『一矢一殺』
紡がれる言葉を
自分を守る、この頼もしい背中を
彼女は、その瞳に焼き付ける
『我が弓の前に、屍を晒せ』
やがて、放たれたのは・・・“光”
いつの日か見た、あの白き光
“ずっと見たかった・・・憧れていた光”
『白き・・・光』
さて、ここで一つ疑問がある
何故、“彼”はここにいるのか?
その答えを知る為には、少々時を遡る必要がある・・・
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第二章 四話【迷子、時々人助け?】
「さて、それじゃぁ・・・何処に行きましょうか?」
澄み渡る空の下
ニコニコと微笑みながらそう言ったのは、皆のお母さんこと七乃だった
しかしその言葉に、皆は一様に首を傾げてしまう
「おいおい、七乃
頭の方は大丈夫か?
私たちの目的地は“蜀”だろう?
もう忘れてしまったのか?」
そう言って、呆れたようにため息を吐き出すのは夕だった
彼女は七乃の頭を指さし、憐みの視線を向けている
だが、七乃もまた夕に向いそのような視線を向けていた
「いえ、夕さんこそ大丈夫ですか?
昨日お腹を出したまま寝てたせいで、おへそから脳みそが飛び出たんじゃないですか?」
「んなっ!?
失礼な・・・それしきで、頭がどうこうなる私ではない!!」
「じゃぁ、聞きますけど・・・私たちは今、何処に向えばいいと思いますか?」
「だから・・・蜀に行くんだろ?」
その一言に、七乃は深くため息を吐き出した
それから人差し指をピッと立て、地面を指さして一言
「私たちが今いる場所・・・此処はもう“蜀”なんですよ」
「えっ!?」
「なんじゃと!?」
「なんと・・・」
「此処が・・・蜀?」
「因みに・・・もう三日前から、蜀国領内に入ってました」
「「「「!?」」」」
七乃の言葉に、四人は目を見開き驚いた
そんな四人の反応を見て、七乃は呆れたように溜め息を吐きだしていた
「美羽様と一刀さんならともかく・・・まさか、祭さんと夕さんまで気づいていなかったなんて」
「ぐっ・・・し、仕方ないだろ!
しばらくずっと、天水から出ていなかったんだ!」
「そ、そうじゃそうじゃ!
儂ら、箱入り娘だったんじゃもん!!」
「箱入り・・・“娘”?」
「ダメじゃ、一刀
絶対にツッコんではいかんぞ?
あ奴らだって、きっとそんな時期があったんじゃ」
「はいはい、そんな戯言はどうでもいいですからさっさと目的地を決めちゃいますよ~」
パンパンと手を叩き、纏めに入ろうとする七乃
夕と祭は半べそをかきながらも、頷いていた
「さて・・・蜀といっても、中々広いですからね
まずはこの蜀国内の何処に向かうのか?
というところから決めましょうか♪」
「ふむ、一刀よ
お主が蜀に行きたいと言ったんじゃ・・・どこか、行く場所に心当たりはないのかのう?」
祭の言葉
一刀は、あることを思い出していた
それは・・・
『そこで君は、“2人の愚かな王”に出会うだろう
本当に愚かで、だけど愚か故・・・何とかしてあげたい、二人の王がね』
あの日、約束の草原で言われた言葉
示された道筋のことだった
「王に・・・会いたい」
ポツリと、呟いた
その呟きを聞き、七乃は眉を顰める
「王に、ですか?」
「ん・・・」
“そうですか”と、腕を組み七乃はしばし考え込む
それから、ニッコリと微笑みを浮かべたのだ
「会えるかどうかは別にして、ひとまず目的地は決まりましたね」
「目的地・・・」
「はい」
言って、彼女はまたいつものように人差し指をピッと立て微笑んだ
「蜀の都・・・“成都”
私たちの目的地は、そこに決まりですね♪」
「成都・・・」
呟き、彼は息を呑む
“知っている気がしたのだ”
その名前を
その響きを
「其処に、王がいる?」
「はい♪
蜀王である劉玄徳さんがいらっしゃいますよ」
「なら、行く」
頷き、微かに笑みを浮かべる一刀
そんな彼につられ、四人も笑みを浮かべていた
「さて、目的地が成都と決まったところで・・・一つ、朗報があります♪」
「朗報?」
「はい♪
さぁ、あちらをご覧ください」
言いながら、七乃はスッと指を差す
その指を追い見つめた先、そこには二手に別れた道があった
一方は、整理された綺麗な道
もう一方は、深い森へと繋がる道
その二つの道を見つめながら、七乃は嬉しそうに話始める
「あの二つの道のうち、森の方へとつながっている道なんですが
実は、成都への近道らしいんです」
「本当かや!?」
驚く美羽に、七乃は“はい♪”と頷いた
それから、見つめたのは一刀だった
「あの道を通れば、通常の半分の時間で成都へと着けますよ♪」
「あの道から・・・成都へ」
呟き、見つめた先
視線の先に広がる森は、相当深そうに見えた
「でも、一つ気になることがあってですね・・・」
「なんじゃ?」
「ちゃんとした道を進めば、近道になるんですけど
間違った方向に進めば、あっという間に迷子になってしまうみたいなんですよ」
「な、なんだと?
