で来たのか、
それは半年前に一刀の元に届いた一通の手紙に端を発していた。
その日も一刀は関羽と手合わせをしていた。
関羽が師『丁原』に認められ弟子入りを果たしてより1年、
初めの頃はいい様にあしらわれていた関羽の攻撃も鋭さを増し、
時折、一刀をヒヤリとさせる一撃を放つようになった。
「随分と腕をあげたな愛紗。俺を抜く日も近いか?
うかうかしてられないな」
そう言いつつも関羽の放つ攻撃を体勢を崩すことなく避けていく。
「そんな事をいいつつ、未だ一撃もまともに受けてくれないではないですか」
悔しそうに言う関羽の表情は明るい。
師に弟子入りしてより自身の腕が日々上達していく事を関羽は確かに感じていた。
それでも未だ一刀に一撃を受けさせる事すらできないでいる。
本来の彼女の気性であれば、悔しさのあまり感情を爆発させる所であろうが、
関羽は逆に感謝すらしていた。
目指すべ頂の高さに、未だ底の見えない一刀の武に、
そんな人に手合わせをしてもらえる日々に。
「それは愛紗と俺の武の質が違うからさ、
愛紗の本質は『力』、それに対して俺の本質は『速さ』だ。
まともに打ち合っていたら、あっという間にやられちゃうよ」
「そんな事を言って煽てても騙されません。
その余裕に満ちた表情を崩してさしあげます!」
そう言って放つ関羽の一撃は先ほどまでの物より数段速い。
しかし、その一撃ですら一刀に体捌きだけでかわされしまう。
「本当に憎らしい人です。渾身の一撃ですら、掠らせてもくれない」
「愛紗はもっと虚実を織り交ぜる事を覚えた方がいいな。
どんなに鋭い豪撃も、実のみでは俺に当てる事はできないよ」
そんな二人のやり取りを師は遠めから微笑ましげに眺めていた。
そんな時、表口の方から人の来る気配を感じた、
この場を訪れる者はそう多くない、不躾な輩でなければいいが・・・
そんな事を思いながら、師は表口の方へ向かっていった。
少しして、師が一通の書簡を持って二人の所までやってきた。
「一刀、貴方に手紙よ。」
「手紙?」
手合わせを止め、師の方に振り返りながら一刀は首をかしげる。
一刀がここにいるのを知っている者は益州にいるはずの養母くらいである。
その養母がわざわざ手紙をよこすような事があるだろうか?
そんな事を考えながら手紙を受け取り、中身を一瞥する。
手紙を見た一刀の顔色が見る間に変わっていく。
「し、師匠、俺急いで帰らないと!」
「何があったの」
そう言って一刀の手にした手紙を一読する師。
そんな中、どうしようといった感じで取り乱している一刀。
手紙の内容は、一刀の養母が病にかかり床に臥せっているというもの。
わざわざ手紙をよこすくらいだ、楽観できるものではないのだろう。
また、益州からここまで手紙が届く時間を考えれば一刻をあらそうだろう。
「一刀、馬を用意するわ。貴方はすぐに旅支度を」
「は、はい」
慌てて準備をする二人に様子を関羽はただ黙って見つめる事しかできなかった。
本音を言えば一刀について行きたい。
でも、自分が付いていけばおそらく足手まといになるだろう。
そんな思いが関羽の行動を止めていた。
しかし、関羽の思いに関係なく準備はすぐに終わった。
最低限の身支度をした一刀が師の用意した馬に手を伸ばそうとしたが、
関羽に振り返り、腰にさしていた剣の一振を差し出した。
「愛紗、『龍爪』の一振を預ける。
しばらく会えなくなるからな、俺の代わりだとでも思って大事にしてくれ」
「は、はい!」
関羽は嬉しかった。
急ぐ最中でも自分を気遣ってくれたことが
武人の魂ともいえる武器を・・・・と、そこで関羽の思考がピタッと止まる。
『龍爪』は雌雄一対の夫婦剣である。
その片方を渡すといった行動の意図するところを
一刀は離れても常に共にあるといった意味で渡したが、
関羽はその意味を誤解してしまった。
「あ、あ、あ、あ、義兄上の思い確かに受け取りました!
