なぜ自分がこんなに苛立っているのか、川神百代は不思議だった。最初は、京の怒りに便乗して一緒に大和をからかおうと思ったに過ぎない。だが時間が経つにつれ、ふつふつと怒りが湧いて来るのだ。
(あいつは意外とモテるからな……)
詳しい事はわからなかったが、京の話と様子から想像は出来る。交友関係の広い大和のことだ、間違いがあってもおかしくはない。そう思う一方で、裏切られたという思いもあった。
(大和の奴、もう忘れたのかな……)
幼い頃の約束。自分の隣に並んで立てる男になる、大和は百代にそう言ったのだ。それなのに、大和がどこか遠くに行ってしまったような気持ちになった。
(私の知らない女と何をした? 何をされたんだ?)
大切なものを奪われたような悔しさ。だから、取り戻す。そのために、京に提案したのだ。
「待ってろよ、大和」
島津寮の前で仁王立ちをする百代を、玄関がゆっくり開いて京が招き入れる。
「モモ先輩、こっち」
「おう、京……って、その格好は何だ?」
「もちろん、伝統的な夜這いスタイルだよ」
「ほー」
「ノーブラで男物のシャツだけ羽織り、下は勝負パンツ」
「当然そのシャツは――」
「大和のだよ。脱ぎ立てで、匂いが染みついてて……ハァ」
「……男がやったらかなりの変態だけどな」
「女だから許される……ふふふ」
不気味に笑う京に続き、百代も島津寮に入った。
目指すは大和の部屋。気配を消すのは、百代も京も得意だった。
「おじゃましまーす……」
静かにドアを開けながら、百代が囁くように言う。部屋に敷かれた布団を、百代と京が挟むように立った。そして目視で合図を送り、両側から布団をめくって潜り込む。
「大和……」
仰向けで寝ている大和の横顔が京の近くに迫ると、思わず吐息と共に声が漏れた。百代も改めてまじまじと、舎弟の顔を眺めた。
(当たり前の事だが、オトナになったよな私たち……)
小さい頃から知っているだけに、何やら感慨深い思いが込み上げる。
(あの頃は一緒に寝るのも、あまり抵抗はなかったけど)
今は不思議と、胸が高鳴った。まるで戦いが始まる直前のような興奮。でもそれとは違う、微かな甘い切なさ。
「大和……はむっ」
果敢にも京が攻める。寝ている大和の耳たぶを甘噛みしたのだ。負けじと百代も、耳を攻めることにした。自慢の胸を密着させ、暗闇の中で舌先だけですべてを感じながら陶然と目を細める。
無意識に、百代と京の手が大和の肉体をまさぐった。浸食するように、パジャマの隙間から指を差し入れ地肌をなぞる。二人の熱気に、大和の肌がわずかに汗ばんでいた。
「ん……うぉあ! 京? 姉さん!」
「おはよ、大和」
「ふふふ、起きたか大和」
驚いて目覚めた大和は、布団から抜け出そうとするが両側からガッチリと掴まれて身動きが出来なかった。百代と京は、逃がすまいとするように手足を絡めている。
「な、何やってるんだよ、二人とも!」
「何って……夜這い?」
「よ――!」
「大和、あまり騒ぐと他の連中に気付かれるぞ?」
「ぐっ……」
クスクス笑う百代と京は、大和をなだめるように頬に唇を押し当てる。
「キスしろ、大和」
百代が強引に大和の顔を自分に向けさせ、唇を奪った。
「モモ先輩、ずるい」
すると今度は京が反対側に大和の顔を向けさせ、唇を奪う。百代よりも長く、舌を執拗に絡めてキスを堪能する。
するすると、京が布団の中に潜る。百代はガッチリ大和の顔を押さえ、何度も何度も唇を合わせた。最初は軽く、そして強く押しつけて舌先をねじこむように吸う。
「頭が、ほわっとする……大和ぉ……姉さんは切ないぞ……」
休む暇もないほど、激しく深い百代のキスに、大和も為すがままだった。息苦しくなるとわずかに離れ、けれどすぐにまた熱く火照った唇を押しつける。顔を押さえていた百代の手は離れ、大和の首に巻き付いた。豊かすぎる胸の柔らかさが強調され、大和は頭の芯が焼き切れるほど熱くなる。
「姉さん……」
「ん……大和……」
うわごとのように、二人は互いの名前を呼び合いながら貪るように唇を重ね続けた。
一方、京は布団に潜ると大和の太ももに抱きついた。そして生地の薄いパジャマの膨らみに、うっとりとした眼差しで手を添える。掌で包み込むように何度もさすっていると、膨らみは大きく、そして硬さを増してゆくのだ。たまらず、京は口を近づける。
「はむ……」
最初はパジャマの上から、唇だけで甘噛みをして触感を楽しむ。そして鼻をこすりつけるようにし、大和の匂いを肺いっぱいに吸い込むのだ。わずかに汗ばんだ匂いが、京の心を溶かしてゆく。長い間、待ち望んでいた瞬間である。
「いくよ、大和」
京は思いきって、パジャマのズボンを下着ごとずらした。
「あっ! 京、だめだ……」
大和の声が聞こえるが、京は気にしない。焼けるように熱いそれを、丹念に舐めてゆく。最初はゆっくり敏感な部分を慣らし、メインディッシュとばかりに一気に頬張る。
「京! あぅ……」
思わず大和の口から、女の子のような鼻に掛かる声が漏れた。それを聞き、京は得意げににやりと笑って呟いた。
「椎名京、吸引力の変わらない大和独りだけの女……ふふふ」
リング上で行われている儀式を、誰もが固唾を飲んで見守っていた。死合いの勝者が椅子に座らされ、目隠しをされている。
「ちょっと待ってなよ」
釈迦堂刑部はそう言うと、ナイフで男の腕を小さく切る。滴る血を小皿で受け、それに何やら黒い液体を混ぜた。そしてそれに筆を浸すと、座った男の上半身に模様を描いていく。
「変な模様だな?」
「俺もよくわからないが、これが重要らしいのさ」
板垣竜兵の問いに答えながら、刑部は手を休めず筆を走らせる。
「後は……」
ポケットから手帳を取り出した刑部は、男の眉間に手を添えると、書かれている呪文を読み上げた。日本語ではない、初めて聞く響きの言葉だ。しばらく、その声だけが廃工場の中に響いていた。しかしやがて、男が苦しそうな唸り声を上げ始めたのである。
「グゥ……ガガガ……ウァ……」
刑部の声が止み、とたん、男は頭を掻きむしりはじめた。爪を立て、執拗に頭を掻き、やがてズルリとカツラのように髪の毛が動いた。髪がへばりついたまま、皮膚がはがれて肉片が覗く。
「ウァ! ガアアア!!」
苦しそうに悶え、男はリングの上を転がった。体中の皮膚が波打ち、瘤のようにあちこちが盛り上がったかと思うと、男の腕が大きく膨らみ始める。四肢は倍以上に大きくなり、体長は優に5メートルを超えたのだ。
「こりゃ、失敗だな」
「だが、おもしれえぜ釈迦堂さんよ!」
あまりの光景に不良たちは逃げ出すが、刑部、竜兵、亜巳の三人は楽しげにその様子を眺めている。
「出来損ないの巨人ね……どうします?」
「俺がやるぜ!」
竜兵が前に進み出た。そして天井に届くほどの巨体をもてあます怪物と向き合い、不敵に笑う。
「さあて、始めようか!」
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真剣で私に恋しなさい!を伝奇小説風にしつつ、ハーレムを目指します。
このくらいなら、たぶん大丈夫。
楽しんでもらえれば、幸いです。