いや、それもそうか
相当深そうな森だしな・・・無理もない」
「さて、どうしたもんかのう」
悩む三人
その三人の姿を横目に、美羽はふとあることに気が付いた
「あれ・・・?」
見つめた先
先ほどまでいたはずの一刀がいないのである
“一体何処へ?”
そう思い、彼女はあることを思い出した
「か、厠か・・・」
それは、今からちょうど二日前
今と同じように、いつの間にか一刀がいなくなっていた時があったのだ
その時美羽は慌てて辺りを探し回り、そして一刀を見つけたのである
草むらの中、用を足す一刀の姿を・・・
そのことを思い出し、彼女は“すぐに戻ってくるだろう”と視線をふたたび未だに悩む三人へと戻した
これが、“間違いだったのか”
はたまた、“ある意味で正しかったのか”
その答えは、今の彼女にはわからないことである
ーーーー†ーーーー
そして、その頃の一刀はというと・・・
「蝶々・・・見失った」
蝶々を追いかけて、あの森の中へと入っていたのだ
しかし、肝心の蝶は見失ったようである
“残念”と、彼は頭を垂れる
「戻ろう・・・」
彼はその場で溜め息を吐きだすと、クルリと反転
皆のところへと帰る為である
しかし・・・
「あ、れ・・・?」
“おかしい”
そう思ったのだ
何処を見ても、道などはなく
見えるのは、何処までも並んでいる木々だけ
「いけない・・・」
呟き、彼は表情を曇らせる
気付いたのだ
自分が今置かれている状況に・・・
「皆“が”・・・迷子になった」
いや、盛大に勘違いをしていた
因みに・・・この一言にツッコんでくれる人は、勿論ここにはいない
ーーーー†ーーーー
さて、そんなわけで迷子になってしまった一刀
彼が森に入ってから、もう三日
それでも尚歩き回れるのは、念の為と事前に七乃が全員に配っていた非常食のおかげである
流石は一家の母
しかし、それも間もなく無くなってしまうだろう
一刻も早く、この森を抜ける必要があるのだ
「参った・・・みんな、何処で迷子になってるんだろう」
そして、勘違いは続いていた
本人からしたら、迷子になったのは自分ではなく皆なのである
ツッコミ不在が生んだ悲劇だ
「はやく、見つけてあげないと
祭が・・・“禁断症状で、干からびてしまう”」
さらには、こんな爆弾発言まで飛び出す始末
いや、祭本人が聞いたら“そうじゃ、酒を飲まねば死んでしまう”と言うかもしれないが
ともあれ、そろそろ色々とマズイ
そんな時だった・・・
「っ・・・!」
一瞬、本当に一瞬のことだった
彼は、咄嗟に背に背負った弓へと手をやっていたのだ
“一体、何故?”