次に会う時にまでに義兄上・・・いえ、一刀様に相応しい女になっていてみせます!」
急に顔を真っ赤にして剣を受け取った関羽の様子に首をかしげながらも
「あ、ああ・・・修行、がんばれよ」
などといったかみ合っていない返事をして馬上の人となる。
「師匠、愛紗のことよろしく頼みます」
「まかせなさい。関羽は責任を持って一人前の武人に育て上げるわ。
・・・と言っても、あの様子じゃあ、そんな必要もないでしょうけど」
師がちらっと関羽を一瞥すると、『龍爪』を手に俄然やる気をだしている姿が・・・
気のせいか背後に炎が見える気がする。
そんなやり取りの後、一刀は急ぎ旅立ったのだった。
時間は戻り、漢中にある一軒の屋敷の前。
一刀はその屋敷の前で荒げた呼吸を落ち着けていた。
やがて、呼吸が落ち着くと、意を決して屋敷へと入る。
そこには養母を心配して集まった人たちだろうか
数人の大人達が右往左往していた。
そのうちの一人が一刀に気づいて駆け寄ってくる。
「郷坊ちゃん、よくお戻りになられました。
御養母様は奥の寝室で休まれています。
はやく行ってあげてください。
もう、あまり時間が・・・」
それを聞くと一刀は大慌てで置くに走っていく。
部屋に入るとそこには、
寝台に力なく横たわっている養母の姿と、
寝台の横で養母を看病している赤毛の少年がいた。
一刀は、部屋に入った勢いそのままに寝台に駆け寄り、養母の手を握る。
「養母さん!」
「かずと・・・かえってきたのですね・・・」
「は、はい・・・無事に卒業の証もいただけました」
「そうですか・・・よく、がんばりましたね・・・」
力の入らない手で一刀の頭を優しく撫でる。
「それよりも、養母さんは・・・」
「ながくはもたないでしょう・・・」
「そんな・・・・」
ここを旅立った時にはあんなに元気だった養母が、
今は寝台から体を起すこともできずにいる。
今まで養母から受けた恩ははかりしれない、それを何一つ返す事ができない。
その悔しさに一刀は涙を流す。
「そんなかおをしないで・・・
わたしは精一杯生き・・・・一刀という息子を得ることができた・・・・・・・・・
それにわたしの術を・・・・・後世に残すこともできた・・・・」
そう言って、いままで黙って二人のやりとりを見ていた赤毛の少年に視線をうつす。
「その子の名前は華佗・・・わたしの最後の弟子・・・・・そして五斗の奥義を継ぐ者・・・・
まだ未熟ですが・・・・その秘めた才は私を超えていくものと・・・・・確信しています・・・」
養母の言葉に視線を少年の方へと移せば、
華佗と呼ばれた少年がこちらに頭を下げてきたので、それに目礼で返す。
「華佗・・・あの書物をここへ・・・」
それを聞くと華佗は棚より一冊の書物を取ってきた。
「師母・・・」
「ありがとう・・・」
華佗からその書物を受け取ると一刀にそれを差し出した。
「一刀に術を伝えることのできなかったわたしが・・・・貴方に残せる最後の物・・・
それにはわたしが長年培った薬学知識と・・・・・奥義をもちえずとも扱える・・・・
医術に関してまとめた物・・・・・これを一刀に託します・・・・・」
震える手で差し出された書物を受け取る一刀に頷いて返すと、
一刀と華佗の二人を見つめ
「術とは扱う者次第で正にも邪にもなる・・・・
それは武術に限った事だけではなく・・・医術にもいえることなのです・・・・
生かす事と殺す事は同義であると心得なさい・・・・
すべてを救うことはできない・・・・・
貴方達がこれから生きていく中で・・・・いずれ選択を迫られるときが来るでしょう・・・・
その時に・・・・・何を生かし・・・・何を殺すのか・・・・
たとえその結果が自分の望むものでなかったとしても・・・・
立ち止まることなく・・・・歩み続けてくれることを願うばかりです・・・・・・」
そう言い残すと疲れたとばかりに目を閉じた。
それから10日後、一刀の養母は眠るように域をひきとった。
病に侵されながらもその死に顔は穏やかなものであった。
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遅くなりましたが5話目になります。
今までになく自身の文才の無さが恨めしく思いました。
だいぶ意味不明な話になってしまいましたが、
よろしければどうぞ