三人組はあっという間に打ち倒された。
俺がのっぽの相手をしている間に、華琳は瞬く間に他の二人を昏倒させて、
こちらの戦い振りを観察している余裕まであった。
「なかなかサマになってきたじゃない。兵士辺りにはもう引けを取らないわね」
「んー。でも、将相手だったら駄目だろうなー。数合持たせるのが精一杯じゃないか?」
「一刀は武で戦う将では無いのだから、最低限身を護れれば十分。それに臆病な方が、人の何倍も考える。
貴方はそうやって戦ってきたのだから、下手に強くなり過ぎなくていいのよ、きっと」
「言いたい事は判る気がする・・・」
『覚えてろー』と捨て台詞を言いながら逃げていく三人組を見送りつつ、
華琳と共に外史に再び舞い降りることになった、こんな不思議な状況に至るまでの時の流れを、
俺は振り返るように思い出していた。
胡蝶の夢の終わり、華琳との別れ。
見慣れた自分の部屋の天井を見て、隣に彼女がいない現実に思わず涙をこぼしてから、もう半年。
戻る方法を必死に模索して、だけど、そのきっかけすら掴めぬ日々。
華琳の世界で二年を過ごした俺が、こちらに戻ってきた時、二日しか経っていなかった事実。
こちらでの半年を華琳の過ごす世界に換算したら、それは、悲観的な結論しか出なかった。
もう諦めよう。
そう絶望して、無気力になりかけて、ベッドに寝転がり、天井を見て、もう一度涙を流した。
諦めたくないのに、現実に潰されそうになっていた。
どうしようもない空しさと悲しさに、涙が止まらなかった。
だけど、泣きながら、俺は夢を見たんだ。
同じように寝台に身を横たえ、涙を流す華琳を。別れた時の彼女の風貌のままで。
夢だとわかっていながら、俺は必死に呼びかけ、手を伸ばしていた。
『離れたくない』『一緒にいたい』
歪んでいく夢の世界で、俺たちは手を取り合い、この手を離すものかと強く握り合って。
夢なのに、感じられるその温もりを。二度と失ってたまるかと、お互いに強く抱き締めて。
『もう一度繋いだこの手を、絶対に離さない───』
・・・再び目覚めた時、見慣れた天井の下で。
腕の中に、覇王の衣を脱いだ、愛しき・・・寂しがり屋の女の子が。そこには、いた。
三度流した涙は、嬉しさからだった。
「華琳、本当に華琳なんだよな。夢じゃないんだよな・・・?」
「そうよ、一刀・・・! 私だって、何度夢に見たか・・・! この温もりを、幾度となく求めたと思っているの・・・!」
「華琳の匂いだ、忘れるもんか・・・」
ここまでなら、感動的なハッピーエンド。だけど、そうは問屋が卸してはくれなかった。
「ぶるわぁあ嗚呼ああぁあぁあぁあああ!!!!!」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
「えっ、どういうこと!? ありえない、なんでこんな化け物がっ・・・!」
女物の下着を身に着けた、大柄の筋肉隆々の無精ひげを生やしたおっさんが、
ベッドのすぐ傍に立っていたのだから。
「誰が筋肉馬鹿の海パン一丁の変態ですってぇええええええ!!!!」
「誰も言ってねぇええええ!!!!」
「一刀、どきなさい! まずはこの変質者を駆除するわっ!」
俺の部屋は今、混乱の極みにあった。華琳と再び出会えた喜びもへったくれもない。
本能が警鐘を鳴らす。早く華琳を連れて逃げろと・・・!
(ごんっ)
次の瞬間。怪しい変態の頭から煙が立ち昇り、痛みに頭部を抱える姿があった。
「馬鹿もんっ! 何十年経っても、暴走する癖はそのままか、貂蝉!」
「・・・爺ちゃん!?」
「あ、あぁぁぁあ、貴方はぁああああ・・・ごしゅ、ぐふっ、愛の拳が痛いわ・・・」
抱き付こうとする変態を爺ちゃんの拳骨が一閃。
痛みはそれ程でも無いらしく、しなを作って身体をくねらせている・・・気持ち悪い。
「なにやら流星が異様に瞬いた上に、一刀の部屋からこの世の断末魔のような叫び声が聞こえると思えば。
女を連れ込んで抱き合っておるわ、何十年ぶりの久しい友人は早速暴走しとるわ・・・」
「よくわかんないけど、とにかく助かったよ、爺ちゃん・・・」
「さて、とりあえず、そちらのお嬢さんも含めて皆座れ。話を聞かせてもらうぞ。
おーい、婆さん。こっちは大丈夫だ。茶でも持ってきてくれ」
思いも寄らない、爺ちゃんの助け舟。
こうして、現代に引き寄せた華琳との、奇妙な生活が幕を開けた。
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動画作成の気分転換のはずが、なぜか魏アフターの続き物を書いている俺は病気。
現代編。再び外史に舞い降りる前のお話。
短いけど、ぽんぽんあげる方が性にあっているようなので。