そう疑問に思う彼だったが、その答えはすぐに出ることになる
「声が、聞える」
声が聞こえたのだ
若い女性の声だろうか
ともかく、近くに誰かいるのだろう
そう思い、彼はその場から駆け出した
やがて、見えてきた光景に彼はピクリと眉を顰める
少し先の方
2人の少女が、五人の剣を持った男と対峙しているのである
「雛里、急げ!!」
「でも・・・っ!!」
聞こえてきた叫び
それに伴い、五人の男たちは剣を構えたまま少女達に近づいていく
「マズイ・・・」
呟き、彼は駆けながら弓を構える
その黒き弓は、驚くほどに彼の手に馴染んでいた
彼は少し笑みを浮かべ、素早く矢を番え・・・
「ふっ・・・!」
・・・放ったのだ
それは一陣の風となり、少女達に一番近かった男の眉間へと突き刺さる
「ぐ、が・・・」
呻き声をあげ、倒れていく男
その様子に、少女達は戸惑いを見せていた
そんな彼女たちの姿を横目に、彼は再び矢を放つ
瞬間、矢は吸い込まれるように立っている男の眉間へと命中した
「がっ・・・!」
倒れていく男
残るは三人
そう思う彼に向けられる視線
2人の少女のうちの一人・・・青い髪をして、白い衣服を身に纏う少女が彼のことを見ているのだ
「大丈夫・・・?」
彼はそんな少女に向い、静かに問いかける
だが、少女は突然のことに驚いているのだろう
彼の問いに答えることはなく、目を見開いたままゆっくりと口を開く
「お、お主は・・・」
未だ戸惑う彼女
彼はどうしたものかと悩んだ後、彼女の頭にソッと手をのせ・・・ぎこちなく微笑んだのだ
「もう、大丈夫、だから」
「ぁ・・・」
そして、優しく撫でる
それから、スッとうつした視線の先
剣を構え様子を窺う三人の男を、彼は睨み付け弓を構える
「“一矢一殺”」
そして、口ずさむのは・・・彼の中に眠る“想い”
その想いを、この“弓”に込める為の“言葉”
“託された想いの力”
それを、確認するための合図
「“我が弓の前に、屍を晒せ”」
瞬間、放たれたのは・・・“光”
その姿に
その声に
少女の瞳が・・・微かに揺れていた
ーーーー†ーーーー
「ふぅ・・・」
息を一つ吐き、彼は構えていた弓を下した
その視線の先には、五つの屍が転がっている
勝負は、呆気なく幕を閉じた
彼の放つ矢は外れることなく、三人の男を近づけることなく仕留めたのだ
まさしく“一矢一殺”である
彼は弓を背負うと、未だこちらを見つめたまま固まる二人の少女のもとへと歩み寄った
「大丈夫、だった?」
「あ、ああ・・・」
“なら、よかった”と、一言
だがしかし、彼はその表情を一瞬で険しくさせる
「怪我、してる」
「っつ・・・ああ、そういえばそうだったな」
その一言で思い出したのだろう
少女は赤く染まる腹部をおさえながら、その場に膝をついたのだ
その姿を見て、馬に乗っていた小さな少女は慌てて声をあげる
「そ、そうでしゅ!
急がないと・・・っ星さん、死んじゃいましゅよ!!」
「そんな、大げさな・・・っと」
立ち上がり、星と呼ばれた少女は苦笑する
だがその瞬間、フラリと倒れそうになった
「危ない・・・」
「ぁ・・・」
その体を、彼はソッと受け止める
それから、空を見上げ呟いた
「もうすぐ、日が落ちる
暗い時に動き回るのは、危ないって・・・祭が言ってた」
「ふぅ・・・そういえば、もうそんな時間なのか」
呟き、参ったように息を吐き出す星と呼ばれた少女
彼女はそれから、小さな少女を見つめた
「雛里・・・ひとまず、今日は何処かで野宿をしよう
簡単な応急処置なら、確か出来ただろう?」
「止血くらいなら・・・でも、その傷じゃ・・・・・・」
「構わん
どのみち、今日中に成都まで帰れるわけではないのだ
やらないよりは、マシだろう?」
「は、はい・・・!」
“成都”
その一言に、彼はピクリと反応を示した
それから、彼女を見つめたままゆっくりと口を開く
「成都に、行くの?」
「む、そうだが・・・」
頷く、少女
その答えに、彼は僅かに表情を明るくさせる
「俺も、成都に行くつもりだった」
「なんと・・・そうだったのか」
少女の言葉
彼は“だから”と、少女の手をとって呟く
「俺も、一緒に行く」
「なっ・・・しかし」
戸惑う少女
そんな彼女の腹部を見つめ、彼は話を続ける
「君、怪我してるし
それに・・・小さい娘、戦えない」
「ち、“小さい娘”って私のことでしゅか!?」
「また、さっきみたいな奴が来たら大変」
「そして、まさかの無視でしゅか!?」
“だから・・・”と、彼は微笑んだ
まだ、ぎこちない
それでも、今できる精一杯の笑みを浮かべたのだ
「俺が、守るから」
「っ!」
“守る”
言われて、少女は一瞬で顔を真っ赤にさせる
口をパクパクとさせ、その場で固まってしまう始末である
そんな彼女の様子を見て、彼は少しだけ焦ったのだ
傷が悪化し、体調が悪くなったのかと思ったのだ
「ごめん・・・」
「ひゃっ!?」
だから彼は、彼女の体をそっと抱えたのだ
所謂、お姫様抱っこである
そうして少女を抱えると、彼はもう一人の少女を見つめた
「とにかく・・・どこか、休めるような場所を、見つけよう」
「ひゃ、ひゃい!」
少女はそう返事をすると、慌てて馬を進める
その後ろを、彼は少女を抱えたままついていく
「す、少しいいか?」
「・・・?」
そんな中、ようやく正気に戻ったのか・・・未だ微かに頬を赤く染めながら、少女は彼へと声をかけた
「私の名は趙雲、字は子竜という
お主の名は・・・なんと、いうのだ?」
恐る恐るといった様子で聞いてくる少女・・・趙雲
その言葉に、彼は少し間をあけてから答えた
「鄧艾、字は士載」
「そうか・・・鄧艾と、そういうのか」
“鄧艾”
呟き、何故か嬉しそうな表情を浮かべる少女
その様子を不思議に思いながらも、彼は前を進む少女の後を追っていく
そんな彼には、聞えていなかった
「“守る”などと、そう言われたのは・・・初めてだな」
腕の中
嬉しそうに微笑みながら、少女が零した言葉など
彼には、聞えていなかったのである
ーーーー†ーーーー
「まさか・・・これほどとはな」
遠くなっていく、三人の背中
その姿を、一人の男が見つめていた
その手に弓を持ち、愉快そうに表情を歪めながらである
「“呉蘭様”、いかがいたしますか?」
そんな男に声をかけるのは、先ほどの五人と同じように濁った瞳をした男である
その言葉に、男・・・“呉蘭”は、溜め息を吐きだした
「今は様子を見るぞ
勝てぬわけではないが、こちらもタダではすまないだろう」
「御意」
呉蘭の言葉に、男は頭を下げその場から素早く駆け出して行った
その背を見送り、彼は再び溜め息を吐きだす
それから、ニッと笑みを浮かべたのだ
「折角手に入れた“第二の人生”だ
こんなところで散らすには惜しすぎるしな」
そして・・・彼は“嗤った”
その声は不思議と響くことはなく、この深い森の中に吸い込まれるよう
消え失せていった
その“闇”に、一刀達は気づけないでいた・・・
★あとがき★
二章・四話、公開です
一刀君、絶賛迷子中w
そして出会ったのは、二人の迷える少女
まぁ“予言を聞かなかった”という時点で、この二人が活躍するのは予想できていたかもしれませんがww
今までに比べ、何とも和やかな今回
やぱり、一刀君たちはこうでなくっちゃww
さて、望まずして二手に別れてしまった一刀達
○一刀、星、雛里
●美羽、七乃、夕、祭
しばらくは、この二組を中心に物語が進んでいきますw
さて、ここで気まぐれ企画(?)
そろそろ、久しぶりに何かしら短編を書こうかなと思います
そのリクエストです
●どのヒロインがいいか?
例 蓮華
●作品の傾向
例 シリアス・ほのぼの・カオス・こんなの絶対おかしいよ
●お一人様、一件まで
ランダムで二名を選んで、そのリクにそった作品を書きたいと思いますw
それでは、またお会いしましょうw
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二章・四話、公開ですw
今回は今までとは違い、何だか和やかな雰囲気ww
ま、あのメンバーですからねw
それでは、お楽しみください
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